軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

139話 富良野ダンジョンマスター、野々山奏多の場合(三人称)

野々山奏多は幼い頃交通事故に遭い、その際両親を亡くしている。

元々東京で暮らしていたが、その時に富良野に住んでいた父方の祖父母に引き取られた。

幼くして両親を亡くした奏多に対して、祖父母はどちらも同情的で優しく接してくれた。虐待などは一切なく、何不自由なく暮らせていた時点で恵まれている方だろう。

しかし、その同情的な優しさが奏多はいつまで経っても受け入れられなかった。

自分の事を考えてくれているのはわかる。〇〇が食べたいと言えば夕飯はそれになったし、おもちゃが欲しいと言えば買い与えられた。イタズラしても祖父はやんちゃだなぁと笑い、祖母はあらあらと微笑んだ。夜遅くまで起きていても怒られる事はなく、ずっと寝ていても朝起こされる事はない。

そんな態度が何もかも嫌だったが、不自由の無い暮らしをしているから文句も言えない。

祖父母の家は畑の中にポツンとあるど田舎の家だったため、近くには同年代の子は住んでおらず、気軽に友達の家に遊びに行って逃げる事もできなかった。

言えば車で送ってくれるのはわかるが、そうすると畑仕事を止めてしまう事になる。まだそこまで心を開いていない相手に、仕事の手を止めるような内容を図々しくお願いするのはできなかった。

だから奏多は放課後や休日は孤独に過ごした。

暇を潰せる場所と言えば庭か、祖父母のいる畑か、家の裏手にある山くらいしかない。

花や草を摘み、潰して混ぜてみたり、虫を捕まえて観察してみたり、夏は畑の周りの水路で水遊びをし、冬は庭先で雪だるまを作った。

1人で行うのはつまらなかったが、元々都会っ子だった奏多にとってはどれも新鮮でそこそこ楽しめた。

けれどそれも最初だけだ。同じ事を繰り返していれば、飽きてくる。

ある日のことだ。

花や草を潰すように、虫を潰したらどうなるのだろうと奏多は疑問に思った。今までやっていなかった事だ。早速実際に行った。虫はあっさりと動かなくなった。

じゃあ、半分だけ潰したら?足や翅をもいでみたら?この虫がこうなら他の虫は?虫の中身はどうなっているんだろう?違う虫を同じ籠に入れたら何が起こるのかな?

子供の好奇心は尽きない。

奏多は色々と実験を行った。ちょうど良い暇つぶしだった。

実験が虫で止まったのは幸いと言える。奏多は自分の行っている事が残酷なものであると認識していた。だから実験は祖父母の目が無いところで行って、使った虫は全て埋めていた。虫以外の生物となると、簡単には隠せない。

奏多は祖父母の前では活発で良い子を演じていたから、バレるような事はしなかった。もし出来る環境があったら小動物でも実験をしていただろう。

ただ、成長と共にスマホを与えられ、自転車で行ける範囲が増え、友達と遊べるようになってからはその実験はやらなくなっていった。色々試しすぎて飽きていたのもある。

この実験癖がぶり返したのは高校生の時である。

ある日の授業中、奏多は声を聞いた。

『抽選により、ダンジョンマスターに選ばれました。1ヶ月後、人類の侵攻が始まります。攻略されないよう備えてください』

他のダンジョンマスターも聞いた、例の声だ。

奏多は迷わずに<はい>を選んだ。

ダンジョンマスターになった事によって、奏多は新しいおもちゃを手に入れた。

普段、祖父母は畑仕事で昼間は家を留守にしている。

誰にも見られる事なく、家の中で堂々とAIに話しかけ、ダンジョンの構想を練った。

ダンジョンを作って実際に出現してからは、休日にダンジョンに通い詰め、モンスターに対して実験を行った。

この遊びで奏多はポイントをほとんど使い切ってしまった。

となるとポイントの補充が必要である。

ポイントを得られるのは他のダンジョンを踏破するか、人類がダンジョンに訪れるしかない。

近くにダンジョンがないから踏破もなにもないし、この時はダンジョンへの入場を政府が制限していたから、待っていても中々人類は来ない。

どうにかして人類を連れてくる必要がある。

友人が多かった奏多はお調子者のクラスメイトをけしかけ、度胸試しを流行らせた。

内容は富良野ダンジョンに入り、最初の部屋から階段を降りた先の壁をタッチして、戻ってくるという簡単なものだ。

最悪これが大人にバレても良い。それをスリルとして度胸試しを続行させるか他の手を考えれば問題ない。ただどちらも手間はかかるので、一応大人にバレる事なくダンジョンに入るというのも度胸試しの内容に含まれている。

また、奏多にとってクラスメイトの生死は別にどうでも良かったが、奥へ行ってうっかりモンスターに殺される人が出てきたら、流石に 度胸試し(遊び) どころじゃなくなる。

基本的にモンスターには付近に近づかないよう指示をしておき、たまに1匹だけ姿を見せてあまり奥へは進ませないようにコントロールした。それでも奥へ行きたがる奴が出てきた時にはモンスターに怪我で収まる程度の範囲で襲わせた。

数人が数分しか滞在しない度胸試しでも、何回かやればそれなりのポイントになる。

更にダンジョンに人類が訪れた事によってステータスが解放されてスキルが使えるようになり、新しくモンスターで実験を出来る項目が増えた。

今度はポイントを使い切らないようにちゃんとセーブして試す。

その過程で外にモンスターを出せる事も知った。ただ、奏多はそれをあまり使わなかった。シンプルに外でモンスターを配置してもなんのメリットがなかったからだ。

元日の条件を満たしたダンジョンがモンスターを氾濫させられるタイミングに何匹か外に出したり、家の中で出したモンスターを浴槽の水に沈めたりしたが、本当にそれくらいだ。

ライセンスが発行され探索者がダンジョンに訪れるようになってからは、転移罠を設置して人を捕まえる仕掛けを作った。

富良野ダンジョンはその行方不明者の多さから勘違いされがちだが、実は即死の罠は設置されていない。

様々な罠で捕まえた人類は奏多が直々に迎えに行って、最下層にある牢屋へ連れて行っていた。その方が捕まったと自覚させやすく、また対面で直接話す事によって生きて帰れるかもしれないという僅かな希望を持たせられるからだ。

最初はモンスターに対する実験のために人類を捕まえていたのだが、だんだんと人類に対しても色々とやりたくなった。

それを止める者は誰もいない。

どこまで傷つければ死ぬのか試したり、人類同士で殺し合わせて反応を見たり、装備や衣服を全て奪いモンスターと向き合わせたり、スキルの効果や回復薬の効果を試したり、手足を付け替えてみたり、他にも様々な実験を行った。

最終的にはみんな死ぬが、放っておけば勝手に実験体は捕まえられる。

大学は学費が安くて授業が家から受けられる通信制のところに進学した。

高校の時と比べて自由時間が増えた奏多はバイトを始め、半分は家に、もう半分は旅行に使った。

その行った先で一人旅をしていた観光客を誘拐したのは成り行きである。

写真を撮ってくださいと声をかけられて、そこから一人旅同士話が盛り上がって仲良くなり、連絡先を交換して観光地を一緒に巡り、ホテルに送って行くという名目で車に乗せた。

この時点では誘拐しようなど考えていなかったが、運転中にちょうどレベル1の人類が欲しかったんだよなぁとふと思い、スキルを使って眠らせ、そのままダンジョンに運んだ。

これが初めての誘拐である。

人類が最初に取得できるスキルはその人が持っている才能によって決まると言われている。

しかし経験を積めば、レベルアップの際に取れるスキルが増える。

どんな経験を積ませれば、スキルが取れるようになるのか。レベル1の状態でも経験さえあれば取れるスキルは増えるのか。

奏多の興味はここにあった。

色々と試していくうちに、レベル1の人類は何かと都合が良いと気づき、それからも定期的に誘拐するようになった。

ただ、誘拐しやすそうな人を探す為に行ったことのある観光地を何度も訪れるのは不自然だ。

奏多はカモフラージュの為に動画投稿を始めた。

遠慮のない物言いがそこそこウケ、想定より再生数とチャンネル登録者数が伸び、チャンネルは良い小道具になった。

道を聞かれたり、写真をお願いされたりと、とにかく話しかけられた相手に自己紹介をする際、「こういう者です」と言いながらチャンネルを見せて反応を伺う。

そこで微妙な反応されたらチャンネル登録だけお願いしてそのままお別れだ。逆にノリ良く返事してくれれば親しくなって一緒に回れるような人が多いので、奏多にとって誘拐がしやすい相手という事になる。

途中で多少怪しまれても、最終的にはスキルでなんとかなった。

奏多のダンジョン運営は順調だった。

そんな順調なダンジョンの異変に気付いたのは夜。バイトが終わって家に帰ってからだ。

ふとダンジョンの様子を見てみると、配置した覚えのないモンスターが己のダンジョンにいる。

人類と大して変わらないだろうという考えの元、ダンジョンマスターが侵入しても通知が来ないようにしていたので気付くのが遅れた。

そして見知らぬモンスターが持っていた紙に書かれていた町田ダンジョンマスターについてSNSで情報を探ろうと思ったら、今度はそこで品谷瑛士と酒木岳が富良野ダンジョンマスターを探しているという情報が流れてきた。

品谷瑛士と町田ダンジョンマスターが友人同士であるというのは有名な話である。

そんな2人が片方はダンジョンで、もう片方は観光地で動いている。

ここでようやく奏多は自分にとって何か都合の悪い事が起こっていると認識した。

“直接会ってお話ししたいです”とメッセージを残した町田ダンジョンマスターと観光地で自分を探している品谷瑛士。どちらの様子を優先的に伺った方が良いのか。

アルファタイプのAIに状況を話し、結局両方行く事にした。

奏多がとったスキルの中に、分け身というスキルがある。

このスキルは自分の分身を作れるというモノだ。

分身の能力は自分のステータスを分け与える事で強化できる。分身は命令を聞くし、ある程度まるで本人かのように行動するが、あくまでもある程度である。会話のような事は出来ても、言葉のキャッチボールは苦手だ。

また、分身に分け与えた能力はその間自分は使えなくなる。一定量のダメージを負うと消滅し、その時能力が返還され、分身に何があったかの記憶が流れてくる仕様だ。

分身に渡せるだけのステータスとスキルを渡した奏多は指示を出した。

まず、自分が配置していないモンスターを全て消滅させる事。それから特定の場所に指示書を置いておく事。そして、21階層で待機し、魔法陣に乗らなかったら襲撃。可能であれば捕える事の3つだ。

分身ではあるが、ダンジョン運営の権限も分ければモンスターの配置や罠の設置も行えるようになる。必要であれば使うように言って、分身をダンジョンへと送り出し、ダンジョンマスターが来たら通知が来るよう設定してから奏多は寝た。

次の日。

『マスター!ダンジョンマスターから侵攻をされたよ!』

AIの声で奏多は起きた。

「そいつら写して」

『はーい』

「ありがとう。この3人組ね。“鑑定”」

管理画面に映された映像相手に鑑定スキルを使う。

本来ならば画面の方が鑑定されてしまうのだが、コツを掴めば映っている相手に使えるようになる。

今回も上手く3人分のステータスが表示された。

1人はステータスの種族がダンジョンマスターで、もう1人が顔に布をつけていて名前に町田がついている種族が人類表記のやつ。あとは人類じゃ普通あり得ない量のスキルを持っている種族が人類表記のやつだった。

ステータスを誤魔化せるスキルがあるのは奏多も知っている。

3人ともステータスに特徴があって、全て偽りの可能性が出てきた。

試しに見た名前で検索してみると、女の弥竹奈那だけヒットした。ダンジョン研究家を名乗っていて、書籍を出している。顔もネット上に上がっているものと一致している。

残り2人は何も出てこなかったが、おそらく町田真の方が町田ダンジョンマスターなのだろう。種族が人類になっているとはいえ、ドラゴン討伐の動画で見たやつと同じ雰囲気だし、ステータスを誤魔化すなら偽名に町田を採用するくらいのふざけた事をやりそうな人物だからだ。

残りの1人、蓮見朝陽は全くわからなかった。ただ、種族がダンジョンマスターである以上、本当にダンジョンマスターである可能性は全然ある。

「ダンジョンにいる俺の分身に、ダンマス2人いるかもって伝えてくれる?男の方って」

『わかった!伝えておくね』

次に、品谷瑛士の目撃証言を探ろうとしてSNSを開いたところ、品谷瑛士の“今日は小樽!”という投稿がちょうどタイムラインに流れてきた。これから探ろうと思っていたところなのに拍子抜けだ。とはいえ余計な手間が省けたのは助かる。

視界に小さく3人を映した画面を表示させたまま、奏多はさっそく車で小樽へと向かった。

小樽は過去に何度も訪れている。人気な観光地だから動画が作りやすく、作った動画は伸びやすい傾向にあるからだ。

慣れた道を走らせ、いつも使ってる駐車場に車を止めた。

SNSでの目撃証言と品谷瑛士の投稿を頼りに、品谷達を探す。

ダンジョンマスター2人と女1人という目立つ組み合わせだ。比較的すぐに見つけられた。

タイミングを伺い話しかける。

「さっきは抹茶だったけど、今回はバニラにするんだ」

「あそこ辞めといた方がいいですよ」

イマイチだから他のところにした方が良いというアドバイスに品谷瑛士は乗ってきた。奏多が得意とするノリの良い相手だ。

途中女に邪魔されながらも、最終的には奢るからコラボしてくださいというお願いは無事に聞き入れられた。

リクエストが寿司だったので、過去に訪れた事のある店に連れて行き、撮影の許可を取る。

ただ、今回の本当の目的はコラボ動画の撮影ではなく情報収集である。さっさと雑談タイムに入る為に数分で撮影を終わらせた。

「必要な素材は取れました。ありがとうございます」

「大丈夫!むしろこんなんでいいの?」

「動画編集で何とかするので平気です」

「へぇ!どうやるの?自分でやってるの?てかナカタさんって俺と同じくらいに見えるけど何歳?」

「自分で動画編集してます。スマホで出来ますよ。俺の歳は19です」

「同い年だ!じゃあもっとラフに話そ!大学2年生?それとも1年?」

「じゃあ遠慮なく。2年なんでたぶん同学年かな。お二人は?」

「俺は大学中退したけど辞めてなかったら4年だな」

「ノーコメントで。とりあえず社会人である事は間違いないわ」

「へぇ。年齢もバラバラなのに一緒に旅行できるくらい仲良しってなんか良いね。何がきっかけとかある?」

「えっとねー、俺と寧音ちゃんはぶつかった事がきっかけで、がっくんは俺がダンジョンに遊びに行ったらがっくんから話しかけてくれたよ!」

奏多の質問に対して品谷は何でも答えた。逆に品谷達から質問があれば奏多は何でも言った。

会話を重ねていくうちに、富良野ダンジョンマスターを探しており、ついでに観光もしている事と聞いた。探している理由を確認してみると、品谷が返事する前に寧音が「ノリよ」と短く答える。

絶対にそんな訳無いのだが、今怪しまれると困る。なので深く追及せずに明るく見つかると良いね言いつつ、現時点でわかっている富良野ダンジョンマスターの情報は何か無いのかと聞いてみた。

すると、黒髪で175cmくらい男と品谷から回答があった。ついでに細身で冬場はコートを着ていると酒木が補足する。

内容が具体的だ。しかも当たっている。

情報源は寧音の姉の知り合いだとか。

奏多がダンジョンマスターとして人前に出たのは、自分のダンジョンで遊んでいた探索者達のみである。実験に使うのすら嫌だったので追い出し、富良野ダンジョンには来なくなった。

しばらくしてその探索者達が捕まったとニュースで見た。

情報が漏れるとしたらコイツらしかおらず、しかも相手はおそらく警察だ。コイツらが無関係な第三者に特徴を言いふらしていた可能性もあるが、最悪の状態を考えていた方が良いだろう。

品谷達の背後には警察か、あるいは国がいるかもしれない。

観光についていきたい気持ちを抑えて、寿司が食べ終わったらおすすめのお土産屋だけ教えて解散する。

これで数万円飛んだが、バイトの他に捕まえた探索者や誘拐した人物が持っていたお金を得ている奏多にとって痛くない範囲だ。

3人と別れた後、カフェでコーヒーをテイクアウトして車に戻り、管理画面の映像を見ながら待機した。

しばらく待つと分身の記憶が入ってくる。会話内容などもわかるのだが、わかったのは向こうは話し合いを希望しているくらいでロクな情報がない。せめて目的を聞き出せれば良かったのだが、分身は襲撃を優先させたようだ。目的を聞き出すという命令をしていなかった奏多のミスである。そんな命令をしていても分身が出来たかは怪しいのだが。

とにかくこうなってくると、もう強引に事情を知っている人から話を聞き出すしか無い。

「もしもし瑛士?ナカタだよ、ナカタ。さっきはありがとね!で、本題なんだけど、富良野のダンマスの件でちょっと思い出した事があってさ。電話じゃアレだからもう一回会えない?」

多少変に思われても良いからと、奏多は品谷達と今日この後会う約束を取り付けた。

分身に与えたステータスとスキルはもう戻ってきている。

会いさえすれば3人相手でもやりようはあるのだ。