作品タイトル不明
40.獄楽寺の年末年始は忙しい クリスマス③
食後。めいめい好きなことをするためどっかに散っていく。食堂に残っているのは俺と奥様ズだ。
グッドタイミングである。
「ク、クリスマスプレゼントがあるんだ」
唾を飲みながら切り出す。緊張するなぁ。
「なになにー」
「ワーウレシーナー」
「ドキドキしますね」
智の反応がおかしい気がしたけどまあいいか。収納から小さな桐の箱を3つ出してそれぞれの前に置く。3人はじっと箱を見つめてる。やべえ、ドキドキで心臓が宇宙に飛んでいっちゃいそうだ。
「ペンダントをね、作ったんだ」
「ペンダント……まさか!」
京香さんが箱をパカっと開けた。続いて瀬奈さんと智も開ける。
中に入ってるのは、大きな青い真珠をペンダントトップにしたペンダントだ。青い真珠はサハギン大真珠で、海の様に真っ青で20ミリはある巨大な真珠。全くゆがみがない完全なる球体なんだそうな。
ペンダントにするにあたって台座はプラチナ、チェーンだと目立つので紐にしたけどシルクで覆い隠したもの。さすがビッチさん。さすビ。
「サハギン大真珠……」
「それって、あたしが勝浦ダンジョンで襲われたサハギンのドロップ品?」
「そのボスのサハギンダインのねー」
「大真珠は1個しかなかったはずです。それがなぜ3個も?」
「ソレなんだけど、日比谷ダンジョンで使うための海水を勝浦ダンジョンに取りに行ったときにサハギンの群れをいくつか潰したので、その時にゲットしたんだよね」
「あの時に……」
京香さんが唖然としてる。
「前に京香さんに聞いたけど、前例ないから時価数億円くらい? でも、大きいけど玩具に見えなくもないし、普段使いにも使えるでしょ?」
「お、億ぅぅ!?? 高価すぎてつけられないわよ!」
「守君からのプレゼント……毎日つけます」
「アレルギーは関係ないのがいいわねー。妊婦の私でも安心だわー」
「え……」
「遠くから見たら高そうには見えないので、智も安心してつけなさい」
「真実の目を持っている人は三度見くらいするから、その人なら信用できるって判断材料になるわよー」
「そそそうなんだ」
智が説得されてる。
「俺としては、価値云々は脇に置いて、つけてくれると嬉しいかな」
「うーーー。守にそう言われちゃったら、つけるしかないじゃない」
智がアヒル口になった。
「ツンデレ智が可愛い件」
「あによツンデレって!」
「きゃー、 智(妹) が可愛いわー」
「うんうん、照れ隠しが可愛いですね」
「むぅぅぅぅ」
3人にヨシヨシされて釈然としない顔してる。愛されてるんだぞ。
「「「つけてー」」」
3人同時に言われた。お付けしますとも!
「年齢順ね。特に意味はないからね!」
瀬奈さん京香さん智と順につけていく。鎖骨に真珠が来るような長さになってる。ジャストサイズ!
シンプルだからか、あまり目立たないですんでる。
「上から見ると、結構な存在感です」
「タートルネックでも大丈夫そうねー」
「わーーー、ペンダントなんて初めてー」
「「「ありがとう!」」」
3人からほっぺにちゅーをいただきました。今なら悟りを開けそうな気がするよ。
「じゃあー私たちからもプレゼントねー」
3人からプレゼントをもらってしまった。
智からは作務衣に似合う手編みの黒いネックウォーマー。裏地には「浮気厳禁」と書かれたタグがあった。智の視線が刺さりまくる、はいしません!
瀬奈さんからはスパイダーシルク製の半襦袢、京香さんからは同じくスパイダーシルク製のステテコだ。黒と白の2種類。作務衣の色で着わけができちゃう!
ステテコって冬の和装には必須なんだぜ。今時はファッションステテコもあって夏にも履けるんだ。
「ありがとう! 100年は働けそうだ!」
嬉しい。マジ嬉しい。
その場でプレゼントを身に着けた。体も心もホッカホカだぜ!
そのころ、気を利かせて本堂前に退避した美奈子と零士は、甘酒で暖をとっていた。快晴なのか月がきれいに出ている。
「師匠、クリスマスプレゼントです!」
「んあ?」
美奈子は大きな紙袋を渡す。かなり大きく、ショタ形態の零士がだっこするように持つほどだ。
「いや俺には……」
「開けてみてください!」
渋ってた零士だが美奈子のニコニコ笑顔に屈服し、包装紙をぴりぴり破いていく。出てきたのは大きな黒いベンチコート。ブランド名などはない。かなりダボっとしていて、裾はショタ零士のくるぶしまでありそうだ。
「これなら、鎧姿の師匠でも着れると思うんです!」
美奈子に瞳は期待でキラキラだ。あまりのまぶしさに零士は目がつぶれる思いだ。
着ろってか。まぁ、拒否する理由もねえな。
零士は美奈子の圧に従った。
大袖と呼ばれる、二の腕辺りの盾のような鎧もすんなり入る。前面はファスナーで、隙間から中が見えることもない。襟もフードもあり、首もとを隠せばその辺にいそうな少年だ。
「やった、ぴったり! 師匠、似合ってます!」
「そ、そうか。これを着てても動きやすくはあるな」
「腕の部分は伸縮素材を 使(・) っ(・) た(・) ので動きを阻害しません!」
美奈子は乙女の祈りのような姿勢で零士の全身を穴があくほど眺めている。
「ちょっとまて。使った、と言ったが、これはオーダーなのか?」
「そうですよー、黄金騎士団の宮古さんに頼んでアパレル会社を紹介してもらって、作りました!」
えへへ、と美奈子は年相応な笑顔を見せる。普段のストイックな顔からは想像できない。
無茶しやがって、と零士はあきれ顔だ。
「これで師匠もお出かけできますね!」
零士のあきれ顔など眼中にないのか、美奈子の笑顔は弾けそうだ。
零士が寺から出たのは唯一、船橋ダンジョンと日比谷ダンジョンにくっついていった時だけだ。それ以外はずっと寺かダンジョンにいる。鎧兜姿で顔も白く、まるで死人だったからだ。
別に外出しなくても退屈してはいないが、自分のためだと思うと悪い気はしない。素直に感謝する。
「ありがたくもらったはいいが、なにかを返そうにも先立つものがねえな」
零士はうーむと考える。
外出する必要のない零士には金がない。魔物を倒した魔石の稼ぎはあるが特に使い道がないのですべてギルドに投げていた。
裏では京香がきっちり零士名義(偽名)でかなりの額を貯金していたが零士は知る由もない。
「そんなのいらないです。その代わり、一緒にお出かけしましょう! 師匠に見せたいものがたくさんあるんですよ!」
美奈子は流れる動作で零士を抱き上げ膝の上に乗せる。ショタ零士は美奈子に比べれば背は低いが、それでも膝上抱っこされる背丈ではない。が、美奈子はうふふと笑みをこぼす。
「顔色もお化粧でごまかせますし、あ、変装用眼鏡もいいですね!」
「俺は化粧なんぞせんぞ!」
「顔とかの皮膚病を隠すためのドーランとかもあるんです!」
「むぅ?」
「実は、わたし普通自動二輪の免許を持ってるんです! 師匠のヘルメットも買ってあります! 人目を気にしないでお出かけも可能です!」
「なに!? バイク免許だと? 俺も昔は乗ってたな。カワサキのニンジャだ。いいバイクだった」
「ニンジャですか! わたしはスズキのGSX250です」
「渋いチョイスだな」
「そうだ、タンデムデートしましょう! プレゼント返しはそれがいいです! 今からバイクを取りに帰るので、明日の日の出を見に行きましょう! 夜明けの珈琲です!」
「おい美奈子、ちょっと落ち着け!」
「善は急げっていうじゃないですか!」
「何時だと思ってるんだ」
「まだ21時です!」
興奮で暴走気味の美奈子は止まらない。零士と趣味が合うのだ、これは運命に違いないと知能指数をダンゴムシくらいにまで落として駆け出した。