軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

169:婚約者の意外な弱点

アンジェラに会った後はエミーリャに話をしに行ったのだが、南の王子は相談に快く応じてくれた。

「……というわけで、エミーリャ殿下、セルーニャ殿下にもお伝えしたいのです」

「確かに、兄上にも知らせておいた方が良さそうだ」

「よろしくお願いします」

「けれど、ブリトニーの予想通り、兄上はそのことを知らないだろうね。知っていれば、何かしらの行動に移しているだろうから」

「ですよね」

「兄上は中央の国へ来たがっていたから、これを機に呼んじゃおうかなあ。もうずっと兄上に会えていなかったから、兄上成分が足りなくて……」

エミーリャの瞳がキラキラし始めた。南の兄弟は、本当に仲良しだ。

「君の未来の話は兄上からも聞いているし、心配いらないよ。こちらも気をつけているけれど、今の王宮でそれらしい動きは出ていない。けれど、北の国の王女の話は心配だね。こちらでも、部下に命じて王都を捜索させてみよう」

「ありがとうございます」

南の王子たちが力を貸してくれることはありがたい。

そして、もし何かあっても全力で処刑を回避する所存である。

(ううん、それだけじゃない。この国を守ることも視野に入れておかなきゃね。だって、ハークス伯爵領は、北の国から中央の国を守る要の土地だし。私は、そこの令嬢なんだから!)

自分の不幸を呪い、嘆くだけだった白豚令嬢はもういない。

少しずつ、本当に少しずつだけれど、私は様々なことを学んで着実に強くなっていった。

肉体的にもそうだが、なによりも精神的に。

まだまだ完璧にはほど遠いけれど、今まで頑張ってきたことは、きっと無駄にはならないはずだ。

もちろん全てではないが、仕事を通じて、中央の国の色々な土地を見た。そこには、様々な人々が一生懸命生きている。私たちが守らねばならない人々が。

ヴィーカの口にしたことが本当なら、なんとしてもそれを阻止せねばならない。

少女漫画の通りなら、アンジェラを唆して動かしていたブレーンがいたはずだ。

その人物は、一人ずつ中央の国の王族を削っていき、ブリトニーを陥れてハークス伯爵領も潰した。

(ちょっとだけ、気になることはあるんだよね……)

以前見た、ルーカスの黒い瞳が頭から離れない。彼は何かを知っているのではないだろうか。

(けれど、彼に前世の記憶のことを持ち出して質問するわけにはいかないし)

中央の国の味方という立場を取っているルーカスは、何かあれば真っ先に知らせてくれるはずだ。

ともかく、現状では北の国が攻めて来ても防衛できる。王族は全員無事だし、リュゼも生きているし、今のハークス伯爵領には、リカルドという強力な助っ人もいるのだから。

さらに、アスタール伯爵領にはアンジェラやエミーリャが来る予定なのである。

エミーリャの協力を取り付けて、城を後にする。建物を出て前庭を歩いていると、後ろから声を掛けられた。

振り向くと、なんとルーカスが立っている。つい先ほどまで彼のことを考えていた私は、僅かに動揺しながら挨拶した。

「お久しぶりです、ルーカス様」

「こんにちは、ブリトニー嬢。こちらへ来られていることは聞いていたので、お会いできて良かったですよ。それはそうと、リカルドと婚約したと小耳に挟んだのですが」

「え……?」

彼との婚約は、まだ公にはなっていないはずだ。マーロウや一部の人間だけが知っている内容を、なぜルーカスが知っているのかと頭をひねる。

(リカルドがうちの領地に来ているから、察する人は多いよね)

彼は、私の態度を意に介さずに話を続けた。

「おめでとうございます。なかなか二人が引っ付かなくて、やきもきしていたんですよ。まさか、リカルドがハークス伯爵領へ行くとは思いませんでしたが。僕はてっきり、あなたが王都へ来るものと……」

「ええと、普通はそうですよね」

「寂しくなります」

リカルドとルーカスは、仲の良い友人同士だ。そんな彼を王都から引き剥がしてしまって、敵国で孤独なルーカスに申し訳ない気持ちになった。

「ルーカス様、良かったらハークス伯爵領へ遊びに来てくださいね。リカルドも、あなたにお会いしたいだろうと思いますので」

「ええ、ぜひそうしたいのですが。僕の移動には制限が掛かりますからねえ。不便な身の上ですよ」

「……ええと、北の国は、その後、大丈夫なのでしょうか? 賠償で色々むしり取られて大変だと聞き及んでおります」

話の流れに合わせ、それとなく探りを入れてみる。

「まったく……あれは北の国の自業自得ですよ。国としては元々困窮していますし、資金繰りは相変わらず厳しいみたいですね。王は姉たちを少しでも裕福な他国へやろうと躍起になっています。とても再び戦を起こせる状態じゃない」

「そうですか。軍備には、お金が要りますものね」

ルーカスの様子を観察したが、特に不自然なところはなかった。いつも通りの彼だ。

「そういえば、ブリトニー嬢。温かいワインを開発されたそうですね。冬にエミーリャ殿下に少し分けてもらったのですが、美味しかったです」

「試作品だったのですが、気に入っていただけて良かったです。今度は、ルーカス様にもお送りしますね」

「楽しみにしています。そうだ、ワインと言えば……リカルドはとても酒に弱いんですよ」

「ええっ、そうなんですか?」

「菓子に入っているような微量な酒でも、真っ赤になってしまうんです」

「そういえば、彼がお酒を口にしているところは見たことがありませんね。うちの製品の試飲は、主にリュゼお兄様が担当しているので」

「ブリトニー嬢の前で、酔った姿をさらしたくないのでしょう」

そうして彼とは軽い世間話をし、私は庭を後にした。

ヴィーカのことを告げようかと迷ったが、彼女が潜伏していることもあって思い留まった。

北の国の兄弟たちは、仲が悪いと聞いている。

それに、何かあれば、ヴィーカは一番近くにいるルーカスに接触しているはずだ。

ある程度の事情が分かるまでは、軽率に動くのをよそうと思った。