軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

170:白豚令嬢と侯爵令嬢

エレフィスのダイエットは、遅々として進んでいなかった。

もともと百キロ近い彼女の体重は、まだ九十九キロを抜け出せていないのだ。

というのも、エレフィスがこっそり、高カロリーの食事をしているのが原因なのである。

目を光らせているものの、完全に彼女の食事を管理することは出来ない。エレフィスは、あらゆる手を使って高カロリーメニューの間食をしようとする。

発見したら、既に食べた後なんてことが多く、どうしたらいいのか分からない。

こればかりは、本人のやる気が必要だ。

そして、彼女の母親であるイレイナ夫人だけがダイエットに乗り気で、どんどん細くなっているのであった……!

この日のイレイナ夫人は、とてもソワソワしていた。

というのも、私の連絡を受けたリュゼとリカルドが王都にやって来るからだ。

「うふふ、リカルド様もイケメンよねえ?もともと美少年だったけど、いい感じに成長したというか……北の伯爵といい、リカルド様といい、身近にイケメンがいるブリトニー様が羨ましいですわぁ」

「ぐっ、ぐふふ」

こちらにいる間、彼らはそれぞれ、城の一室を借り受けて行動することになっている。

マーロウと仲が良いので、色々と優遇してもらっているらしい。

最近は、王都に小さな屋敷を買って、臨時の住まいにしようかという話も出ているのだが、領地と王都を行き来することが多いので、そういう場所があれば便利だと思う。

貧乏を脱却して屋敷を買えるまでになったというのは、感慨深い。

午後になり、リュゼとリカルドを乗せた馬車が侯爵家の屋敷に到着した。

馬車から駆け下りたリカルドは、私に走り寄って「会いたかった」と抱きしめてくる。

突然の事態に、私は顔を真っ赤にしながら目を白黒させるのであった。

そして、その後、リカルドはいつものようにリュゼに引っぺがされるのであった。

「ブリトニー、君の話を聞いて王都へ来たよ」

リカルドを引きずるリュゼが、朗らかな表情で話しかけてくる。

(最近のお兄様、リカルドの扱いが雑)

打ち解けているのだよね、と前向きに捉えることにした。

「お兄様、北の国の詳しい話は、後ほど……」

「そうだね。ここでする話でもないし」

イレイナ夫人は、歓迎モードで二人を出迎えている。

今日のリュゼとリカルドは、私を訪ねて侯爵家を訪れたお客様という立場だ。

エレフィスは、連日のダイエットから解放されて嬉しそうにしている。

お客と一緒になら、お茶菓子を堂々と食べられると思っているのだろう。

だが、リュゼやリカルドは、彼女がダイエット中だということを知っているので、そんな中でお茶菓子を大量に食べたら……ダイエットが上手くいっていないことがバレバレだ。

(他人のダイエットは難しい)

広めの客室へ案内された私たちに、お茶とお菓子が振る舞われる。

横目でエレフィスを見ると、彼女は嬉々としてお菓子をつまんでいた。予想通りだ。

「エレフィス様……?」

「うっ、今日だけですわ。お客様がいらしているのに、何も食べないというわけにはいかないでしょう?」

小声で注意すると、エレフィスはもっともらしい理由で反論する。

リュゼやリカルドは事情を知っているが、エレフィスはお菓子を食べられるチャンスを逃したくないようで、必死にケーキを頬張っていた。

その様子を見て、リュゼやリカルドは、彼女のダイエットが上手くいっていないことを察したようだ。

なんとも言えない生温かい視線を送られた。

イレイナ夫人やエレフィスと談笑し、その後はハークス伯爵家のメンバーでエミーリャに会いに行く。

馬車に乗って夕方の街中を走り、しばらくして城に到着する。エミーリャは開放された客室の一部屋で私たちを待っていた。

ここはエミーリャが自由に使える客室らしく、少々模様替えがされている。

床に敷かれた絨毯は南の国の特徴的な模様が織り込まれたエスニックなものだ。タペストリーも異国の雰囲気漂う配色で、家具や小物も南の国のものが置かれていた。

(使用人も南の国の衣装を着ているし、エミーリャ殿下が国から連れてきた人たちなんだろうなあ)

厚手のクッションが置かれた長椅子に座り、私は北の国の動きやヴィーカ王女のことを話す。

彼には予め概要を伝えていたので、すんなりと話が進んだ。

今は痩せているので、リカルドと隣り合わせで椅子に座ることが出来た。

「既にうちからも、秘密裏にヴィーカ王女の捜索隊を出してる。すぐに見つけ出せるか分からないけれど、北の国よりも早く彼女の身柄を確保しなきゃね。あと、セルーニャ兄上も中央の国へ来られることになった」

既に色々と動いてくれているエミーリャは、瞳を輝かせながらそう告げた。

久々に兄に会えるから、彼も嬉しいのだろう。

「一連の出来事が杞憂だといいんだけどね」

エミーリャの言葉に、その場にいた全員が深く頷いたのだった。

話し合いを一通り終え、私たちは一緒に夕食を食べることになった。

中央の国の料理と南の国の料理が卓上に並び、その中にはかつてセルーニャが出してくれた和食も混じっている。

(嬉しい……! 和食大好き! ん……?)

心の中で喝采を上げていた私は、ふと良いことを思いついた。

(和食・イズ・ヘルシー!)

美味しい和食を活用すれば、エレフィスの食事管理が成功するのではないだろうか。

この国の食事も美味しいが、こってりフレンチといったものが多い。

侯爵家のコックも色々工夫をしてくれているのだけれど、やはりヘルシーな食材は野菜を中心としたものが多く、肉類は決まった部位……鳥胸肉などしか食べられない。

海から少し遠い王都では、新鮮な魚は出回りにくいので、どうしても、メニューが偏ってしまう。

(和食の件……後で、エミーリャ殿下に相談してみよう)

良いことを思いついた私は、やや浮上した気分で食事を堪能したのだった。