軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

62.寺にいた猫又④

食堂を出た京子は墓地の通路を歩く。雨が降っているが屋根があるので濡れずに済んでいた。

「こんな屋根を簡単に作っちゃう兄貴はすげーなー。あ、司のおっちゃんだ」

雨の中、空を見上げる司を見つけた。今日は気楽な作務衣姿だ。

こーみるとおっちゃんと兄貴はよく似てるなぁと京子は思った。だって親子だもの。

「司のおっちゃん、何してんだ?」

「うむ、カラスがお供えを狙っておってな」

司の視線は空を旋回するカラスに注がれている。墓石には花とお供えの団子が置かれていた。もちろんパッケージされているが、カラスのくちばしはそんなものは突き通す。

「お墓のお供えを狙ってんのか! ヒデーやつだ!」

「カラスだけではなく、野ネズミもお供えを狙ってな、食い散らかす時もあるから困っておってなぁ」

司や守がお供えをいただくことはないので基本はそのままにして、月末あたりにまとめて片付けている。だから狙われるのだ。

「ネズミ? ネズミがいるのか?」

「都会では下水やら建物にいるが、ここらでは畑におる」

「畑かー。お供えを食べちゃうのは罰当たりだぞ!」

京子は腕を突き上げてムキーと憤慨した。ポーズではなく本気で怒っている。

京子はここに来てから貧しさと別れ、心にも余裕が出てきていた。母と一緒に暮らし、友達と言える葉子や仲間もできた。

だからこその憤慨だった。

「うむうむ」

そんな京子の様子を、司は微笑ましく見ている。来た頃の捨て犬のような有様を見ていればそうもなろう。今では元気なポメラニアンだ。

「京子さんは優しいのぅ」

「オレ? 優しくはねーぞ?」

「ほっほっほ」

司が京子の頭を撫でるが、その京子は首をかしげるばかりだ。京子には自分が不良な自覚がある。生き様を褒められたことなどない。そして心に余裕ができている自覚もなかった。

「しかし、困ったのぅ」

司は大げさに肩を落として、本堂へ向かった。

「困ってるのかー。おっと、猫だ猫だ! おっちゃんまたなー!」

京香はパンと手をたたいてダンジョンへ走った。

「どこだーっとあっちか!」

ダンジョンの階段を駆け下りた京子は、智ら3人がしゃがんでいる場所へ歩いて向かう。子猫がいると聞いていたので抜き足差し足だ。

『『わふ』』

『ふがし』が小さく鳴くと、智ら3人が振り返った。

「シーッ」

葉子が口の先に人差し指を当てた。どうやら子猫が寝ているようだ。京子はよりいっそう抜き足で近づく。

「ぉぉぉぉぉ!」

『ふがし』に埋もれる子猫を見た京子が小声で雄たけびを上げた。

「小さくてかわいいな! 名前はねーの?」

京子が智に聞く。親猫を抱っこしているからだ。

「飼えるなら名前は付けるけど」

「飼えねーの? さっき瀬奈ねーちゃんが、『役に立つならねー』って言ってたぜ」

「役に立つ……役に立つねぇ……あんた、何かの役に立てる?」

智が自分の目線に黒猫を持ち上げる。黒猫が力なく『なぅー』と鳴いた。

「司のおっちゃんが、カラスとかネズミがお供えを荒らすって困ってたぜ!」

「お義父さんが?」

「『こまったこまった』って言いながらどっかに行っちゃった」

「……そっかー」

「……なるほど」

智ならず、美奈子もピンときたようだ。葉子は「カラスー!」と憤慨する。京子と同じだ。

「ねぇあんた。墓地に来るカラスとかネズミを追い払える?」

『にゃん。にゃーにゃにゃー』

「捕まえたカラスはどうするのかって?」

「カラスは死んだ仲間を見ると集まって葬式をするって言うから、殺しちゃダメね。危険な細菌とかを持ってるかもしれないから余計にね。捕まえて『ここは危険だ』って思い知らせないと。あなた、わかる?」

美奈子が黒猫の鼻に指先を当てて提案する。

カラスは仲間の死体を見つけると、生きている仲間と思って寄ってくる。話しかけるが反応がないのを理解すると、仲間の死を認める。そして、この周辺にカラスに対して害のある何かがあると判断してそれを確認するという。

『にゃうにゃう』

「カラスは子供を狙うからいない方がいいって。それはそうね」

美奈子は黒猫と会話をしていた。

「トモもミナもずりーゾー。アーシも猫と話をしてーゾー!」

『にゃ!』

「ん? ガンバルー?」

『にゃにゃ!』

「おー、ガンバレー!」

「なんだよー、オレも話してーよー」

『にゃにゃー』

「役に立てないと ここ(寺) にはいらんねーぞ? オレも頑張ってるんだぜ!」

『にゃ!』

「そーと決まれば司のおっちゃんに相談だぜ!」

「待ちなさい京子。その前に実績が必要よ。カラスとネズミを退治できたって実績がね」

美奈子は暴走しそうな 京子(ワンコ) をガシっと捕まえた。まだ早いのだ。

実績という説得力を持ってからでも遅くはない。いますぐ出て行けとも 言(・) わ(・) れ(・) て(・) い(・) な(・) い(・) のだ。

「それとは別に、子猫の居場所を作らないといけないわね」

「地面は冷てーゾ」

「じゃあホームセンターのペットゾーンで何か探してみよっか!」

「オレもいくぞ!」

「『ふがし』、猫たちを見ててくれる?」

『にゃぁ』

智が『ふがし』にお願いすると黒猫も続いて鳴いた。

『『……わふ』』

『ふがし』は不承不承という感じで応じた。

「よっしゃ、買い物だー!」

「よーし、アーシが運転してくゼ!」

「まかせた!」

元気な金髪コンビはトトトと駆けてダンジョンを出ていった。置いてけ堀の智と美奈子。

「京子が来てから、葉子の暴走度合いが上がってるわね」

「リードをつけてないとどこに行っちゃうかわかんない」

「「はぁ」」

美奈子と智は揃ってため息をついた。

「守、ちょっと出かけてくる!」

「スケ兄、出かけてクルー! アーシが運転だゾー!」

「かーちゃん、買い物に行ってくるぜ!」

「ちょっと、どこに行くか言いなさいってば。ちょっとホームセンターへ行ってきます」

4人が墓地から戻ってきて、バタバタしてまた出かけた。ホームセンターってことは、猫グッズを買いに行くのかな。

「葉子、安全運転で行きなさい」

「イエスマァァァム!」

遠くで葉子ちゃんが叫んでる。ちゃんと聞こえたらしい。

「いい案が出たのかしらー?」

「だといいのですが。葉子も京子も暴走しがちですし」

「美奈子がストッパーになってるから大丈夫よー。たぶんねー」

瀬奈さんと京香さんがお茶しながらそんなことを話してる。あーは言ったけど、後輩を信頼してるんだよ。学びのために我慢しているともいえる。

「おっと。そろそろ昼の用意をしないと」

家事をしてると時間がたつのが早いよ。涼子さんが「なににしようかねぇ」と冷蔵庫を覗いた。

「うーん、お昼は親子丼にでもしようかねぇ」

「いいですね。コケケケの肉が余ってるんで消費しないと」

「おや、卵が足りないね。京子に買ってきてもらおうか」

涼子さんがスマホをいじり始めた。涼子さんがいてすごく助かる。

猫に関しては別に焦ることはないから、どっしり構えてよう。