作品タイトル不明
63.池袋アラグネシルク大作戦④
食事も終えてまったりタイム。時折魔物が突撃してくるけどすべて自動収納されていく。楽ちんでいい。
寝るのはテントで男女別になるけど、大きなテントを布で仕切っただけ。その中に人をだめにするクッションを置いて生ける屍になってたら那覇さんが向かいに座った。明日の打ち合わせかな。
「今回は助かったよ。無理言ってすまないね」
「困ったときはお互い様です。ドロップ品とかでうちにも利はありますし、あのふたりも全力を出していいのではっちゃけてましたし。自利利他ですよ」
「『自利利他』という言葉は初めて聞いたな。それも仏教関係なのかい?」
「えぇ。『自分の本当の利益は、人々の幸せを図る行為そのもの』。簡単に言えば『他者の幸せは自らの幸せ』って意味です」
「ふーん。情けは人の為ならずってとこかな?」
「あ、それです。とはいっても、自分を捨ててまでやる必要はないですけどね。まずは自分で、人を気遣う余裕が出れば、でいいと思いますよ。そもそも余裕がなければそれは助けてもらう側にいるはずなので」
人間は万能じゃないし。俺なんかヌケしかない。いつも助けられて生きてるくらいだ。みんなに感謝感謝だよ。
「じゃあ僕も何か坂場君の手助けをしないとね」
「俺の留守中にダンジョンを見てくれるとか、もうもらってますけど?」
「そんなことでいいのかい?」
「俺にとっては そ(・) ん(・) な(・) こ(・) と(・) がありがたかったです」
寺にできちゃったダンジョンを何とかするのが俺の望み。無くすことができない現状、俺が不在の時に対処できる強いハンターはありがたかった。とてもね。那覇さんはそれならよかった、と言ってくれた。思わず合掌。
「今回のこととは別なんだけど、坂場君の耳に入れておきたい情報があってね」
那覇さんがそう切り出した。なんだろう?
「口止めされている情報なんだけど、先日マラッカ海峡を航行中のタンカーが正体不明の何かに攻撃を受けて沈んでいるんだ。付近を航行していた船舶からの映像があってね、どうやら海中から、魔物からの攻撃で沈んだようでね」
「魔物!?」
「海中から光線のようなもので攻撃されてタンカーが真っ二つに割れて撃沈だった」
「いやなんで魔物が……ってダンジョンから出てきた魔物が海にいるってことですか?」
「その可能性が高い。タンカー以外にも周辺国の漁船とかがかなり被害を受けてるそうだ」
ふと頭に浮かんだのは、ツンドラちゃんだ。ツンドラちゃんなら可能だろう。
あのブレスならタンカーに大穴を開けられちゃうだろうね。ってことは、ダンジョンボスならば可能ということは……。
「大災害な気がするんですけど、どこかのダンジョンからダンジョンボスが出ちゃった感じですか?」
「確証はないけど、海の底にダンジョンがあっても不思議じゃない。特にあの辺は諸島だ」
「大問題じゃないですか」
ダンジョンボスは強い。ダンジョンのランクにもよるだろうけど、タンカーを沈めちゃうなんてランク3以上でしょ。あれを倒すのはかなり困難だ。海の中なんて俺でもきついぞ。
「これはスポンサーから聞いた情報でね。日本は原料を輸入して加工する国だ。原料がこなければ稼ぎがなくなる。紡績業も、今では完成品の輸入が多くてね。飛行機でも運べるけど、運べる量は圧倒的に少ないんだ。輸入がなくなるとスポンサーもつぶれてしまうけど、それ以上に日常でも困ることになる」
「服がなくなるんですね」
「そうなんだ。それもあって、今回はアラグネクイーンのほか、倒せるだけ魔物を倒して ドロップ品(スパイダーシルク) を持ち帰ってこいとも言われてるんだ。衣料品がこないのなら、原料を確保して国内で作るしかないってね」
「化学繊維はダメなんです?」
「あれは原油から作られるもので、船で来るものだからね」
「あー、そうでした」
あれは原油から作られるんだった。あ、そうすると。
「困るのって衣類だけじゃないですよねってか、世界中で起きるかもしれないじゃないですか」
「そうなる可能性はあるんだ。そうすると、資源の乏しい日本としてどうするか、だね」
発電のための天然ガスは、魔石発電で賄えるかもしれない。でも食料品とかガソリンも、在庫分しかなくなってしまうかも。
「一番は食料だろう」
「秋田ダンジョンが大人気になりそうだ」
コケケケみたいにダンジョン内で牧畜でもするか?
牛や豚をダンジョンに放てば魔物化するけど飼育可能になるのか?
魚は、勝浦ダンジョンに海があるか。魚の魔物もいるだろうなぁ。
「なんでそんな情報を知ってるんですか?」
「スポンサーは紡績業でもある。繊維の原料は原油だからね。タンカーが沈んだなんて情報は入るんだよ」
「あー、そっちから……」
「メディアは勝手に報道するだろうけどそれに対する政府から発言はないから内密にね」
那覇さんにウインクされた。そんな軽く言われる内容じゃないってば!
そんなショッキングな話をされたら寝られない。寝不足のまま朝を迎えた。と言ってもダンジョン内は一日のサイクルなんてないので明るいままだけど。
「ふわぁぁ」
現在朝の6時。あくびをしながら目玉焼きを作る。足りないから厚切りハムとウィンナーを添える。みそ汁は昨晩の残り。業務用炊飯器を2台持ち込んでるのでご飯は2升炊いた。余ったご飯はおにぎりにする予定。
「ウリャー!」
俺の横では葉子ちゃんがキャベツをみじん切りにしてコールスローを作ってくれてる。葉子ちゃんは器用だからか、料理が得意になってた。いまも『主婦を20年やってます』ってレベルの包丁さばきで人参のみじん切りが生産されてる。葉介さんにふるまうために覚えたんだとか。愛されてるなぁ。
「よっしゃ切ったドー! 後はミナヨロー」
「おっけー。混ぜるだけならわたしでもできるんだから」
美奈子ちゃんが巨大な金属のボールにキャベツと人参のみじん切りを入れてマヨネーズベースのドレッシングと混ぜ始めた。キャベツ2個、人参3本分だからパワーがないと混ぜることもできない。ある意味筋トレ。
「起きたら炊き立てのご飯があるとか、ダンジョンにいるとは思えねえ」
細マッチョの渡嘉敷さんがコーヒーを飲みながらそんなことを言ってる。俺がいれば当たり前ですが?
全員揃ったので「いただきます」だ。
「炊きたてはうめーな」
「味噌汁が胃にしみるー」
「キャベツのシャキシャキ感がいいよね」
好評だった。葉子ちゃんも美奈子ちゃんもニッコリだ。
おいしくいただいて食後の一服中。那覇さんが手を挙げた。
「今日の予定だけど、僕らと坂場君とは別行動にしようと思う。アラグネからのドロップ狙いは坂場君の方が絶対的に効率がいい。僕らはアラグネを倒しつつもスパイダーシルクも集めよう」
ふむ。8人いても戦闘だと暇してるから分けるのは賛成だ。俺の【仏の懐】だったらボスクラスはほぼ100%でドロップするからね。
「お昼はどうしますか? お弁当を作る時間がないし入れ物もないですけど」
「進捗も兼ねてお昼は集まろう。場所は、ここでいいかな」
「じゃあこの 安全地帯(駆け込み寺) はこのままにしておきますね」
【駆け込み寺】は、移動はできないけど置きっぱなしはできるんだよね。便利すぎて仏さまのお力のすごさがわかる。
「12時くらいに集合しようか」
ということになった。