作品タイトル不明
143話 特殊監査室 室長、小田切の場合(三人称)
キャリア組で順調に出世街道を歩んでいた小田切はある日突然、警視庁警備局特殊監査室の室長に任命された。
警察にとって上からの命令は絶対である。
内心あまり気が進まなくても、その任を拝命するしかない。
そもそも、特殊監査室は広島の府中市にドラゴンが放たれた後に出来た部署だ。
今までダンジョンとダンジョンマスターに関わる組織は防衛省の特殊建造物対策局のみだった。
しかしその対策局は内部争いでまともな仕事はせず、ダンジョンマスターへの強引な接触で色々とやらかしてきていた。そのため権力の分散のため、そしてお互いに監視させ合いまともに仕事をさせるために、警視庁に特殊監査室という部署が出来た、ということになっている。
業務内容はダンジョン、ダンジョンマスターに関わる全ての事件である。
ダンジョン内で起こった怪我や死は全て探索者の責任である、というのが探索者ライセンスを取得する際に教えられるルールだ。
ただ、それはダンジョン側が仕掛けてきた罠やモンスターの話であって、積極的に人が人を攻撃して良い訳ではない。
もし、ダンジョン内で事件が起こったら駆り出されるのが特殊監査室だった。
しかし、探索者ライセンスというのは身元を相当調べ上げられた上で交付されるものである。過去に犯罪を起こしている者は当然として、事件を起こしそうな人柄だとわかればライセンスは渡されない。
そのため、ダンジョン内での事件はなかなか起きなかった。
事件が起きなければ特殊監査室は暇になる。
そのため、時間が空いた際にはダンジョンマスターがまだ不明である富良野ダンジョン、奈良ダンジョン、佐世保ダンジョンのマスターについて調べていた。
といっても、この3つのダンジョンマスターは散々対策局によって調べられている。それでもわからなかったダンジョンマスター達だ。
最近できた部署が改めて調査に乗り出したところでそう簡単に見つかる筈がない。
その他にも一応仕事はある。すでにわかっているダンジョンマスターの監視だ。ただこれも何も起こらない。
当然である。ダンジョンマスターを特定した方法はダンジョンマスターだと名乗る動画の投稿主を探ったからで、動画を出すということは人類への敵対心が比較的低い。つまり特定しているダンジョンマスターはみんな人類への敵対心が低い。
唯一ドラゴンを出した府中ダンジョンのダンジョンマスターだけは居場所がわからなくなったが、それも代理人が出てきたことによって解決した。
ダンジョンマスターは基本的にみんな人類社会に溶け込んで平和に暮らしている。あまりにも何も起こらないので、なんのために監視しているのかわからなくなって、2人体制が1人体制の監視になり、毎日の監視が2日に1回の監視になり、次第に見る日は少なくなって今では1週間に1回の様子見になった。
あとは定期的に探索者に紛れてダンジョンを探索し、ダンジョン内の見回りをしていた。見回りを担当していた者は警察を辞めて、探索者になった。探索者の方がなんのしがらみもなく稼げると気づいてしまったのだろう。
滅多に起きないダンジョン内の事件。
分かる筈のないダンマス調査。
無意味な名ばかりの監視。
担当者が辞めていくダンジョン内の見回り。
何かあった時のためにと監査室には優秀な人材が集められていたが、業務内容的には完全に左遷部署だ。
これでは到底やる気がでない。
そんなめちゃくちゃ暇な部署に、ある日突然仕事が発生した。
町田ダンジョンで4人の探索者が別の探索者を襲ったとして逮捕された事がきっかけだ。
この事件はダンジョン内で起こったため特殊監査室に引き継がれた。
聴取を行ったところ、黙秘する者もいれば、町田ダンジョン内であった事を素直に話す者も、刑事を馬鹿にして話にならない者もいた。
それでも何日も聴取を重ね、4人のうち1人が折れて富良野ダンジョンでも同様の事をやっていたと話した。1人が喋ったと知れば、残り3人も口は緩んでいく。
そこから4人が富良野ダンジョンのマスターと会っていた事実を知った。しかも顔は隠していなかったという。
この情報を小田切が上に報告すると、すぐに富良野ダンジョンマスターの身元を特定するようにという命令を出してきた。
いくら会った人が見つかったとはいえ、それ以外の手がかりは一切ない状態だ。
とりあえず4人の情報を元に人相書を作成したが、それだけである。
どう考えてもここから富良野ダンジョンマスターを見つけるのは相当無理があるが、やはり上からの命令は絶対なので、小田切は部下に命じて北海道で起こった未解決事件を調べさせた。
探索者同士で殺し合いをさせるような人物なら、もしかしたら何か他に事件を起こしているかもしれないと考えての事だ。そして、その予想は当たっていた。
誘拐事件の現場の監視カメラに写っていた人物と探索者4人が話した富良野ダンジョンマスターの特徴が一致したのである。
髪色と身長だけだが、小田切の勘が間違いなくこいつが富良野ダンジョンマスターだといっていた。
さらに詳しく調べていけば、北海道内で約1ヶ月毎に行方不明者が出ていることがわかった。男女問わず一人旅をしていた者が狙われていたようだ。
人相書の精度はイマイチだが雰囲気は掴めている筈だ。これを持って誘拐現場で聞き込みをすれば、何かわかるかもしれない。
現場(北海道) に行くために、小田切は上司に許可を取りに行った。
執務室にノックして入り、早速状況を説明する。
「いいだろう。ただし、最優先は富良野ダンジョンマスターの処分だ。確保は可能な場合に限る。不能と判断した時点で排除に移れ」
許可は得られた。しかし、 確保(逮捕) じゃなくて 処分(殺害) を優先するよう命じられてしまった。
「排除許可の根拠をお聞かせいただけますか」
「ダンジョンマスターによる誘拐が起こったと世間に知れ渡れば混乱は避けられない。社会の安定を優先する。確保できるなら構わんが、痕跡は絶対に残すな」
魔核を使った発電所の建設がそろそろ終わり、今月には始動予定である。探索者ギルドの話も進んでおり、日本はダンジョンから取れる資源を利用する気満々なのだ。
そこでダンジョンマスターによる誘拐事件が起こっていたと世間にバレれば、やはりダンジョンは無くすべきという意見が強まりかねない。
だったら先に処分してしまってダンジョンまで消滅させた後に、国民に害をなすダンジョンの存在は許さないと発表した方がずっといい。
富良野ダンジョンマスターを処分しろという命令は、各方面への配慮からだった。
「……承知しました。まずは所在の特定と身元の割り出しから着手します」
濁された説明に小田切はあまり納得がいかなかったが了承した。逆らえる立場ではないので。
その日の夜。
小田切の元に1本の電話がかかってきた。
相手はダンジョン研究家の弥竹奈那で、内容は富良野ダンジョンでいなくなった小嵜麻夢の捜索を手伝ってほしいというものだった。
この電話は小田切にとっては渡りに船だった。
奈那の人柄や能力は富良野ダンジョンマスター探しにぴったりだったからだ。
ダンジョンマスターを特定するのは難しいだろうと考えていたところに光が見えてきた形だ。
小田切は上からの命令で富良野ダンジョンマスターを探しているとだけ伝えて、こちらを手伝ってくれるならそちらも手伝うと交渉して協力を得た。
翌日、部下を最低限だけ残して北海道に飛ぶ。連れてきた部下を先に札幌に向かわせ、市内のウィークリーマンションの一室に拠点を作っておくよう指示し、小田切は富良野に向かった。
すぐに奈那達に合流したのだが……聞かされていた数よりダンジョンマスターの人数が多い。東池袋ダンジョンマスターはまだ良いが、いったい何故府中ダンジョンマスターがいるのか。
小田切にとって蓮見朝陽は要注意人物だ。
内心冷や汗をかきながらもひと通りの説明をした。想定よりも真剣に話を聞いてくれていた。
捜索のやり方は6人に任せて、小田切は札幌市の拠点に行き、部下に指示を出す。
今回北海道に連れてきたのは全部で12人。
A班は札幌市内で品谷瑛士達を囮にしつつ、周囲に警察とバレないように情報収集を行う。
B班は釧路方面の観光地で、C班は函館で聞き込み調査だ。
2人は拠点で情報の取りまとめを任せ、残りの1人と小田切は北海道の道警本部に行った。
事前に電話で捜索の了承は取っているが、改めて対面で道警のお偉いさんに挨拶をし、会議室で関係資料一式を見せてもらう。
北海道各地で起こった未解決の誘拐事件や失踪事件の資料だ。誘拐事件が同一犯の可能性があるとして、各地にあった資料の写しを道警に集めてもらっていた。事前にデータで見せてもらっていた事件以外のものも混ざっているのでかなりの量がある。
何か手がかりを見落としていないかと、現場写真を隅々まで見て、参考人調書を一言一句逃さず読む。
だが、これといったものは見つからなかった。
目撃証言探しの方はというと、人相書と似た雰囲気の人物なら覚えているという人が何人かいた。動画撮影の許可が欲しいと話しかけられていて、記憶に残っていた人が多かったみたいだ。
名前まではわからなかったものの、この調子なら富良野で知ってる者がいないか探せば案外すぐに見つかりそうである。けれど、現時点でそれはできない。警察が動いていると本人にバレ、市街地にモンスターを放たれたら困るからだ。
一応町田のダンジョンマスターが配信でそれは出来なくなったと言っていたが本当かはわからない。モンスターが出せなくなってもスキルで大暴れされるかもしれないし、ダンジョン産のアイテムでテロを起こされるかもしれない。
とにかくこいつだという確定的な情報がわかるまで、刺激はあまりしたくなかった。
2日目。
A班にはやはり品谷瑛士達を囮にしつつ、密かに小樽で情報収集を行わせ、B班は知床へ、C班は旭川へ向かわせた。残りは昨日と一緒だ。
今日も資料の読み込みを行っていると、奈那から電話がかかってきた。ダンジョンでダンマスと思しき人物と接触したとの事だ。
小田切はすぐに富良野に向かって詳細を聞いた。
襲撃に遭い、なんとか対応したところ、相手は消えた。名前は野々山奏多という人物だった、とのことだ。
すぐに警察が持つデータベースで名前を検索する。
全国に同じ名前の人物は数名いたが、富良野市に住んでいるのは1人だった。顔も人相書となんとなく特徴が一致している。こいつが富良野ダンジョンマスターで間違いないだろう。
小田切は全ての班に今の任務を切り上げさせ、この野々山奏多の情報を出来るだけ多く集めるよう指示を出した。
通信制の大学に通う20歳で、両親は5歳の時に事故で亡くし、それからは祖父母と一緒に暮らしている。事故は新聞に載るほど大きいものだったようだ。アルバイト先は焼肉屋。それから北海道内の観光地を紹介する動画投稿もしている。
小中高と問題は起こした事がなく、むしろ明るくて気が良く、クラスの中心人物的な立ち位置だったらしい。調べれば調べるほど聞いていた富良野ダンジョンマスターのイメージにそぐわない人物だ。
慎重に慎重を重ね、本人のステータスを改めて確認してから事を進めたい。
奈那に電話したが、繋がらなかった為メッセージを残した。
返信を待っている間も着々と準備を進める。
身元がわかった時点で警視庁から残してきた監査室のメンバーと狙撃班を呼び寄せており、もうすぐ到着する。
C班と拠点にいたメンバーを富良野に集め、2人は野々山家からかなり離れた位置で監視として残し、3人は旅館近くで待機させた。
17時に増員が到着。
17時半過ぎ、野々山奏多の帰宅を確認。
本人に悟られないように車で家の周囲を囲み、念の為ダンジョンを監視させる人も配備しておく。
18時の少し前、ようやく奈那から連絡があったので迎えに行き、道中“ステータスの内容を教えるだけでいい”と簡単な説明をする。
3人を車で待機させ、小田切は運転させていた部下を連れてインターホンを押した。
はーい、と言って中から若い男が出てくる。
「野々山奏多さんですね。警視庁総務部広報課の小田切です」
「同じく安部です」
「ダンジョンの事で少し、お話いいですか?」
警察手帳を見せると、野々山は眉を顰めた。
「特に話す事無いけど」
「そう言わずに。玄関先で話す内容でも無いですし、我々を中に入れたくはないでしょう。5分ほどで済みますから、庭でお話しさせてください」
返答に迷ってるのか、野々山はすぐに返事をしなかった。すると、家の中から“どなた?”と確認する声が聞こえてきた。野々山の祖母の声だ。それを聞いた野々山は“俺の知り合い!”と中に向けて声をかけて、大人しく庭先に出た。
庭木が何本かあるものの、この家は塀や生垣で囲われていない。蔵の影に留めてある車から野々山を確認できる位置で、少し離れた場所に待機させている狙撃手も問題なく撃てる場所だ。
小田切はうまく誘導した。
「中に居たのはおばあさんでしょうか」
「そうですけど」
「お二人で暮らしてるんですか?」
「は?いや違いますが」
「では今は誰と一緒に?」
「何を聞きたいんですか?」
小田切はまず時間稼ぎをした。奈那がステータスを全て見終わるのを待つためだ。
「すみません。いきなり本題に入ると緊張されてしまうかもと思いまして。実は、昨年から北海道の各地で一人旅をしていた人物が誘拐される事件が発生しています」
「はぁ」
「何かそういった話を聞いた事はありますか?」
「さぁ」
「野々山さんも北海道の様々な観光地に行ってますよね?動画を拝見させていただきました」
「ありがとうございます」
「観光地にはお一人で行ってるんですか?」
「基本的には」
「では観光地に行った際、不審な人物に声をかけられませんでしたか?」
「別にそういうのは無かったです」
しばらく会話を重ねると、イヤホンから“見終わった”という声が聞こえてきた。
「我々は一連の誘拐事件の犯人は富良野ダンジョンマスターだと考えています。野々山奏多さん。貴方がダンジョンマスターである事に間違いありませんね?」
野々山というよりは、無線機の向こう側に問いかける。
「違いますけど」
『ステータスにはダンジョンマスターと確かに記載がある。顔も昼に遭遇した時と同じだ。しかし何かがおかしい。レベルが1になっていて、能力値もそれに応じて下がっている。スキルもロクに持っていなかった。名前、種族、称号以外の部分が昼に見た時と異なっている』
「……そうですか。しかし、我々はダンジョン内で貴方に会ったと話す人達に会っています。その時、ダンジョンマスターを名乗られていたとか。否定しても無駄なんですよ。改めてもう一度聞きます。野々山奏多さん、貴方が富良野ダンジョンのマスターですね?」
「だから違うって」
『申し訳ないが断言できない。私が言えるのはステータスにダンジョンマスターと記載がある、最初に見たステータスと内容が異なっている部分がある、最後まで見ても細工された様子は確認できなかった、の3点のみだ』
「……わかりました」
つまり、本人か偽物かはわからないが何かしらの方法で奈那の目を欺いている。ダンジョンの外でそんなことができるのはダンジョンマスターしかいない。
数秒悩んで、小田切は左手を挙げた。
すぐに狙撃班が動く。
野々山は頭部を撃たれ、後ろに倒れた。
地面に付く頃にはその姿は消えていた。
遺体が消えたならやはり人では無かった。
少し安堵していると、車から駆け降りてきた奈那が詰め寄ってくる。撃たせる事は伝えていなかったからだろう。
「断言出来ないと伝えたのにどうして撃った」
「状況的にダンジョンマスターであると判断しました。それに……遺体が消えています。間違いないでしょう」
狙撃の指示を出した理由は色々あるが、最終的に撃たせたのは少なくとも人類ではないと確信を持ったからだった。
しかし富良野ダンジョンは消えなかった。
撃った相手は偽物だったのだ。
完全に消えてしまった以上、現時点で出来ることはない。
監視を残して部隊を撤収させて、小田切は泊まっているホテルに戻り、上司に報告の電話をかける。
「報告します。対象を狙撃し、着弾を確認しました。しかし直後に対象は消失。状況から我々が知らないスキルを使っていた可能性が高いと考えられます」
『……つまり、失敗したということか?』
「はい。そうなります。現在、改めて所在を追っていますが、未だ見つけられていません」
『……わかった。次はない。なんとしてでも野々山奏多を仕留めろ』
「お言葉ですが、私には弾が当たったにも関わらず、死なない相手を確実に仕留める方法が思いつきません」
『野々山奏多を野放しにするつもりか?これ以上好き勝手されるわけにはいかないんだ。何でもいいから止めろ。わかったな』
「承知しました。考えてみます」
そうして電話を切る。
今の電話ではこれ以上の狙撃は求められず、逆に“なんでもいいから”という言質がとれた。
これでずっとやりやすくなる筈だ。
経過報告書の作成に取りかかろうとすると、電話が鳴った。相手は奈那だ。
「はい、小田切です」
『寧音が野々山奏多に誘拐された。ダンジョンに来いと指示をされている』
「寧音さんが!?……すみません。矛先は自分に来るものと思っていました」
『私もダンジョンで色々工作をしていたからな。現時点では何故誘拐されたのかはわからない。だが即座に殺されなかったのをみるに、向こうは何かしらの交渉をしたいのだろう。有利に進める為に出来るだけ情報が欲しい』
「わかりました。どういった情報があれば良いでしょうか」
『向こうが求めてくるとしたら私か警察のだろう。だからそちら側の情報が知りたい。何故野々山奏多を撃った?警察は何を目的として動いている?』
「そうですね……」
警察はダンジョンマスターが起こした事件を表沙汰にしたくない事。
そのために上から野々山奏多を処分するよう言われている事。
真識眼を欺く人類は居ないと判断して狙撃指示を出した事。
奈那相手に隠す意味もないので質問にはスラスラと答えた。
「上層部にはまだダンジョンマスターを人類の力でなんとか出来ると思っている者も多いんです。今回撃たせなかったら、また別のタイミングで撃たせるか、他の方法での処分を検討したでしょう。今回は狙撃は指示通り処分を優先させ、狙撃を失敗する事で、ダンジョンマスターはそんなに甘い存在じゃないと上層部に突きつける為でもありました」
小田切は確かに野々山の処分には失敗した。
しかしここで失敗しなかったら、もっと無茶苦茶な指示を出されていただろう。そしてそれが問題になった時に、対策局のトップが次々と辞めたみたいに小田切も責任を取らされていた可能性が高い。
でも今回は“処分を優先しろ”という上司の発言に忠実に従って狙撃を優先させた。もちろん撃たせなかった事も出来たが、問題は早いうちに潰しておくに限る。
『もし撃った野々山奏多が本物だったらどうするんだ?』
「野々山奏多は人類の敵です。本物でも問題ありません。むしろ、失敗した時の方が厄介な事になるので、私としてはこれで終わって欲しいと望んでいました」
『つまり失敗しても成功してもどちらでも良かったんだな?だから相手が少なくとも人類ではないと判断した段階で撃たせた』
「そうなりますね」
『あの時判断ミスと素直に認めたのは?』
「部下が近くに居ましたからね。まさか失敗しても良かったなんて言えないでしょう」
『それもそうか。警察の意向と狙撃までの流れはわかった。では、小田切さんの意向はなんだろうか。野々山奏多をどうしたい?』
「本当は捕まえたい所ですが相当難しいでしょう。証拠はほとんどありませんし、捕まえたとしても逃げられる可能性が高い。自由にスキルを使いこなしているダンマスに対して、人類はあまりにも未熟です。しかし、これから技術が発展すれば、ダンマスを封じ込めるモノも出来るかもしれません。その時間を稼ぎたいですね。できれば、その間にも被害者が出ないで欲しいと思っています」
『確かに今すぐダンジョンマスターをどうこうできる技術が無い以上、未来に先送りにするしかない、か』
「はい。ですので今回は最終的に見逃す予定です。しかし、次の被害者が出ない様に最低限の交渉は必要でしょう」
『なら今は交渉に有利な情報が欲しいといったところか』
「そうですね。更に言えば交渉に有利だと思わせる情報を向こうに渡したい所です」
『……わかった。出来る限りの事はしよう』
「助かります。寧音さんが大変な時に申し訳ございません」
『寧音を助けるついでだ。気にするな』
改めて奈那にお礼を言って、電話を切った。
いったいどうやれば本人を捕まえずに誘拐を辞めさせられるのか。それを考えながら小田切は報告書を書き始めた。