軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

876:真龍の安全確保

「また、難しい案件を取ってきてくれましたね……」

流石のアルトリウスも、今回ばかりは難しい案件過ぎたのか、顔を出すなり若干恨みがましい視線をこちらに向けてきた。

まあ、無理もない。真龍のテイムはそれ自体がかなり難易度の高い行為だ。

当然ながら、その情報を流せば劇的な反応が出ることは間違いないだろう。

正直、アルトリウスでも制御に苦労するような代物である。

「それで、どういった方針になったんでしょうか?」

「ああ、ドラゴンパピーについては《テイム》を行うって話になった。やはり、地上を歩いて移動するのはリスクが大きいからな」

「そうですか。まあ、仕方ないでしょうね」

ある程度飛行できるようになるのはレッサードラゴンからだ。

立派な翼の生えている光属性の真龍ではあるが、生まれたばかりでは飛行することは不可能である。

要するに、この地の代表者たるあの真龍は、俺の提案を受け入れたということだ。

しかし、それはアルトリウスにとっては頭の痛い問題だろう。

「現在の、ドラゴンパピーの数は何頭でしょうか?」

『二十七です。この子供たちについては、確実な安全を保障して貰いたい』

「《テイム》が行われれば、それは間違いないでしょう。問題は、人選ですね」

彼が頭を悩ませていたのは、言うまでもなくその点であった。

真龍のテイムは、未だに人気の高いコンテンツだ。

ワールドクエストの報酬ポイント交換においては、未だに最上位の扱いとなっている。

まあ、それは悪魔に奪われたリソースを 箱庭(サーバ) に還元する建前のようなものだが――それはともかく、《テイム》を持っていなかったプレイヤーすら育成に挑戦するほどなのだから、その人気はとにかく高い。

「一応、健在な龍王からは育成のクエストを請けられるんだろう?」

「後は龍育師経由からもですね。とはいえ、龍育師の方はある程度育てたら返却しないといけないのですが」

実際のところ、真龍を手に入れる方法はワールドクエストの報酬のみというわけではない。

直接龍王と交渉して育成権や卵を手に入れたり、龍育師の手伝いとして育てるというクエストも存在するのだ。

しかしながら、前者は龍王に認められる必要があり、また後者はアルトリウスの言うように永続ではない。

ほぼ無条件で真龍をテイムできる機会など、本当に希少なのだ。

「それで、どうする? 周知して希望者を集めるのか?」

「率直に言って、それは無理です。大混乱が起きますから」

「……まあ、そりゃそうだよな」

契約できる真龍は二十七体しかいない。

そんな状況で無制限に希望者を募れば、我先にと集まってくることは容易に想像ができた。

そうなれば、このエリアで大混乱が発生してしまう。下手をすれば、真龍たちとの関係悪化にもつながりかねない。

生憎と、そのような展開を認めるわけにはいかない。

「そもそも、今回のクエストを発見したのはクオンさんです。ですから、その裁量の決定権はクオンさんにあります。つまり――」

「俺が『ここまで』と決めれば、その範囲内でしか人を集めないということか」

「そうなります。これについては、変に周知するよりも身内で独占する方が安全でしょう?」

「知られれば、結構批判を受けるんじゃないのか?」

「クエストをどのように扱うかは、その受注者に決定権がありますから。クオンさんが決定した以上、何かを言われる筋合いはないということです」

確かにアルトリウスの言う通り、このクエストについては俺に裁量を委ねられている。

俺が決めた以上、他の誰に文句を言われる筋合いはない、ということだ。

アルトリウスはあくまで、俺の決定をサポートするという立ち位置を保つつもりらしい。

まあ、それについては構わないのだが、一つ問題もある。

「俺はクエスト自体を『キャメロット』に譲渡するつもりだったんだが、そうもいかないってことか?」

「僕らが決定権を持った場合は、流石に批判を躱しきれなくなります。ただでさえ、強権を振るっていますからね」

「だがそうなると、俺も――というか、俺がクエストに参加せざるを得なくなるよな?」

「……そうですね。発見者であるクオンさんがクエストを受注せず、僕たちだけが受けるとなると、クエストを譲渡した状態と同じになりますから」

『キャメロット』は、アルトリウスの行う繊細なパワーバランス調整の上で成り立っている。

ドラグハルトという面倒な勢力が生まれている状況下において、アルトリウスの求心力が下がることは避けたい。

最初からアルトリウスがクエストを発見していたならともかく、俺が発見してアルトリウスに譲渡するという流れが良くないのだろう。

しかしながら、そうなると困ったことが一つ。

「そうなると、俺もテイムをしなきゃならんということだよな?」

「ですね。発見者であるクオンさんが、最低限一体は契約しないことには、事実上クエストを譲渡したことになってしまいます」

「だよなぁ……正直、今更育てている余裕も無いんだが」

真龍をテイムすること自体はいいだろう。だが、今は既に、エインセルとの戦闘状態に入っている。

今の状態では、新たな真龍を育てる余裕は存在しないのだ。

まあ、目的が若いドラゴンの安全確保であるため、契約だけしてしばらくの間は放置しておくということもできるのだが。

どうしたものかと頭を悩ませていたところで、こちらの状況を見守っていた白い真龍が横から声を上げた。

『貴方も、我々と契約を結ぶ必要があるということですか?』

「まあ、面倒な人間のしがらみでね。契約すること自体は否定しないが、しばらくは放置せざるを得なくなってしまうな」

『そうですか。でしたら……私と契約を交わしませんか?』

「……何だと?」

あまりにも想定外の言葉に、そのまま聞き返してしまう。

女性の声を発している、この白いドラゴン。恐らく、現在生き残っている白の真龍たちの中では、最も強い力を持った個体だろう。

ひょっとしたら、ネームドモンスター化を経ているのではないかとすら思われる、非常に強力な真龍だ。俺たちでも、単独で彼女に勝つことは難しいだろう。

そんな強力な真龍から、テイムの契約を持ちかけられるなど、露ほども考えていなかったのだ。

「失礼ですが、貴方はこの場の真龍たちのまとめ役ではないのですか?」

『単純に、私が最も強いから矢面に立っているだけです。若き龍たちを育てるならば、他に適任がいます』

「ふむ。だが、だからと言って俺と契約なんて話には普通ならんだろう? それだけ強いなら、保護のために契約する必要が無い」

正直、俺たちより強い真龍だ。

相手が公爵級や大公級だというならまだしも、その下までの悪魔なら単独でも対処できるだろうに。

そんな俺の疑問に対し、真龍は淡々と、しかし内に激情を湛えた声で答えた。

『貴方がかの大公と戦うというのなら、私は白龍王様の無念を晴らしたい』

「……あんた自身の望みは、そこにあると」

『私は、同胞を護らなければならなかった。だからこそ、白龍王様と並んで戦うことはできませんでした。私がいたところで、結果が変わったとは思いませんが――その場に立てなかったことは、今でも悔いているのです』

彼女は強力な真龍だ。だが、白龍王と共にエインセルと戦ったとして、同じように討たれていたのがオチだっただろう。

だが、だからこそ、今度こそ戦いたいと彼女は口にする。

同胞たち、白い真龍たちの安全が確保されるのであれば、と。

思わず、内心で嘆息を零す。出会った時に見えていた諦観は、その立場に起因するものであったらしい。

ここまでの復讐心となると、放っておいても勝手に戦いに参戦してきそうな予感はある。

ならば、肩を並べて戦った方が、もっと良い結果を導くことができるだろう。

(それに……復讐を否定するなんぞ、俺の口から言える筈も無いからな)

俺自身、同じ穴の狢なのだ。彼女が白龍王のために戦うというならば、それを否定することはできない。

まあ、パーティメンバーの数の問題はあるのだが――そこはまあ、人数を調整するしかないだろう。

「……どうだ、アルトリウス?」

「向こうからの申し出ですから、否定することもないかと。正直、戦力としては申し分ないですし、特別感もありますからね」

アルトリウスとしても反対意見は無い。

となれば、拒否する理由も無いだろう。

「了解した。であれば、アンタと契約を交わそう。少なくとも、エインセルを倒すまではな」

『ええ、よろしくお願いします、契約者よ。私はベル・ワイス。我が光にて、必ずや大公エインセルを貫きましょう』

白鳥のような翼を持つ、巨大な真龍。

想像もしていなかった四体目のテイムモンスターに、俺は困惑したままながらもスキルを発動したのだった。