軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編◇突撃! 難攻不落の晩ごはん!

「レメさん! お願いします!」

ある日のことだ。

カシュの姉であるマカさんが頼み事があるというので、家を訪ねたら開口一番そう言われた。

「えぇと……お願いっていうのは何かな?」

マカさんは十二歳で【料理人】持ち。街の料理店で働きながら家の食事も担当するという、頑張り屋さんだ。

カシュよりも髪が長く、みんなのお姉さんでありながら茶目っ気もある。

「あたし、料理人見習いとして働いてるんですけど、そこで師匠に『見識が狭い』って言われてしまって」

「厳しいね」

「一応、店のメニューは一通り作れるようになったんですけど、それだけじゃダメみたいで。でも、自分的にはこれ以上どうしようもない感じもして……」

「なるほど……」

「それで、あたし思ったんです! 魔王城なら、たくさんの魔物さんがいますよね? そういう人たちが普段どういうご飯食べてるか知れたら、『見識』が広がるんじゃないかって!」

そこでようやく、マカさんのお願いというのが見えてきた。

「魔王城のみんなの食事について知りたい、ということかな?」

「はいっ! お願い出来ませんかぁ?」

マカさんには僕も毎朝の食事でお世話になっているし、【 役職(ジョブ) 】が判明して働いているとはいえ、彼女はまだ子供だ。

子供が己の成長の為に自分を頼ってくれたのなら、協力するのが大人となった者の務めだろう。

僕だってそのようにして、まったくの他人である師匠に鍛えてもらったのだから。

……いや、師匠は大人の義務とか、そんなこと考えるような人ではなかったけれども。

「全種族とはいかないかもしれないけれど、みんなに聞いてみるよ」

僕の返答にマカさんの顔が輝く。

「やったぁ! レメさん大好きです!」

マカさんが僕の腰に抱きついてくる。

同じく家にいて話の成り行きを見守っていたカシュが、愕然とした表情になる。

「ずるーい、ミアもー」

末妹のミアちゃんも足元にくっついた。

「あー! レメ! はなれろ!」

長男のナツくんがそんな様子を見て怒っている。

「あらあら、うちの子たちはみんなレメさんのことが大好きね」

「おれは違うし!」

みんなのお母さんであるヘーゼルさんが微笑み、ナツくんが叫ぶ。

「……えぇと、カシュ。よかったら、みんなを説得するの、手伝ってくれるかな?」

「――! は、はいっ! おてつだいします! 秘書、ですので!」

「よろしくお願いしまーす」

「お邪魔しまーす!」

「はい、いらっしゃい」

にこやかにマカさんとカシュを家に受け入れたのは、ミラさんだ。

魔物としての顔は【吸血鬼の女王】カーミラ。

招いているのが僕の寮室なのは、最早突っ込むまい。

「吸血鬼の食事……でしたか?」

「はい! 是非教えてください!」

「ちなみに、マカさんやカシュさんの一族特有の料理というのは、あるのですか?」

「ありますよー! 基本的には肉の塊に味つけて焼くんですけど、焼き方とかソースとかに家庭ごとのこだわりが反映されて面白いんです。すごく煙が出るので、今の家では作ったことないですけど……」

マカさんが後半を苦笑しながら言う。

「面白そうですね。ちなみに、何故そのような料理が?」

「うーん。亜人って基本、世代を遡るにつれ、人間以外の生き物の要素が強くなるじゃないですか。あたしたちだと、より狼っぽいというか」

「そのようですね。吸血鬼ですと、血が濃いほど若々しく寿命が長く再生能力も高かったりしますよ」

ミラさんのお母さんや、真祖と呼ばれるかつての四天王【真の吸血鬼】ビフロンスさんなどは、確かにその傾向があるようだ。

「ふむふむ……。あ、それで続きですけど、ご先祖はかつて森で狩りをして暮らしていたみたいなんですね。そしてそこで狩ったお肉を焼いてたみたいなんですけど、どんどん味をつけたり香りをつけたりと他の家庭や部族との差をつけようという方向で発展した……と聞いてます」

「他種族との貿易などによって、香辛料や野菜が入ってきたのかもしれませんね」

それまで肉だけで食べていたのに変化があったなら、他者の存在があったのかもしれない。

「そうかもですねー」

「吸血鬼が好む料理というのは幾つかありますが、レバー、レモン、卵、チーズなどが使われている料理は好ましく感じますね」

「へぇー! それはなんでですか?」

「かつて、吸血鬼は他者から血を吸わねば生きていけぬ種族だったと言われています。他者の血を己の血とすることは出来ても、己自身で血を生み出すということが出来ない体質だったのだと」

なるほど。だから他の人から血を吸う必要があった、というわけか。

「世代を経てその体質は段階的に改善されたようですが、他者の血を吸わない限りは『常に貧血』のようなものですので、本能的に血を生み出すのに適した食材を求めるようになったのでしょう」

吸血鬼にとっては死活問題なので、吸血欲は食欲ほどに強く、相手に拒絶されぬよう行為には快楽が伴うようになっているのかもしれない。

「なるほど、なるほどー」

「逆に、充分に血が吸えている時は、それら以外の食材を摂りたくなりますね」

血の生成が不要となれば、他の栄養素がほしくなるわけか。

「あ、それは確かにですね。『ヤマトの民にはコメを出しておけば間違いない』みたいな言葉がありますけど、実際はヤマトの民だってパンを食べたい時はあるでしょうし、種族や人種で一括りにするのではなく、種族の背景を汲んだ上で個人の状態や嗜好を読んでこそ、真の料理人と言えるのかもしれません」

マカさんがいつになく真剣な顔でぶつぶつと言っている。

ちなみにヤマトの民というのは世界ランク第一位パーティー【サムライ】マサムネさんなどだ。

更にちなみに、師匠もお米は好きだ。

修行時代、どこからともなくお米を調達してきて、おにぎりを作ってくれたことがある。

僕も手伝おうとしたのだが、ぬちゃぬちゃの何かを生成してしまい、師匠に「食材への冒涜だ」と台所を蹴り出されてしまった。

今なら作れるだろうか。今度挑戦してみてもいいかもしれない。

「レメさん、お米料理を食べたいのでしたら、私が作りますね?」

ミラさんがニッコリと微笑む。

どうして分かったのだろう。そしてやはり僕は台所に入ってはいけないらしい。

「……! そうだ。ここはレメさんとミラさんが住んでる場所。なら考えるべきは二人が美味しく食べられるもの……うん、うん。あの! ミラさん!」

「はい、なんでしょう?」

「今日のお話、すごく勉強になりました! それで、晩ごはんはあたしに任せてもらえませんか! お礼がしたいんです!」

「あら、ではお任せしてもいいですか?」

「はい! よしカシュ、買い出し行くよ!」

「え、あ、お姉ちゃん……!?」

マカさんがカシュを連れて寮室を飛び出していく。

「ふふ、元気な子ですね」

「今日は本当にありがとうね」

「いいのですよ。レメさんとカシュさんのお願いですもの」

「僕の方からもお礼をするからさ」

「あら、楽しみですね。でもこれくらいなら……一吸いさせて頂ければ充分ですよ」

ミラさんが牙を覗かせて悪戯っぽく笑う。

「あー……二人が帰ったあとでよければ」

「では、レメさんは食後のデザートですね」

ミラさんが楽しそうに笑う。

その日の夕食は、レバニラ炒めに炊いたお米、更に卵が使われたスープであった。

ミラさんだけでなく、先ほど僕がお米を懐かしんで食べたくなった気持ちまで汲んでくれた献立に、僕らは揃って大満足するのだった。

「少しは何かの役に立ったかい?」

マカさんとカシュをお家まで送り届ける最中、僕は訊いてみた。

「はい! すごく勉強になりました! 料理のことだけ勉強しても、最高の料理は作れないんですね! 食べる人のことを知ることで、その人がその瞬間最も美味しく食べられるもの、食べられる味を作り出すことが出来るのかもしれません!」

マカさんの目が輝いている。

色々なアプローチがあるだろうが、マカさんやそのようにして料理の上達を目指すようだ。

「そっか。お役に立てたようならよかった」

「美味しかったよ、お姉ちゃん」

「えへへー。あ、そうだレメさん。図々しいかもしれないんですけど……その、またお願いしてもいいですか?」

「あぁ、他の種族の人にも話を聞けないかってことだよね。大丈夫だよ、そのつもりで何人かに声を掛けてあるから」

「やったー! やっぱりレメさん大好きです!」

マカさんは抱きつこうとして、寸前で止まった。

「――っと。今日はやめておきますね。ミラさんに申し訳ないので」

十二歳でも女性の勘というのは働くのだろうか。

僕たちの後ろをミラさんが使役する吸血蝙蝠がついてきていた。

「あはは……」

「あたし、最近料理が楽しいんです。それもこれも、レメさんのおかげです。カシュにしっかりした職場を用意してくれて、家計が助かっただけじゃなくて、家も明るくなったんです。元々料理は好きだったけど、義務感でやると辛いですから。楽しい気持ちを思い出す余裕が出来たのは、カシュとレメさんが出会ってくれたからなんですよ」

マカさんの言葉に、カシュもこくこくと頷いている。

「僕も、カシュやみんなにはたくさんの元気を貰っているよ」

僕らが出逢ったのは偶然だが、その偶然をきっかけに、互いに人生に少しでも良い影響を及ぼすことが出来たのなら、それに勝ることはあるまい。

「あたし、いつか料理店を作ります! 全種族対応料理店です!」

「それはすごい夢だね」

「レメさんも、来てくださいね?」

「常連になるよ」

そんなふうに、僕らは未来について思いを馳せながら帰路につくのだった。