作品タイトル不明
62.寺にいた猫又⑧
昼食後、さっそく錬金に入る。智は瀬奈さんと父さんを連れて墓地へ行った。
大き目なドーム状の盾を錬金し猫の巣の屋根にする。大盾を素材にするので耐魔法性能もある。
そのままかぶせてしまうと入り口がないので細長い盾を錬金して壁を作る。入り口は小さい開口で問題なし。地面には毛布を敷けばよいので床は不要だ。
「これだと載せるだけで屋根がとれちゃう」
「錬金では小さい穴は開かないでござる」
屋根を固定しないと、ゴブ骨の攻撃でとれちゃう。それじゃ意味がない。
「アーシのスキルでいけッカモ!?」
「葉子にそんなスキルってあったかしら?」
「さっき【貫通】ってやつを覚えタ! なんでも貫通するんだっテ!」
「もしかして、それで穴をあけるつもり?」
「やってみッゾ!」
葉子ちゃんが割り箸を持ってきた。まさかそれで穴をあけるつもりじゃ。
「イックゾー【貫通】!」
葉子ちゃんが割り箸を投げた。ゆるゆる飛んだ割りばしが何の抵抗もなく盾に突き刺さった。
「まじなりかッ!」
「うっそだろ!?」
「どどどどういうことでござるか!?」
【水平太閤】の3人が動揺しまくってる。かくいう俺も内心「うそやろ!?」ってなってる。
「葉子すげーじゃん!」
「ヘッヘー!」
葉子ちゃんが自慢気にぴょんとジャンプした。
「屋根の部分にもまだいくつか穴が欲しいし、それに対応する壁のパーツにも穴をあけて」
「マッカセロー!」
各パーツをつなぎ合わせるために、葉子ちゃんが矢で丸い盾の縁あたりに穴をあけて、京子ちゃんがその穴に鉄のワイヤーを通す。ふたりのやる気が漲ってる。
「通すだけでは抜けてしまうでござる。ワイヤーの溶着は拙者がやろうぞ」
秋山さんが挙手する。錬金でやれるらしい。京子ちゃんが通したワイヤーを引っ張ってきっちり接合させる。ワイヤーを握った秋山さんが大きく息を吸った。
「ふん!」
握られたワイヤーは2本が並んでいたはずが溶着して1本になっていた。パーツ同士を引っ張っても離れない。
「すげー! 錬金すげー!」
京子ちゃんが大興奮だ。同じことを何度も繰り返して猫ハウスが出来上がった。
「ありがとなおっちゃんら!」
「サンキュー!!」
暴走ワンコなふたりはできたての猫ハウスを頭上に掲げて食堂を出て行く。結構重そうなんだけども、それ。
「走るんじゃないよ! まったく。すまないね、しつけがなってなくって」
「俺も付き添いで行きますよ。3人はここで休んでてください。涼子さん対応お願いします」
「任せといて。3人はコーヒーでいいかい?」
「「「あ、はい!」」」
よし、涼子さんなら大丈夫でしょ。
その頃、智は墓地にいた。瀬奈と司に黒猫の有用性を証明するためにだ。曇り空だが雨は降ってない。
「黒猫を連れてくるね!」
たたっと駆けた智が黒猫と一緒に戻ってくる。長い2本の尻尾をぴんと立てて智の足にまとわりついてて、すっかり懐いていた。
墓地の周りの木には複数のカラスがいてお供えの団子を狙っている。それを見つけた司が困った顔をしていた。
「見てて!」
『にゃ!』
黒猫がタッと墓地を駆け、お供えの団子の前に座った。周囲の木を見渡し、標的をチェック。カラスが3羽。ロックオンだ。
『にゃッ!』
黒猫がひと鳴きするとカラスがグラッと揺れて木から落ちた。すぐにカラスはバタバタと慌てて飛んで逃げていった。黒猫は足取り軽く智の足元に戻ってくる。
「この子すごいでしょ! 墓地を散歩させておけばカラス除けとねずみも追い払えるよ!」
黒猫を抱え上げた智がふたりにアピールする。黒猫も『にゃ』とひと鳴きした。
「うむ、カラスを追い払ってくれれば助かりますな」
司が黒猫の頭を撫でる。これで決まりだ。横にいる瀬奈は苦笑いだ。
「名前を決めないといけませんな」
「名前は——」
「できたゼー!」
「できたぞ!」
葉子と京子が猫の家を持って本堂から駆けてきた。
「もうできたの!?」
「錬金のおっちゃんらが頑張ったゾ」
「おっちゃんらすげー!」
葉子と京子のほっぺが赤く、興奮の度合いがよくわかる。
「行こーゼ!」
「行くぜー!」
「ちょっと待ちなさいって。あ、ダンジョンに行ってきます!」
3人は墓地の屋根付き通路を駆けて行った。
「あんなに急がなくってもいいのに」
俺が本堂前に出たときにはふたりの姿は見えず、代わりに墓地の通路にいる父さんと瀬奈さんが見えた。智の姿がないから、ダンジョンへ行ったんだろうけど。父さんのところへ行く。
「あのふたりはダンジョン?」
「うむ、智さんも行ったぞ」
我慢できなかったか。
「興奮しちゃってマテが効いてないわねー」
瀬奈さんもため息だ。まぁ顔は怒ってないので想定内なんだろう。
「瀬奈さんには悪い警官役を押し付けてしまったようで、申し訳なかったですな」
「いえいえー、若い子の指導もわたしたちの役目ですしー」
悪い警官?
なにそれ。
「父さん、その悪い警官って何?」
「うむ。『悪い警官と良い警官』といってな、尋問に使われる心理的なやり方だ。悪い警官役が否定的な意見を述べて嫌われ、その代わり肯定的な意見を述べて信頼を得るのが良い警官役だ。心証が良くなった良い警官の言うことを聞きやすくなる。今回は瀬奈さんがストッパーになって問題点を挙げる役。父さんが解決方法を提案する役だ」
「欲しいものがあったらプレゼンして納得させないとねー」
なるほど、因果応報だね。
「生きて行けばそんな場面も多くなるだろう。今のうちにそんな考えを持っておけば、後々役に立つだろうて」
「いつまでもわたしたちが面倒を見れるわけじゃないしー、そのうち巣立つだろうしねー」
「ほほ、瀬奈さんはすっかりお母さんですな」
うむうむと満足した顔の父さんが本堂へ戻っていった。
「いつの間にそんな打ち合わせをしたの?」
ちょっとジェラシー。
「特にしてないわよー。お義父さまが察してくださっただけよー。ほんと、よく見てるわー。さすが幼稚園の園長さんねー」
「子供の行動はしっかり見てないと事故が起こるからね」
高校を卒業したけど、まだ子ども扱いなんだな。父さんから見たら俺もまだまだ子供だろうけど。
「問題は解決したぽいから、ちょっと見に行こうか」
瀬奈さんの手を握る。瀬奈さんはちょっと驚いて、にこっとした。
「頑張ったご褒美ねー」
「手ぐらいいくらでも握りますけど?」
「最近は智にばっかり取られてるじゃなーい?」
おっと、均等に扱わねば。ともかく、一件落着である。
なお、猫の名前は。
親猫:おはぎ
茶トラ:きなこ
三毛:ぷりん
黒:くろみつ
となった。くいもんばっかやんけー。