作品タイトル不明
40.獄楽寺の年末年始は忙しい クリスマス①
クリスマス。
異教の行事だけどもはや日本の風物詩になるまでには定着してしまった。うちの幼稚園でもやるしね。
で、クリスマスとくればプレゼントなんだけど、ちょっと悩んでる。
お世話になってるというか頼り切っちゃてる奥様方には何か送りたい。もちろん父さんにも送るつもりだけどさ。
うちはお金も厳しかったから小さいときからプレゼントとかは無縁だったし。ありきたりのものしか思い浮かばない貧乏性が恨めしい。クソウ。
「お金はなくとも気持ちが伝われば、ってよく聞くけどさー。現実は、そう簡単にはいかないんだって」
金に困ることはなくなったけど、何かを買うにしてもセンスが貧相な俺じゃな。
オンリーワンとかカッコいいけど。収納の中を漁ってみるか。
「んー、肉は普通に食べてるしポーションとかじゃないし。なんかこれじゃない感のものしかない。あ、これならいけるか?」
困ったときはこの人だ。ということで、連絡を取ってみた。
翌日、ちょっと買い物に行ってくると出かける。成田あたりでビッチさんと待ち合わせ。適当な喫茶店に入る。見慣れた高級ミニバンがあったので先にいるはず。探せば、ビッチさんに信号機の3人がいた。
早速相談だ。
「メールで送った通り、これの加工をしたいんです」
収納からさっと出す。ビッチさんのこめかみがピクリと動いた。
「……クリスマスプレゼント用かしら?」
「仰る通りです」
「……あなた、これの価値がお分かりで?」
ビッチさんのこめかみがぴくぴくしてる。怒らなくってもいいじゃん。
「お高いのだけは知ってます」
「そうでしょうよ……」
ビッチさんに盛大なため息をつかれてしまった。俺が贈れるものでオンリーワンを考えたらそこに行きついたんだ。改めて、俺には何もないって気づかされた。
「で、うまく加工すればよろしくて?」
「話がはやくて助かります」
京香さんを真似てみた。そこ、呆れのため息を吐かないで。
「予算は如何程を?」
「いくらでもいいですけど、うーん、1000万くらいで収まると助かるかな」
「ダイヤのネックレスでも作るおつもり? そのあたりは装飾職人と相談しますわ」
「ビッチさんは頼りになるなぁ」
「ふふん、当然ですわ! ってビッチじゃありませんことよ!」
ビッチさんはテーブルをバシーンと叩いた。信号機さんらは苦笑いだ。アイアンビューティよりもこっちのほうが有名なんだろうね。
最近は妊婦なので露出もなく、人気はちょっと落ちたらしいけど、ハンターよりも商売の方に心血注いじゃってるから気にしないんだって、信号機さんらから聞いた。
その3人はちょこちょこダンジョンに入っては魔物減らしボランティアをしてるみたい。見た目こそホストみたいだけど真面目なんだ、彼らは。
「3人もプレゼントを?」
「もちろん!」
「内緒っすけどね」
「驚く顔が見たいんですよ」
信号機さんたちもあるらしい。自信満々で羨ましい。
あ、これを渡さねば。
「これは、賄賂です」
賄賂にとあるものが入ったガラス瓶をテーブルに載せた。
「ああああなた、この価値がおわかりなのかしら?」
「綺麗ですよね」
「それをこんなガラス瓶に入れてしまって……そうね、あなたはそんな人だったわね……」
痛い人を見る目を向けられてしまった。サーセン。
ちょっと世間話をして打ち合わせは終わった。
一安心して機嫌よく寺に戻ると。
「守君。軽トラのGPSが成田にいたと記録がありますが、どこへ行っていましたか?」
速攻で京香さんに捕まってしまった。見つめてくる視線が湿度高めでねっとりしてる。
疑われてる感じだけど内容は話せないし。サプライズしたいので、なんとか誤魔化したい。
「ええっと、成田に仏具屋さんがあって、ちょっとそこを見に行ってたんだ」
「…………仏具店ですか。新勝寺がありますし。仏具店も多いですね」
「そ、そうなんだよ」
よし、誤魔化せたぞ!
翌日、ビッチさんからメールが来た。
友達価格で1個当たり10万くらいだそうだ。思ったよりも安い。オーダーメイドなので一桁上も覚悟はしてた。
デザイナーがやる気なので数日中にできちゃうとのこと。やる気出しすぎでしょ。ありがたい。
ちょっと怪しい動きをしている守の様子から「まさかの浮気?」などと不穏な考えになりつつあった京香だが、ビッチからのメールで現実に戻された。
なるほど、こういうことなのですね。
「これは、嫁会議が必要ですね」
守がのんきにひとりで風呂に入っているころ。食堂には智、京香、瀬奈の3人が集まっていた。
テーブルには暖かいほうじ茶と漬物。ポリポリ
「京香ちゃん、どうしたのー?」
「何かあったんですか?」
「昨日、守君が外出したのですが、どうやら成田に行っていたようで」
「成田ー?」
「守が成田に行く用事なんてあったっけ?」
同時に首を傾げる智と瀬奈。心当たりはない。
「仏具の店と言っていましたが、守君の顔はそうは言ってませんでした。何だろうと思っていたのですが、その答え合わせのメールがビッチさんから来まして」
「ビッチさんからー?」
「上野さん?」
同時に首を反対側に傾げる智と瀬奈。行動がだんだん似てきている。
「どうやら成田で守君と会っていたようですが、それは、この時期特有のクリスマスプレゼントについての相談だったようです」
「もしかして、あたしたちへの?」
「恐らくそうでしょう」
「何をくれるのかしらー? 楽しみだわー」
「中身は開けてのお楽しみと書かれているので知らないふりをしろということでしょう」
「知らんぷりかー、あたし苦手」
「なにくれるのーって聞いちゃいそうー」
「そこはステイでお願いします。それと同時に、私たちもプレゼントを考えていると思いますが」
京香がふたりの顔を見る。智が視線を逃した。
「智は、こっそりなにか編んでますね?」
「べべべべつに、編んでないしー」
「智も嘘がへたですね。それも開けてのお楽しみですね。私は、守君のインナーです」
「あら、私もインナーを頼んじゃったわよー」
「私はステテコにしてます。スパイダーシルク製で冬もあったかさらさらです」
「わたしは半襦袢にしたわー。かぶらなくてよかったー」
「あたしは別なものだけど、みんな着るものだ」
「そうねー。守くんはあまり欲しがらないし、高いもの買っても萎縮しちゃうかなーって」
「守君の生い立ちを考えたら贅沢はできなかったでしょう」
「普段使いなら着るかなって。あと作務衣って首元寒そうだし」
「それです。作務衣はそこが寒そうです」
「風邪予防も大事よねー。守くんが風邪ひいちゃったら添い寝して看病しちゃうけどー」
「瀬奈先輩は移されちゃダメですからステイです」
「あらー、それは京香ちゃんもよー?」
「ふふふ、じゃああたしが独占ね!」
「「ずるい!」」
守が風呂から出るまでこの姦しいお茶会は続くのだった。