作品タイトル不明
40.獄楽寺の年末年始は忙しい クリスマス②
12/24。世はクリスマスイブの文字で埋め尽くされている。ビッチさんから出来上がったという連絡を受けて軽トラを飛ばして成田へ。先日の喫茶店でビッチさんと落ち合う。
「できましたわ」
綺麗な桐の小箱が3つ、テーブルに載せられた。確認しろというのでパカッと開けてみる。
「おおおお、すごい!」
「主役を邪魔しない意匠にするのが大変だったと職人が言ってましたわ」
「ありがとうございます!」
これなら、喜んでもらえるかな。喜んでほしいな。
「自分の作品の見本として写真を使っても良いかと言われましたが」
「出所を問われるのは勘弁なんだけど、その辺を秘密にできるならいいけども。やらかしたらお尻ぺんぺんして閻魔様の前に突き出しますよ?」
「覚悟があるなら、と伝えておきますわ」
ビッチさんは真剣な顔で返答した。脅すつもりはないけど、罰がないとやらかすからね。
「えっと代金は――」
「先日の賄賂で十分ですわ」
そうですか。渡した賄賂はサハギン真珠を瓶に詰め込んだものだけど。それで足りるならそれでよし。京香さんにばれないように現金を用意したんだけどな。また新しいドロップ品をゲットしたら賄賂で渡そう。
ちなみに俺の財布とかハンター用電子マネーは京香さんに筒抜けなのさ。
「良いクリスマスを」
喫茶店を出て寺に戻った。
さて、これからも忙しいんだ。ケーキを作らねば。
買うのもいいんだけど、作りたいよね。
まずは寮のキッチンでスポンジケーキを焼く。
ケーキと言えば丸だよね? 型はないので四角く焼いて丸くカットだ。
手作りだからサイズとか関係なく、直径30センチ程にする。3段にしたいのでスポンジケーキは3枚焼いた。
「手伝うわよー」
甘い匂いがしたからか瀬奈さんがやってきた。遅れて京香さんと智もだ。柏兄妹は今日はお休みで、美奈子ちゃんは零士くんとダンジョンだ。みんなそれぞれやりたいことがあるんだよ。
「イチゴをカットしてほしいのと、あとは生クリーム作りです」
「りょーかい」
「イエスマスター」
「はーい」
ハンドミキサーを買ったから腕も痛くならないぞ。市販のホイップと砂糖をガラスのボウルに注いでギュイイインと撹拌する。もちろん氷水で冷やしながらね。
「守、ケーキデカくない? 何号サイズよこれ」
「10号に近いかな。それくらいなら食べちゃえるかなって」
大きすぎたかもしれない。はしゃぎすぎちゃったか。来年は考えよう。
「守くーん、イチゴはどれくらい切るのー?」
「スポンジの間に入れるのが30個で、上に載せるのが20個ですかねー」
「守君、ホイップの硬さはこれくらいでいい?」
「こっちはデコレート用なのでもうちょっと硬めで」
みんなでやると楽な上に楽しい。子供の頃にやりたかったなぁ。胸がチクッとしたけど、いまそれがかなったと思えばいいんだ。
「ホイップもできたのでスポンジケーキの上にホイップを盛って、切ったいちごを載せてさらにホイップで埋めましょう」
「イチゴが甘ーい」
「食べるのは余ってからにしてくださーい」
同じことをもう一回やって3段目のスポンジケーキを載せる。
「じゃーん。これで基礎ができました! ホイップで お化粧(塗り) しましょー」
「塗るぞー」
「塗るのって意外と難しいのね」
「ホイップ美味しいです!」
つまみ食いはほどほどにねー。
「最後にホイップを絞りましょー」
「まかせてー!」
「ふふ、実は手先は器用なんです」
「じゃあこっちはあたしがやるー!」
俺は裏方に徹して、ホイップ塗るとか飾りつけとかは奥様ズに任せてる。わちゃわちゃしながらの笑顔はプライスレスなんだ。いつまでも眺めてられる。なんならご飯も行けるぜ。
「最後にチョコ板とお菓子サンタを載せたら完成!」
「いいじゃーん!」
「やったー!」
「イチゴが沢山で豪華ですね」
30センチ級のケーキは存在感も半端ない。でもたぶん食べきっちゃう。それもいいよね。
夕食の時間になれば食堂に集まってくる。俺、父さん、奥様ズに零士くんと美奈子ちゃんだ。北国分さんは実家に呼びだされたらしく外出してる。もしかしたらデートかもしれない。
ケーキという重いデザートがあるのでひじきの煮物と、骨付き肉のかわりに鶏肉の竜田揚げとベビーリーフをたくさん。味噌汁は豆腐と玉ねぎ。
「「「「「いただきまーす」」」」」
「うまうま」
「熱い味噌汁が良いのよねー」
「それですよー」
温かい料理は心がほっとするよね。動画サイトのクリスマススペシャルをBGMに、みんなの顔も明るい。
「お待ちかねのケーキ! 4人で作りました!」
「「「いえーい!」」」
キッチンから運んでテーブルに載せる。『あたくしケーキですわよ』って存在感が凄い。
「守、今年はずいぶん大きいな」
「瀬奈先輩の手作りケーキ!」
「シンプルだがうまそうだな」
父さんが驚いて、美奈子ちゃんと零士君がのぞき込む。ふふ、奥様ズは平静を装ってるけど口もとがむずむずしてて今にも自慢話が始まりそうだ。がんばって作ったもんね。
「うむ、上品な甘さだ」
「我ながらおいしいわー」
「師匠、ほっぺにクリームがついてます」
「あん? この形態だと口がちいせーんだよ」
「あーんしますよ、はいあーん」
「自分で食うぞって押し付けるな!」
「自分で作ったケーキを誰かに食べてもらうのは初めてですが、胸が熱くなりますね」
「いいもんでしょ」
「おいしー!」
ケーキは完売しました。やったぜ!