作品タイトル不明
148話 魔力溜まり
外の景色を見て固まった俺を見かねたのか、ノクシルが声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
「いえ、ちょっと外の景色に見慣れないものがあったので」
「あぁ、浮島のことですね。この世界には全部で128の浮島があり、人が住んでいる島は83島あります」
……あんまりピンと来ないな。
見れるならもう少し近くで見てみたい。人が住んでるってどう生活してるんだろう。てかそもそも、ここに住んでいる人たちってどんな感じなのか。
事前に人払いをしてあったのか、ここに来るまで誰にも会わなかった。
俺を警戒させない為ってよりは、もしかして俺を警戒してる……?
考えすぎだろうか。
「あれってどうやって浮いてるんですか?」
「セレスティアド様のお力です。そうですね……何から話しましょうか」
今度はセレスティアド様か。
この人だって異世界の人間を呼べるくらいの権限は持ってる筈だから、偉い人だと思うんだけどな。いや、呼んだのは別の人で、対応を任されたのはこの人って可能性もあるのか?少なくともイヤイヤやらされているようには見えないけど……
「色々気になることがありますが、とりあえずは俺がここに呼ばれた理由を知りたいです」
「簡単に言ってしまえば、我々と貴方達の世界の未来について決める為です」
「未来?」
「えぇ。若島蒼斗様は交渉人の称号をお持ちですよね?その称号は我々と話し、世界の未来について交渉できる資格です。我々は資格を持った者がそちらに送り込んだ錬魔機人と接触するのをずっと待っていました」
……これ俺の対応次第では地球の未来が変わるってことだよな?なんか気づいたら相当重要なことを任されてないか?
「未来と言われても、俺個人が決められることじゃないと思うのですが」
「では我々は一体誰と話し合いをすべきなのでしょうか」
「それは……」
少なくとも俺じゃないことは確かだが、他に誰がと聞かれても答えられない。
日本だけなら総理大臣とかでいいんだろうけど、俺たちの世界ってことは地球まるごとが対象だろうし……誰か1人を選べと言われたら、アメリカ大統領あたりか?
でもそれだと色んな国から文句が来るか。国が違えば方針も当然変わる。何より地球代表の国は自分だとみんな言いたいだろう。
「すみません。困らせてしまいましたかね。ですが、我々の世界と違って190以上の国があり、数え切れないほどの言語があるそちらの世界で、代表者を決めろというのも無理な話でしょう?だから、条件を満たした者に交渉人という称号を与えているのです。
若島蒼斗様以外にも与えていますし、今ここで若島蒼斗様がおっしゃった意見全てが採用される訳ではありません。あくまでも参考にする程度です。
ですので、若島蒼斗様の考えを素直に言っていただいて問題ございません」
「そうですか」
ここまで来てもやっぱり何を求められているかわからないな。
ノクシルからとりあえず座りましょうと言われたので、円卓に対面する形で座った。
そして、しばらく沈黙した後、魔力についてどれくらい知っていますか?と聞かれた。
過去に色々AIに質問したが、あれは主に魔法を使えるようになる為だった。どれくらいと言われると困る。
「詳しいことはあまり。人間やその他様々な生き物が持っていて、大気中にも存在しており、スキルや魔法の元になっている……くらいですかね」
「その認識で概ねあっています。では、魔素については?」
魔素はスキルを取得する際に見れた単語の一つってことくらいしか知らないなぁ。
でもこれ言っていいやつか?裏技みたいなので見つけたやつだし……一応何も知らないふりしておくか。
「そっちはほとんどわかりません」
「そうですか。では簡単にご説明しますと、大気中に漂っている魔力の元となる粒子が魔素です。これが動物や植物の中に入り込み誰かのモノとなった魔素が魔力へと変化します」
「なるほど……あれ、でも大気中にも魔力って漂っているんですよね?」
「えぇ。問題はそこです。魔素は一定以上の濃度になると勝手に集まりだし、魔力に変わります。誰のモノでもない魔力は互いに引きつけ合い、やがて大きな力となります。こちらの世界ではそれを魔力溜まりと呼んでいます。
魔力溜まりにはそこに滞在したモノの魔力を大きく回復させ、さらには増幅させる性質があります。この性質目当てに魔力溜まりにモンスターが集まりやすく、集まったモンスター達は増幅した力で暴走し、周囲に甚大な被害を与えるため、魔力溜まりを見つけ次第、魔力を分散させる必要があります」
「魔力を分散ですか」
「やり方はいろいろありますが、魔力溜まりで大規模な魔法を使う、錬成魔術で作られた物に魔力を吸収させる、魔力溜まりになる前に大気をかき混ぜるなどがあります。
しかし、地球ではそれをやる者がいませんでした」
そりゃ魔力なんてあると思われていなかったからな。
ダンジョンができ、ステータスを得て、スキルで魔法を使える人がいるようになったとはいえ、今でも魔力が存在していると思っている人は少ないんじゃないか。
「誰も消費しない魔力溜まりは近くの魔力溜まりとくっつき、やがて地球全体が一つの魔力溜まりとなりました。そしてその影響は次元の異なる我々の世界にも影響を及ぼし始めたのです」
「すみません、あまり想像ができないです。そんなに簡単に次元を超えられるものなんですか?そしてどうやって地球の魔力溜まりが原因だと判断したんですか?」
もし地球がひとつの魔力溜まりとなり、異世界に何かしらの影響を与えていたとして、だったら地球にも何か起きてもおかしくないけど、特に異常のようなものは起こらなかった。
まぁ、ここ数年の夏の最高気温の上昇とか、1箇所に数年分の雨が降ったり、逆に全く雨が降らずに水不足になったり、異常気象と言えなくもない出来事はあったけど、長い地球の歴史から見れば起こり得る範囲内だ。
決して魔力の影響とかではないと思う。
「実は、この現象が起こるのは2度目なんですよ。1度目があった時に、2度と同じことが起こらないよう、魔力溜まりの影響については研究され尽くされました。万が一、2度目があった際にどう対応するのかも」
2度と同じことが起こらないよう……?
なんだか不穏な言い方だ。1度目の時にいったい何があったんだろう。
「だから地球の魔力溜まりをどうにかしようとしたのですが……先に我々の世界の説明をした方がわかりやすいでしょうか」
「そうですね。何もわからないことだらけですし、説明してくれるなら助かります」
「では簡潔にご説明します。ここは次元の異なる魔力溜まりの対処に失敗した後の世界なのです」
「この世界が失敗した後?」
「当時は魔力溜まりの性質をよくわかっておらず、迫り来る魔力溜まりから守るため、防御魔法で世界を包めば大丈夫だろうと判断してしまったんです。
しかし、結果は逆効果。膨大な魔力を使って発動された防御魔法により、世界は分厚い魔力の層に包まれました。魔力の層とは、要は魔力の塊です。魔力溜まりと同じような効果が生まれ、向こう側の魔力溜まりをより引きつけ、やがて二つの次元は融合しました」
「融合って……」
「言葉通りの融合です。それにより向こうの世界の9割が消失。残り1割は浮島となり今も空を浮かんでいます。我々の世界も無傷ではありませんでした。融合により大地の3分の1とそこに住んでいた人々が消失しました。
生き残った人たちの中から2人の偉大な王が生まれ、平になった大地には地の国ガイルを、浮島には天の国ラグナができ、今のドゥアルナとなったのです」
ドゥアルナって1番最初に会った時に聞いた気がするな。こっちでいう地球みたいな単語っぽい。
まだこの世界の規模感が掴めていないけど、かなり片方が9割消失でもう片方が3分の1消失じゃ、なかなかヤバいことが起こったのはわかる。
「あの、消失した世界と同じ状態になっている地球も浮島のようになる可能性があるってことですか?」
「えぇ。放置すれば我々の世界と融合する可能性が高く、そうなった時、双方に甚大な被害が出るでしょう。だから様々な方法で様々な内容のメッセージを送り続けました。
なぜ、魔力を放置し続けるのか。なぜ、世界がこんなにも近づいてしまっているのに気づかないのか、と。
しかし、数年経っても一向に返事は来ませんでした」
世界の至る所に謎の文字があったのってそういう理由だったのか。
待って、確か解読した文字の中に“気づかないのか”みたいなメッセージがあったよな?
メッセージになんで気づかないのかって意味だと思ってたけど、あれってもしかして魔力になんで気づかないのかって意味だったのだろうか。