軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

804:新種の素材

「なんじゃぁ、こりゃあ……」

「うわぁ、本当に見たことない素材ばっかり」

エルダードラゴンの領域には、一応ながら石碑と同じ効果を持つ要石のようなものが設置されていた。

そのおかげで、さっさとデュオーヌの地下街まで戻ってくることができたのだ。

ここに来た理由は言うまでもなく、クエストを受けているであろうフィノへの依頼である。

今回手に入れた、エルダードラゴンの素材である古老真龍シリーズ。これを使って何かができないか相談するつもりだったのだ。

そんな彼女は、現在この街の技術者である 地妖族(ドワーフ) たちに囲まれ、薫陶を受けている状況であった。

果たしてどのようなクエストを受け、腕を鍛えているのかは分からないが、その成果を確認するにはまだ早いタイミングだろう。

(その状況でこれを弄らせるってのも勿体ないが、意見ぐらいは聞いておきたいしな)

デュオーヌの職人たちは誰もが一流だ。

彼らならば、俺たちには無い発想で変わった側面からのアプローチもあり得るだろう。

ともあれ、そんな彼らに新たな素材を見せているわけであるが――

「『要の巨木』ってのは何じゃ一体……まあ木工師の仕事じゃが、この龍の髭と併せて最上級の弓が作れるじゃろう。後で 小人族(ハーフリング) のところにでも持って行くんじゃな」

「ほう、アリスのクロスボウをアップデートできるかもな」

「これでクロスボウを作るってのも勿体ない話じゃと思うがの……まあよい、そこは持ち込んだお前さんらの自由じゃ」

枝と髭については、弓を作るのにちょうどいいということだ。

それ以外であれば杖だのに使うところなのだろうが、生憎と俺たちは杖を使う予定はない。

あるとすれば、ルミナの使っている薙刀の柄程度だろう。

頑丈さを考えると金属でもいいのだが、魔法の補助になるならこの木材を使ってもいいかもしれない。

「で、こっちの鱗と爪についてじゃがな……お前さんら、今更武器が必要か?」

わざわざ顔を出しに来たジョルトの言葉に、俺たちは思わず顔を見合わせる。

言うまでもなく、俺たちがメインとして使っている武器は成長武器である。

そのため、新しく武器を作ったとしても、使用する機会はどうしても限られてしまうのだ。

小太刀や大太刀は全く使わないわけではないのだが、わざわざ貴重な素材を使ってまで使うほどかと言われると疑問が残るところだ。

そもそも、その辺りは龍王の爪で作って貰うつもりでもあるしな。

「確かに、武器では使うタイミングは少ないかもしれんな」

「神造兵装を持っているならそうもなるじゃろう。なら、別の用途で使った方が有意義じゃな」

「なら、何に使えばいいんだ? 今更盾を持つつもりもないぞ」

「そんなもんはお主らに合わんことは分かってる。それじゃ、それ」

言いつつ、ジョルトが指し示したのは俺の腕。

即ち、腕に装備している篭手であった。

「篭手か? 確かに、頑丈であるに越したことはないが、ただ頑丈なだけの篭手ってのも勿体なくないか?」

「当たり前じゃ、こんな極上の素材を使って、ただの防具なんて作るわけが無かろう」

鼻息荒く告げるジョルトの言葉に、思わず眉根を寄せる。

これまで、篭手の方に特殊な能力を付けるという選択は取ってこなかった。

だが、武器の素材として扱わずに俺たちの力にするという意味では、決して悪くは無い選択肢だろう。

「この鱗、『古老真龍』とやらは時空属性の真龍じゃな。そんなものが実在するとは思っておらんかったが、長い年月を生きた龍の鱗には、その属性の魔力が色濃く残っておる」

「まあ、それはその通りだが……その時空属性の魔力で何かできるのか?」

「ふむ。方法としては二つじゃろうな」

流石の技術力と知識量の職人に感心しつつ、先を促す。

果たして、このエルダードラゴンの素材で篭手を作った場合、何ができるのか。

その答えは、俺としても驚くべきものであった。

「まず、防御に重点を置いた場合。これは、空間を遮断するタイプの防御スキルを発動させられるじゃろう。範囲は狭いが、時空属性の防御魔法に等しい効果じゃな」

「ほう……どれぐらい防げるんだ?」

「効果時間は短い代わりに、防御能力は絶大じゃ。五秒も持続はせんが、その間はいかなる攻撃も防ぐ」

「それはかなり便利ですね」

感心した様子で、緋真が相槌を打つ。これについては、俺も同じ気持ちであった。

ほんの一瞬であったとしても、いかなる攻撃でも防げるという点は実にありがたい。

流石にあまり連続して使えるものではないだろうが、十分に有用な装備となることだろう。

だが、これはまだ一つ目の案だ。ジョルトが言うには、もう一つ活用法がある。

「それで、もう一つは?」

「これは爪も併用した場合の話じゃが、攻撃に転用するという手段もある。空間の断裂、その力を武器に伝える能力じゃ」

「それは……」

「流石に、遠距離に攻撃できるほどのものではない。精々、武器による攻撃の届く範囲が限度じゃろう。しかし、その範囲であれば如何なるものでも斬断する――そんな能力じゃな」

性能としては、《 不毀の絶剣(デュランダル) 》の劣化版だろう。

いかなる防御であっても斬り裂き、刃を届かせる。

それは、エルダードラゴンが爪を斬り落とした時に見せた技にも似ていた。

しかし、その能力は――

「……ふむ。強力な効果だと思うんじゃが、あまり嬉しそうではないのう」

「確かに、強力であることも、有用であることも間違いないさ。ただ……何でも斬れる刀ってのは、剣士の腕を腐らせるからな」

業物の刀というだけならば構わない。刃を届かせるにも、敵の身を断つにも、そこには技術と工夫が必要となるからだ。

だが、もしただ振るだけで相手の防具も体も、軽く切断できてしまう刀があったなら、それらの技術も不要なものとなってしまう。

それは即ち、俺が学んできた技術の否定に他ならなかった。

「だが、間違いなく有用なことは事実だ。相手が大公となると、どうしても攻撃が届かない場面が出てくるからな。そういう場合のみに限定して使うなら悪くない選択だ」

「随分とまぁ、ストイックな主義じゃな」

結局のところ、アルフィニールを倒すには空間ごと奴を断ち斬る必要があった。

ただの物理的な攻撃だけでは、奴を倒し切ることはできなかっただろう。

他の大公級は不明だが、空間を斬る刃はあって損は無いはずだ。

であれば――

「だが、それなら……右手の篭手を攻撃用、左手を防御用にすることはできるか?」

「ああ、それは可能じゃ。とはいえ、やるのは儂ではなく、お主の専属の娘っ子じゃがな」

「んー……やりたいけど、正直まだ無理」

ジョルトに指名されたフィノであるが、どうやらまだそこまでの技術は習得できていないらしい。

今も、彼らから課されているクエストの真っ最中なのだろう。

まあ、こちらも急ぎというわけではないのだが、次の大きな戦いまでには手に入れておきたいところだ。

「クエストは順調か?」

「ぼちぼち。でも、色んなことができるようになりそうだし……姫ちゃんの篝神楽も、そのうち改造したい」

「改造って……できるの、フィノ?」

篝神楽は、フィノの成長武器を完全解放させることによって辿り着いた逸品だ。

それを改造することは、通常の状態では難しいと思うのだが。

しかしフィノは、軽く首を横に振りながら続けた。

「刀身は無理、そこに手を加えたら劣化するだけだから。私が改造したいのは、鍔と柄、それと鞘」

鍔や柄についても、緋真の手に合わせて細かく調整された代物であるのだが、そこならまだ改造の余地があるというわけか。

だが、鞘を改造するというのはどういうことなのか。

俺たちの抱いた疑問を察したのか、横にいたジョルトが解説を引き継いだ。

「その赤龍王の武器じゃが、炎を溜め込む性質を持っているじゃろう。その性質を利用するんじゃ」

「ふむ……具体的には?」

「鞘の中を常に炎で満たし、吸収させ続ける。抜いた時には、その時点ですでに大量の炎を喰らった状態になるって寸法じゃ」

つまり、しばらく鞘に納めておけば、すぐさま《龍爪》を使えるということか。

信じがたい効果ではあるのだが、この技術者が断言するなら可能なのだろう。

「鞘はちょいと重くなるが、今の嬢ちゃんでも十分に作れる代物じゃて」

「それはありがたいです、是非作って欲しいですけど……素材って足りてます?」

「安物で作る程度なら可能だけど……できれば、いい物を使って作りたい」

フィノの言葉に頷き、しばらくの予定を考える。

元々はクエストの捜索が目的だったが、具体的にメリットのある標的があるならそちらを狙った方が効率的に強化できるだろう。

「分かった、それならその素材を取ってこよう。どこで手に入るんだ?」

「基本的には商会で手に入るけど、なるべく高性能なものが欲しいのは火属性の鉱石か宝石。どこで手に入るかは……『MT探索会』に聞いた方がいいかも」

具体的な話にはならなかったが、ある程度指標があるだけマシだろう。

緋真の強化になり得る鞘の作成、しばらくはこれを目標として動くとするか。

とりあえず情報料と依頼料として、先程砕けたシリウスの鱗をどっさりと置き――狂喜乱舞して殴り合いに発展する 地妖族(ドワーフ) たちを尻目に、俺たちは次なる標的の情報収集へと向かったのだった。