軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編◇難攻不落の休暇へようこそ

突然、二週間休みとなった。

とはいえ、珍しいことではないらしい。

ダンジョンを支えるコアは日々大気中の魔力を掻き集め、それらは職員の 魔力体(アバター) やダンジョン内の空間構築に利用される。

だがそのコアが、年に一回、二週間ほど機能を停止するのだ。

コアの休眠期と呼ばれるそれは、ダンジョンごとに時期こそまちまちだが、必ず起こる。

タイミングを読めるものではないので、急な休暇となるのだ。

「二週間も休みかぁ」

寮のリビング、端末の前の椅子に腰掛けながら、僕は呟く。

「鍛錬は継続するとして、あとは……」

「レメさん! 旅行に行きませんか!?」

振り返ると、ミラさんが水着を着ていた。大きな麦わら帽子を被り、脇には浮き輪を抱えている。大変綺麗なのだが、リビングの景色とマッチしているとは言えない。

「旅行……」

「はい。私とレメさんは恋人同士。恋人同士が休暇で旅行に行くのは、とても自然なこととは思いませんか?」

そうか。そうなのか。そうかもしれない。恋人なんてミラさんが初めてだから、思い至らなかった。普段はお互いに魔王城勤務で忙しいし、こんな時くらい一緒に出かけてもいいかもしれない。

「そっか。それじゃあ、どこに行こうか」

「速やかにここを出ましょう。適当に十四泊十五日過ごせればどこでも構いません」

ミラさんが何やら急いでいる。

適当に十四泊出来るかは分からないが、旅に出ると思えばいい。旅ならば慣れている。

「そ、そうかい? じゃあ、ちょっと待ってね。出かける前にメールを確認し――」

「いけませんレメさん……!」

しかし僕はメーラーを立ち上げてしまった。

受信箱には大量のメールが届いている。

ミラさんががっくりと肩を落とした。

「うっうっ……。レメさんが二週間も休みとなれば、誰もが誘いをかけるに決まっているではないですかぁ」

拗ねたような目で見つめられて、僕は困ってしまった。

確かに、メールは知り合いたちからの誘いばかりだ。

どうやらミラさんは、僕がこれらを確認する前に家を発ったという筋書きにしたかったようだ。

「ご、ごめん。でも、みんなも予定があると伝えれば、分かってくれるよ」

「それはダメです。あくまでレメさんが気づかぬ内に出かけることが重要だったのです。気づいた以上、レメさんには好きに過ごしてほしいのです」

なにやら複雑な心情があった様子。

「わ、分かった。でも、ミラさんとの旅行も楽しみだから、十四泊とはいかないけれど、どこかに行かない……かい?」

僕の提案に、ミラさんはパァッと瞳を輝かせたのだった。

「で、ではっ、レメさんの一日を頂いてもいいですか?」

「……こちらこそ、ミラさんの休日を一日もらってもいいですか?」

「ひゃ、ひゃい。全部差し上げます……」

『最愛の精霊ダークたんの予定も、全部差し上げるよ』

きみは年中無休で側にいるじゃないか。

たくさんのメールと格闘し、なんとかみんなとの予定を組んだ僕。

まずは、第一層・番犬の領域の皆さんと訪れた、亜獣パークだ。

広い敷地に豊かな自然が特徴的で、多くの亜獣がパートナーと共に訪れている。

「参謀殿、今日は感謝しますぞ! みなも参謀殿と来られて嬉しそうです!」

亜人形態の【地獄の番犬】ナベリウスが言う。

三つの頭を持つ犬の亜人姿で、彼は陽気な柄のシャツを羽織っていた。全ての頭にサングラスが装着されている。

「いえいえ、うちのアムドゥシアスにも声を掛けてくれたみたいで、ありがとうございます」

「なんのなんの。広いだけならばダンジョンで充分ですが、たまには本物の陽の光を浴びたくなるものですからな」

この場には【一角詩人】アムドゥシアスと、彼女が使役するアルラウネたちも同行している。

「みんな、あんまり遠くに行ってはなりませんよ。迷子になってしまいますからね~」

「とつげきだ~」「みわたすかぎりの、だいしぜん……!」「こうごうせい!」

アルラウネたちも楽しそうに見えるし、来てよかった。

と思っていると、無数の【黒妖犬】たちが寄ってきた。

「みな、参謀殿と遊びたいようです」

「はは、僕でよければ喜んで」

しばしみんなと遊ぶ。ただただ走るだけでも、みんなが楽しそうについてきてくれるので、こちらも楽しかった。

ちなみに【不可視の殺戮者】グラシャラボラスさんも来ており、アルラウネたちと一緒に背中に乗せて飛んでもらったりした。

その最中に見たのだが、ナベリウスさんが犬の亜人の女性に声を掛けられていた。二人は会話に花を咲かせ、どうやら連絡先を交換したようだ。

俗に言う逆ナンというやつだろうか。

亜獣たちの憩いの場というだけでなく、そのパートナーたちが親しくなることもあるらしい。

後日、ナベリウスさんはその女性とお食事をしたらしいが、それはまた別の話。

「参謀殿、本日はありがとうございます」

「いえいえ、立派な活動だと思いますし、僕に協力出来るなら」

第九層フロアボス【時の悪魔】アガレスさんと訪れたのは、魔王城のある街に存在する、とある養護院だった。

養護院とは様々な事情によって、親御さんの元で暮らすことが出来なくなった子どもたちを受け入れ、養育する施設だ。

国から支援もあるが完璧とは言い難く、多くの人々の善意の寄付によって成り立っているのが現状。

以前アガレスさんからその話を聞いた際、僕も出来る範囲で寄付することにしたのだが、今日はその施設に一緒に行くことになった。

施設は、広く大きいが古く、ところどころに補修のあとも目立つ。

「こういった施設が小綺麗だと要らぬ不評を買うので、修繕で対応しているようです」

人々の支援で暮らしているのに、立派な屋敷に住むなどけしからん、ということだろうか。

子供たちが伸び伸びと生活するのに必要な施設が建つのならば、それは歓迎すべきことだと思うが、世の中色々あるらしい。

「これはこれはアガレス様」

敷地内に入ると、一人の女性が迎えてくれた。

「院長。こちらがレメ殿です」

「まあ! 貴殿のご支援には感謝しております」

深々と頭を下げられる。

「いえいえ……」

初めて来た僕がいるからか、院長自ら施設の案内をしてくれた。

「こちらの窓は割れていたのですが、レメ様のご寄付で直すことが出来たのですよ」

なんて言われると、役立っているようでよかったと感じられた。

「魔王城の皆さんには頭が上がりません。フルカス様からは食料を、シトリー様からは子供たちの服を、カーミラ様からは吸血鬼の子供の為に血液など、多くの職員の方々からご支援頂いてますから。マルコシアス様と人狼の皆様は、よく子供たちと遊んでくださるんですよ」

なるほど、そうだったのか。

「子供たちは今、庭で遊んでいます。よかったら、逢ってあげてください」

そう言われ、アガレスさんと共に庭に出ると、子供たちが駆け寄ってきた。

「アガレスさんだーー!」「わーい」「捕まえろー!」

男児女児入り乱れてアガレスさんに殺到するが、彼ら彼女らが触れる寸前、アガレスさんの姿が消えた。彼の固有魔法『空間移動』だ。

彼は子供たちの背後に出現し、フッと笑う。

「触れるのは主義に反するからな」

「あはは、意味分かんねー」「アガレスおじさんを捕まえろー」「だっこしてー」

子供たちとアガレスさんの鬼ごっこを眺めていると、くいっと袖を引かれた。

見ると、太めの木の棒を二本持った少年だった。

「剣、教えて」

「僕も剣は専門ではないんだけど、それでもいいかい?」

頷く少年から木の棒を受け取って、しばしチャンバラに興じる。

すると徐々に男の子たちが集まってきて、「次は俺!」「僕も!」と予約が殺到する。

希望者全員の相手を終える頃には、夕食時になっていた。

お誘いを受けて夕食もご馳走になり、アガレスさんと共に養護院をあとにする。

「改めて、本日はありがとうございました」

アガレスさんが頭を下げる。

「いえいえ、僕も楽しかったですよ」

「あの子たちの中には、魔王城勤務を希望している者もおります。いずれは参謀や私の部下となるやもしれませんね」

「それはいいですね。フロアボスの座を奪われないよう、今後も鍛錬に励みます」

「はは、私も鍛え直さねばなりませんな」

たった一日の出来事だが、以前よりもアガレスさんと親しくなれた気がした。

「えぇと、明日は昼にシトリーさんと開店したばかりのメイド喫茶に行って、そのあとでフルカスさんとまだ出禁になってない食べ放題の店に行って、夕方はブリッツさんと酒場か」

その次の日はウェパルさん含む水棲魔物の皆さんと海水浴に行って、夕方から翌日の夕方までマルコシアスさん含む人狼の皆さんとの『漢合宿』に参加。

第二層副官魔物【闇疵の狩人】レラージェさんから「参謀殿は白エルフと親しいようですが、我ら黒エルフのことも知って頂きたく」ということで、黒エルフの集落にも招かれた。

これには第二層フロアボス【死霊統べし勇将】キマリスさんも同行し、集落の近場にある遺跡探訪をご一緒することに。

第七層フロアボス【雄弁なる鶫公】カイムさんと共にクイズ大会に出場したあとは、たまたま開催地のダンジョン攻略に来ているという【湖の勇者】パーティーと久々に食事を共にする予定だ。

更には【漆黒の勇者】エクスさんに何故か釣りに誘われたり、フェニクスパーティーの集まりに顔を出すことになったり、【銀嶺の勇者】ニコラさんと【絶世の勇者】エリーさんが共演する 勇者(ヒーロー) ショーを観に行くことにしたり。

【六本角の魔王】アスモデウスさんから転職の誘いを受けたり、久々にトールさんが運営する『全レベル対応ダンジョン』に顔を出してみたりと、予定がてんこもりだった。

ちなみにカシュ一家はこれを機に家族で旅行に行くらしい。

旅行から帰ってきたら逢う約束をしていた。

「レメさん、大丈夫ですか? ご無理はなさらないでくださいね?」

その日の夕食の時間、ミラさんが心配そうに言う。

「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫」

「本当ですか?」

強がりに見えてしまっただろうか。

「……うぅん。その、少し長くなるけど聞いてくれるかな」

「もちろんです」

「昔、つまりフェニクスパーティー時代も、休暇はあったんだ。でも、僕はたまにフェニクスとご飯を食べるくらいで、他にはやることがなくてさ」

人気者のフェニクスを僕がずっと拘束するのも申し訳なくて、あいつには一人でやりたいことがあると言って別行動をするのだが、実際はやることもないので一人で修行するか本を読んで過ごしていたのだ。

「そうですか、アルバの罪がまた一つ明らかになりましたね」

「いやいや……」

別にアルバの所為ではない。

冒険者レメが世間に求められておらず、僕自身誰かと積極的に関わろうとしていなかっただけだ。

「とにかく、休日に誰かに誘ってもらえるのは、僕にとって嬉しいことなんだ。だから、出来るだけ応えたくて。無理してるわけではないから、安心してほしい」

「そうですか。それなら、よかったです」

ミラさんが柔らかく微笑む。

「あ、もちろんミラさんとの約束も、その……楽しみにしてるから」

素直に伝えるのが恥ずかしくて後半の声が小さくなってしまった。

だがミラさんは聞き逃さなかったようで、「私もです」と満面の笑みで頷く。

今回の休暇は、大忙しで充実した休暇になりそうだ。