軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編◇レメ特番

ミラさんが最近怪しい。

いや、怪しいというのは違うか。

ちょっと変なのだ。

これまでは仕事が終わると僕の寮室にて夕食を作ってくれたのだが――いまだに手伝いはさせてもらえない――それが最近は、部屋に来ないことが増えてきた。

『普通なら浮気を疑うところだけど、あの子に限っては有り得ないからねー。なんだろうねー』

ヴェールを被った小人状態の精霊ダークが、ふよふよ浮かびながら言う。

「気にはなるけど、本人が言ってこないなら詮索はしないよ」

この機会を利用して料理の練習でもしようと台所に向かったら『レメさんへ。ごめんなさい、料理は控えてください』と張り紙が貼られており、すごすごと退散して外食を摂った。

『向こうは訊いてほしいかもよ?』

「うーん、そんな雰囲気でもないしなぁ」

ミラさんが聞いて欲しいならば、さすがに僕でも気づくと思う。

むしろ、僕に追及してほしくなさそうな気配さえあった。

なんていうか、サプライズを用意してる人が、それを知られないよう自然体に振る舞っているつもりで、そわそわしている感じを仕掛けられる側が察してしまう、みたいな。

そんな空気感なのだ。

『追跡してあげよっか?』

「そんなことしなくていいよ」

ミラさんが言わないことを、勝手に知ろうとは思わない。

しかし数週間後、僕はこの時の選択を少し後悔することになる。

あの時知っていれば、止めることが出来たかもしれないのに、と。

「あれ?」

仕事終わり、自宅で端末を弄っていると、メールが来ていることに気づく。

差出人はミラさんだった。

「なになに……ん?」

内容は『夕方に放送される特番を観てください』というもの。

「特番?」

『え〜? なんだろうねぇ』

ダークは楽しげだ。

僕は 電脳(ネット) でミラさん指定の時間帯に放送される特番について調べる。

そして、愕然とした。

「う、嘘だろ……」

『あはは! 人間もいい番組を作るじゃないか! 少し見直したよ!』

ダークはお腹を抱えて大笑いしている。

「こ、これ、今からでも止めるとか」

『生放送だからいけるかもね? 映像板(テレビ) 局に殴り込んじゃう? 付き合うぜ〜』

そんなの現実的じゃないことは分かっている。

分かっていても、考えてしまう。

「あ〜〜。こ、こんなことになるなら、聞いておくんだった」

『相棒がそんなふうに後悔するの珍しいから、見ていて楽しいよ』

「それはよかったよ……」

この感情をなんと説明すればいいのか。

憂鬱であり、恥ずかしくもあり、ほんの少しの照れ臭さもある。

だがやはり、どうにも居た堪れない。

『観ないって手もあるんじゃない?』

「いや、観るよ……」

観るのは怖いが、観なければ観ないで気になってしまうだろう。

『人間ってややこしいね』

「本当にね……」

そんなわけで、他のことが手につかぬまま、放送時間に。

僕はソファーに腰掛け、じっと 映像板(テレビ) での画面を見つめる。

そして、始まった。

『――【黒魔導士】という【 役職(ジョブ) 】がある』

『騎士団など一部の需要を除けば、不遇とされる【 役職(ジョブ) 】だ』

『彼らが扱う黒魔法は、人の持つ能力を低下させ、時にくるわせる』

『しかしその効力はあまり強くなく、黒魔法は目に見えぬことから見栄えもしない』

『冒険者業界においても、彼ら彼女らをパーティーに組み込む者は少ないのが実情だ』

『今宵語り尽くされるは、そんな現実に屈することなく、【魔王】や【勇者】を倒すにまで至った、一人の【黒魔導士】――レメについてである』

ナレーションが終わり、スタジオの映像が映る。

『あははははは! ひー! 見てよ相棒!』

そこに映っていたのは、知っている三人と、見覚えのある一人。

『こんばんは。元月刊【黒魔導士】編集部、ブラーマです』

ウェーブのかかった黒髪を肩まで伸ばした、メガネの女性だ。

彼女は何年も前に、僕に取材してくれた人でもある。

ブラーマさんの熱意に押され、僕もインタビューに答えたっけ。

雑誌が廃刊になってからは連絡をとっていないが、元気そうでよかった……のだけど。

「【炎の勇者】フェニクスです。レメとは同郷で、かつては共にパーティーを組んでいました。今でも自慢の友です」

「なにやってんだよ、お前~~~~っ!」

僕は 映像板(テレビ) を掴み、ガクガクと揺らす。

こんなことをしてもイケメンスマイルを浮かべている親友には何も届かないと分かっているが、やらずにはいられない。

聞いてない。一言も聞いてないんだけど、どうなってるんだ。

『【銀嶺の勇者】ニコラです。レメさんとは縁が薄いと思われるかもしれないけれど、タッグトーナメントやレイド戦では【銀砂の剛腕】ベリトとして共闘したし、『初級・始まりのダンジョン』では敵として戦いもしたから、知っている人もいるかもしれないね。レメさんは僕の憧れで、恩人なんだ』

ニコラさんが言う。

魔力体(アバター) 改造は、違法にならないよう気をつけさえすれば問題ない。

なのでベヌウもベリトもストラスもレメゲトンも、問題はない。

ニコラさんは自身がベリトであることを、ある段階で公表した。

もちろん賛否あったが、ファンは概ね好意的に受け入れたようだ。

それはいい。それはいいのだけど……。

『あれ? この子には怒らないの?』

「……恥ずかしいのは変わらないけど、ニコラさんは純粋に善意で出演してるだろうからね。フェニクスは僕がこういうの苦手って知ってるのにニコニコしてるのが腹立たしいよ」

『【吸血鬼の女王】カーミラ。レメゲトン様第一の契約者にして、魔王軍四天王。今宵はレメゲトン様の栄光について語り尽くせると聞いて、お邪魔しているわ』

最近のミラさんが普段と違ったのは、この番組に出演するからだったのだ。

仕事の合間を縫って色々と準備したり、打ち合わせなどにも参加したことだろう。

疑問が氷解するが、あまり嬉しくはない。

『相棒、顔が死んでるよ』

「こ、これ、どれくらい話題になってるんだろう。あ~、でもフェニクスが出てるならみんな観るよな。カーミラもいるなら魔王城のみんなも……。ニコラさんのファンも多いし……」

頭を抱える僕の上に、ダークが座る。

『相棒のよさが世間に広まるのはいいことじゃないか。最近は少し減ったとはいえ、これまで相棒が言われてきた悪口の総数を思えば、まだまだ褒められが足りないくらいだし』

なんで僕が今まで言われてきた悪口の総数を知っているのだろう。

神秘の精霊だからだろうか。

『現実だろうと 電脳(ネット) だろうと関係なく、発言者を呪うこともできるよ』

絶対にやめてね。

そんな会話をしている内に、 映像板(テレビ) では僕に対するざっとした説明が終わっていた。

田舎に生まれ、フェニクスとは幼馴染として共に育ち、【黒魔導士】に目覚め、最強の魔王に師事し、フェニクスパーティーを結成し、世界ランク第四位まで駆け上がり、パーティーを追放され、魔王城に転職し、参謀に就任してフェニクスパーティーを撃退し、『初級・始まりのダンジョン』再建を任され、同時期にタッグトーナメントに参加して優勝し、レイド戦では【嵐の勇者】エアリアルさんを筆頭とした冒険者連合を撃退し、故郷に発生したオリジナルダンジョン攻略に参加し、全天祭典競技で多くの仲間と共に【赤角の魔王】ルキフェルを退場させた。

自分で振り返っても、特にここ一年は濃密だった。

『オリジナルダンジョンで、世界最高の精霊と出逢ったって重大イベントが抜けてない?』

君の所為で、けっこう大変なことになったんだけどね。

『相棒、過去のことは水に流そうよ。なんか「水に流す」ってあの 水精霊(ショタコン) の領分みたいで嫌だね』

知らないよ……。

『フェニクス氏から見て、レメ氏はどのような子供でしたか?』

ついに、ブラーマさんがフェニクスに話を振ってしまった。

『そうですね私は幼い頃あまり話すのが得意な子供ではなかったのですが周囲の子供たちから心無い言葉を投げかけられる中レメだけは私の言葉をいつまでも待ってくれたのです彼のおかげで私は少しずつ頭の中に生まれる言葉をみんなと同じスピードで発することができるようになっていましたそれだけではなく彼は周囲に馴染めない私と友になってくれたばかりかやんちゃ子供たちによる悪戯から守ってもくれました言うなれば彼は友となったその時から私にとっての勇者だったのですそして――』

『ありがとうございます』

「や、やめてくれ……うあぁあああああ……」

僕は頭を抱えて呻くことしか出来ない。

早口で長文喋りすぎてブラーマさんに遮られちゃってるじゃないか。

僕がフェニクスパーティーに在籍していた時は、フェニクスに僕に関する質問をぶつける人はほとんどいなかった。

それよりも話題性や需要のある質問がいくらでもあったからだ。

むしろ、無能な幼馴染をフォローする姿など見たくないという考えから、タブー視されている感さえあった。

だから、フェニクスの こんな感じ(、、、、、) が世界に公開されるのは、おそらく初だ。

『それではニコラ氏。冒険者レメの魅力というのは、どういうところでしょう?』

『とてもよい質問だねもちろんレメさんの魅力は数え切れないくらいあるんだけれどことダンジョン攻略に限って言えば簡単だそれは当然優れた黒魔法をそうと気づかせずに最適なタイミングで行使するその技術だよね魔力量魔力操作能力魔力出力どの要素が欠けてもレメさんの卓越した黒魔法は成立しないんだ実際フェニクスパーティーのメンバーが何年もその恩恵に気づかなかったことからもその技術の高さは窺えるよね正直なところレメさんがフェニクスパーティー時代にやっていたことには賛否があるだろうけど僕としてはそこまでしてでも仲間と最短で一位に辿り着きたかった思いの表れだと受け取っているよそれにレメさんとしてはその凄まじい黒魔法から師の存在を嗅ぎつけられたくないという思いもあっただろうしねとにかく――』

『ありがとうございます。それではカーミラ氏。魔王軍参謀レメゲトンとしての魅力――』

『ようやくですかよいですかこれから言うことをよく聞くのですよレメゲトン様の素晴らしい点はそこのベリトが触れた黒魔法の技量はもちろんのことその深淵なる策謀にもあるのです日々研究を怠らないあの御方は膨大な数のダンジョン攻略動画を確認し敵となる冒険者共の情報を収集しますそしてその戦力性格長所短所些細な癖まで見抜きその者たちを脱落させるのに最も適した方法を導き出すのですその方法に関しても各層の魔物の魅力や実力が視聴者に伝わるよう考え抜かれたものであり単に効率のみを追い求めたものではないことも言い添えておきましょうそのような御方だからこそ様々な種族が集まる我が魔王城において多くの契約者を獲得し魔物共から絶大な支持を集めているのですそしてそんなレメゲトン様を魔王城にお招きしたのは何を隠そうこのわた――』

『ありがとうございます。続いてレメ氏及びレメゲトン氏の優れた能力を、映像と共に振り返ろうと思います』

『相棒の周りって、濃い子が多いね』

僕はもう黙って画面を眺めていることしか出来なかった。

過去映像が流れてはベタ褒めされ、関係者インタビューでは目線が入っていたが明らかに果物屋のブリッツさんとカシュファミリーが出演しておりこれまたベタ褒めされ、うちの田舎まで訪れたらしく僕とフェニクスの両親まで出演していた。

ここまでやってなんで誰からも僕に連絡がなかったのだろう。

止められると分かっていたからだろうな。

『レメったら昔から優しくて~ うちの子がおねしょしちゃった時、「俺がやったんだ、ごめん」って庇ってくれて~。あまりにかわいくて、二人とも抱きしめてしまいました~』

ちなみにフェニクスの母カナリーさんからはこんな話が飛び出した。

それは僕のいい話じゃなくて、フェニクスの恥ずかしい話ですよ……。

勝手に出演していたことに文句を言ってやりたい気分だったが、少し同情してしまう。

その後も番組は続く。

『ぺらぺらぺーら』

『ぺーらぺらぺら』

『ぺららぺーら』

『御三方とも、ありがとうございます。あの、そろそろ次のコーナーに……あぁ……』

ブラーマさんの制止も虚しく三人は盛り上がっている。

『あーあ、このダークたんも呼ばれれば出てあげたのになぁ』

やめてくれ君までそんなことを。

『え~ずっと側にいてほしいの? 仕方ないなぁ』

もうそれでいいよ……。

僕の頭に乗って、小さな手で撫でてくるダークを振り払う気力もない。

そんなこんなで、特番は終了した。

帰ってきたミラさんは沢山話せて楽しかったのか、肌もツヤツヤで瞳も輝いているように見えた。

「ふっふっふ、これでレメゲトン様の魅力を世界が知る筈です!」

「あ、あはは……ありがとう……」

その時自分が上手く笑えていたか、僕は自信がない。

後日、番組は予想外の大反響を見せた。

当時、在庫がかなーり余って倉庫行きとなっていた僕のグッズが、放送以降かなり捌けただけでなく、再生産まで決まったらしい。

それだけでなく、レメゲトン関連のグッズも完売続きで、魔王様も大喜び。

急遽幾つもの新商品が開発されると、予約開始時点で売り切れ続出。

三人がいいところを語ってくれた影響だろうか……と思ったのだが、正確には少し違うようだ。

電脳(ネット) を見てみると、フェニクスと僕のぬいぐるみを映した出先と思しき写真や、フェニクスとレメゲトンのフュギュアを並べて飾る写真などがいくつも上がっていた。

「大変不愉快ですが、理解は出来ます。この世界には、個人を推す者だけでなく、グループを推す者、そして関係性を推す者もいるのです」

ミラさんはそう語る。

「関係性……?」

「たとえば、クールな人物がいたとします。それだけでも好きな人はいるでしょうが、その人が妹の前でだけデレデレだという情報が明かされるとどうでしょう」

「妹さん思いの、優しいお兄さんなんだね。あぁ、そうか。この場合、妹さんの存在が、お兄さんの別の一面を引き出してくれるわけで、お兄さん好きの人にとっては妹さんも重要な人物になるんだね」

「さすがレメさん、その通りです」

「あはは……【炎の勇者】のファンが減ったらどうしようと思っただけど、大丈夫そうならよかったかな」

「それだけではありませんよ、レメさん。見てください! レメゲトンぬいとカーミラぬいを飾っているファンの方もおられるのです! なんと見る目のある人たちでしょうか。全員幸せになってほしいですね!」

ミラさんの目がランランと輝いている。徹夜で 電脳(ネット) 上を探し回ったようだ。

「あと何故か、番組に出てもいないレイスぬいとレメぬいを撮っている方がいるのですが、その方たちにはどんな幻覚が見えているのでしょうか」

「ど、どうだろうね……」

「百歩譲ってニコラぬいも理解できるのですが、リリーぬいやシトリーぬいやフルカスぬいと共に写真を撮っている者はなんなのでしょうねぇ……!」

ミラさんがだんだんヒートアップしている。

『相棒の横に並べるなら、このダークたん以外有り得なくない!?』

君、他の人に見えないじゃないか……。

僕はツッコミをする気力もなく、ソファーに倒れるように腰を下ろすのだった。