軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

875:白き領域

ルミナが光の魔力を感じた方向。そちらにあったのは、木々の合間にある泉のような場所であった。

近づいてみると、俺でも確かに感じることができる。

強い魔力の気配――見ても属性は分からないのだが、これは確かに悪魔のものとは異なる代物だった。

果たして、なぜこのような魔力が残留しているのか。

悪魔が近付いてこなければいいという程度の考えではあったのだが、これはこれで異常な場所ではある。

「確かに、妙な状態だが……ルミナ、これが何なのかは分かるか?」

「不明ですが、少なくとも悪魔由来のものではありません。ただ、外敵を防ごうとする気配を感じます」

「エインセルの勢力下にいるんだから、警戒心が強いのも無理は無いですけど、そもそも誰なんですかね?」

「さてなぁ……悪魔の敵であるなら、こちらの味方であってほしいところだが」

敵の敵は味方――という論理が通用する相手であるかは不明なところだ。

だが、もしも協力できる相手であるならば、この地は中々に都合が良い場所でもある。

少々東側に寄ってはいるが、エインセルの領地に安全な拠点を作ることができるかもしれない。

となると、この魔力を発している相手と交渉したいところなのだが――

「アリス、何か分かるか?」

「そうね……防御というより、隠蔽に重きを置いているような気がするわ。ここにある何かを隠そうとしている、って感じね」

「見つけ出せそうか?」

「発見だけなら、何とかね。ただ、侵入するのは警戒されるんじゃない?」

アリスの言う通り、強引に中へと入るのは少々リスクが高い。

なるべく穏便に、内部の存在と交渉したいところではあるのだが……そもそも、正体が分からないのでは交渉以前の問題だ。

たとえ強引な方法だとしても、一度内部まで入り込んで、その正体を確認するべきか。

しかし、それで決定的にこじれてしまうことも避けたいし、どうしたものだろうか。

頭を悩ませ、しばしその場でああでもない、こうでもないと議論する。

しかしそんな折、ふんふんと鼻息を鳴らしていたシリウスが、無造作に泉の方へと向けて顔を伸ばした。

瞬間――周囲に満ちていた光の魔力が、まるで波紋のように揺れる。

「シリウスッ!」

「グルっ!?」

俺の叱責の声に、シリウスは咄嗟に首を引っ込める。

しかし、魔力の揺れは収まることは無く振動し――やがて俺たちの目の前に、これまで見えていなかった光景が姿を現した。

「これは……」

「真龍……!」

鳥のような白い翼を持つ、純白のドラゴンたち。

その姿は間違いなく、光属性の真龍たちだった。

見えているのは、 第一段階(パピー) や 第二段階(レッサー) など、まだ若い真龍ばかり。

だが、前に出て俺たちに立ちふさがっているのは、少なく見積もっても第五段階――かなりの成長を繰り返した、歴戦の真龍であった。

翼を広げてこちらを警戒している真龍だが、戦闘態勢に入っているわけではない。その意識は、間違いなくこちらの真龍、即ちシリウスへと向けられていた。

『……異邦人、それに従う真龍。貴方たちは何者ですか』

他の真龍を庇うように立つその真龍は、警戒心も露わに意思を伝えてくる。

というか、喋れるのか。同じ第五段階ではあるものの、うちのシリウスは喋れないのだが。

だが、意思疎通がしやすいのは助かるところだ。話せるのであれば、交渉も可能だろう。

「俺たちは、エインセル――この地の大公級悪魔と戦うために来た者だ。奴らと戦う拠点を探すために移動していたところ、光の魔力を感じて立ち寄った次第だ。決して、アンタたちに危害を加えるつもりは無い」

『……異邦人であるなら、悪魔と戦うのは道理です。ですが、かの大公と闘おうとは、無謀な人間たちですね』

そう告げる真龍からは、呆れにも近い感情を感じ取れる。

悪魔と敵対している真龍である筈なのに、随分と腑抜けた様子である。

だが、この真龍たちの状況については、見ればある程度は状況を予想できる。

「確か、北の地の真龍たちは悪魔に敗れたんだったな。生き残りがいるとは思っていなかった」

『……否定はしません。我らは悪魔に――かの大公、エインセルに敗れました。致命傷を負った白龍王様は、その命と引き換えに、我らに最後の守護を与えてくださったのです』

そう告げて、白い真龍はちらりと後方へ視線を向ける。

先ほどから、その姿は目に入っていた。地面に横たわる、巨大な白い真龍の姿。

しかし、その体は傷だらけであり、体は微動だにしていない。

呼吸の僅かな身じろぎすらない、亡骸であることは容易に想像がついた。

しかしながら、その身からは未だに魔力が湧き上がっている。

このエリアを覆っている魔力は、間違いなくあの白龍王の亡骸から発せられたものであった。

「死して尚、同胞を護るか。見事だな」

「若い真龍たちを助けようとしたんですね……」

悪魔を退ける光の属性だからこそというのもあるだろうが、まさかこのエリアで龍王を失った真龍が生き残っていようとは。

文字通り、命を懸けてでの守護。天晴であるとしか言いようがない献身だ。

白龍王とは一度として対面することは無かったが、生きている内に出会いたかった。

「ふむ……しかし、いつまでもこの地に留まるわけにもいかないんだろう?」

「いくら龍王の力が強力だからって、その護りが永続するわけじゃないわ。ここが発見されるのも時間の問題でしょう」

『……否定はしません。しかし、この若い真龍たちを連れて、長い距離を移動することは無謀でしかありませんから』

この真龍の言う通り、エインセルの支配地は悪魔も魔物も強力過ぎる。

レベルの低い真龍たち――特に、飛ぶこともできないドラゴンパピーには危険すぎるエリアだ。

せめて中央エリアまで移動できればとは思うのだが、まともな方法では移動は困難だろう。

『――《取り残されし龍の護衛》のクエストが発生しました』

「……露骨だな、女神よ」

耳に届いたクエストの発生アナウンスに、軽く嘆息を零す。

つまり、この真龍たちを何とかして安全圏まで運べということだ。

まあ、実際のところ方法が無いわけじゃない。というか、割と分かりやすく解決の手段はあるのだ。

「真龍よ。アンタは、この地を捨てて安全圏まで移動するつもりはあるか?」

『……我らに、白龍王様の許を去れと言うつもりですか?』

「自分で言ってた以上、分かっているんだろう? このままこの場に留まっても、いずれは破綻する。それは、白龍王とて望むことではない筈だ」

自らの最後の力を振り絞ってまで、白龍王は己の眷属を護ろうとした。

それが時間稼ぎに過ぎなかったとしても、確かにそれを成し遂げたのだ。

であれば、このまま白龍王の亡骸と心中しようとすることこそが、その遺志を踏み躙る行為であるとも言える。

――それは、この真龍自身、理解していることであるだろう。

『……分かっています。同胞たちの命、それに替えられる宝などありません。ですが、どうやって移動するつもりですか?』

「俺で思いつくのは安直な方法と、面倒ではあるが確実な方法だな」

クエストの詳細を見る限り、方法について指定は無い。

どのような方法であっても、真龍たちの安全を確保できればいいのだ。

であれば、話は単純である。

「安直な方法は、護衛しながら南へ移動するってことですよね?」

「そうだな。『キャメロット』を呼べば、クエストの参加人数は十分だろう」

あいつらは防衛にも長けているため、真龍たちを護衛しながら進むことが可能な筈だ。

とはいえ、面倒な手段であることは間違いない。リスクも高いし、個人的にはあまりお勧めしない方法だ。

『では、もう一つとは?』

「見れば納得できるだろうが、コイツだ」

言いつつ、俺はシリウスの足をポンポンと叩く。

《テイム》によって契約された真龍。それは、プレイヤーが存在する限り続く、疑似的な不死であると言ってもいい。

つまり、《テイム》による契約を交わした時点で、その真龍の安全を確保することができるのだ。

『……我らに、人間の配下になれと?』

「別に、無理強いをするつもりは無いさ。だが、簡単に安全が確保できることは間違いない」

プレイヤーにとっても、イベント外で真龍を手に入れられる貴重な機会だ。

しかも、光属性を持っていなくても白の真龍を入手することができる。

希望者が殺到することはまず間違いないだろう。

まあ、逆に人が殺到し過ぎて危ないという懸念はあるのだが、そこはあらかじめ制御するしかあるまい。

「別に、全ての真龍がそれに従う必要もないさ。移動の遅いパピーだけ契約して、他は空を飛んで移動するという手もある」

『……少し、考えさせて貰いましょう』

「ああ、結論が出たら言ってくれ。その間に、こっちも調整しておく」

何はともあれ、これはアルトリウスに報告すべき案件だ。

保護対象である真龍たちが移動すれば、この場は悪魔が近付きづらい安全な拠点にもなり得る。

早急に、今後の対応方針を練っておくべきだろう。

降って湧いた幸運に笑みを浮かべつつ、俺はアルトリウスへと通話を繋いだのだった。