軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

145話 晒し配信

北海道から戻ってきてから6日が経った。

その間、野々山奏多の希望通り、警察との交渉が行われたようだ。

奈那さん曰く、野々山は“スキルを使ってテロを起こしていないだけマシ”だと遠回しに要求を断ればテロを起こすと脅し、小田切の方は“これ以上問題を起こされたら事実を公表して国をあげて討伐するしかない”と、こっちはこっちで強気に行ったらしい。

野々山側は被害者の遺品を返して誘拐はもう起こさないと誓い、小田切側は警察はもう野々山を追わないと宣言。ほぼあの時話した通りの結果になった。

誘拐の件は特にニュースになっていないし、小嵜麻夢は解放された。

小嵜の弟からはお礼として、奈那さんを通じて高そうなメロンが送られてきた。瑛士が謝礼を断っていたのに律儀なものだ。

本来の目的はこれで一件落着。ただ、野々山に関してはまだ終わっていない。

「本当にやります?」

『あぁ、もちろんだ』

とあるデータを貰って、俺は奈那さんに電話をかけた。

奈那さんからの頼みごとを、あんまりやりたくないなぁと思ってのことだ。

「警察との交渉は予定通りに終わったんですよね?交渉決裂って思われません?」

『あれは警察との野々山奏多の交渉だ。私達は別に警察関係者でもないし口止めもされていない』

「それはそうですけど……そっとしておいた方が安全じゃないですか?」

『それは違う。確かにあの交渉でしばらくは野々山奏多も大人しくしているだろう。しかし警察は何も出来ない事をわかっている状態なんだ。いつかはまた誘拐を繰り返してもおかしくない。いや、祖父母がいなくなったら必ず再開するだろう』

「時間は稼げてるからいいじゃないですか。また誘拐し出した時に“これ”を表に出せばいいのでは?」

『それじゃ遅いんだ。再開する時はどうせバレても問題ないと考えてるからな。ダメージを与えるには今しかない。それに、彼はとても外からのイメージに拘っている。今のうちに明かす事で、良いダンジョンマスターを演じようとする筈だ』

奈那さん相手だとやっぱり普通に言い負かされるな。

あんまり因縁つけられたくないんだけどなぁ……

あの時、富良野ダンジョンに入る前の作戦会議で、戦闘も交渉も基本的に奈那さんが対応する。俺はダンジョン産カメラの存在を気づかれないように立ち回る、とざっくり決めていた。

変身スキルと隠蔽スキルを同時に使っていたから魔力の消費が激しかった。

魔法陣に乗る前、消費魔力の低い初級魔法をモンスターに撃って、さりげなく回復薬を飲んでいなかったら、魔力が途中で尽きていただろう。

また、もし交渉があと10分も長引いてたら無理矢理追加の回復薬を飲む必要があって、怪しまれていたところだった。それくらい魔力消費が激しかった。特に変身スキルの方。

けど、なんとか最後までバレることなく過ごせ、映像データを手に入れた。

この映像は誘拐の証拠のために撮ったのだが、警察は結局野々山を捕まえないことになったので、このデータはいらなくなった。

一応奈那さんが小田切さんにデータのコピーを渡してると思うけどね。

そして昨日、奈那さんから野々山が自分が富良野ダンジョンマスターだと認める部分のみを切り取ったデータが送られてきて、これを配信で流してほしいと頼まれたというわけだ。

「奈那さんが表に出すんじゃダメですか?」

『……そんなに嫌なのか?』

「嫌っていうか……怒った野々山がある日突然突撃してくる可能性あるじゃないですか」

『あぁ、なるほど。では彼には私からの指示だったと伝えておこう』

「逆に聞きたいんですけど、そうまでしてやりたいんですか?」

『そうだな……色々理由は言ったが、1番は嫌がらせだよ。寧音を誘拐されてムカついたんだ。蒼斗くんがどうしてもやりたくないというなら、私がやろう。そもそもそっちの方が効果的で手っ取り早いという理由でお願いしただけだからな。ただ、動画の信用性を高めるために、内容は事実だと後ほど認めてほしい』

やっぱり奈那さんだいぶ怒ってたんだな。マジで敵に回さないように気をつけよう。

しかし迷う。

俺がこの動画をあげなくても奈那さんが確実にあげる。動画の切り取った部分には俺と野々山の声しか入ってないから、リスナーから追求されることは間違いない。

そこで内容が真実だと言っても、ならなんでお前が動画をあげなかったんだと今度は言われるかもしれない。あとは動画をあげた奴の関係性とか状況とかも。

なら、確かに最初から俺が動画を公開した方が手っ取り早いか。

うーん……

「わかりました。俺が今日の配信で取り上げます。代わりに交換条件いいですか?」

『もちろん構わない』

細かい条件を伝えて、電話を切った。

元々今日の配信では北海道に行ってたことは言うつもりだったが、ネタが一個増えたな。

配信の準備をして、時計を見る。……そろそろ時間だな。始めるか。

「みなさんこんばんは。今日の配信はたぶん人によっては面白いことがわかる配信になるので拡散お願いします」

[ばんわー]

[こんばんは!]

[こん]

[面白いこと?]

[こんばんは]

[拡散希望とは珍しい]

[俺らにとって面白い?]

[こんばんは]

[拡散してくる]

[こんばんは〜]

[チュートリアルもっと早いタイミングでスキップさせてほしい]

[なんて拡散すれば良い?]

「扱い的には暴露配信というか晒し配信って括りになると思います。こういうのが苦手な人は逆に今日は見なくて大丈夫です」

[暴露?]

[なんの暴露?]

[暴露?]

[また政府関係?]

[面白そうじゃん]

[何系の暴露なんだろ]

[暴露と晒しって何がちがうの?]

[苦手なので落ちまーす]

[おけ、まっちーが暴露するって拡散するわ]

[内容なに?]

[どうせならダンジョンの情報が良いなぁ]

「本題に入る前に、雑談からいこうと思います。こういうのって人が集まった後に言った方がいいし」

さっさと内容を言えって言うコメントを無視して、雑談に入る。

内容は北海道に行った話だ。

瑛士が北海道に行っていたことはSNSで広まっているので、同じタイミングで行ったのかとかを聞かれた。別行動で富良野観光をしていたと伝え、初日に行ったカレー屋や、最終日に行ったふらのジャム園とか富良野チーズ工房の話をする。

こういった旅行話は自分の体験話や感想で勝手にコメントが盛り上がってくれるので楽でいい。

……そろそろ人が集まりきったかな?

閲覧数はいつもより少し多いくらいか。配信タイトルにわかりやすく富良野ダンジョンマスターについてとか、正体を暴露するとか書いていたらもっと人集められたんだろうけど、そこまで露骨にしたくなかった。

あくまでも奈那さんに頼まれたから仕方なく公開したって体でいたい。

「そろそろ本題に入りますね。ちらほらとコメント書かれてましたが、富良野に行ったのならダンジョンには行かなかったのかと」

[お?]

[お?]

[まさか?]

[まっちーなら行くよね]

[富良野の観光地の話で終わるのかと思った]

[本題はよ]

[早く内容言えよ]

[モンスターに紙持たせてたのやっぱりまっちー?]

[もったいぶるな]

[ダンジョンでまっちーの目撃情報あるんだからそりゃ行ってるだろ]

[で、晒し内容なに?]

[もう行ってるってバレてるよ]

「結論から言うと富良野ダンジョンにも行ってます。ダンジョンでちょっと遊んで、最終的にダンジョンマスターにも会ってきました」

[ま?]

[ま?]

[え!?]

[会えたの!?]

[まじ?]

[男だった?女だった?]

[暴露ってこれか]

[何話したの?]

[フラ様探してたの瑛士くんなのに]

[ダンジョンでちょっと遊ぶとは]

[もうちょい詳しく]

[富良野のダンマスどんな顔だった?]

[なんだ会った報告かよ暴露じゃないじゃん]

[会えるタイプのダンマスなんだ]

「詳細は色々あって話せないんですけど、流れ的には俺がダンジョンマスター宛に会って話したいって書いた紙をモンスターに持たせてダンジョンに放置したら、翌日向こうから会いにきた感じです」

[へえ]

[待って]

[持たせたって何?]

[ふむふむ]

[なんで会いたかったの?]

[モンスターって紙持ってくれるんだ]

[そいつ本当にフラ様?]

[ダンジョンで合ったの?]

[詳細教えてほしいわ]

[なんで細かいことは話せないの?]

[モンスターに紙を持たせて????]

「ダンジョンマスターならではのやり方でモンスターに紙を持たせられるんです。大事なのはここじゃなくて、俺が会った奴が本当にダンジョンマスターだったのか、そいつがどんな奴だったかですよね。最初に言いましたが、今日は晒し配信です。もちろん映像があります」

そう言って、奈那さんから貰ったデータを配信に流す。

『ステータスが人類ってなってるけど、本当に人類?』

『スキルで誤魔化しているだけだ。逆に質問をするが、本当にお前が富良野ダンジョンマスターで間違いないか?』

『ずいぶんビビりなんだね』

『そう思うならそれでいい。で?俺の質問に対する回答は?』

『あー、はいはい。そうだよ。俺がこのダンジョンのマスター本人だよ』

30秒もない、短い動画だ。画面には野々山のみ映っている。

この動画はカット編集しかしていない。当然野々山の顔にはモザイクはかけられていない。

[おお]

[男かよ]

[ガチじゃん]

[男だったんだ]

[画質悪]

[会話の前後の流れわからん]

[え、声だけの方ってまっちー?]

[結構イケメンですね]

[フラ様はド陰キャだと信じてたのに]

[なんか雰囲気バチバチじゃね]

[敬語じゃないまっちーギャップにやられる]

[ステータスってスキルで誤魔化せるんだ]

[普通に仲悪そうでくさ]

[瑛士くんは連れていかなかったの?]

[配信でもこんな感じで喋ってみてほしい]

[これ顔出し許可とってる?]

[まっちーってお前呼びするんだ]

「瑛士と違って喋った人は全員友達になるわけじゃないので、初対面ならこんなもんですよ。ちなみにこれはダンジョン産カメラで撮った映像をさらにスマホで撮った物です。画質悪くてすみません。あと隠し撮りなので、相手はこの動画の存在も知らなければ、今日ここで顔が出てるって知らないと思います」

[えっ]

[隠し撮り?]

[まさかの許可なし]

[隠し撮り?]

[向こう何も知らないんだ]

[隠し撮りは不味くない?]

[そういえば晒し配信って言ってたな]

[これ映像公開して大丈夫?]

[え、勝手に向こうの顔晒していいの?]

[この画角でどうやったら隠し撮りできるんだよ]

[もう一回動画流して]

[場所どこ?]

[この後のシーンないの?]

「顔を晒して良いか悪いかで言ったら悪いに決まってますね」

[そりゃそう]

[そりゃそう]

[当然だ]

[ならなんでやったし]

[悪い事したって自覚済みか]

[晒す必要あった?]

「今の動画の前後で色々あったんですよ。これを公開したのは少なくとも気に食わなかったからとか、そういう理由じゃないです」

[色々とは]

[詳細教えてくれよ]

[前後の動画ないの?]

[ならどういう理由?]

[全部教えて]

[一体何があったんだ]

そりゃ今の動画と説明じゃ一体なにがあって、動画を公開するに至ったかわからないよな。

でも、それでいい。

誘拐や実験の話は一切出さないと決めてあった。

じゃないと、奈那さんの言ってた良いダンジョンマスターを演じさせることができなくなるからな。

本当にそうなるかはわからないけど。

事情を言わない所為で今回の隠し撮りを晒した件はしばらく叩かれるだろう。でも、炎上って次の話題があれば過去のものはどんどん忘れ去られるものだし、無視してればそのうち落ち着くだろう。

とりあえず富良野ダンジョンマスター向けに、“あの時話した内容は全て動画に収まっています。けど、今のシーン以外を表に出す予定はないです”とだけ配信上で言い、配信の締めに入った。

今日の写真紹介コーナーはたまたま人が来なくて暇そうにしているホーンラビットである。

なかなか可愛い一枚が撮れた。

いつもなら“可愛い”というコメントで溢れる筈だけど、今日は“勝手に終わるな”とか“詳細教えろ”とか中々荒れている。

全て無視して配信を切った。

あとは野々山の出方次第だな。

ただ、明日は例のイギリスの探索者が俺のダンジョンにくる日だ。

今は野々山の反応よりもこっちの方が重要だ。

明日どうなるんだろう。