軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ベンジャミンの求め

「傭兵として、ですか? 俺を?」

「そうだ。アルを雇いたい」

「それはつまり、戦があるということでしょうか? ブリリア魔導国内での王位争いとして」

俺を傭兵として雇う。

ということは、間違いなく戦いが待っているということだろう。

それもそう遠くないうちにだ。

そうでないと、さすがにこんな話を持ってこないだろうからな。

わざわざ冬場にここまで来たということは、春になったらすぐにということなんだろうか。

「いいや、戦があるわけではないよ。少なくともこちらはブリリア魔導国を割るような愚かな真似をしたくない。だから、ほかの王位継承者たちが動く前に終わらせたいんだ。そのためにアルの力を借りたいんだよ」

「??? 俺はオリエント国の護民官であり、国防長官でもあります。仮に傭兵として雇われることがあったとしても、あまりここを離れることはできないでしょう。戦があるわけでもないところに予備兵として時間を拘束されるようなことはしませんよ」

「ああ、それはもちろんそうだろうね。うん、だから君には力を貸してほしいんだ。ただ単に雇って俺のもとにいてもらうなんて意味のないことじゃなくて、戦うための力をね」

「言いたいことがよくわかりません。戦うための力がほしいのに戦をするつもりはないということでしょうか? そんなことがあり得るとは思いませんが」

「それがあり得るんだ。相手は人ではないからね」

「人じゃない? じゃあ、いったいなにと戦うつもりなんですか?」

「決まっているだろう。魔物だよ」

魔物?

人が相手ではなく魔物と戦う。

なるほど。

それなら、まあ意味は分かる。

魔物相手に戦うというのを戦とは言わないだろうからな。

だけど、魔物がいるのか?

いたとして、なんで戦う必要があるんだろうか。

そんなことをするよりも、王になるための行動をするんだとばかり思っていたんだけどな。

いや、違うのか。

もしかすると、魔物と戦うことが王になるための条件だったりするのだろうか。

「魔物を倒せば王になれるということですか?」

「ま、そんな感じかな。けど、ただの魔物ってだけでは駄目だろうね。ブリリア魔導国を率いる力ある王と周囲に示すことができる魔物でなければならない」

「うーん。言いたいことは分かりました。そんな方法で本当にブリリア魔導国内の貴族たちが王位を認めるかどうかは俺には分かりませんけど、ベンはそれが可能だと思っているってことですよね。でも、どうして俺なんですか?」

「ん? どういうことだい、アル?」

「いや、そのまんまの意味ですよ。なんで俺に声をかける必要があるのかってことです。魔物を倒して力を示す。それだけなら、俺に声をかける必要はないはずでしょう? 大国の次期王として、第一王子の威光を利用すればいくらでも国内でベンに従う者を集められると思いますよ。それこそ、俺よりも強い奴もいるでしょう。なんで、わざわざほかの国の人間に力を借りる必要があるんですか?」

「決まっているじゃないか。というか、アルは自分の力を過小評価しているんじゃないか? 俺にとって君のかわりになる存在を見つけることは困難だ。それくらい、アルには高い評価をしているんだよ」

俺に?

大国の王子が?

本当だろうか。

たしかに俺もこれまでいろんな実績を積んできたとは思う。

オリエント国で軍を動かして戦ってきたし、傭兵団もどんどん大きくしている。

が、それを大国の王子が高い評価を下すかというと微妙なところじゃないだろうか。

なんせ、どこまでいってもしょせんは小国家群の中での話なのだ。

大国ブリリア魔導国と小国は比べられるものではない。

「ふふ。そういうところだよ、アル。君は自分の特異性に気が付いていない。というよりも、生まれが特殊だからなのかな? アルが当たり前に思っていることは、俺にとっては当たり前ではないということでもある。エリザベス嬢にはその意味が分かるんじゃないかな? 俺たちの話を聞いてどう思った?」

「え? 今の俺とベンの話ってなにか違和感があったか、リズ?」

「……はい。ありますよ、アル君。アル君は殿下のお話を聞いてこう言いましたよね? 『魔物を倒したくらいで王になれるのか』って。でも、私はその話を聞いてこう感じました。魔物を倒して王になるというのは『まるで御伽噺みたい』だと」

「そのとおりだよ。エリザベス嬢の言うように、我々ブリリア魔導国の民からすると魔物というのは非常に現実離れした存在だ。それこそ、物語に出てくるような、ね。だが、君は違う。あの霊峰を越えた先にある国で生まれ育ったという特殊な生い立ちゆえか、魔物という存在を当たり前のものとして認識している。そんな人間はブリリア魔導国のどの貴族家から人材を集めようとも見つからないだろう」

なるほど。

そういえばそうか。

この辺は魔物がいなさすぎて、物語に出てくる存在みたいなものだったか。

まあ、全然いないわけではないんだろうけれど、少なくとも人類の生活圏においては見かけることはほとんどない。

そういう意味では確かに俺は変わり者として評価されることもあるかもしれない。

「でも、それだけですよね? 魔物という存在を普通に受け入れているってだけで、俺に声をかける必然性はないはずですが」

「うーん。これは本当に意識していないんだね。というか、あれは本当に無意識なのか。てっきり、自分でそれを主張するために置いているものだとばかり思っていたんだけど」

「なんの話ですか?」

「だから、魔物のことだよ、アル。君はこの街や新バルカ街というところで魔物の遺骸を展示しているんだろう? あの霊峰の魔物の遺骸をさ」

「……ああ。あれですか。氷熊や四手氷猿の毛皮とかのことですよね」

「そのとおりだよ。あの人類が入り込むことすら困難な場所に住む魔物の素材を狩りとってくる者がいると聞いたときには驚いたものだよ。初めて耳にしたときには事実ではないと思ったものさ。だが、違った。冬の霊峰に登って魔物を倒してくる存在が現実にいた。だからこそ、君の力を借りたい。改めて請おう。アル、君の力を貸してくれ。俺とともに霊峰に行き、魔物を倒しに行こう」

そういうことか。

ベンの目的は霊峰にあったのか。

たしかにそれなら効果があるかもしれない。

万年雪に閉ざされて、人が生存することは不可能と思われている霊峰に行き、誰も見たことがないような魔物を倒してその遺骸を持ち帰る。

そうすれば、王として認められるということもあるのかもしれない。

どうしようか。

結構、面白そうな申し出だと思ってしまった。

俺はベンの話を聞いて、がぜん興味がわいたのだった。