軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

292◇全天祭典競技最終段階『血戦領域魔王城』14/激動

パナケアさんが白魔術に到達したと聞いて最初に頭を過ぎったのは、己の黒魔術。

だが、使うわけにはいかない。

今はまだ(、、、、) 。

それに、これは支援職としての戦い。

四大精霊契約者が三人も味方についているのに、己の力だけで戦おうなどと考えるのも愚かな話。

いや、もう一人いた。

【破壊者】フランさんだ。

彼女は三人よりも突出し、単騎でパナケアさんに襲いかかる。

『とにかく強い』【破壊者】の勘がそう告げているのなら、その動きは勝利に繋がっているのだろう。

僕としても彼女の判断が間違っているとは思わない。

魔法職が近接戦闘に弱いのは常識であるし、実際のところパナケアさんの戦闘能力は高くない。

いくら彼女と言えど、肉体面で急激に強くなることはないだろう。

アルトリートさんが僕にやったように、近接で魔法職を倒すのは、シンプルな正解だ。

そして、フランさんは意図的に突出している。

今の彼女は、本能だけで動くこれまでとは違う。

おそらくこの戦いにおける『駒としての価値』を考えて動いている。

パナケアさんに接近戦を仕掛けるのは正解だが、何かあるかもしれない。

そんな時、四大精霊契約者と自分ならば、自分が被害を受けた方が――チームにとって損失が少ない。

そこまで考えての行動だろう。

これが契機、というわけではなかっただろうが。

この行動からすぐ、冒険者側の四つの戦場全てが大きく動くことになる。

【破壊者】フランさんが、敵冒険者パーティーの最後方に位置するパナケアさんを狙う。

だがその為にはまず、【聖なる騎士】マクシミリアンさんの横をすり抜けねばならない。

普段ならばとても容易なことではないが……。

今はこちら側の四人の冒険者と【銀の弓】オライオンさんが戦闘中であり、それに加えて自チームの【善なる魔女】ロジェスティラさんも守らねばならない。

【聖騎士】としては大忙しの場面。

それでも彼はフランさんに反応――したのだが。

彼とフランさんを遮るように、突如として氷壁がせり上がってきた。

【氷の勇者】ベーラさんの魔法だ。

オライオンさんの矢への対処を一時【疾風の勇者】ユアンくんに任せ、フランさんの援護に回ったのだろう。

薄い氷の壁であれば、マクシミリアンさんとて突破は可能なのだが、重要なのは一秒程度の足止めになること。

そして一秒の遅れが、彼の今の仕事に致命的な影響を及ぼしかねないことだ。

今守っている仲間を危機に晒してでもパナケアさんの守護に回るか――。

「いいよ、大丈夫」

パナケアさんの声に、マクシミリアンさんは即断。

オライオンさんとロジェスティラさんの守護への集中。

「おいでフランちゃん。抱きしめてあげよう」

「……破壊する」

「ならおばちゃんが、それを全部治してあげるからね」

四足獣さえも置き去りにするような、低姿勢での急加速。

今のフランさんの勢いでは、激突しただけで馬車に轢かれる以上の衝撃を受けることだろう。

そして二人は接触し―― 魔力体(アバター) が弾け飛ぶ。

「な――」

そんな声を上げたのは――レイスくんだった。

それもその筈。

弾け飛んだのは、彼の幼馴染の方だったからだ。

注視していなければ気づけなかった。フルカスさんによる戦闘指導を経て多少なりとも動体視力が鍛えられていなければ、捉えることは出来なかったかもしれない。

三人の勇者たちには、はっきりと見えていたことだろう。

まず、フランさんの攻撃は成功していた。

パナケアさんの半身は間違いなく吹き飛び、その直後には 再生を終えていた(、、、、、、、、) のだ。

核以外へのダメージを受け付けぬスライムや、【半不死】の【 役職(ジョブ) 】を持つ高位の吸血鬼でもなければ有り得ぬような、不死性ともいうべき治癒魔法。

それを事前に組んでいたのだろう。

フランさんが吹き飛んだのも、パナケアさんが【白魔導士】であることを考えれば一つしか考えられない。

健康な肉体に白魔術レベルの治癒を施されたことで、肉体が耐えられなくなってしまったのだろう。

だが 魔力体(アバター) が四散するほどの治癒の力を、【破壊者】たるフランさんにどのように当て――あ。

一度半身を失ったパナケアさんは、上半身を中心に再生。

治癒魔法は衣類を再生してくれないので、そのままでは半裸になってしまう。

パナケアさんは元々【白魔導士】の長いローブを羽織っているので、服の前をキチンと閉じることで、違和感は裸足程度に収められている。

普通の観客には、何が起こったかも分からないだろう。

とにかく、体の上部が無事だったということは、被害を被ったのが下部ということになる。

つまり、魔力器官も含まれるのだ。

「またまた真似っ子だぜ、レメくん」

【破壊者】は、とにかく強い。

フランさんと相対して、退場しない、ということは難しい。

故に、それを受容した。

フランさんは強いまま。フランさんの攻撃は避けられないまま。

【破壊者】の性質に抗うのではなく、受け入れてそれを利用したのだ。

彼女に破壊されることで、彼女に一矢報いた。

魔力器官に白魔法を仕込むことで、それを可能にした。

――一度見ただけで、再現したというのか。

僕がアルトリートさんに対してやったことを、白魔法で再現したのか。

それならば膨大な魔力をフランさんに気取られぬまま罠として体内に仕込める。

フランさんは自分自身の手で、爆弾を殴りつけたようなものだ。

人の身に余る癒やしの力が、彼女から溢れるようにして肉体を崩壊させてしまった。

そしてもう一つ、恐ろしい事実が露わになる。

『 魔力体(アバター) が崩壊するほどの治癒魔法』には、魔力を溜める時間が必要。

そんな中、彼女はヘクトルさんに『事前構築式の継続回復』を掛け、僕の黒魔法を弾くべく 抵抗領域(フルジレスト) を巡らせていた。

生成魔力の割り振りが厳しい中、それをやってのけたのだ。

フランさんがやられた以上、こちらはもうその技には引っかからない。

だから彼女はこれから、魔力を溜めることなく白魔法を使うだろう。

言い換えれば、これまでは――魔力を制限した上で仲間の支援を行っていた。

その制限が取り払われた時――。

ロジェスティラさんは思考速度が上昇することで魔法式の構築が早まり、ヘクトルさんは攻撃力が上昇することで剣戟の重みが増し、オライオンさんは速度上昇によっての弓は連射速度が上がり、マクシミリアンさんは身体能力全般が強化されることによって守護可能な範囲が広がる。

そして――それらは 一瞬で元に戻った(、、、、、、、、) 。

「んん?」

パナケアさんが目を丸くする。

「そうか、パナ。君は彼を知らないのだったな」

パナケアさんは【黒魔導士】レメを高く評価してくれた。

だからこそ、レメ程の使い手が世にそうそういないと考えていたのだろう。

自分が仲間を白魔法で強くした分だけ、レメゲトンが仲間を黒魔法で弱くした、という事実に驚くのも無理はない。

そんなものは、先程退場したレメのような術者でなければ実現出来ないのだから。

彼女の 抵抗領域(フルジレスト) は、フランさんの一撃を受けた時に一度途切れている。

未完成の魔法を循環させる行為には術者の意識が必要で、一瞬とはいえそれが途絶えたのだから当然だ。

パナケアさんはまず仲間を強化し、それから 抵抗領域(フルジレスト) を再度展開しようと考えたのだろう。

僕があくまでパナケアさんを狙っているなら、それで間に合うと。

そうでなくとも、【白魔導士】は支援職。仲間を強くするのが仕事。

実際、たった一瞬の強化時間を最大限利用し、マクシミリアンさんが三勇者の前に立ちはだかった。

「ここは私が」

聖剣を抜いたエアリアルさんが斬りかかり、マクシミリアンさんが盾でそれを受け流す。

レイスくんとフェニクスは迷わずその場を走り抜けた。

エアリアルさんとフェニクスは空が飛べるが、今それをやるのは得策ではない。

ロジェスティラさんとミシェルさんの壮大な魔法戦が繰り広げられているからだ。

頭上で絶えず花火が上がっているような状態で、とてもではないが飛行など出来ない。

「お前が、敵を引き受ける役目とはな。【嵐の勇者】も丸くなったか」

マクシミリアンさんが普段の険しい顔のまま、だが声だけは僅かに柔らかく言う。

「どうでしょうね。貴方を倒す方が燃えるのかも」

「ふっ、嬉しいことを言ってくれる」

倒すべき敵が沢山いる際に必要になってくるのが、魔力配分。

有限の力をやりくりして敵を倒さねばならないのだから、無計画には使えない。

四大精霊契約者が三人いれば、いかに敵が伝説のパーティーメンバーといえど力押しで勝つことはできるだろう。

だが、力押しをするには、相応の魔力を消費する。

言葉通りの世界最強が後ろに控える中、そのような魔力消費は傲慢とも言えるだろう。

魔力をポンポン使っても、魔王戦を戦い抜けると勘違いしている、ということになるのだから。

違うからこそ、三人の四大精霊契約者は、勝つのに必要な魔力を考慮しながら戦っている。

『天空の箱庭』の発動は、パナケアさんへの最大限の評価と言えた。

しかし、これ以上は――。

「このまま氷結で――」

「いいや、斬る」

フェニクスは、レイスくんの発言を途中で遮った。

氷の中にパナケアさんを閉じ込めることはできるだろうが、おそらくそれで彼女を退場させることは出来ない。

そうなると、氷漬けになった相手を更に斬る必要が出てくるが、それは絵面がよろしくない。

これは殺し合いではなくエンターテイメントなのだから、そのあたりへの配慮も必要になってくる。

解説のフェローさんのおかげで、両サイド共に【白魔導士】【黒魔導士】を真っ先に落とさねばならぬ状況というのは観客にも理解できているだろうが、それでも限度はあるだろう。

また、フェニクスの炎で焼き払う場合は、よっぽどの火力でないと殺しきれない可能性がある。

万が一にもパナケアさんが生き残った場合、服は無事では済まないので、全裸で再生することに。

これもまたよろしくない。

魔力的にも絵面的にも、勇者が正面から堂々と倒すというのが、収まりがいい。

「この歳でイケメン二人に迫られるとは……来てしまったかな、モテ期が」

「あはは、旦那が泣くよ」

声こそ笑っているが、レイスくんの雰囲気はどこか鋭い。フランさんを退場させられたことが少なからず響いているのか。

ここで敢えてマクシミリアンさんなどを黒魔法で狙い、彼女に広範囲の 抵抗領域(フルジレスト) を強いることで更なる魔力消費を促すこともできるが……。

いや、残る一手は既に決めてある。

僕はパナケアさんに向かって複数の黒魔法を放つ。

彼女がそれを極小範囲の 抵抗領域(フルジレスト) で弾く。

フェニクスが聖剣に炎を纏い、レイスくんの聖剣も冷気を纏う。

自分の白魔法で己を強化したところで、フェニクスとレイスくんからは逃げられない。

旧魔王軍と伝説の冒険者パーティーが共闘していれば、戦いはより厳しくなっただろうが、そうはならなかった。

故に、世界最高の【白魔導士】はここで落ちる。

「聖剣の一撃だろうと、私は――」

フェニクスは左下から右上へ、レイスくんは右下から左上へ、抜けるような斬撃。

――えぇ、パナケアさん。

貴女ならば出来るのでしょう。

聖剣の攻撃からも己を癒やすことが。

そして少しでも戦場にいる時間が長引けば、それだけ【勇者】という駒を引きつけることになり、それだけ魔王軍参謀を引きつけることになり、その戦果は仲間を大いに助けることでしょう。

旧魔王軍は共闘していないつもりでも、パナケアさんの方は彼ら含めて仲間と考え、僕らの力を削ることで勝利への手助けをしようとした。

分かっているからこそ、ここで終わらせる。

パナケアさんの治癒魔法は、発動しない。

「これは――」

彼女の 抵抗領域(フルジレスト) を突破して黒魔法を掛ける方法。

その答えは、既に見つけてあった。

複合魔法だ。

複数の術者によって作り出される一つの魔法。

フェニクスとレイスくんが聖剣に纏った炎と冷気には、僕の黒魔法が織り込まれている。

単に魔力の状態だと、同じ魔力の状態である 抵抗領域(フルジレスト) に弾かれてしまう。

だが 一度(ひとたび) 魔法として機能すれば、その限りではない。

抵抗領域(フルジレスト) で火焔や氷結は防げない。

だから、火焔や氷結に黒魔法を混ぜ、それを纏わせた聖剣でパナケアさんを斬ってもらった。

彼女の 抵抗領域(フルジレスト) の影響下から逃れた上で、彼女に黒魔法を掛け、その類まれなる魔法技術を乱す為に。

この複合魔法は、レイスくんの作り出した雨に混ぜるという形で、この祭典で既に見せているものだ。

だが見せたのは、あくまで レメ(、、) である。

そして当然ながら、二つの人間の意識で、一つの魔法を創り出すというのは、非常に困難。

単に高等技術というだけでなく、極度の集中と信頼がなければ成立しない。

だからこそ、この瞬間、彼女の虚をつける。

パナケアさんはレメがレメゲトンであると知らないから。

フェニクスやレイスくんと複合魔法を編めるなど、予想もできない。

消える寸前の彼女の瞳が、僕を捉えている。

「やられちゃったな……」

「そうしなければ貴様を殺せぬというのなら、やる他なかろう」

彼女は満足げに微笑み、そして――魔力粒子と散った。

白魔術の領域に達した【大聖女】パナケア、ここで退場。

これに前後して、冒険者側の残る三つの戦いも、決着を迎えることになる。