作品タイトル不明
122話 富良野ダンジョンとは
予約を取ったホテルまで連れて来てもらった。
このホテルや寧音達が泊まっている旅館、その他この近辺にある宿泊施設は全てダンジョンが出来てから建設された物たちだ。だから内装はどこも綺麗で、装備のレンタルサービスや素材の買取屋が当然のように併設されている。
24時間チェックイン可能なのも助かるポイントだ。ご飯も希望すれば朝昼夕全て出してくれる。それくらいダンジョンの周辺は畑ばかりで何もない場所なのだ。初期の場所決めに必要なポイントは相当低かったんじゃないかな。
今回部屋は俺と瑛士が一緒で、酒木だけ別の部屋となっている。
部屋に荷物を置いたら1階でレンタルの予約をしていた武器を受け取り、また車に戻った。
さりげなく今度は助手席に座る。
瑛士と酒木は楽しそうに喋っていて、場所が変わったことについてはあんまり疑問を抱いて無さそうだ。
5分ほど車を走らせ、今度は壮麗な旅館に辿り着いた。俺らが泊まる所も綺麗だったけど、ここはそれ以上だな。最近探索者のために建てられたのは同じな筈なんだけど、なんと言うかワンランクとかツーランクくらい上の宿だ。
寧音が受付のスタッフとやりとりし、その後俺らは梅の間というところに来た。テーブルと椅子がある洋室だ。奈那さん、蓮見が既に座っている。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「奈那さんおひさ!!朝陽くん元気だった?」
「まぁ」
「そちらの方は初めましてだな。ダンジョン研究家の弥竹奈那だ」
「あー、噂の。俺は東池袋ダンジョンマスターの酒木岳だ」
改めてお互いに自己紹介をし合い、着席した。
俺に瑛士に蓮見に酒木。無駄にダンジョンマスターが集まってるな。
「さて、早速話を始めたい所だが、実はもう1人協力者を呼んでいる。もう少しで来るはずだが……とりあえず雑談しながら待っていよう」
電話した時、人の捜索が得意な助っ人を呼ぶみたいな事言ってたっけ。忙しい人だから断られるかもしれないってことだったけど、結局来ることになったんだな。
奈那さんが酒木に質問攻めにしているのを尻目に、俺はSNSを開いた。早朝でそこまで人が多くなかった筈だが、瑛士と酒木が空港に居たという投稿がチラホラあった。幸いな事に、俺については特に書かれていない。
小嵜について調べれば、1週間前ほどに富良野ダンジョンで見たという探索者の投稿がいくつかあった。小嵜のSNSがここ1週間更新されてないからか、富良野ダンジョンで何かあったのではないかという小嵜を心配する声もある。なかなか鋭い。
5分ほどそうしていると、ドアがノックされた。
寧音がどうぞと声をかける。
するとスーツを着た幸の薄そうな雰囲気の男性が入ってきた。
「あ!」
男を見た瑛士が声を上げる。
「知り合いか?」
「空港でぶつかっちゃった人!」
「先程はすみません。バスの時間が迫ってて急いでいたものでして」
「大丈夫だよ!」
こんな冴えない感じの人が人探しが得意なんだ。
「改めまして小田切です。都合上所属は明かせないのですが、小嵜麻夢さんの捜索に関しては全力を尽くすので安心してください」
いや怪しすぎるだろ。
奈那さんの知り合いなら変なことはしないだろうけどさ。
「じゃ、始めるわよ。 大夢(ひろむ) くん、聞こえてるかしら」
『はい!』
タブレットから小嵜弟の声が聞こえてきた。
待っている間、寧音が何かセッティングしてるなって思ってたけどこれか。
今回、小嵜弟は親に内緒で瑛士に接触しており、尚且つ未成年だから1人で北海道に来ることが出来なかった。
「さて、目撃情報から、小嵜麻夢さんが富良野ダンジョンに入った事実は間違いありません。また、宿泊先のホテルの従業員から、麻夢さんが六日間にわたり戻っていないとの証言を得ています」
『やっぱり、富良野ダンジョンで……』
「えぇ、そこで何かあったのは間違いないでしょう」
奈那さんから昨日小嵜の捜索を手伝って欲しいと言われたはずなのに、なんでもう宿泊先の従業員から証言を得てるんだよ。
それより前に小嵜がダンジョンで消息を絶ったって知ってないと無理じゃないか?
まじで何者だろう、この人。
「残念ながら富良野ダンジョンに行って戻ってこない人は多い。まずはダンジョンの特性から説明しよう。富良野ダンジョンは転移トラップが多いダンジョンだ。魔法陣を踏んだら、扉を開けたら、宝箱に触ったらと、トラップが発動する条件は多岐にわたる」
魔法陣以外で探索者を転移させるには、それなりにポイントがかかるんだよな。なのに富良野ダンジョンは3階層あたりからもうそのトラップが使われている。
それだけならポイント的に無理ではないが、あれだけ宝箱が多く配置されているなら話が変わってくる。
「転移トラップに引っかかると、同階層内や他の階層のどこか、モンスターが多数いる部屋、何かの条件を達成しないと出れない部屋などに飛ばされる。富良野ダンジョンで行方不明者が多いのは条件を達成しないと出れない部屋で条件が達成できなかったからと言われている」
「なら小嵜さんもそのトラップに引っかかったって事か」
「そうでしょうね」
転移させどこかの部屋に飛ばしても、そこから脱出する方法が存在しないといけないようになっている。それは魔法陣でもいいし、ドアでもいい。
ただそこで脱出する用の魔法陣を発動する条件を厳しくすることはできる。
モンスターのいない部屋で1つの命を奪えば発動する、なんて条件にしたらパーティ同士の殺し合いが発生するし、探索の時持っていなさそうなモノを捧げたらという条件にしたら部屋から出てこられない。
そもそも魔法陣がどうやったら発動するのかを調べるには鑑定などのスキルが必要で、そういったスキルを持っていない人間が部屋に飛ばされるトラップを踏んだら詰む。
転移トラップが多いから、富良野ダンジョンは行方不明者が多い。
そしてこうして探索者を部屋に閉じ込める事に成功しているから、富良野ダンジョンはポイントに余裕があり、たくさん宝箱を置ける。
行方不明者が多くても、その宝箱が魅力的で人が集まる。中々の仕組みだ。
ただ、それでもポイントが合わないような気がするんだよな。富良野ダンジョンは配置に10万ポイント以上必要なアイテムがゴロゴロと手に入る。
いくらポイントに余裕があるからといって、だいぶ多すぎる。もしかして蓮見みたいに捕まえた探索者を無理矢理生きながらえさせているのだろうか。
「じゃあ、麻夢さんがどこでトラップに引っかかったかわかれば良いってこと?」
「それが出来たら苦労しないわ。いったい富良野ダンジョンの転移トラップがいくつあると思ってるの?」
「探索者の弛まぬ努力のお陰で12階層まではトラップの場所とおおよその内容は公開されている。12階層以降は人が帰ってこなかった所為で情報が共有されていないトラップがあり、小嵜麻夢さんもそれに引っかかったとみている。せめてどこの階層なのかわかれば虱潰しでトラップを発動させればいずれ辿り着くだろうが、該当の階層がわからない以上厳しいだろうな」
「人を探せるスキルとかないわけ?」
「その手があった!シロンちゃんに聞いてみるね」
「俺も聞いてみるわ」
瑛士と酒木がそれぞれ自分のAIに聞いている。
「えっとね、事前に会ってる人なら探せそうなスキルはいくつかあったんだけど、俺は麻夢さんに会ったことないから使えないかも」
「俺も同じ感じの結果だったわ。千里眼みたいなスキルで場所の特定のは出来ても、どのトラップでそこに行けるのかはわからないしな」
「そう……そんな都合の良くはいかないわね」
『つまり姉さんを探すのは無理ってことですか……?』
「そんな事はない。小嵜麻夢さんがどこに居るのか確実に知っている人物が1人居るだろう?」
「まさか……」
「え、なに」
「富良野ダンジョンのマスター、ですね?」
そこのダンジョンマスターならどこに誰が居るか見れるし、脱出条件を変更する事もできる。
ただ、動画投稿をしている俺らと違って、富良野のダンジョンマスターは一切表に出てきていない。奈那さんの 真識眼(しんしきがん) があるとは言え、見つけるのはだいぶ厳しいんじゃないだろうか。
「政府でも見つけられていない相手を私達で見つけるのは無理なんじゃないかしら」
へぇ、政府でも見つけられてないんだ。