軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第33話 「悪役令嬢は、もういない」

年が明けた。

学園が再開した初日、廊下の空気がまた少し変わっていた。

年末から年始にかけての休みの間に、イザドラの処分について正式な結論が出た。

卒業資格は認められる。ただし、以後の登校は禁止。課題の提出と試験への対応は別途行う形となった。卒業式を含む学園行事への参加も、一切認められない。実質的に、学園から切り離された形だった。

学園側からの公式な発表は静かなものだったが、年明けには多くの生徒が内容を知っていた。

廊下を歩く生徒たちの顔が、また少し変わった。晴れやかというほどではなかった。でも、何かが終わったという感覚が、学園全体に静かに広がっていた。

一月の学園は、冬の光の中にあった。でも、去年の今頃よりも、どこか軽い空気があった。

エリーゼはその廊下を、いつも通りに歩いた。

「エリーゼ」

声をかけてきたのは、クロード殿下だった。

側近を少し離れた場所に残して、こちらに歩いてきた。

エリーゼは立ち止まった。

「……殿下」

クロードが、少し間を置いた。以前よりも少し、顔が落ち着いた気がした。

「イザドラの件、見ていた」

「……あれは、見事だった」

少しの沈黙があった。

「それと、もう一つ言わなければならないことがあった」

「何でしょうか」

「一学期のあの大広間で、お前が書類を読もうとしていたとき。私は遮った」

「……ええ」

「それは、間違っていた。お前は事実を持っていたが、信じなかった……」

「そのことで、謝りたかった」

エリーゼはしばらく、クロードを見た。

「……ありがとうございます」

静かに言った。

「ですが、もう終わったことです。私はもう前に進んでいます。後悔もしていません」

クロードが少し目を伏せた。

「だが……」

「殿下も、ご自身の道を歩まれてください。私たちはもう、それぞれ別の道を行くのですから」

それだけ言って、エリーゼは歩き始めた。

クロードはその場に立ったまま、少しの間、廊下を見ていた。

遠ざかるエリーゼの背中を見ながら、小さく呟いた。

「……本当に、すまなかった」

誰にも届かない声だった。

図書室では、転校生がすでに来ていた。

エリーゼが入ると、顔を上げた。

「今年もよろしくお願いします」

エリーゼが言った。

「ああ、今年もよろしく頼む」

転校生が答えた。

それだけだった。でも、悪い挨拶ではなかった。

エリーゼはいつもの席に座った。本を開いた。転校生も本に視線を落とした。

年が明けても、この時間だけはいつも通りだった。

(……あと、何ヶ月だろう)

エリーゼはふと思った。三月になれば、卒業だった。この学園での時間が、残り少なくなっていた。

本のページをめくった。旅する少女が、また新しい町に入るところだった。少女は何度旅をしても、新しい場所に入る前に少しだけ立ち止まる。それから、前を向いて歩き出す。そういう少女だった。

(……私も、似たようなものかもしれない)

エリーゼはそう思った。この学園を卒業して、次の新しい場所では、自分はどんな顔をしているだろう。

だけど。

今は、まだここにいる。

年明けの学園は、少しずつ動き始めていた。

フローラが友人たちと笑いながら廊下を歩いていた。以前より、その笑い声が軽かった。

リナは、人に囲まれていた。

以前のような計算した輪ではなかった。ただ、自然に人が集まっていた。話しかけてくる者があって、リナがそれに答えて、また誰かが加わる。そういう輪だった。無理に作った場所ではなく、気づいたらそこにある、そういう感じだった。

エリーゼはその光景を、廊下の端から少し見た。

(……本来の学園の姿に戻ったのかな)

そう思った。

転校生が言っていた言葉が、今日改めて腑に落ちた。

帰り際、廊下の窓から外を見た。

冬の空だった。でも、年末よりも少しだけ空が高い気がした。

三月まで、あと二ヶ月ほどだった。卒業まで、残り少なくなっている。この廊下を歩くのも、この図書室で本を読むのも、あとどれくらいあるだろう。そう思ったとき、不思議と寂しいという感覚より先に、充実していたという感覚があった。

(……あの中庭のベンチに、また座れる季節になるかな)

そう思った。

転校生が隣に並んだ。同じように、窓の外を見た。

「寒いな、まだ」

「ええ。でも、もう少ししたら」

「暖かくなる」

「そうですね」

それだけだった。

二人で廊下を歩き始めた。窓の外に、冬の夕方の光が長く伸びていた。白い光の中を、二人の影が並んで伸びていた。