軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第123話 ダンジョンでの食事

ヨルたちはダンジョンに足を踏み入れる。

ザガンは「同行させていただく」と言っていたけれど、一緒に行動するわけではない。

彼らの役目は露払いだ。

ヨルたちが体力を温存して深層にまでいけるように、周囲に散って魔物と対峙するのだ。

チリンと――清らかな音がする。

先導する殉教者が持つ鈴の音だ。

その音に導かれるように、ヨルたちは歩を進める。

ひたすら下を目指してきたヨルたちよりも、他の殉教者たちの方がダンジョンを熟知しているのだ。

だから攻略ルートやペースなんかも、全て彼ら任せだった。

本当は殉教者たちのサポートを得ず、最速で下界を目指すつもりでいた。

ヨルの胸のうちには、ずっと不安が巣くっていたからだ。

あの男がダンジョンを登って、この世界にやってくるのではないか――

想像するたびに、背筋に冷たいものが走る。

でもカッシの回復を待っている間、冷静になった頭で考え、その可能性は薄いと判断した。

ヨルたちも試したことがあるのだ。

下界を目指さなくても、すでに繋がっている上界を目指せばいいのではないか。

実際、ヨルは上界に繋がるダンジョンに足を踏み入れたことがある。

だがそこは、地獄のような場所だった。

ダンジョンには現実には存在しないモンスターが跋扈している。

でもそのほとんどが、伝承や怪談などを基にした生物だ。

逆に言えば、その生態や特徴などは事前にわかっているのだ。

ならどう立ち回ればいいのかも、何を警戒すればいいのかも、ある程度はわかる。

でも別世界のダンジョンは違った。

それこそ魑魅魍魎だ。

名前もわからぬ化け物の群れ。

実際の強さ以上に、攻略が困難だったのだ。

だから上界への進行は、早々に諦めざるを得なかった。

だが、あの男なら――

その思いはないではない。

でもそれならそれで構わない、とヨルは考える。

あの男の方から来てくれるなら、かえって好都合だ。

ある意味では、このダンジョンはヨルたちにとってホームなのだ。

危険に満ちた場所ではあるが、地の利は間違いなくこちらにある。

だからヨルたちは、体力の温存を優先することにしたのだ。

あの時は満身創痍だった。

肉体的にだけではなく、精神的にもだ。

油断したつもりはない。

だけどダンジョンを突破した気の緩みが、全くなかったといえば嘘になる。

なにより――ヨルは生まれて初めて太陽の下を歩いたのだ。

もしあの時、万全であったなら、ヨルは最善の選択ができていたかもしれない。

あの場で決着をつけるという――

(……次こそは)

しばらくダンジョンを進んでいると、前方に荷物が置かれていた。

食材と調理器具だ。

先導している殉教者たちが、ここを休息地点に選んだのだろう。

「では、食事にいたしましょうか」

カッシが言い、パッケを振り返る。

そしてパンパンと手を叩いた。

「パッケさん、ゴー」

「犬か俺は。言われなくてもわかってら」

地上から持ち込んだ食材の他に、 澄狐(すいこ) の肝が置かれていた。

有名な伝承の一つで、水を清めるとされる 郷霊(さとだま) だ。

名前に狐とあるが、その姿は兎だったりネズミだったり亀だったりと様々だ。

有名なお伽話に『澄狐の橋』というものがあって、 『澄狐』という名前だけが一人歩きしているのだ。

もし兎なら「兎の澄狐」、亀なら「亀の澄狐」などと呼ばれる。

この澄狐の肝はモンスターの中では珍しく、問題なく食すことができるのだ。

殉教者の誰かが狩り、譲ってくれたのだろう。

「ありがてぇ、ありがてぇ」

元料理人のパッケが、手際よく食事の準備を整える。

といっても水に塩を入れて、雑穀と澄狐の肝を煮込んだだけのものだ。

そこにカチカチの乾パンを放り込んでふやかす。

決して美味しいものではないけれど――

遠くから、酷い臭いが漂ってくる。

他の殉教者たちも体を休め、モンスターの肉を調理しているのだ。

気を遣ってかなり距離を空けているようだったけれど、五感の鋭いヨルには微かに嗅ぎ取ることができた。

「…………」

自分たちだけが清潔な食事を口にする。

そのことに、ヨルたちは何も言わない。

ただ黙々と食べ進めた。

優遇されている――そのことを当たり前だと思っているわけではない。

期待と責任を、彼らは食事とともに飲み込んだ。