軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

874:襲撃の効率

輸送部隊への襲撃は、基本的には成功であると言えた。

あれからエインセル領地の飛行を続け、二度ほど輸送部隊に遭遇、それの撃破に成功している。

運ばれていた兵器は既存のものであったため、特に新たな発見などは無かったのだが、エインセルの物資を減らすこと自体には成功していると言えるだろう。

とはいえ、流石にエインセルも状況を掴んでいるらしく、上空で敵と遭遇する数が徐々に増えてきている。

今のところは対処できているが、果たしてあのエインセルが、そんな単調な対抗手段を取るものだろうか。

少なくとも、このまま俺たちの襲撃を見過ごすようなことはあり得ない。確信にも近いその考えを胸に抱いたまま空を駆け――ふと、ルミナの声が耳に届いた。

「……何だか、変な動きですね」

「どうした?」

「いえ……ワイバーンたちが、積極的に仕掛けて来なくなったなと思いまして」

確かにルミナの言葉の通り、ワイバーンたちは積極的に攻撃してこなくなった。

それは単純に、俺たちが高速で飛行しているからというのもあるだろう。

あのプレートを身に纏っているワイバーンたちでは、俺たちの移動速度に追いつくことはできないのだ。

しかし――

「やろうと思えば攻撃できるだろうに、確かに消極的になってきたな」

前方を塞ぐように回り込めば、俺たちの動きを鈍らせることは可能だ。

シリウスは加速に時間がかかるため、一度足を止めさえすれば戦闘に持ち込むことも不可能ではなかっただろう。

なのに、ワイバーンたちはそういった戦法を取らなくなった。つまり、奴らは戦闘を避けるようになってきたのだ。

「ワイバーンぐらいじゃ私たちを止められないからって、動きを黙認するようになってきたんですかね?」

「でも、あのエインセルが今の状況を無視するかしら?」

「同感だな。被害を察知したのであれば、何らかの対策を打ってくるのは間違いない」

であれば、どのような手を打ってきたかということだ。

ワイバーンと遭遇する数は増えてきており、それでありながら戦闘に発展することはほぼ皆無となった状況。

つまり、ワイバーンたちは戦闘や足止めを目的として空を飛んでいるわけではないということだ。

ということは――

「いや、考えてみれば単純なことか」

「……あ、もしかして、偵察ですか?」

「偵察と、連絡ってところだろうな」

つまり、奴らは俺たちの現在位置を把握し、それを周囲と共有することによって、被害を避けようとしているのだろう。

残念なことに、俺たちは悪魔側の拠点を攻撃することはできない。

可能なのは、そこから出て道を進んでいる悪魔たちだけだ。

要するに、奴らは俺の動向を把握することで、輸送部隊を拠点に待機させ、こちらの攻撃を回避しているのだ。

俺たちに自由な行動を許すことにはなるが、被害は抑えられる。スマートな問題対処であると言えるだろう。

「ふむ……どうしたもんかね」

このままでは、エインセルの物資を攻撃することは難しくなってしまうだろう。

しかしながら、飛行を妨害されないのであれば、エインセルの領地の地理把握には好都合であるとも言える。

最大の目的である拠点探しにも、こちらの方が都合が良いとも言えるだろう。

どうしたものかと、眉根を寄せつつ思考する。

「どうするんですか、先生?」

「そうだな……ああ、このまま気付いていない振りで飛ぶとするか」

加速を保ったまま、ワイバーンたちを振り切るような動きで空を駆ける。

そうすれば、まだこちらが輸送部隊を探していると思わせることができるだろう。

あくまでも、最大の目標は拠点探しなのだ。そちらの目的を悟られず自由に飛び回れるなら、そちらの方が都合が良いとも言える。

ならば、しばらくの間は向こうの思惑に乗っておいてもいいだろう。

「エインセルの懐にダメージを入れられないのは残念だが、こうして飛び回るだけでも輸送は遅れるし、そもそもアルトリウスが原料に仕掛けを施しているからな。物資に対するダメージという意味では、それだけでもこなせてはいるさ」

アルトリウスたちの手によって行われている、幻術による偽装工作。

それがあれば、俺たちの手では何もできずとも、エインセルの物資にダメージを与えることはできるだろう。

まあ、新型兵器の鹵獲ができないという点は残念ではあるのだが、そこは割り切るしかないだろう。

「というわけで、ここからは拠点に利用できる土地探しを優先する。まあ、輸送部隊がいたら襲撃は仕掛けるけどな」

「この状況で出てくる輸送部隊なんて、十中八九罠じゃないの?」

「それならそれで構わんさ。そのまま食い破ってやるまでだ」

俺の返答に、アリスは呆れを交えた表情で肩を竦める。

彼女の言う通り、俺たちの動きを理解しているなら、この状況で出てくる輸送部隊は偽装された罠だろう。

こちらが食いついたところで、一網打尽にするような作戦か。

だがその場合、俺たちを仕留められるだけの準備が施されているとも考えられる。

それを無駄に消費させられるだけでも、多少の効果はあるだろう。

「ともあれ、アリス以外は拠点に使えそうな場所の捜索を優先してくれ。頼んだぞ」

俺の言葉に、各々が了解の言葉を返してくる。

さて、最大の目標であるとはいえ、これは正直望み薄ではあるのが――まあ、やるだけやってみるとしよう。

* * * * *

状況を確認してしばし飛び回り、俺たちは先ほど考察した状態が事実であることを察知した。

あれからどれだけ飛ぼうとも、ワイバーンとの戦闘には発展せず、また街道で輸送部隊を発見することもできなかったのだ。

エインセルはまず間違いなく、俺たちを監視して輸送のタイミングをずらしているのだろう。

多少の遅れは発生するとはいえ、エインセル側の戦力にダメージが入ることはない。何ともスマートな対応である。

(力押しで来るならやりようはあるんだが、こうなるとな)

果たして、この仕事をしているのが俺たち以外であったとしても同じ対応を取っていたのかどうか。

判断はできないが、もしそうであるなら、エインセルは俺たちの戦力を相応に評価しているということでもある。

ドラグハルトのように、やたらと評価して警戒されているとなると、かなり面倒な手合いであった。

仮にも悪魔の頂点に君臨する一角なのだから、多少は慢心しておいてほしいものだ。

「まあ、仕方ないか」

とはいえ、現状では打てる手も少ない。

突然方向を変えるなりすれば輸送部隊を発見することはできるかもしれないが、それも中々博打な選択肢だ。

上手く行くかどうかも分からない上に、こちらがエインセルの対応に気付いていることを把握されてしまう。

それを行うとしたら、エインセルが罠を仕掛け始めてからの方がいいだろう。

「グル?」

「……シリウス?」

と――そんなことを考えていた、ちょうどその時。

ここまで速度の維持に専念していたシリウスが、突然横の方向へと視線を向けた。

特に敵の姿があるわけでもなく、街から離れた位置であるためワイバーンも振り切った後の状況。

そもそも、感知に優れるわけでもないシリウスが、誰よりも先に察知するということ自体が不自然であるとも言える。

シリウスの意思を読み取ってみても、何か違和感を感じたという程度の感覚しかないようだ。

一体何なのかと首を傾げ――そこで、ルミナが声を上げた。

「お父様、あちらの方角ですが……高度に隠蔽されていますが、光の魔力を感じます」

「光の魔力だと?」

ルミナまで何かを感じ取ったとなると、シリウスの感覚も気のせいではなかったということか。

しかし、光の魔力とは。基本的に、悪魔は闇属性に寄っている部分もあり、光とは相性が悪い。

そんなエリアがこの辺りに存在しているのであれば、悪魔は積極的には近づいてこない可能性もある。

ならば――

「ふむ。調べてみる価値はあるか。ルミナ、案内してくれ」

「はい、分かりました」

さて、果たしてそこは俺たちの求める拠点となる場所なのかどうか。

ちょうどエインセルの目も振り切ったわけであるし、調べてみることとしよう。