軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帰国

「本当に大丈夫か、アルフォンス? 魔導飛行船に酔ったら言うんだぞ。【回復】で酔いも治せるからな」

「うん、ありがとう。でも、大丈夫だよ、アルス兄さん」

あれから数日が過ぎた。

僕はいまだにノルンの言ったことをアルス兄さんに聞けないでいた。

何度か質問がのどを通って口まで出そうになった。

けれど、すべてそこで止まってしまった。

まさか、アルス兄さんに聞けないなんてことがあるとは思わなかった。

いつも優しくて、頼りになる兄という存在。

その存在は僕の中で本当に大きくて、絶対的なものなんだ。

それが、質問一つでなにかが決定的に変わってしまうような気がした。

だから、どうしても聞くことができなかった。

そんなこんなで悶々としていると、少し身の回りのことがあわただしくなってきた。

というのも、留学生を連れて全員でフォンターナ連合王国に帰還することになったからだ。

今はこうして魔導飛行船に乗って移動している。

大雪山のふもとにあるバリアントという空飛ぶ城に行って、そこに設置されている転送魔法陣を使って帰る予定なのだ。

どうやら、この帰国の話というのがアルス兄さんがわざわざブリリア魔導国に長期滞在していた理由でもあるらしい。

というのも、アルス兄さんという王が治める天空王国は、国を興した直後に鎖国を決めたことが関係している。

鎖国というのは、空に浮かぶ天空王国という国を外部から切り離すことを目的としているらしい。

よくわからないけれど、各地に設置していた転送魔法陣を撤去までして、外界との接触を断つ気らしい。

その影響が留学についても出る。

そもそも、フォンターナ連合王国とブリリア魔導国の交換留学を主導していたのがアルス兄さんなんだ。

そのアルス兄さんが王として、国として外部との関係を断つと宣言した。

そのために、留学も取りやめる話になったという。

けれど、この交換留学はカイル兄さんのもとに嫁いだシャーロット様のことも関係していた。

結婚時に取り決めた留学という約束をアルス兄さん側の都合で短期間でやめてしまうのはいかがなものか。

そんなことをシャルル様から言われたらしい。

その結果、交換留学は当面は続けるものの、規模を減らし、留学生の行き来の頻度も減らすことになったそうだ。

つまり、もしも今後も留学生たちが留学を続けるのであれば、最低でも数年間はお互いが自国に帰れなくなる可能性が高まった。

だから、今回は一時的に全員が帰国し、再度留学の意思があるかどうかを確かめるらしい。

もしも、数年にわたってもブリリア魔導国で学びたい人はあらためて留学させることになる。

実際のところ、どのくらいの人が留学を希望するだろうか。

結構、食生活なんかが違うから、人によっては数年間は絶対に帰ることができないというのは厳しいかもしれない。

(お、なんだありゃ? おい、アルフォンス。向こうに空に浮いた土地が見えるぞ)

(ああ、あれはバリアントだね。アルス兄さんが土地を空に浮かべて、その上に城を建てたんだよ)

(土地を空に? 本当かよ。本気で意味不明な奴だな、アルスってやつは。それにこの空飛ぶ乗り物も見たことないぜ。こんなもんがあるんだな)

魔導飛行船に乗っていると、その窓ガラスの向こうに城が見えた。

どうやらノルンにもそれが分かったようだ。

大雪山というものすごい高い山々の麓近くに、ポツンと浮くように存在している土地と城。

そのバリアントを見ながらノルンが思念を飛ばしてくる。

たしかに、ノルンの言う通り、アルス兄さんはとんでもないことをいくつもしてきた。

空に土地を浮かべるなんてほかにやっている人はいないだろう。

そう考えると、人の体を複製するくらいなんでもないようなことにすら思える。

「ようこそ。お待ちしておりました、アルス様。アルフォンス様もお元気そうでなによりです」

「お疲れさん、エルビス。特に変わったことはなかったか?」

「はい。なにも問題ありませんよ、アルス様。それで、ここバリアントでは体を休めていかれますか? それともすぐに、転送魔法陣を起動して帰国されますか?」

「すぐ帰るよ。移動は一瞬だからな」

「わかりました。それでは準備が終わるまでもう少しだけお待ちください」

僕が考え事をしていると、魔導飛行船はバリアントに着陸した。

そして、そこに一人の男性が入ってくる。

エルビスだ。

このバリアント城の管理をアルス兄さんが任せている騎士だ。

(ほう。なかなかだな。あいつの血も飲んでみたいぜ)

魔導飛行船に入ってきたエルビスを見て、ノルンが言う。

もともと、エルビスは農民だったらしい。

どこにでもいる農民。

だけど、バルカ軍に入ってアルス兄さんやバイト兄さんと一緒に各地で戦って、今はここで城を守っている。

今の僕よりも魔力量がはるかにあり、当主級の実力を持つ。

そんなノルンのたわごとを無視して待っていると、転送魔法陣の起動が終わったらしい。

バリアント城のそばの土地に設置してある大型の魔法陣の上に魔導飛行船ごと移動して待機する。

そこでアルス兄さんが転送魔法陣に向かって魔力を飛ばした。

それによって起動した魔法陣の力で、一瞬にして移動する。

そうして、僕は天空王国へと帰国したのだった。