軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

142話 情報を渡す

奈那さんと野々山奏多の会話は続く。

交互に質問する方式が無くなった今、俺から話すことは特にない。

下手に喋って怒らせるよりも、黙って奈那さんに全部任せた方が絶対良いからな。

それに、俺の今回の役割は交渉じゃないし。

「とにかく、小田切さんは誘拐の被疑者として富良野ダンジョンマスターを追っている。顔や氏名、住所が判明した以上、これからも追い続けるだろう」

「追うっていうか、俺殺されたんだけど」

「彼は上から一般市民の誘拐なんて事をしているダンジョンマスターの捕獲または処分をするよう命じられている。ダンジョンマスターはダンジョンの外でもスキルが使える以上、捕獲は難しいと判断したのだろう」

「えー……ここ日本だよね?いきなり殺しにかかるのはなんらかの法律に反してない?」

「反しているな。しかしそれが問題になる事はない。公にならない限りはな」

法律とか関係なくダンジョンマスターを処分しようとしてくる部署か……ダンジョンマスターは法律で日本国民として認められている筈なのにな。

俺にとってもなかなか怖い部署だ。気をつけておこう。

「それって俺が暴露したら問題になるって事?」

「なんて暴露するつもりだ?いきなり警察に殺されましたとでも言うのか?現時点では証拠が無い上に君は生きている。世間には信じてもらえずに、簡単に揉み消されて終わりだ」

「だよね。なかなか面倒だなぁ……俺はさ、せめて大学卒業するまでは今の家にいたいんだよ。じいちゃんばぁちゃんにはここまで育ててくれた恩があるし、無駄に心配かけさせたくないんだ。奈那ちゃんから俺を諦めるよう言ってくれない?」

「言ったところで聞かないだろうな」

「じゃあ、俺を諦めてくれるような情報、なんかない?」

「ダンジョンマスターなのだから逃げ続けるくらいは可能だろう?祖父母には自分探しの旅に出ると言えばいい。大学生にはよくある事だ」

「無いとは言わないんだ」

「無い訳じゃないからな。そちらこそ何故そこまで祖父母の事を気にする?保護者であるならば子を育てるのは当然の義務だ。育てられた恩とやらを気にする必要はない。第一、本当に君が気にしているとも思えない。ダンジョンマスターだからもう一緒に暮らせないと宣言しても問題ない相手だろう?」

「わかってないなぁ、奈那ちゃん。2人にとって俺は両親を事故で亡くしても健気に頑張って前向きでいる子なんだよ。いつまで経ってもね。そこでもし俺が少しでもグレた行動を見せてみなよ。俺の行動は両親を幼い頃に亡くした所為だと決めつけて、愛情が足りなかったとか、過去の傷が癒えていないからと勘違いされて、同情される。それから可哀想にと言われるんだ。ものすごい不快だろ?」

いや、可哀想って言われるかはまだわかんないじゃん。決めつけがすごい。

あと言ってることあんま理解できなかった。

特に祖父母から同情されるのが嫌ってところ。

俺の両親は健在だし、父方の祖父母も母方の祖父母も俺にとっては良いじいちゃんばあちゃんでしかない。父方の方のじいちゃんはもう亡くなってるけど。同情されても気にならないし、心配されてんだろうなぁくらいにしか思えない。

育った環境の違いで思うことは人それぞれだと思うが、同情が嫌ってどういう感覚なんだろうな。

「……なるほど。私は少し勘違いしていたようだ。つまり君は祖父母の事が心底嫌いなんだな?いや、拒絶していると言った方が正しいか。祖父母の前では良い人間を演じる事で最大限の壁を作っているのだろう。ダンジョンマスターだとバレる事はその壁が壊れる事に他ならない」

「せいかーい。奈那ちゃんが初めてだよ。ここまで理解してくれたのは。友達に話しても良い人達じゃんってわかってくれなかったんだよねぇ。俺奈那ちゃんの事好きになっちゃうかも」

「嘘だな。君は人を何とも思ってないだろう。だから実験ができるんだ。そんな君が人に対して恋愛感情を抱く事はない」

うわ。

野々山奏多も冗談で言ってるんだろうけど奈那さんも容赦ないな。速攻で嘘と断言するとは。

可哀想に……って言ったらキレられるかな。黙っておこう。

「わかんないよ?……ま、いいや。とにかく祖父母にはバレたく無いわけ。警察を止める情報あるんだったら教えて?」

「警察を止める情報というよりは小田切さんを止める情報ならある」

「1人だけ止めても意味なくね?」

「そうでもない。先ほども言ったが、小田切さんは特殊監査室の室長をやっている。階級は警視だ。上から命令を受けて動く立場ではあるが、現場判断ができ、上に意見を提案できる立場だ。小田切さんを抑え上に交渉するよう促せば、警察の動きが止まる可能性はあるだろう」

「可能性ねぇ……それってどんくらい?」

「今のまま50%くらいだ。そもそも君が誘拐を繰り返し行ったのが原因だから、それを辞めない限りは向こうも要求を受け入れ難いだろう。もし今後は誘拐を行わないと約束したとしてもまだ弱い。うまく交渉するためには生きている実験体解放、過去に死んだ実験体の遺品の提供などを引き換えにする必要がある」

「交渉次第ってことかぁ。肝心の小田切を止められる情報って?」

「小田切さんのスーツケースにはカラフルなシールがたくさん貼られていた。全て子供向けの魔法少女達が活躍するアニメのシールだ。私がそのアニメが好きなのかと聞くと、勝手に貼られて、剥がそうとすると怒られたからそのまま使っていると言われた」

「で?」

「これはあくまでも私の予想だが、彼には子供がいる。外でもスキルを使える君ならおそらく特定できるだろう。そして特定なんてする必要もない。交渉に乗らないならと脅しの材料にすればいいんだ。寧音を人質にとって私を呼び寄せたようにな」

すごい。

何がすごいって、小田切さんは独身だ。子どもなんて居ないしそれを奈那さんは知っているにも関わらず嘘だと魔法陣が反応しなかったことだ。

スーツケースのシールの件は昨日ダンジョンの探索中に話題に出ていた。

あれはまだ小田切さんが新人だった時に、先輩刑事に貼られた物らしい。目立つスーツケースを持っていれば逆に刑事だとは思われないだろうという理論で勝手に貼り、小田切さんがあわてて剥がそうとしたら怒られたそうだ。

奈那さんは嘘は言っていない。子どもがいるだろうという予想も、対象を“彼”にすることで魔法陣の判定を欺いた。

野々山もまさかこれで子どもがいないとは思わないだろう。

「別に捕まえただけで寧音ちゃんにはまだ危害を加えてないって」

「その言葉が本当で良かった。それで、どうだろうか。私からの情報に満足したか?」

「交渉するカードはいっぱいあると嬉しいな」

「残念だがこれ以上は……あぁ、そうだ。小田切さんの電話番号を教えよう。直接話すなら必要になるだろう」

これ以上はない、じゃなくて教えられないの方なんだろうな。

奈那さんはバッグから紙とペンを取り出し、携帯の番号を書いて野々山に渡した。

「うーん……まぁいいや。まだまだ情報持ってそうだけど、役に立ちそうな情報貰ったし。約束通り鍵あげるよ」

「寧音はどこにいる?」

「気が早いよ奈那ちゃん。俺まだ帰っていいとは言ってないよ」

「まだ知りたい情報があるのか?」

「どうやって警察は富良野ダンジョンのダンマスが誘拐してる事に気づき、そのダンマスが俺だと知ったのか。知ってるなら教えて」

「あぁ、そのことか。この前探索者数人が逮捕されたのは知っているか?きっかけはそれだ」

奈那さんは順序立ててわかりやすく何故特定に至ったのかを説明した。

大きな要因は2つ。ダンジョンを荒らした探索者を生かしたまま逃したこと。そして奈那さんの前にダンジョンマスターとして現れたこと。

探索者を逃さなかったら誘拐犯と富良野ダンジョンマスターが繋がることは無かったし、真識眼を持っている奈那さんの前に現れなければ富良野ダンジョンマスターと野々山奏多が繋がることはなかった。

まぁこれを予想しろというのも無理な話だ。

東京で捕まった探索者の証言が北海道の誘拐犯と繋がるとは思わないし、普通は見られただけで名前知られると思わないもんな。

なんというか、油断していた所はあったのは確かだが、それ以上に相手が悪過ぎたとしか……

とりあえず経緯は話したのだから、もう帰りたい。

21階層に行くまでに何度かMP回復薬を使っていたが、魔法陣を踏んでからは野々山に気にされる可能性があると思って使えていない。そろそろMPが無くなりそう。

「他に何かあるのか?帰れるならさっさと帰りたい」

「町田はせっかちだね」

「俺から話すことはもう無いからな。小樽にいる瑛士が心配だ。連絡を取りたい」

「あー、2人のこと忘れてた。どうしよっかなぁ……あ、そうだ。奈那ちゃんの連絡先教えて。そしたらいつでも聞きたいことが聞けるようになるからさ」

「構わない。電話番号でいいか?」

「SNSのIDもよろしく」

「わかった」

また奈那さんは紙を出して番号とIDを書いて渡した。

「これで帰って良いだろうか?」

「今日はもういいよ。また連絡するね」

「では寧音の元へ案内してくれ」

「しょうがないなぁ。こっち」

席を立ち、奥に見えていた牢屋の場所まで案内された。

牢屋はかなりの数設置されている。

この位置からは見えないが、たぶんどっかに小嵜もいるんだろうな。

1番手前の牢屋は空で、その隣に寧音はいた。

横たわっているが、おそらく寝ているだけだろう。

奈那さんが牢屋の鍵を開けて、無事を確認した後、身体強化スキル使って寧音を横抱きにした。

「俺が抱えましょうか?」

「いや、大丈夫だ。帰ろう。あぁ、最後に一つ。もし私達が戻って来なかったら、野々山奏多に殺されたと思えと小田切さんに伝えてある。これから交渉をしたいなら最後の最後まで嘘はつかずに私達を無事に帰らせた方が得策だぞ」

「いやだなぁ。そんな事する気ないって」

「そうか。では私の勘違いだな。失礼した」

「あ、俺からも最後に一つ。小嵜麻夢を解放する気になったか?」

「えー……町田からは大した情報もらってないしな」

無理なら無理ってハッキリ言って欲しいんだが。

渡せそうな情報なんかあったかな。野々山が気にしてる警察関連は何も知らないし、教えるとしたらダンジョン関係かスキル関係か?

うーん……考えても教えられる情報は今すぐには思いつかない。

小嵜はやっぱり諦めよう。

「俺が話せることは何も無かったから仕方ない。寧音だけでも解放してもらえて良かったと思うことにするよ」

「そうだな。現時点では何も対価を渡せない。そうだな……裏で警察との交渉をサポートする。交渉がうまくいったら小嵜麻夢さんを解放する、という条件でどうだろうか?」

「あー、ならそれでいいよ。サポートよろしくね」

そう約束して、俺らは邪魔されることなく魔法陣に乗った。

本当に無事に1階層まで帰って来れた。

小嵜は帰って来なかったが、目標は達成した。

最悪攻撃されてやり合うことも考えていたから、逆に拍子抜けである。

ダンジョンを出てから、俺はMPを回復させる。本当にギリギリだった。

俺が回復薬を使っていると、奈那さんがポツリと呟いた。

「1回はダンジョンを完全攻略したいと思っていたんだ。ちょうど良いダンジョンが見つかって良かった」

こっわ。

野々山と対面してる時はいつも通りの奈那さんって感じだったけど、これ内心めちゃくちゃ怒ってたんじゃ……

いや、大切な妹を誘拐されたんだから、そりゃ怒るか。むしろ取り乱さず交渉出来ていたことがすごい。

「奈那さんならあっさり攻略できちゃいそうですね」

「私もそこまで万能じゃない。すぐには無理だ。もう少しスキルを揃えてからだな」

ただでさえいっぱいスキル持ってるのにこれ以上何が欲しいんだろう。上級より上の魔法スキルか?

「手伝える範囲で手伝いますよ。なので攻略頑張ってください」

「できる限り努力しよう」

「よろしくお願いします。じゃあ帰りましょうか」

奈那さん達は旅館へ、俺はホテルへと戻る。

この後奈那さんは小田切さんに何を話したのか共有するそうだ。ついでに瑛士達のことも確認してもらう。

結局、ほとんどのことは奈那さんがやったな。

俺は何もしてなかったのにずっと気を張っていて疲れた。

今日はぐっすり寝れそうである。