作品タイトル不明
番外編◇難攻不落の休暇へようこそ2
「可愛い~~」
メイド喫茶で【恋情の悪魔】シトリーが悶えている。
「可憐でございますね」
同意しているのは、黒髪清楚な副官魔物【泡沫の悪魔】オゼだ。
そして場違いにも一緒にいるのが僕である。
「ふふふ、シトリーお嬢様のおかげでーす」
シトリーさんとオゼさんに褒められたメイドさんが嬉しそうに一礼。
どうやら、この店の制服は全てシトリーさんお手製とのこと。
魔王城の【夢魔】たちが着ているのとはまた違ったデザインで、たしかに可愛らしい。
店内は盛況で、男女問わず色んなお客さんがいた。
「素敵なお店ですけど……どうして僕を誘ってくれたんですか?」
「この店の子たちはね、自分の【 役職(ジョブ) 】が好きじゃない子ばかりなの。でもメイドは好きなんだって」
メイドさんたちはみな、楽しげにお仕事をしている。
やりたいことと、自分の適性が合わないことはある。
だからって、やりたいことを諦める必要はないのだ。
「なるほど……。教えてくれて、ありがとうございます」
胸が温かくなってくる僕。
と、そこへ注文していたオムライスが運ばれてきた。
「それでは最後に、美味しくなる魔法をかけようと思います。ご主人様もお嬢様もご一緒に~」
「え?」
「レメくん、言わなきゃダメだよ。これは魔法だからね」
「え? え?」
シトリーさんとオゼさんとメイドさんに見つめられた僕は、言葉にするのも照れくさい呪文をみんなと一緒に唱えることになるのだった。
よい店だけど……次に来る時があれば呪文の必要のないメニューを頼もうと深く心に誓う僕だった。
◇
フルカスさんは大食いだ。彼女の胃袋は底なしと言ってもいい。
そんなわけで、近場の料理店のほとんどはフルカスさんに対して食べ放題メニューや完食出来たら無料系のメニューを提供しないようにしている。
なんなら出入り禁止にされている店もある。
だが世の中探せば奇特な人もいるもので、フルカスさんを返り討ちにすべく挑戦を重ねる料理店もあった。
「来たね、フルちゃん」
店主は褐色肌の女性で、そこはカレーを扱う店だった。
「ん、今回も勝つ」
「ふっふっふ、今日のうちのカレーはひと味違うよ? 五辛や十辛なんてちゃちなもんじゃない。激辛を越えた激辛、カレーを超越したナニカ、名付けて億辛」
通常の辛さを一辛とした場合、辛いものが好きな人は辛さを足していくことが出来る。
今回、店主は新兵器億辛でフルカスさんを撃退するつもりのようだ。
「受けて立つ」
やがて、マグマのように煮えたぎった真っ赤なルーと、小さな子供くらいはある巨大ナンがテーブルに置かれる。
「本当に食べるのかい? ま、知り合いの【白魔導士】を呼んでおいたから、ギブアップの時は言うんだよ」
フルカスさんは皿を両手で掴むと、口を大きく開けて億辛のルーを流し込んだ。
「なっ……! 無茶だフルちゃん! 食道と胃が発火するぞ!」
店主が叫ぶ。
どんな辛さですか……。
しかしそこまで言われると、さすがにフルカスさんが心配になってくる。
だが、フルカスさんはゆっくりと皿を卓上に置くと、いつもと変わらぬ無表情で店主を見た。
「おかわり」
「………………負けたよ、フルちゃん」
店主は諦めたように微笑むと、ルーのおかわりを用意してくれた。
こうして、フルカスさんの無敗伝説にまた勝利が積み上げられていくのだった……。
ちなみに僕は一辛を美味しく頂いた。
◇
水棲魔物のみなさんとの海水浴には、第六層以外のメンバーも多数参加した。
【怪盗鴉】ラウムさんが使用する、魔法陣を用いた『空間移動』によって、ウェパルさんのご実家が保有するプライベートビーチにお邪魔したのだ。
【人狼の首領】マルコシアスさんを筆頭とした【人狼】のみなさんとの『漢合宿』とは、ひたすら走ったり無限に組み手をしたりと、とても過酷で充実したものだった。
【闇疵の狩人】レラージェさんと共に彼女の故郷の村を訪れたまではよかったが、最近密猟者に悩まされているという話を聞き、【死霊統べし勇将】キマリスさんと共に、これを撃退。
全員ひっ捕らえて騎士団に引き渡した。
無事解決したので村で歓待を受け、後日キマリスさんと村近郊の遺跡探訪に向かうと、古代の侵入者用の罠が発動し、二人して落下してしまう。
その先でリアルな死霊に襲われ、こちらもなんとか撃退することに成功。
二人でなんとか脱出したあと、「参謀殿といると飽きませんな」とキマリスさんに言われたが、別に僕がいる所為で変なことが起こっているわけではないと思う。
多分。
しかしレラージェさんやキマリスさんとの絆は深まった気がする。人は困難を共に乗り越えると仲良くなれるものだ。
「なんてことがあってさ」
数日後。僕はフェニクスパーティーの面々と食事を摂っていた。
広めの個室で、丸テーブルを六人で囲む。
「……なんで勇者パーティーより大冒険してやがるんだよ、お前は」
アルバが呆れたような、ドン引きしたような声で言う。
「……それよりも聞き捨てならないのですが、黒エルフの集落に赴いたのですか? 私の故郷にもまだ招いていないというのに」
「え、リリー引っかかるの、そこなわけ……?」
「あの、レメさん。あとで詳しく聞かせて頂いてもよろしいでしょうか? とても興味深いです……」
リリー、ラーク、ベーラさんも反応する。
フェニクスの方を見ると、ニコニコしている。
僕がかつての仲間たちと普通に話せるようになったのが嬉しいのだろう。
ファンから見たら慈愛溢れる微笑にでも見えるのだろうが、僕からすればお節介だった。
「ニヤニヤするな」
「ごめんごめん。ただ、少し寂しいね」
「はぁ? 何がだよ」
笑ったかと思えば切なげな表情を浮かべるフェニクス。忙しい奴だな。
「君が大冒険している時、隣にいられないことがさ」
「……今度密猟者を相手にして地下遺跡に落ちる予定がある時は、お前に連絡するよ」
「ははは、お願いするよ」
そこまで話して、ハッとする。
フェニクスとばかりこんなふうに話しているから、以前はみんなに顰蹙を買っていたのだった。
ちらりとみんなを見回すと、誰も不機嫌そうではない。
「なんだよその目。別に構わねぇよ、もう慣れたわ」
アルバは面倒くさそうに肩を竦める。
「レメの実力がわかった今、昔みたいに下らない嫉妬をすることもないしね。むしろ、納得かな」
ラークは髪の毛を指で弄びながら言う。
「貴方のフェニクスに対する言動も、幼馴染ゆえの複雑な感情からくるものと理解しました。ですが、我々にも少しは心を許してくれてもよいのではないですか?」
リリーは少し不満そうだ。
「そうだレメさん、今後我がパーティーの動画に出演して頂けませんか? リーダーと昔話をしてくれるだけでいいので。再生数に応じて報酬もお出ししますから」
ベーラさんの瞳がきらりと輝いている。
なにかしらの商機を見出しているらしい。
確かにダンジョン攻略以外の動画を上げるパーティーも珍しくない。その多くはサブチャンネルを開設し、様々な動画を上げている。
「いやいやいや……」
「いいじゃねぇか。なんなら今からカメラ回すか?」
「配信にして、視聴者からのコメントも拾うようにしようよ」
「大変興味深いですね。この店の迷惑にならないよう、他所で行いましょう」
「収録できる場所については調べがついています」
何故かノリノリのフェニクスパーティー。
「え、ちょっと待って、そんな需要は……」
ある、かも。
先日のレメ特番の影響で、フェニクスと僕の関係性を推してくれるファンというのが急増したらしいのだ。
さすが現代を生きるトップ冒険者たち。再生数に貪欲だ。その点は大変好ましいのだけど。
「ではレメ、打ち合わせをしておこう。事前に言ってはいけないことなどを決めておかねばね」
「僕は何も話してほしくないんだけど……」
あれやこれやと配信が決まり、急遽始まったにも関わらず、同時接続者数は見たこともない数字になるのだった……。
◇
クイズ大会はチーム戦だったのだが、カイムさんの大活躍で優勝出来た。
【湖の勇者】レイスパーティーは、まだ正式な五人目が決まっておらず、その日の食事でも誘われたが、丁重にお断りした。
今はダンジョンごとに臨時メンバーを入れて、攻略を進めているようだ。
正式な五人目が早く決まるといいなと祈っている。
【漆黒の勇者】エクスさんとの釣りでは、穏やかな時間を過ごすことが出来た。
最近はパーティー仲も良好らしい。【先見の魔法使い】マーリンさんは修行から帰ってきて、以前よりも強くなっているのだとか。
互いの近況を話し合い、その後僕が 勇者(ヒーロー) ショーを観に行くというと、エクスさんも一緒に行くことになった。
「なるほど、こういうのも中々……」
エクスさんがなにやら感心していたが、確かにエクスパーティーの面々が出演したらド派手なことになりそうだ。
今回出演していたニコラさんとエリーさんの二人はどんどん人気が出ているようで、二人で 映像板(テレビ) 番組に呼ばれることもあるそうだ。
冒険者は人気商売なので、露出の機会が増えるのはありがたい。二人も嫌がっていないようだし、祝福した。
その後もキツキツのスケジュールをなんとかこなし、ついにミラさんとの旅行の日。
僕が忙しい所為かミラさんが「プランは全てお任せください!」と言ってくれた。
当日、アガレスさんに頼んで『空間転移』で現地に送ってもらう。
旅行は旅路も大事だと思うが、僕が忙しすぎてその時間がとれなかったので、仕方がない。
アガレスさんは「参謀殿の為でなければ、とても引き受けられぬ距離だぞ……」とミラさんを睨んでいたが、なんとか飛ばしてくれた。
飛距離が長くなるほどに消費魔力が上がるので、相当に大変だったと思う。
お土産を買って帰ろう……。
ついたのは、山の上の温泉施設だった。
なにやら珍しい見た目の建築物だが、どうやら極東の建築様式だという。
「魔王様に教えて頂いたんです。レメさんのお師匠様も利用されたことがあるそうですよ」
「え!? 師匠も……?」
師匠も旅行くらいするか……いや、温泉が目当てだったのかも。
とにかく、俄然興味が湧いてきた。
旅館に入ると、和装の従業員の方々が驚くほど丁寧に部屋まで案内してくれる。
部屋では、ミラさんと共にユカタなる衣装に着替えた。
「どうでしょうか?」
「すごく似合ってるね」
これくらいは、さすがにサラッと言えるようになった。嘘だ。今でも内心ではドキドキしている。噛まなくなっただけ成長したと思ってほしい。
「レメさんもとてもお似合いです」
「ありがとう」
「ここの温泉は疲労回復に効き、お肌にもよく、更には魔力回復効果もあるようですよ」
「それはすごいね。早速入ってみようか」
「是非! ではこちらへ」
「え?」
ミラさんは何故か廊下側ではなく、窓側へと向かった。
そういえばそちらには扉がある。
ついていくと……客室に露天風呂が備え付けられていた。
「一緒に入りましょう?」
「えっと……」
「ダメ……ですか?」
「ダメじゃないです……」
僕は温泉の温かさ以外の理由で顔を真っ赤にしながら入浴を済ませ、部屋まで運ばれてきた料理に舌鼓を打ち、夜はミラさんに血を提供し、そのあとは……。
というわけで、一緒に眠りについた。
◇
夜、目が覚めると、ミラさんが真横で寝ていた。
彼女を起こさないようにそっと布団から出て、水差しからコップに水を注ぎ、少し飲む。
それから先ほども入った露天風呂へと入り直した。
「ふぁ~」
ミラさんと一緒に入っている時は、温泉どころではなかったが、改めて入るととても気持ちがいい。
『今夜もお楽しみだったね』
妖精形態のダークが現れ、お風呂にぷかぷかと浮いている。
精霊も入浴できるのだろうか。
「……気を利かせて、姿を消してくれて助かるよ」
『そりゃね。推しの子供が生まれる未来は邪魔出来ないさ』
「こ、子供って……」
まだそんな段階ではない。
『あはは、顔を赤くして可愛いなぁ』
「まったく……。君はいつも楽しそうだね」
『あぁ、君を見ているのは楽しいよ』
「それはよかった。……ねぇ、ダーク」
『なんだい?』
「僕は、魔物としての一位を目指す。これからも色んな戦いや挑戦があるだろう。けれど、永遠に現役ではいられない」
『そうだね。特に 人間(ノーマル) は、老いには勝てない』
「そうなったら、君にとって僕を見ているのは退屈になるんじゃないかい?」
と言うと、ダークはガバッとお風呂から飛び出して、僕に顔を近づけてきた。口元しか見えないが、ニヤニヤしている。
『おや~~~~~? いつかダークたんが離れてしまうかと思うと、寂しいってことかい?』
「……聞いてみただけだよ」
『可愛いなぁ。大丈夫だよ相棒。君の一生を目に収め、世界の終わりまで持っていくことを誓うとも。そして君の子や孫に語り継いであげるとも』
「それは是非やめてね」
『あっはっは~』
ダークが僕の肩に座って陽気に笑う。
『……精霊は、惚れたら一途なんだよ』
「あー……そう。それなら、その……今後もよろしく」
『くく、デレたな』
急に真面目になったりふざけたり、精霊というのはみんなこうなのだろうか。
素直じゃないだけかもしれないが。
「――レメさん? どうされたんですか?」
「み、ミラさん……?」
「起きたらいないので、不安になってしまいました」
「ごめん、目が覚めちゃって。寝汗を流そうかなって」
「そうなんですね。てっきり私を部屋に残してダークとイチャイチャしているかと思っていました」
『女の勘って鋭いね、あはは』
あははじゃないよ。僕はこういう時のミラさんの笑顔が怖くて仕方がないのだ。
『じゃあ、また二人きりにしてあげるね。ばいばーい』
ダークが消えた。逃げたのだ。
「……み、ミラさんも一緒に入らない?」
「あら、レメさんの方から混浴に誘ってくださるなんて。今日は記念日ですね」
ミラさんは一転して笑顔になると、ユカタを脱ぎ始めた。
僕は慌てて目を覆う。見る機会は何度もあったが、今でも緊張してしまう。
そんな僕の様子を見て、ミラさんは慈しむように笑う。
とにかく、二週間の休暇を、僕は楽しみつくした。