軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 「早退令嬢と、揃う証拠」

ルーカスは、一人で動いていた。

二学期が始まってから、ずっとそうだった。

イザドラ・カーレンという人間を、最初に意識したのは一学期末のパーティーだった。あの夜、エリーゼに向けて笑っていたあの目。何かを手に入れようとしているときの目だった。あの目を見た瞬間に、ルーカスは「これは面倒なことになる」と判断した。

だから二学期が始まってすぐに、動き始めた。

まずイザドラに近づいた。

話しかけられれば応じた。少し長く話すこともあった。その中でイザドラが何気なく口にする言葉を、全部頭の中に記録した。

イザドラは頭のいい人間だった。でも、一つだけ弱点があった。

自分が強いと思っている人間は、隙がある。

褒められれば少し饒舌になった。話が盛り上がれば、余計なことを口にした。ルーカスはそれを、一つひとつ丁寧に拾い上げた。

書状の件を掴んだのは、先月のことだった。

遠方の貴族令嬢に偽の書状が届いた件。

その令嬢の家は、ヴァイセンベルク家と古い付き合いがあった。話を聞いたとき、ルーカスはすぐに動いた。

書状の現物を取り寄せた。筆跡を確認した。

イザドラが授業中に書いた板書の字と、細部まで照合した。一致していた。

証拠になる。

さらに、イザドラが別の取り巻きに送っていた手紙の一部も手に入れた。「あの令嬢には少し困ってもらう予定なの。面白くなりそうよ」という一文が、さらりと書かれていた。本人は冗談のつもりで書いたのかもしれなかった。でも、書いた言葉は残る。

これも、証拠になった。

令嬢たちへの行為については、当事者の一人から直接話を聞けた。

イザドラに茶会の内容を漏らされて友人関係が壊れた令嬢が、一人で廊下を歩いているのを何度か見かけていた。ある日、声をかけた。何があったのかを静かに聞くと、令嬢は最初こそ戸惑っていたが、「誰かに話さなくていい。ただ、聞かせてほしい」と言うと、少しずつ話してくれた。

その令嬢に署名は求めなかった。巻き込むつもりはない。ただ、自分の記録として残した。他にも二人、似た経験をした生徒から話を聞いた。全員が同じ手口を語った。

証言が、揃っていった。

薬品事件については、まだ直接的な証拠が手元にない。

何らかの形で不発に終わったことはわかっていた。でも、誰がどう動いたかは、まだはっきりしていなかった。

あの証拠があれば、より確実になる。でも、なくても十分だとルーカスは判断していた。

手元にある証拠を並べれば、イザドラが計画的に動いていたことは明らかだ。書状の現物と私的な手紙の文面。複数の証言。それぞれが別々の事件を指していて、全部が同じ方向を向いている。

ある夜、寮の自室で、ルーカスは集めた記録を机の上に並べた。

書状の現物。筆跡の照合結果。手紙の写し。イザドラの発言記録。複数の証言をまとめた紙。それぞれに日付と状況が書かれている。

一枚ずつ、静かに確認した。

書状は筆跡が一致している。偽の書状を送ったことの証明になりうる。手紙の文面には「困らせる予定」という本人の言葉がある。証言は複数の生徒から取った。全員が同じ手口を語っていた。一枚では薄い証拠も、これだけ積み重なれば重みが違う。

(……これで行ける)

そう判断した。

これだけの量があれば十分だ。大広間で並べれば、誰の目にも明らかになる。

あとは動くだけだった。いつ動くか。それだけが、残っている問いだ。

ルーカスは窓の外を見た。冬の夜空に、星が出ていた。風が窓ガラスを揺らし、学園の灯りが遠くに小さく見えていた。

(……明日だ)

決めた。これ以上、被害が出る前に動く。証拠は揃っている。あとは大広間に持っていくだけだ。

記録を束ねて、引き出しの奥にしまった。

明日の朝、動く。それだけを頭に置いて、灯りを消した。

一方、エリーゼは図書室にいた。

中庭に来られない日々が続いている。旅する少女の二周目を読み進めながら、時々窓の外に目をやった。曇り空だった。風が木の枝を揺らしている。

本を読みながら、エリーゼは静かに何かを考えていた。

何を考えているのかは、表情からは読めなかった。ただ、いつもより少しだけページをめくる手が遅かった。

もうすぐ何かが動く。その予感が、ここ数日ずっと胸の中にある。自分が動かすのではなく、何かが動き始める。その流れに乗ればいい。

(……もうすぐ)

本のページをめくった。旅する少女が、冬の町の路地を歩いていた。寒い場所だったが、少女は止まらない。前を向いて、歩き続けていた。

エリーゼはその一行を、少しだけゆっくり読んだ。

その頃、イザドラはまだ笑っていた。

学園の廊下を歩けば、生徒たちが道を空ける。食堂に入れば、周囲に人が集まった。二学期が始まってから今日まで、何も変わっていない。

ヴァイセンベルク家の転校生が話しかけてくる回数が増えていた。それが嬉しかった。少しずつ距離が縮まっている気がして、もっと仲良くなれるかもしれないと思っていた。

廊下を歩きながら、今度は何をしようかと考えていた。先日の慈善活動の横領噂はうまくいった。次は別の令嬢を狙おうかと、頭の中で候補を並べていた。

廊下の先で、取り巻きの令嬢たちが笑いながら話していた。リナもその中にいた。

何もかもが、自分の思い通りだった。

何かが崩れようとしていることを、イザドラはまだ知らなかった。