作品タイトル不明
123話 事件の繋がり
普通、瑛士みたいにうっかりしてなきゃ自分がダンジョンマスターかどうかなんてバレることはない。
富良野のダンジョンマスターは本当に誰にも自分の正体を言っていないのだろう。
「全く情報が無いという訳でもないんだ。数週間前に逮捕された探索者達を覚えているか?」
「他の探索者を襲ってたってやつ?」
「麻夢さんがここに来るきっかけになったやつだよね!」
「そうだ。私はそいつらの件で捜査協力をしていてな。マジックバッグの中身を見るために呼ばれたんだが、ついでにある程度の情報も聞いた。その探索者達は富良野ダンジョン内でダンジョンマスターとみられる人物と接触していたそうだ」
「そうなの!?」
本当に奈那さん捜査協力してたんだ。人脈どうなってるんだろう。
人類がスキルを使うためにはダンジョンに入るかダンジョンマスターが近くに居ないといけない。政府側にダンジョンマスターの協力者が居るとは思えないから、わざわざダンジョンに行ったのだろうか。
大事な証拠品を持って1人で行かせる訳ないし、警察関係者何人かでダンジョン行ってると思うんだけど、そんな話全然聞こえてこなかったな。てことは国会議事堂のダンジョンとかでやったんかな。それかそこのダンジョンマスターが協力したか。
……今の話題には関係ないから一旦置いておこう。
「それで、どう接触してたんですか?」
「そいつらはある日うっかり転移トラップに引っかかってしまった。しかし、トラップの場所は把握した上でダンジョンに挑んでいたから、魔法陣を読み解けるようなスキルを誰も持っていなかった。魔法陣の発動条件がわからず困っていたところ、突然男が部屋に現れたそうだ」
「そいつがダンジョンマスターだったって事ね」
「あぁ。男は自分のダンジョンで楽しそうな事をやっていたから、特別に条件を教えてあげると言ってきたそうだ。血を一定の量捧げれば出られる、とな。その量は10リットルとかなりの量だった。
50キロの人間が保有する血の量はおよそ3.5〜4リットル。そいつらは探索者を何人か殺害してマジックバッグに入れていたが、バッグに入れる際に解体していた所為で死体全て使っても足りなかった。
ここから出るにはもう1人分くらいの血が必要となった時に、誰が血を提供するのか揉めた。諍いの様子をダンジョンマスターは楽しそうに見ていたそうだよ」
「そんな……」
「イかれてんな、そいつ」
「それで……どうなったの?」
「ダンジョンマスターに襲いかかったが返り討ちにされ、その際1番怪我を負った人を殺して血を捧げ、出てきた。この事がきっかけで富良野ダンジョンで狩りをするのは辞め、ダンジョンを転々とし、最終的に町田ダンジョンで捕まったという訳だ」
なるほど。手慣れたにしては、マジックバッグから出てきた死体の数が少ないような気がしていたけど、ここで一度リセットされていたのか。
仲間1人殺すことになったら足を洗いそうなものだけど……いや、探索者を殺して回ってた奴らの倫理観が正常なわけないか。
「今の話では富良野ダンジョンのマスターがヤバいやつってわかっただけで、特定できそうには無いと思うんですが」
「そうでもない。証言からダンジョンマスターはコートという探索においてふさわしくない服装をしており、黒髪で175cmの細身の男という事がわかっている。そしてそいつが人の死を笑って見ていられるような人間だと言うこともな」
逮捕された探索者の前に現れたんだから、ダンジョンマスターがダンジョン内を通った事は間違いない。
コート姿の男なんていたら目立つ筈なのに目撃情報は出てきていないって事は、隠遁者スキルのような姿を隠せるスキルを使ったか、魔法陣で移動したか。
「結局役に立ちそうな情報は何も増えてなくね?」
「いいや、増えているさ。なぜダンジョンには相応しくない格好で来ていたのか?なぜ自分のダンジョンで探索者を襲っていたパーティの目の前に姿を現したのか?なぜ人を死ぬ様を笑って見ていられるのか?
それはダンジョンに気軽に来れるほど近い距離に住んでいて、己のテリトリーで好き勝手される事を許せず、人の死に様を見るのが好きなサイコパスだから……と考えられないか?」
「待って、サイコパスなのはわかるけどなんでダンジョンの近くに住んでいるってなるのよ」
「時間だよ。探索者を襲っていたパーティがトラップに引っかかってから数時間もかからずに男は現れたそうだ。富良野ダンジョンは交通の便が悪い。東京に住んでいる者がすぐ来れる距離じゃないんだ」
あー……ダンジョンから遠くに居てもボタンひとつでマスタールームにすぐ行けるって知らなかったらそうなるか。
まぁ探索者が罠にハマったのが年明ける前だったらその機能使えないけど。
それに、帰還ボタン実装後の出来事で、ボタンを使ってダンジョンに行ったとしても、すぐ帰れる距離じゃないとそう簡単に飛ばないだろう。近くに住んでいるっていうのはあながち間違いじゃないのかもしれない。
「もちろん、北海道内の他の地域から来たと言う可能性もあるが……小田切さん」
「はい。ではご説明いたします。少し話題は変わりますが、昨年8月以降、北海道内で観光客が行方不明となる事案が多数発生しております。まずはこちらをご覧ください」
そう言って小田切さんは持っていたバッグから資料を取り出した。
行方不明だと通報を受けた日と被害者が最後に目撃された場所、被害者の性別がまとまっている。
……これ、警察関係者じゃないと絶対に用意できないよな?
この人の目的は小嵜の救出じゃなくて、富良野ダンジョンマスターの確保だったりするのだろうか。
瑛士は正体に気付いてないけど、酒木は気づいてそう。なんか小田切さんの顔をじっと見つめてるし。
まぁいいや。おそらく捜査資料であろう物を仮にも一般人に見せるなんて相当ヤバいことをしている。何かあっても自分の立場が危うくなるだろうから、無闇にこっちのことを言いふらしはしないだろう。
「資料をご覧いただければ分かる通り、行方不明者はおおよそ一か月の間隔で発生しています。性別を問わず、いずれも単独で行動していた人物が対象と見られます。
事件の発生場所は、発生場所は北海道内の著名な観光地が中心です。
ただし、富良野にはラベンダー畑や十勝岳温泉といった観光名所が存在するにもかかわらず、これまで被害は確認されておりません」
「富良野だけ被害がないから逆に怪しいって事か」
「この行方不明者の発生が同一人物による物と考えている理由はなんですか?あと、仮に同一人物だとして、その犯人を富良野のダンジョンマスターだと予想している理由は?」
ついでにこの件がニュースになってなかったのはなんでだろうな。
……昨年9月は新しくダンジョンができ、12月はドラゴンが街中に現れ、今年2月には政治家の不祥事が次々と出てきた。流石にこれらを優先させて報道するか。他の月も他の話題があって観光地の行方不明者はニュースにならなかったのかな?
「そうですね、ここからが重要な点になります。今年1月に行方不明になった女性の足取りを追ったところ、とある場所の監視カメラに身長およそ175cm、黒髪でコートを着た細身の男性と同行している姿が確認されます。しかし、この段階では犯人の特定には至っていません。
その後、今回の事件において誘拐犯の特徴が証言として挙がり、これが北海道で1月に発生した行方不明事件と結びつくことになります。さらに詳細な調査を行った結果、昨年8月以降、ほぼ毎月1名が道内のいずれかの観光地で行方不明となっている事実が明らかになっています。
なお、犯人と見られる人物がカメラに映っていたのは、1月の事件のみです。ただし映像が不鮮明で、AI解析を行っても顔の特定には至っていない状況です。」
もはや警察関係者ってことを隠してないだろ、これ。
とりあえず概要はわかった。富良野ダンジョンマスターの特徴がとある行方不明事件の重要参考人と一緒で、もしや富良野ダンジョンマスターは観光客を誘拐しまくっているのでは?と考えて調べた結果、こうして次々と行方不明者が出ていることに気付いたわけか。それが全て富良野ダンジョンマスターの仕業なのかは置いておいて。
それに、ダンジョンの外から人を誘拐してきてダンジョンに捕らえていたとしたら、ポイントの余裕具合にも納得する。