作品タイトル不明
第6話 奥多摩山林ダンジョン
奥多摩山林ダンジョンは一般的な森林型ダンジョンだ。
草木が生い茂り、昆虫や動物型のモンスターが多く出現し、トラップの類は多くない。
いわゆる『初見殺し』要素はかなり少なく、初心者向けのダンジョンと言えるだろう。
『ブオオォォッ!!』
猪型モンスター、ダンジョンボアが唸りを上げながら突っ込んでくる。
俺はそれを正面から受け止めると「ふん」と持ち上げ、地面に叩きつける。
全身を強く地面に打ちつけたダンジョンボアは『ギュウ!?』と唸ると絶命し素材をいくつかドロップする。
お、美味そうな肉が落ちたな。後で焼いて食うとしよう。
「片づいたぞ。もう来て大丈夫だ」
俺がそう言うと、後ろで待機していた天月がこちらに歩いてくる。
歩くくらいなら大丈夫だが、戦闘となると話は別だ。
ダンジョンボアくらいなら今の天月でも余裕で倒せるだろうが、なるべく体に負荷をかけたくない。俺はできるだけ天月の負担にならないよう、慎重にルートを選びながらダンジョンを進んでいた。
"今日はゆっくりやね"
"かなたそが体調悪いからしゃーない"
"あ、また手繋いだ"
"田中ァもエスコートとかできたんだな"
"うぎぎぎうらやましい……わいも田中と手繋ぎたい"
"そっちなんだ"
"もうこれデートだろ"
"それはそう"
「私は平気だから……もう少し急いでも大丈夫よ」
「そうはいかないだろ。もっと自分を大切にしろ」
「…………ええ。分かったわ」
歯切れの悪い返事をする天月。
本当に分かっているんだろうか?
"照れてるかなたそ可愛すぎる"
"田中ァ気づいてなさそうで草"
"そりゃあんなセリフを真剣な表情で言われたらわいも照れる"
"そういやこいつ鈍感だったな"
"画面を見てる俺の顔ニヤニヤでキモかった"
"わいもニチャってたわw"
俺は天月の体調を最大限気遣いながら進んでいく。
時折ゴブリンなどの低級モンスターが襲いかかってくるが、それらを剣を振って撃退する。急ぐのも危険だがゆっくり過ぎてもいけない。
今日中には温泉に入って帰りたいからだ。しかし、
「……結構かかりそうだな」
ようやく上層を抜け中層にたどり着いたが、想定よりも結構時間がかかってしまった。
このままだと着くまでに日が暮れてしまいそうだ。天月の体力がいつまで持つか分からないし、このペースで進むのはまずい。
どうしたらいいか考え……俺は一つの結論にたどり着く。
「天月、ちょっと失礼するぞ」
「え。どうしたの誠……って、きゃあ!?」
俺は天月の側に近寄ると、彼女を おんぶ(・・・) する。
よし、これならすぐ移動できるし天月の負担も少ない。一石二鳥だな。
「な、なにしてるの誠!?」
「こうすれば早く着くだろ? 天月に負担がかからないよう移動するから安心してくれ」
「そういう問題じゃなくて恥ずかし……きゃ!」
俺は足に力を込めると、一気に駆け出す。
そうしながらも魔素で天月の体を 保護(コーティング) し、負担がかからないようにするのを忘れない。
これはいい。我ながらいい考えだな。
"草"
"はやすんぎ"
"ドローンくん頑張れ!"
"かなたそ大丈夫?"
"嬉しそうにシャチケンに抱きついてるし大丈夫でしょ"
"かなたそたくましいなあw"
"画面ぐわんぐわんで酔う"
"酔い止め飲んどけ、常識だろ"
速度を上げることに成功した俺は、中層を一気に駆け抜ける。
何度かモンスターが襲いかかって来ようとしていたのが見えたけど、今の俺には追いつけずあっという間に見えなくなった。
こうして俺はものの数分で中層を抜け、下層にたどり着いた。
すると突然『ギュアアア!!』と耳をつんざく鳴き声が聞こえてくる。
"うおっ"
"びっくりした"
"なに!?"
"え、ドラゴンじゃね?"
"いやあれはワイバーンだ!"
"ワイバーン「おいすー^ ^」"
鋭利な牙を生やした飛竜、ワイバーンが俺たちに襲いかかってくる。
ワイバーンはここらに出てくるモンスターの中では最上位に位置するモンスターだ。突然 下層(なわばり) に入ってきた俺たちを侵入者と判断したんだろう。
"まあでもワイバーンくらい楽勝でしょ"
"でも今かなたそをおんぶしてるからキツくね?"
"たしかに"
"剣使えないじゃん"
"逃げれるか?"
"どうすんだろ"
『ギュオオッ!!』
ワイバーンは急降下して俺に接近すると、大きく口を開いて噛み付いてくる。
無視しようかとも思ったけど、そうはいかないようだ。まったく……手間をかけさせる。
「邪魔だ!」
俺は勢いよく膝を上げて、ワイバーンの顎を蹴り上げる。
するとワイバーンの口がガチン! と閉じてその勢いで牙が何本か砕ける。そして今度は逆の足でもう一発蹴り飛ばす。
「ほっ」
『ギュオオオッ!?』
物凄い勢いで吹っ飛んでいくワイバーン。
そして数秒置いて遠くから大きな衝突音がする。どうやらどこかに激突したみたいだ。あの勢いで激突したなら倒せただろう。
「さ、行くか」
「ええ……相変わらずあなたはとんでもないわね……」
呆れたような目を向けてくる天月。
俺はそんな彼女を背負ったまま、ダンジョンを更に深く進むのだった。