作品タイトル不明
62.寺にいた猫又⑥
朝食後、ようやく落ち着いて錬金の相談が始まる。テーブルには【水平太閤】の3人と向かいには智、葉子、京子が並ぶ。
「今日はありがとうございます!」
「ヨロシク!」
「さんきゅー!」
智のあいさつで始まった。期待が強い葉子と京子のワンココンビははすでに暴走気味だ。
「猫のケージの錬金と聞いているが、まことなりか?」
「それなんですけどー」
矢切からもっともな疑問をぶつけられ、智が説明をする。
「猫がダンジョンにねぇ……」
「初めて聞いたでござる」
「子猫までなりかー」
3人とも腕を組んで半信半疑だ。
「かわいいゼ!」
「オレの言葉もわかるんだ!」
葉子と京子がバシバシとテーブルを叩く。否定されたようで納得いかないのだろう。
「京子も葉子も静かにおし。それが人にものを頼む態度なのかい?」
「ハーイ」
「へーい」
涼子に咎められぶー垂れる始末。テンションが上がり過ぎだ。
「ゴブリンに殴られたくらいじゃ壊れないケージが欲しいんです」
暴走するふたりだと会話にならないので智が交渉の窓口だ。
「ふむ、ケージか。ケージ自体は錬金できないけど、そうだな、盾の変形としたドームなら可能かも」
「ドームですか……入り口を小さくとかできますか?」
「あくまで丸い楯を変形させるから入り口を作るって器用なことはできないなぁ」
錬金はレシピがありそれに沿ったものは創れるが、思いのままは創れないのだ。
「瑠偉、大小の盾を組んで入り口を作ることは可能でござるぞ」
「盾を金属板として壁にするなりな」
「おお、その手があったか!」
「3人もいるのだ。知恵を出しあうでござるよ」
どうやら話はまとまりそうだ。
その頃、単独行動をしている美奈子は黒猫を抱えて寺の墓地にいた。黒猫に、墓地に来るカラスやネズミを追い払う仕事を教えるためだ。
「お墓にカラスが来るからそれを追い払ってほしいの」
『にゃ!』
折よく1羽のカラスが墓地近くの木にとまっている。カラスの視線の先にはお供えの串団子がある。もちろんパッケージされているが鋭いくちばしの前には無力だ。
「やってみて」
『にゃ!』
黒猫はひと鳴きすると美奈子の腕の中から飛び出した。音もなく墓地をかけ、カラスの近くの墓石の上に飛び乗る。
『にゃ!』
黒猫が短く鳴くと数秒後にカラスが木から落ちた。地面に落ちて少しもがいた後バタバタと飛んで逃げた。黒猫はトテテと戻って自慢げに美奈子を見上げる。
「何かのスキル?」
『にゃあ』
「ふーん、威圧か何かかしら。鑑定じゃスキルがわからないのが残念ね」
美奈子は黒猫を抱き上げる。
「でも、そのスキルはかなり有用ね。墓地だけじゃなくって寮でも使えそう」
『にゃ!』
成果を確認できた美奈子は足取り軽くダンジョンへ向かった。子猫から親猫を放しておくのはよろしくないのだ。
「ってことで、ダンジョン産の鉄と魔石が欲しいの!」
「欲しイ!」
「欲しいぞ!」
猫の住処の方針が決まった後、なぜか俺に押し掛けてきた智、葉子ちゃん、京子ちゃん。
「まぁ鉄はたくさんあるけど」
なまくらの剣は大量にある。これもダンジョン産の鉄だし。でも二束三文で売れないんだよ。
「ほらほらー、錬金の素材は自分たちで集めないとよー」
響のおむつ交換中の瀬奈さんが口をはさんだ。なお、俺は標のおむつ交換中だ。双子だからか、おしっこも同じタイミングなんだよ。不思議なもんだ。すべては仏さまの思し召しなのだ。そうに違いない。
「それもそっか」
「鉄を落とす魔物ッテー?」
「ワイトのお供じゃねーの?」
「デュラハンも落とすけど」
「デュラハン! 倒しテー!」
「倒せばレベルも上がるぜー!」
諭された3人がぶちあがるけど、そこまで行くのが大変だからね?って智がいるし、京子ちゃんもいるから問題ないのか。何かあっても【カース】【ヒール】【キュア】【飛翔】を全部覚えてる3人だから何とかなるでしょ。普通に考えればとんでもないハンターなんだよね。
「楽しそうな話してるわね」
美奈子ちゃんが帰ってきた。あぁ、これはもう決定だな。師匠にこっそり監視してもらおう。
「美奈、黒猫はどうだった?」
「威圧系のスキルっぽいのでカラスを追い払ってたわね」
「おー、猫でもスキルダ!」
「かっけーな!」
猫でもスキルをゲットしちゃうの?
で、子猫もダンジョンに入ってるんだよね?
子猫もスキルをゲットしちゃったのかなぁ。だとしたら、制御できなくて無意識に発動されたらまずいな。智たちがダンジョンに行った隙に親猫とお話し合いしなきゃ。
「ちょっとダンジョンに行ってくる!」
「昼には帰るゼー!」
「行ってくっぜ!」
「行ってきますね」
4人が食堂を出て行った。さて、俺も今のうちに動きますかね。
「守くーん、わたしは授乳するからお願いねー」
「お母さんが頑張るのでお父さんも頑張ってきます」
猫とお話しするだけだけど。猫とお話しするっておかしいけどさ!
墓地を抜けてダンジョンにイン。隅っこにいるオルトロスの『ふがし』のもとへ。
「お疲れさーん」
『ふがし』のふたつの頭をクリクリ撫でて顎の下もモフモフする。猫の子守りありがとね。
『『わふふふ』』
目を閉じてるけど尻尾がぶんぶん振られてる。さらにお腹をもふろうとしたら子猫が顔を出した。
「えっと親猫は……あ、いた」
『にゃ』
『ふがし』の毛から出てきた黒猫が俺の前に座った。俺も地面に胡坐をかいて視線を低くする。
「君に話があってね」
『にゃ?』
「さっき美奈子ちゃんから君がスキルを使ったって聞いて、じゃあこの子猫たちはどうなんだろうって思ってね」
『にゃにゃ、にゃ』
「まだ覚えてない?」
『にゃにゃにゃ』
「成猫にならないとだめ?」
『にゃ!』
なんか普通に会話してる俺がいる。ダンジョンコワイ。
ともかく、この黒猫が言うには成猫にならないと意識が変わらないんだとか。
すべてを信じるわけではないけど、スキルを使えないただの子猫であれば、寒い冬とか母屋に連れ込むことも可能なわけだ。もちろん年中温度が変わらない墓地ダンジョンでもいいんだけど
「いまさ、智たちが君たちを迎えるためにいろいろ動いてる。その期待を裏切るようなことはしないでほしいんだ」
『にゃ』
「そうなったら俺は君を閻魔さまのもとに送らなきゃいけないんだ」
『にゃ、にゃにゃ』
「しないって? 理解が早くて助かるよ」
黒猫の頭をなでた。