軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

愛称

「それで、このたびはどのようなご用向きで来られたのですか、ベンジャミン殿下? 忙しい中、何もなくやってくるということはないはずですが」

「おいおい、ベンジャミンだなんてよそよそしい呼び方をしないでくれよ、バルカ卿。こうして知り合った仲じゃないか。俺のことはベンと呼んでくれ」

……は?

ベンってベンジャミンの愛称か?

知り合った仲もなにも、挨拶を交わしただけなんだけど。

なにを言ってるんだ、この人は。

「お戯れを」

「遠慮しないでくれ。そうだ、ならばこうしよう。俺もバルカ卿のことをアルと呼ぶのはどうだろうか。それならおあいこでちょうどいい」

「……分かりました。では、ベン、と呼ばせていただきましょうか」

「いいね。なかなか俺のことをベンと呼んでくれる友がいなかったんだ。俺には今日、初めて対等な友を得たと言えるかもしれないな。よろしくな、アル」

友達作りにここまでやってきた。

さすがにそれはありえない。

が、今のやりとりからだけで言えば、少なくとも敵対関係とみなしているわけではないのかもしれない。

どうなんだろうか。

俺は貴族院に通っている間はシャルル様の屋敷に滞在していたし、今はシャルル様派閥の貴族であるヴァンデンブルグ家との婚姻関係もある。

そんなことは向こうも承知だろうし、味方だと思っているということはないはずだけど。

そんなことを俺が考えていると、隣にいたエリザベスの体がわずかに震えていた。

どうしたんだ?

もしかして、怒っているんだろうか?

対立する派閥の人間どころか、その頂点に位置する第一王子の愛称を呼び合う関係になったことで、俺が取り込まれたと判断したとか。

いや、まあ、そう言われてもしょうがない気はするが、いかんせん、相手の強さが読めない。

もしも、前評判通りにシャルル様を上回る実力があるのだとすれば、向こうの申し出を拒否してしまうのもためらわれた。

ぶっちゃけ、なにをきっかけに怒って攻撃されるかもわからないんだ。

数段上の実力を持つ相手だったら、【回復】すら使えずに瞬殺されるかもしれないからな。

下手なことはできないので、どうしても相手に主導権を握られてしまう。

なるほど。

今度は俺が逆の立場に立ったというわけか。

俺がグルーガリア国の使者と交渉したとき、きっと相手は同じことを思っていたことだろう。

【威圧】してくる俺に攻撃されないように、怒らせないように譲歩せざるを得なかった。

だから、こっちが有利な条件を認めてしまうこととなった。

それが今は俺がそうする必要があるだけだ。

だが、それをしている相手は【威圧】も使わずにこちらに譲歩させている。

相手の力がまったく読めない、というのはそれだけで武器になるのかと感心してしまった。

「……ずるいです」

「は? え、どうしたのエリザベス? ずるいってなにが?」

「初めて会ったばかりの方がアルフォンス君のことをアルと呼んでいることですよ。ずるいです。私もアル君って呼んでもいいですか?」

「あ、はい。どうぞ」

「えへへ。アル君。えっと、それじゃ、私のことはリズって呼んでください」

「リズか。分かったよ、リズ。これでいいか?」

「はい。うれしいです、アル君」

「はっはっは。どうやら、アルとエリザベス嬢はものすごく仲がいいようだな。これは参った。見せつけられてしまったね」

「はい。私とアル君はとっても仲良しなんですよ、殿下」

どうやら、エリザベスがプルプルと震えていたのは派閥云々のことではなかったようだ。

単に羨ましかっただけだったようで、自分も愛称で呼び合いたいと言ってきた。

もちろん、それを断ることはしない。

アルとリズと呼び合うことになった。

それはいい。

エリザベスと仲良くするのはなにも問題ない。

というか、これはエリザベスからのベンジャミン殿下への牽制ということなのだろうか?

婚約者である俺たちの間にはわりこめない。

つまりは、婚姻関係の横やりを入れてくれるなと暗に伝えたかったのではないだろうか。

なるほど。

どういう意図があってここに来たのかは分からないが、エリザベスはベンジャミンが来た理由は俺へ婚姻話を持ってきたのではないかと読んだのだろう。

だからこそ、仲の良さを見せつけて割り込む隙は無いと示したのかもしれない。

なかなかどうして、エリザベスも肝が据わっているようだ。

はるか格上の相手であっても自分が主張すべきところは引かずに意志を表示している。

「どうやら、勘違いさせてしまったかもしれないね。いや、すまなかった。君たちの反応を楽しんでいたわけではないんだよ。今回、俺がオリエント国にまでやってきてアルと会おうとした理由は君たちの婚約を破談させようとしてのものではない。そんなことはないと誓うよ」

「なら、どうして来られたのか、いい加減聞かせてくれませんか、ベン?」

「簡単なことだ。アルは傭兵団の団長をしているんだろう? どうだろうか。俺はアルを傭兵として雇いたいと考えているんだが、受けてはくれないかな?」

傭兵として?

それってつまりは、ベンジャミン第一王子の側についてシャルル様と戦え、ってことなんだろうか。

かわらずニコニコ笑顔を絶やさないベンジャミンの思わぬ提案にしばらく考え込んでしまったのだった。