軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 退屈な留守番

「うむう……やはり暇だ……」

魔物対策省敷地内、田中宅リビング。

そこには退屈そうにテーブルに突っ伏すリリシアの姿があった。

動画やゲーム、漫画といった娯楽は潤沢にある。

しかしリリシアはそういったものでなく、誰かと遊びたい気分だった。

「外に出たい……またコラボカフェを開いてくれんかの……」

リリシアはコラボカフェで働いていた時を思い出す。

体を動かしたくさんの人と関わるのはとても楽しかった。故郷の祭りに参加していた時を思い出し、懐かしい気分にもなった。

コラボカフェでの一週間は、こちらの世界に来て一番の思い出といってもいい。

しかしコラボカフェはもう終わり、再び家の中でお留守番する生活に戻ってしまった。今まではしょうがないと耐えられたが、一度あの時の楽しさを覚えてしまうと再びこの生活に戻るのがつらかった。

リリシアがぐちぐちと不満を言っていると、食卓で昼飯を食べているダゴ助が話しかけてくる。

「あんま文句言うなよ姫さん。確かに退屈だが、この生活も悪くねえじゃねえか」

そう言うとダゴ助は大きく口を開き、田中が作り置きしてくれていた料理を食べる。

「平和だし飯はうめえし、言うことなしだ。元の世界じゃこんな生活送りたくても送れねえからな」

「確かにそれはそうだが……」

彼らが生きていた世界は過酷であり、常に命の危険と隣り合わせであった。

特にダゴ助は上位存在に仕える奉仕種族であり、機嫌を損ねれば簡単に殺される存在であった。

「ダゴ助は元の世界に未練はないのか?」

「ねえな」

「少しも?」

「ああ。これっぽっちもねえ」

ダゴ助は昔の生活を思い返す。

ひたすら上位存在の顔色を窺い、媚びへつらうだけの日々。

どれだけ働いても搾取され、得られる食事も残飯ばかり。

前の暮らしに比べたら今の生活はまさに天国。ダゴ助は元の世界にまったく未練がなかった。

「姫さんはどうなんだ? やっぱり帰りたいのか?」

「わらわは……」

リリシアは言い淀む。

もちろん帰りたい気持ちはある。リリシアはエルフの姫であり、彼女を慕う民がいる。

自分が突然消えたことで彼らは嘆き悲しんでいるだろう。自分は無事なのだと伝えたい気持ちはある。

しかし田中や星乃たちといった、こっちの世界で芽生えた絆も大事に思っている。

帰りたいのか、帰りたくないのか。

リリシアは自分でもどう思っているのか分からなかった。

そんな彼女の気持ちを察したのか、ダゴ助はそれ以上追及するのをやめる。

「……まあ、帰りたいって気持ちがあるだけでも姫さんは幸せだよ。羨ましいぜ」

ダゴ助はそう言うと用意されていた昼食を食べ終わる。

そして自室に戻ろうとすると……その時、足に力が入らなくなっていることに気がつく。

「あ?」

なんだこれ、と言うより早く体から力が抜け、バタンと食卓の上に倒れる。

意識はある。目も開いているのに体を動かすことができない。突然の異常事態にダゴ助は焦る。

「どうしたダゴ助! なにがあ……くっ……!」

異変を察知したリリシアも立ち上がりダゴ助のもとに行こうとするが、やはり力が入らずその場に座り込んでしまう。

いったいなにが起きている。敵の攻撃か!?

リリシアは必死に考えるが、思考が上手くまとまらない。

なんとか足に力を入れ、倒れることだけは防いでいるとリビングの扉が開き中に何者かが入ってくる。

「……驚いた。覚醒者でも一瞬で昏倒するガスなのですが」

入ってきたのはガスマスクのような物で顔を覆ったスーツの男であった。

そんな見るからに怪しい人物が五名。田中の家にずかずかと入ってくる。

かろうじて意識があるリリシアは、彼の言葉から自分が特殊な『ガス』を吸ってしまったのだと理解する。

「く……解毒……を……」

「無駄です。このガスは魔素の操作を阻害する効果もあります。魔法は使えませんよ」

男はそう言うとリリシアの腕を自身の肩に回し、彼女を担ぎ上げる。

どうやら危害を加えるつもりはないようだ。

誘拐。その二文字がリリシアの脳裏によぎる。

「隊長。魚人の方はどうしましょうか」

「そうですね……ガスが問題なく効いているようなら連れ帰りましょうか。 庭主(ていしゅ) もきっと喜び……ん?」

ダゴ助の方を見た隊長が声を出す。

他の隊員たちもそれにつられてダゴ助の方を見ると、なんとそこには立ち上がったダゴ助の姿があった。

ガスを大量に吸ってしまっているため意識は朦朧としているが、彼の目は謎の男たちをしっかりと捉えていた。

「いきなりガスたぁ女々しい野郎どもだ。どうせ遊ぶなら姫さんじゃなくて俺と遊べよ……俺の方が実験のしがいがあるぜ?」

ふらふらとしながらも、彼から放たれる殺気は鋭い。

その殺気に当てられ、侵入者の内の一人がナイフを手にダゴ助に襲いかかる。

「化け物が……なめるなよ!」

「へっ、んな棒切れで俺様とやりあう気か?」

ダゴ助は素手でその刀身をガシッとつかむ。

彼の強靭な皮膚は刃を物ともせず、傷一つつかなかった。

ダゴ助は逆の手で拳を作ると、その男の頭部を殴りつける。ガスのせいで普段より力が出ないが、それでも男を吹き飛ばすパワーはあり、男は強く地面に打ちつけられ「うう……っ」と痛そうに呻く。

「こ、この化物が……っ」

「なにをしている。つまらない挑発に引っかかって……目標を忘れるな」

隊長が叱責すると、その男は「すみません……」とナイフをしまう。

もうダゴ助の挑発に引っかかる者はいなかった。

「とんだ邪魔は入りましたが、目的は果たしました。良かったですね、あなたは見逃します」

「ふざけ……んな」

ダゴ助は必死に足に力を入れ、ガスマスクの男たちを睨みつける。

少しでも気を抜けば意識を失いそうだ。そうなれば自分も連れてかれてしまうかもしれない、歯を食いしばり、ダゴ助は必死に意識を繋ぎ止める。

「さようなら。田中さんによろしくお伝えください」

「待ちや……が……っ」

その場に膝をつくダゴ助。

もやがかかる頭を振り、再び頭を上げるが……その時すでに、自分以外に人はいなくなっていた。