軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111:餓狼の怨嗟

――オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ……!

限定解放スキル、《餓狼の怨嗟》。

重いコストを支払ってその力を解放した瞬間、餓狼丸の刀身から黒い闇が溢れ出した。

渦を巻くように吹き上がった黒いオーラは、まるで足元を覆うように周囲へと広がってゆく。

闇の中から響くのは、遠吠えのような怨嗟の声。飢えた狼の唸り声が、恨めし気に周囲へと拡散する。

そしてそれと共に、周囲の全て――俺自身すらも含んで、HPへのスリップダメージが発生していた。

「ッ、これは!?」

「けったいな演出だな……だが、効果は確かなようだ」

奴自身、己のHPが削られ始めたことを察知したのだろう。

表情を驚愕に染め、奴は俺の餓狼丸を凝視していた。

この効果は俺自身にも及んでいるのだが、この程度のダメージであれば《HP自動回復》で賄える範囲内だ。

無論、普段よりもその回復効率が落ちることは変えようのない事実であるが、あまりHPを気にしなくてもいいのは楽なものだ。

「命を啜る魔剣とはな……悍ましい武器を使うものだ、人間」

「存在自体が悍ましいお前たちには言われたくないな、悪魔」

周囲へと広がった闇は、HPを吸収した後に再び餓狼丸の刀身へと帰ってくる。

それと共に、餓狼丸の刀身は根元から少しずつ黒く染まり始めていた。

恐らく、これが武器の攻撃力が上昇している状態なのだろう。

これが切っ先まで到達したとき、果たしてどうなるのか――それも気になるが、今は目の前の相手だ。

フィリムエル――子爵級の悪魔。

主武装は槍と風の魔法。槍を扱う技量そのものは特筆するほどのものではない。

純粋に、武術を学んだ人間とほぼ変わらない程度の技量だと言える。

基本は押さえているため隙は少ないが、それでも付け入る隙はいくらでもあるという程度のものだ。

そんな相手に対して俺が苦戦しているのは、二つ理由がある。

一つは、奴とのステータス差が大きいため、力による崩しが使えない点。

そしてもう一つは、風の魔法による接近時の回避困難なダメージだ。

つまり――

(相手に防御させず、一気に殺す。だが、そのためにはまだ攻撃力が足りない)

《強化魔法》による武器強化、称号スキルによるダメージ上昇、そして《餓狼の怨嗟》による攻撃力の上昇。

それらをすべて合わせても、今の段階では攻撃力が足りないだろう。

だが、《餓狼の怨嗟》は徐々にだが攻撃力を上昇させていく性質がある。

時間さえ稼げれば、通用する可能性は十分にあるだろう。

「さあ、第二ラウンドだ――派手に行くとしようか!」

歩法――縮地。

体幹を揺らさずに移動し、フィリムエルへと接近する。

逃げ回りながら時間を稼いだ方が楽だろうが、そのような戦いなど御免被る。

こいつは斬る。必ず斬り殺す。それでこそ、戦いの意味があるというものだ。

「チッ……先に貴様を殺す、それだけだ」

「こちらの台詞だ。ただ吸い殺すだけなんざ、性に合わん」

迎撃のために繰り出された槍を左に回避し、背後へと回り込む。

そのまま放った一撃は背中に命中するが、やはり防御を貫通することはできない。

肉体の強度そのものもあるが、やはりこのボディアーマーも頑丈だ。

「効かんぞッ!」

「知っている!」

振り返り様の横薙ぎと、それに付随する暴風。

逸らすことは困難、仮に逸らせたとしても風の直撃を受ける。

小さく嘆息し、俺は後方に跳躍しながらスキルを発動していた。

「『生魔』」

あまりHPを削りたくはないのだが、風の直撃を受けるよりは遥かにマシだ。

迫る風の壁を斬り裂いて潜り抜け、俺はちらりと餓狼丸の状態を確認する。

刀身を染め上げる黒は、未だ10分の1程度。こいつもまだまだ食い足りないと見える。

だが、完全に溜まり切るまで待つのはリスクが高い。奴を殺せるようになったタイミングで仕掛けるしかないだろう。

歩法――烈震。

地を蹴り、前傾姿勢でフィリムエルへと突撃する。

振り返っている奴はこちらへと迎撃のために槍を振るうが、それには切っ先の風以外の魔法は纏っていない様子だ。

やはり、あれだけの風を起こすにはそれなりの溜めが必要になるのだろう。

歩法――跳襲。

俺を迎撃するため、低い位置を狙って繰り出された槍を跳躍して回避する。

その際に槍の穂先が纏う風に僅かに傷を受けたが、大したダメージにはなっていない。

俺は更に槍の柄を足場に跳躍し、体を前に回転させながら唐竹割に刃を振り下ろしていた。

「づッ、おおおッ!」

「チッ……!」

だが、フィリムエルは瞬時に反応し、体を横に傾けて回避していた。

とは言え、完全に回避するには至らず、俺の一閃は奴の左肩に命中し――そのアーマーに僅かな傷を付ける。

先ほどは傷一つつかなかったアーマーだ、どうやら攻撃力はしっかりと上昇してきているらしい。

背後に着地しながら振り返り様の一閃を放てば、それは体勢を立て直そうとしていたフィリムエルの胴へと直撃し、そのアーマーに一筋の傷を付けていた。

そしてそのまま、体勢の崩れたフィリムエルへと肉薄する。

こいつの得物は槍だ。長柄の武器の性質上、どうした所で至近距離は攻撃しづらい。

尤も、それは太刀を使用している俺にも言えることではあるのだが――攻撃の手段は太刀だけではない。

俺はそのまま奴の懐に潜り込み、己の拳を奴の腹部へと押し当てていた。

打法――寸哮。

「が……ッ!?」

苦悶の声を上げ、フィリムエルの体が硬直する。

その隙に、俺は奴の体の重心を下から押し上げ、そこに己の体を滑り込ませていた。

打法――流転。

瞬間、フィリムエルの体はくるりと回転し、上下逆さまに空中へと投げ出される。

俺は驚愕に目を見開いた奴の顔面へと切っ先を放ち――それよりも一瞬早く、フィリムエルは己の槍を地面に突き立てていた。

そして槍を軸にしながら膂力だけで己の体を回転、俺の突きを横からの蹴りで逸らしつつ、着地して態勢を整えていた。

今の蹴りは下手をしたら餓狼丸を弾き飛ばされていた。やはり、この身体能力は油断できないな。

こちらもまた構え直し――膨れ上がった魔力の気配に、舌打ちする。

「チッ……」

「やってくれる……吹き飛ぶがいいッ!」

歩法――烈震。

逆巻く暴風が放たれるよりも早く、俺は横へと回避行動を取る。

普段であれば魔法を斬って接近するところであるが、今は余計な出費は抑えたい。

風の砲弾が通り抜けていくのを気配で感じ取りながら、俺は旋回するようにフィリムエルへと接近していた。

それと共にこちらに向けられるのは、引いては返す連続した突き。

こちらはその穂先に近づくだけでダメージを受けるのだ。この動きは非常に厄介なものである。

だが、このこちらを近づけまいとする動きは、こちらの攻撃に確かな脅威を感じている証拠でもあった。

「成程――」

笑みを浮かべ、前進する。

こちらの胸を狙った一撃をギリギリで回避しつつ、風によるダメージを女王蟻の装甲で受け止める。

そして俺は通り抜けた槍の柄を掴み、引き戻される力を利用して奴に肉薄していた。

驚愕に目を見開くフィリムエルに対し、俺は深く潜り込むように体を縮め――そこから、一直線に伸びあがる蹴りを放つ。

打法――柱衝。

顔面を蹴り抜かれたフィリムエルは、もんどりうって後退し、しかし俺はそれを追うことなく霞の構えで太刀を向ける。

視線を細め、整息し、己が意識の全てを相手へと収束させる。

――奴の持つすべての情報を、見逃さぬようにするために。

「――底は知れた。故に、ここまでだ」

「何の、つもりだ……!」

餓狼丸の刀身を染め上げる黒は、全体のおよそ4分の1程度まで伸びてきている。

これでどれぐらいの攻撃力上昇となっているのかは分からないが、ボディアーマーに傷を付けられた以上、それを貫くことも不可能ではあるまい。

それに加え、ダメ押しであると言わんばかりに、周囲から俺へと向けて支援魔法が降り注いでいた。

どうやら、アルトリウスが支援部隊の一部を呼び戻したようだ。

そちらに意識を向けている余裕はないが、心の中で感謝を返しつつ、俺は《生命の剣》を発動する。

消費するHPは三割。これによって残りのHPは六割ほどになったが、もう一撃放てるならば問題はない。

「久遠の剣は神に通ず――我らが武の神髄、その一端を見せてやろう」

「っ……ならば、その思い上がりごと、微塵と砕けるがいい――」

歩法・奥伝――

潜り込む(・・・・) 感覚。

相手から向けられていた感情、その全てが擦り抜けていくのを感じながら――

「貴様の呼吸は、既に盗んだ」

――虚拍・先陣。

俺の放った穿牙の刺突は、フィリムエルの心臓を正確に貫いていた。

そこでようやく、俺を 見失っていた(・・・・・・) フィリムエルの視線がこちらを向く。

驚愕と、恐怖に塗り潰された、その視線が。

それを受けながら、何とかこちらを吹き飛ばそうとする動きを潰すように、俺は《生命の剣》を発動させつつ体を反転させ、背負い投げのように刃を振り抜く。

「が、は……っ!?」

大量の血が噴き上がり、フィリムエルの体がぐらりと揺れる。

前のめりに倒れようとするその体、しかし奴は一歩足を踏み出してそれに耐え――

斬法――剛の型、輪旋。

「――それまでに俺を殺せなかった、貴様の負けだ」

全身の回転と遠心力、それによって黄金の軌跡を描いた俺の一閃が、差し出された首を断ち斬っていた。

首が刎ね飛び、緑の血を噴出させ――そして、その身の全てが黒い塵となって消滅する。

餓狼丸から滴る血を振り払い、そこでようやく、俺は大きく息を吐き出していた。

「食事は終わりだ。閉じろ、餓狼丸」

俺の命に従うように、餓狼丸から発生していた黒いオーラが消える。

周囲から結構なHPを吸っていたはずだったが、結局最終的にも刀身の黒は3分の1に行くかどうかという程度だった。

とは言え、効果は間違いなく強力だ。こいつが無ければ、フィリムエルに勝利することは難しかっただろう。

その場合、果たしてどれだけ厄介なことになっていたか――そんな想像を巡らせながらも、俺は周囲を見渡す。

戦いの気配は既に薄れている。どうやら、フィリムエルが消えたことで、周囲の悪魔たちも同じように消滅しつつあるらしい。

小さく笑みを浮かべ――俺は、餓狼丸を天高く掲げていた。

「この戦、俺たちの勝利だ!」

『フルレイドクエスト《ノースガード砦の奪還》を達成しました』

『全参加者に報酬が配布されます』

『レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください』

『《刀術》のスキルレベルが上昇しました』

『《強化魔法》のスキルレベルが上昇しました』

『《収奪の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《斬魔の剣》のスキルレベルが上昇しました』

『《テイム》のスキルレベルが上昇しました』

『《HP自動回復》のスキルレベルが上昇しました』

『《生命力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔力操作》のスキルレベルが上昇しました』

『《魔技共演》のスキルレベルが上昇しました』

『テイムモンスター《ルミナ》のレベルが上昇しました』

インフォメーションが流れ、勝利を理解したプレイヤーたちが一斉に歓声を上げる。

響く笑い声の中――俺は、確かな力を見せつけた餓狼丸に、笑みを交えた視線を注ぎ続けていた。