作品タイトル不明
144話 呪いの人形
瑛士達は日付を超える前にこちらに戻って来た。
俺の部屋に突撃してきた瑛士は半泣きで“寧音ちゃん守れなくてごめん”と言ってきたが、言う相手間違ってると思う。寧音に言ってやれよ。あと奈那さんにも。
無理矢理自分の部屋に帰して、なんとか寝た。
次の日。
正直これ以上は俺達に出来る事は無いので、午前中は富良野の観光、午後は新千歳空港内を見て回って東京に戻ってきた。
数日しか離れてないのに、自分の家がめちゃくちゃ久しぶりに感じる。
さて、ダンジョンマスターが撃たれるという衝撃的な場面を見てしまった以上、何か俺も対策したくなった。
ダンジョン法でダンジョンマスターに人権が認められて以来、大人しくしてれば命は狙われないだろうと思って、身代わりの石を持ち歩かなくなっていたのだ。シンプルに邪魔だったし。
でも、相手が悪い事をしていたとはいえ、法を無視して普通にダンジョンマスターが撃たれている場面を見てしまった。
こんなことが起こった以上、法を無視して過激派がダンジョンマスターを襲ってくるかもしれない、と考えるのは当然だろう。
今思うとだいぶ警戒心無くなってな、俺。
最低限身代わりの石は持ち歩いておくべきだった。反省しよう。
ということで、改めて身代わりの石を持ち歩く、でもいいんだけどやっぱり邪魔なのは変わりないので、他のアイテムで代用しようと思う。
「呪いの人形って攻撃を押し付ける相手がモンスターでも可能?」
『回答。人型のモンスターであるなら可能です』
あぁ、やっぱり。
呪いの人形とは、自分が受けた攻撃を呪った相手に押し付けるアイテムである。手を斬られたら自分は斬られずに呪った相手が斬られるし、もし撃たれたらその人が撃たれることになる。呪いの効果はその人が死ぬまでだ。
よくよく考えたら野々山奏多がもしこれ持ってたら、撃たれた時無実の人が死んでた可能性あるな。
呪いの人形の効果を発動させるには、自分の髪を人形の首に巻きつけ、呪いたい相手の血を人形に垂らす必要があるけど、血を用意するのは野々山なら簡単に出来ただろうし。
まぁ人類はこのアイテムの存在知らないから仕方がないと思うけど。無知って怖い。
「モンスターを代用する際の注意点とかある?」
『回答。モンスターにない部分に攻撃を受けた場合、呪いは発動しません』
モンスターにない部分……?内臓とかかな。
例えばゴブリンとか選んで、筋肉の構造が違うからと呪いが発動しなくなったら困るな。
「じゃあ、人類と構造が1番似ているモンスターは?」
『回答。吸血鬼です』
そうなんだ。吸血鬼ねぇ……ショップを見てみたけどいなくない?
「吸血鬼ってダンジョンに配置できる?」
『回答。不可能です』
じゃあなんで名前が出てきたんだよ。
「吸血鬼ってそもそも何?」
『回答。吸血鬼とは、人類の血を啜って生きる生物です。鋭く発達した犬歯と、血のように赤い瞳を持つことが特徴です。見た目は人類とほとんど変わらず、高い知性を兼ね備えていますが、吸血鬼にとって人類はあくまで食料に過ぎません。けして共存できないモンスターです』
俺の知ってる吸血鬼に近い説明だな。
ダンジョンに配置できないのにやけに説明が詳しい。
「なんでダンジョンに配置できないの?」
『回答。お答えできません』
薄々予想していた回答だった。
知性が高いとのことだったし、ダンジョンに配置するには都合の悪い存在なのかな?
吸血鬼の存在は気になるものの、今は呪いの人形を使うモンスターを決める方が優先だ。
詰めるのは後にしよう。
改めてダンジョンで配置できるモンスターで人類と1番近い奴を聞こうとしたんだけど……俺ダンジョンマスターだから聞くのはダンジョンマスターに1番近い構造の奴、だよな。
てかそもそも人類とダンジョンマスターって構造的に違う部分ある?
ダンジョンマスターになる時、肉体を仕様変更するってアナウンスが入っていた。
けれど、見た目は変わってない。変化してるとしたら中身だ。
抽選の基準とかは聞いたことあるけど、何が変わったのかは聞いたことなかったな。
「人類と比べてダンジョンマスターはどう構造的に違うの?できるだけ詳しく」
『回答。人類と違い、ダンジョンマスターの心臓部にはダンジョンとリンクしたコアを有しています。
このコアにはダンジョンマスター化した時の細胞状態の記録が保持されており、記録を基準として損傷や劣化を修復する機能が備わっています。
そのため老化は発生せず、怪我や病気も通常の人類より速やかに回復します。ただし、コアの修復能力を上回る致命的な損傷を受けた場合は死亡します。
また、修復機能の影響により生殖機能が停止しており、ダンジョンマスター同士はもちろん、人類との間でも繁殖は不可能です』
待って、待って。まずちゃんと回答があったことに驚きだし、予想以上に情報が多いんだが。
全然頭に入って来なかった。
久々にAIが発言した内容が見られるログ機能を使おう。
えっと……まず心臓にコア持ってるんだ、俺。知らなかった。
まぁそりゃそうだよな。ダンジョン攻略されたら俺は死ぬし、俺が死んだらダンジョンが消えるんだから、何かしらの繋がりを持ってなきゃむしろ変か。
健康診断でやったX線検査では何も写ってなかったと思うけど、まぁここら辺はどうにでもなるだろう。
で、コアがあるから老化しないんだ、俺。
これは流石に事前に教えて欲しかった気がする。
瑛士が何も言ってなかったから、たぶん他のAIを選んでたとしても説明なかったんだろうけど、絶対に言っておくべきだろ。完全攻略されるか殺されるまで永遠にダンジョンを運営し続けるってことなんだからさ。あんまり想像つかないけど。
あとは……怪我や病気は治りが早い、はちょっと心当たりある。前に紙で指を切った時、翌日怪我が完全に無くなってたし、元々あんま風邪ひかないタイプだったけど、ダンジョンマスターになってから特に何も患ってない。
最後に繁殖できない。つまり子供は作れないってことね。
「ダンジョンマスターなのに髪とか爪伸びるのってなんで?」
『回答。コアの修復機能は体内の生体構造のみを対象としています。髪や爪、汗や皮脂など体外に現れたものは修復の対象外となるため、一度体外へ出た部分は補正されず、そのまま伸びたり排出されたりします』
なるほど。あくまでも中身のみ維持されるってことか。
「つまり、ダンジョンマスターは修復機能があるから身長伸びないし、脂肪も筋肉もダンジョンマスターになった時から変わらないってこと?」
『回答。はい、そうなります』
ならいくら食べても太らないんだ。
そしていくら筋トレしても筋肉つかないんだ。
ただ、筋トレなんてしなくてもレベルが上がったらステータスの値は伸びて体力はつく訳だし、完全に構造というか原理が異なってそう。
食事や睡眠の扱いとかまだ細かいところが気になるけど、一旦呪いの人形に戻るか。
「じゃあ、ダンジョンマスターが呪いの人形を使用する上で、呪いを押し付けるモンスターに1番適切なのは?」
『回答。ゴブリンです』
あれ、意外と身近な奴がきたな。しかもポイント安いし。
「呪いの対象をゴブリンにしても、傷を受けたら押し付けられるよね?」
『回答。はい、押し付けられます』
「全部?」
『回答。いいえ、コアへの攻撃には呪いが発生しません』
その他はいけるってことか。
なら押し付ける相手はゴブリンでいいかな。
「呪いの人形を複数持ってる時に攻撃を受けたら、持ってる人形全ての呪いが発生しちゃう?それとも1つだけ発生する?」
『回答。全ての人形の呪いが発生します』
あー、まぁそうだよね。身代わりの石とかもそうだし。
後でダンジョンに行ってゴブリンを1体隔離させて、そいつから血を貰ってこよう。
呪いの人形は身代わりの石と違って、一度誰かを呪ったらその辺に人形を放置していても効果が発生するので、身代わりの石より扱いが面倒じゃなくなる筈だ。
まぁ、呪いの人形は1体100万ポイントするんだけどね。でも今はポイントのコスパより管理のしやすさを取りたい。