軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

293◇全天祭典競技最終段階『血戦領域魔王城』15/それぞれの

パナケアさんの退場に前後して、冒険者側に残る三つの戦いに関しても決着を迎えた。

まずは――。

世界ランク第一位【剣の錬金術師】リューイ&【疾風の勇者】ユアン&世界ランク第四位【狩人】リリー&【氷の勇者】ベーラ

VS

元世界ランク第一位【銀の弓】オライオン&【聖なる騎士】マクシミリアン

この戦いからはマクシミリアンさんが一時離脱し、【嵐の勇者】エアリアルさんと切り結ぶこととなった。

本来、ベーラさんによる氷の壁や、ユアンくんによる風の膜でも用意すれば、射手を無力化するのに問題はなさそうに思える。

だが、オライオンさんの弓は魔法具で、『空間を超える穴』を用意可能。

矢は放たれた瞬間、空間を越えて対象へと迫るのだ。

障壁や防御など、己の視界を塞いだり魔力を無駄にする以上の効果はない。

強いていえば敵の視界を塞ぐことも可能ではあるが……。

リューイさんの魔法錬金によって、属性魔法を付与された矢がリリーに供給され、それを射掛けていたが、それらも防がれてしまった。

マクシミリアンさんが離脱したので壁役こそ減ったが、矢を撃ち落とすだけの技量をオライオンさんは持っている。

だが、やはりマクシミリアンさんの抜けた穴は大きい。

矢こそ防げても、高位の分霊と契約しているベーラさんとユアンくんの精霊術であれば、彼を打ち倒すことは可能だからだ。

だが、それも叶わなかった。

二人は精霊術を使おうとしたのだが、その度に、絶妙なタイミングでオライオンさんの邪魔が入ったのだ。

「く、っ……! こ、これは――」

ユアンくんが何かを思い出すように、苦しげに呻く。

「エクスんとことの試合を観たぜ、坊や。術者としての安定感は、経験がものを言う。お前さんがどんな努力家でも、あの試合から今日までに克服することは出来ないよな?」

魔法の やり直し(、、、、) だ。

魔法には術者の意識と集中が必要なので、発動の直前に邪魔が入って意識が乱れれば、魔法式は霧散してしまう。

世界ランク第二位【漆黒の勇者】エクスパーティーVS世界ランク第一位【嵐の勇者】エアリアルパーティーの試合において、【守護者】ガラハさんが見せた技術。

そして若さからくる経験不足がユアンくんの弱点だとすれば……それはベーラさんにも当て嵌まってしまう。

実際、彼女の魔法も阻害されているようだった。

「……分かりました」

ベーラさんが苦々しげな顔で、一つ頷く。

「どうした嬢ちゃん」

氷のような白い髪に、蒼の瞳をした妖精のような少女が、レイピア型の聖剣を地面に向ける。

「この戦場は、私が立つには早すぎるのだと、理解したのです」

ベーラさんの発言に、オライオンさんが片眉を上げる。

「へぇ?」

僕らはこの全天祭典競技を勝ち抜いてきたので、戦う資格はまず間違いなくある。

だがそれでも、第一位パーティーに後から入ったユアンくん、同じく第四位パーティーに後から入ったベーラさん。そしてレイスくんや魔王様のパーティーメンバーに選ばれた幾人かが、全員同等の戦力かと問われると素直には頷けない。

彼ら彼女らは業界全体から見て実力者であっても、『ではアルトリートやルキフェルにぶつけて善戦できるか』と言われると、正直厳しい。

その基準で言えば、【黒魔導士】レメだってそうだ。

冒険者レメ単騎では、アルトリートさんとは渡り合えなかったのだから。

だが――。

「じゃあどうする? ここで諦めるのかい?」

「 まさか(、、、) 」

ベーラさんが、彼女らしからぬ、勝ち気な笑みを浮かべた。

「『【勇者】の勝ち方』を捨て、貴方を倒します」

そしてベーラさんは、前方に向かって氷結の魔法を放った。

「ロジェ!」

「は~い」

ロジェスティラさんが後方へ下がり、オライオンさんが大きく横へ距離をとる。

氷結は彼女の立ち位置からオライオンさんが立っていた地点まで迸り、フィールドに冷気をばらまいた。

「……べ、ベーラ」

ユアンくんの声が震えていた。

ベーラさんの精霊術発動にも、これまでのようにオライオンさんの邪魔が入った。

だがベーラさんは、それで集中を乱されることはなかった。

第一、敵の攻撃によって集中が乱されるのは、それが命中してダメージを負うことを恐れるからだ。

つまり、己の死を覚悟の上で魔法式を組むことさえできれば、どのような邪魔にも魔法発動を邪魔されることはない。

ただし、当然の如く。

覚悟した死に、襲われるという結果を迎えることとなる。

ベーラさんの心臓と魔力器官が、オライオンさんによって射抜かれていた。

「貴方、も……。勝ち方はもう、分かって……いますね?」

「……あぁ。あぁ!」

魔力粒子と散った学友に向かって誓うように、ユアンくんが大声を上げる。

ベーラさんとユアンくんは、同 育成機関(スクール) の出身なのだ。

「思い切りのいい嬢ちゃんだったな。気迫の乗った、いい攻撃だった」

ベーラさんへの称賛を口にしながらも、オライオンさんの攻撃の手は緩まない。

ユアンくんは必死でそれを防ぎ、仲間を守ろうとするも、徐々に矢傷が増えていく。

ベーラさんが退場し、自分を護る少年が傷ついていく中で、【狩人】リリーの顔も苦しげに歪んでいく。

彼女は『目にも留まらぬ弓術』――『神速』を放つが……。

それは真正面から、同数の矢によって撃ち落とされてしまった。

「わざわざスキルとして登録せずともよ……射手が敵を早く、正確に射抜くのは当たり前じゃないのかい」

冒険者業界では、『特定の技術』をスキルとして登録することが出来る。

たとえば『神速』なら、既に世界ランク第五位【無貌の射手】スーリさんが最初に登録した為に、そう呼ばれたに過ぎない。

あとから同じ技を使えば、アレンジを加えて新規に登録しない限りは、同じスキルとして扱われる。

リリーもそうだし、同じ第五位パーティー所属の【魔弾の射手】カリナさんも同様。

だが当然、全ての冒険者が、いちいち自分の技術に名前をつけるわけではない。

エルフに伝わる超速の弓術に匹敵する技量を、一冒険者が備えていてもおかしくない。

空間を超える弓術に目が行きがちだが、オライオンさんはそもそもの技量が非常に高いのだ。

それもその筈。

彼とて、元世界ランク第一位なのだから。

「まぁいいか、今はそう呼ぶってんなら、おじさんも倣うさ。ほうら――『神速』だ」

それだけではない。

魔法具と『神速』を組み合わせることで、無数の矢が全方位から降り注ぐ。

まるで四方を弓兵に囲まれたかのような矢の豪雨が、リリー達に迫った。

ベーラさんの防御力を欠いた今、それを防ぐことは難しい。

そして、決着の時が訪れる。

ユアンくんが風属性の精霊術で吹き飛ばそうとしたものの、その攻撃範囲の内側に生じた矢も複数あり、防ぎ切ることは出来なかったようだ。

かといって、魔法の効果範囲を狭めると、自分の風に仲間を巻き込んでしまう危険がある。

そんなギリギリの範囲の隙きを突くように放たれた矢によって、ユアンくんもリューイさんもハリネズミになってしまう。

だが、二人はそこまでして、リリーを守ろうとした。

彼女の体にも多くの矢が刺さっているが、同時に。

オライオンさんの心臓が、背中から矢に貫かれていた。

「こいつは――」

ベーラさんの最後の氷結が、作戦の始まり。

あれは一瞬でも、オライオンさんの視界から仲間たちが外れればよかったのだ。

その意図が読まれぬよう、決死の一撃の皮を被せた。

己の命を賭した囮。

オライオンさんは氷結を回避しながらも、魔法具を使用して矢を射掛けた。

つまりそう、『空間を越える穴』が、ユアンくん達の近くに生じたということ。

「やってくれるじゃないの」

オライオンさんは悔しそうな、嬉しそうな、そんな複雑な表情を浮かべる。

「えぇ。わざわざスキルとして登録はされていないのでしょうが……貴方の技ですよ」

今にも消えそうな体で、リリーが言う。

そう。

リューイさんの『魔法錬金』だ。

風魔法から、風を帯びた双剣を創り出すような、特別な技術。

それを使い、『空間を越える穴』から、『空間を越える弓矢』を作り出したのだ。

そして、オライオンさん自身が全方位を矢で埋め尽くしたその時、リリーはその矢を番えた。

彼自身が敵と己との視界を遮った、最良の好機に全てを懸けて。

魔法具の特殊能力から力を抽出し、魔法錬金の材料とするという、この大会初めて見せた錬金術とリリーの腕によって。

【銀の弓】オライオンさんを打倒したのだ。

自分自身が道を切り開く、【勇者】の戦いではないが。

ベーラさんもユアンくんも、目の前の敵を、自分達に任された敵を倒す為に、戦い方を選択した。

【氷の勇者】ベーラ、【狩人】リリー、【剣の錬金術師】リューイ、【疾風の勇者】ユアン、【銀の弓】オライオン、退場。

世界ランク第一位【サムライ】マサムネ

VS

元世界ランク第一位【大勇士】ヘクトル

これは、まだパナケアさんが生存していた間のこと。

二人の戦いの決着は、一瞬だった。

片腕を失ったマサムネさんには、元より時間がそう残っていない。

「互いに剣の腕だけで戦いたかった、という思いもありますが」

「いいさ。冒険者として相対すりゃあ、こんなこともある」

パナケアさんが掛けた『継続回復』はまだ生きている。

彼女の掛けた他の白魔法は僕の黒魔法で相殺したが、『継続回復』にまでは手を出さなかった。

そうすべきではないと、分かっていたからだ。

二人が距離をとり、対峙し、この乱戦の中にあって静寂さえ感じるような張り詰めた空気を共有し、そして――大地を蹴った。

交錯は一瞬。

互いに通り抜け、最初とは立ち位置を逆にしたあたりで立ち止まる。

マサムネさんの服が横一線に断たれ、そこから魔力粒子が噴出する。

「さすがは大勇士……」

そして――。

「なるほど、これがサムライの剣ですか……」

ヘクトルさんの胸にも、斜めの刀傷が深く刻まれていた。

その上、それは再生しない。

マサムネさんは、『魔法さえも斬る剣士』だからだ。

自身の妻であり最高の【白魔導士】である【大聖女】パナケア。

彼女が今日この日に初めて見せた、白魔法を超えた白魔術を。

初見で斬り裂いたのである。

そして二人は、同時に倒れ。

地に伏すよりも前に、その姿は魔力の粒子へと変わった。

【サムライ】マサムネ、【大勇士】ヘクトル、共に退場。

「他の者達ほど、劇的な最後を飾れずに悪いな、エアリアル」

エアリアルさんの聖剣が、マクシミリアンさんの胸部を貫いている。

パナケアさんが退場したのとほぼ同じ頃、こちらも決着の時を迎えていた。

「何を仰る。私が貴方を引き止めたからこそ、他の仲間たちが存分に力を発揮出来たのです」

【聖騎士】の、 壁役(タンク) の戦いというのは地味なものだ。

仲間たちが実力を発揮できるように耐えず護る為に動き、時に騎士としての攻撃力も求められる。

派手さはなく、それでいて堅実さを求められ、仲間が傷ついた時には視聴者に無能と責め立てられる。

重要な役割でありながら、その価値が正確に評価されているとは言い難いポジションだ。

だが、マクシミリアンさんがいなければ、戦いはもっとこちら優位に進めることが出来ただろう。

彼の壁としての高さや頑丈さは、敵対した者達がしっかりと分かっている。

「そうか」

「貴方に鍛えられた騎士が護る街なら、安心して暮らせるでしょうな」

マクシミリアンさんは現在は冒険者ではなく、騎士団で副団長を務めている。

彼の鉄壁が多くの騎士たちに引き継がれることを思うと、犯罪者たちは恐ろしいだろう。容易に突破できぬ盾が、日々民を守護しているのだから。

エアリアルさんが聖剣を引き抜く。

マクシミリアンさんが小さく笑ったのち、消えた。

【聖なる騎士】マクシミリアン、退場。

「あら~。みんないなくなってしまったわ~」

【善なる魔女】ロジェスティラさんが困ったように言う。

フィールド上空を埋め尽くす二人の【魔法使い】の火炎。

それらの勢いも収まりつつあった。

というより、最後の段階に移行しつつある、というべきだろう。

世界ランク第一位のミシェルさんの攻撃は火力で圧倒していたが、ロジェスティラさんはそれを巧みにいなしていた。

一度はヘクトルさんが破壊してくれたが、以降はロジェスティラさん自身でなんとか対処している。

また、『何が起こるか分からない魔法』ことリバプケンツも、効果的に機能した場面が幾つかある。

ミシェルさんが放った隕石の如き魔法が、そのままミシェルさんに返っていくような効果を発揮した際は、僕も少し驚いたほどだ。

「……ロジェさんは、凄い魔法使いだと思っているよ。けどさ、それでも、ダメなんだよね」

「ミシェルちゃん?」

「 マーリン(あいつ) に負けて、貴女にまで負けるわけにはいかない」

世界ランク第二位の【先見の魔法使い】マーリンさんは、四大属性全てを精霊契約者並に使いこなす天才だ。

そして、それら全てで、精霊術の域に迫った世界でただ一人の術者。

四種の天底級魔法を使いこなすばかりか、その融合さえも果たした使い手。

パーティー同士の戦いでは勝利したが、魔法使いとしての戦いではマーリンさんに軍配が上がった。

火属性による一撃の威力では、一時並ぶほどの力を見せることは出来たが、そこで魔力が尽きて敗北を喫したのだ。

「わたしは……一位なんだから。一番凄い勇者の仲間なんだから。魔法使いとしても一番じゃなきゃいけない。なのに――」

【魔法使い】としての技量は、マーリンさんの方が上。

そのような思いが、ミシェルさんの中で燻っているのだろう。

「ならせめて、自分が一番得意な 火属性(これ) だけは、負けちゃいけない。負けちゃいけなかったんだ……! その上、ここで貴女にまで負けるわけにはいかない!」

「そう。そうなの……」

ぶわりと、両者の魔力が膨れ上がるのを感じる。

それらは杖に流れ込み、魔法へと変換される。

ミシェルさんが発動したのは、マーリンさんとの戦いで最後に見せた――天底級魔法だった。

太陽の如き、炎の塊だ。

これまでは使わなかった……?

いや、今だからこそ、使えるようになったのか。

ミシェルさんは、修行でこの力を身に着けたのではない。

マーリンさんとの戦いで、極限の集中と気持ちの高まりによって、限界を超えた際に出てきたのがこの魔法なのだ。

つまり、修練によって獲得した再現性のある技術では、まだない。

今は、感情や感覚に引っ張られて発動している状態なのだろう。

それでも、紛れもない天底級魔法。

火属性対決に応じるようにロジェスティラさんも燃える巨岩を放ったが、それらは太陽に触れて溶けるように呑み込まれてしまう。

「……素敵な魔法ね、ミシェルちゃん」

ロジェスティラさんは最後にもう一度、杖を振るう。

「『リバプケンツ』~」

『何が起こるか分からない魔法』だ。

アルトリートさんを僕らの頭上に転移させたり、ミシェルさんの魔法を術者本人に向かわせたりした魔法は、最後に。

「……ふふふ、何も起こらなかったわ~。つまり、そういうことなのね」

奇跡の入り込む余地はなく、これが決着。

ロジェスティラさんはそう受け止めたのかもしれない。

彼女が太陽に呑まれ、フィールドが灼熱される。

【善なる魔女】ロジェスティラ、退場。

「あぁ~もう、騒がしいなぁ」

ダンタリオンさんが忌々しげに呟き、シトリーさんと戦いながら別の魔法を用意する。

太陽墜落の余波は、敵側がダンタリオンさん、味方側がエアリアルさんによって対処された。

それぞれ熱風を上空へ逃し、瓦礫が味方へ影響を及ぼさぬよう防いだのだ。

「ミシェルおばさん、俺たちごと殺す気?」

レイスくんが冗談めかしていう。

「ロジェスティラ殿を退場させるには、あれくらいの魔法が必要と判断したのだろう」

エアリアルさんがそう説明する。

「まぁ、あの人の魔法をもう警戒しなくていいのは、確かに助かるけどね」

伝説の冒険者が全て退場した為、残るは旧魔王軍のみ。

敵側の冒険者が支えていた領域が僕らの手に落ちたことによって、正面だけでなく側面からも攻撃が可能となった。

実際、一番師匠に近いところにいるのはレイスくんとフェニクス、そして二人に合流したエアリアルさんだ。

僕は魔王様へと体ごと視線を向ける。

「魔王様」

やるべきことは決まっているが、僕は彼女の配下。

彼女に召喚された者。

その言葉を仰ぐのが礼儀。

「うむ。許可する」

「はっ」

「だがレメゲトンよ、条件が一つ」

「なんでしょうか」

「――共に征くぞ」

その言葉の意味を、僕は正しく理解できたと思う。

「承知致しました」

僕は視線を師匠へ戻す。

そして、僕と魔王様は同時に、あることをした。