軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十五話

ツァツァルの代わりにドドルが竜の釣り役を担い、バランがいざという時の後詰で鉱山内に待機する。

外で竜を待ち構えるのは、戦争映画で重機関銃をぶっ放す兵士が肩にかける弾帯みたいに、特殊な帯に魔石を数珠つなぎにしたゲラリオだ。魔石が規格化されているので、戦闘中に様々な魔石を使えるよう、この手の便利な道具が色々あるらしい。

そのゲラリオが、これが初陣になるクルルに念を押して手順を説明していた。

「いいか、姉ちゃんはバランが魔法を使えなかったときの控えだ。俺の合図が出る前には絶対に打つなよ。初めてだと力んで慌ててすぐ出しちまうのが相場だが、そういう時は数字を数えるんだ」

「あ、ああ」

「それと、いざ出番になっても、全力で魔法を使うなよ。ろくに使ってない”穴”にいきなりでかいのを入れたら裂けちまうからな。さっきちょっと“穴”に入れてみたろ? あの感覚を忘れ――」

「わかっている!」

クルルが顔を赤くして怒っているのは、ゲラリオの説明が常にどこか卑猥なせいだ。

ゲラリオはわざとやっている風でもないので、戦場の男たちの言葉は万国共通で、粗野で卑猥になるのだろう。

「その意気だ。ぶるっちまって立たないよりましだからな!」

励まし方も実に男臭いが、目が真剣なので、やっぱりからかっているわけではないらしい。

「よ~し。経費も使い放題で、釣り役はまあまあ使えそうな奴だ。華麗に倒して島の英雄誕生といこうじゃないか!」

少し離れた場所では、健吾に肩を借りているツァツァルが、ドドルと額を合わせてなにかまじないみたいなものを唱えている。獣人たち特有のゲン担ぎだろう。

バランはドドルの仲間たちに向けて、鉱山の出入り口前に風魔法で開けた落とし穴の位置と、それぞれの退避路を繰り返し説明していた。彼らは竜が穴の中から外に出てきた時、目移りさせるために四方八方に走る役目を担っている。

竜は図体こそでかいが中身は蛙なみらしく、動くものを餌と思って追いかけるのだが、それが多すぎると混乱して動きが止まるのだそうだ。

クルルはと言えば、鉱山入り口を睨みつけ、手元の風魔法が刻まれた魔石を時折見ながら、イメージトレーニングに余念がない。

周囲を見回っていたら、ゲラリオが声をかけてきた。

「で、ヨリノブさんよ。竜の死体は山分けってことでいいんだな?」

どうやら魔物の死体は様々な効能を持つものが多いらしく、特に竜は高値で売れるらしい。

幼竜だといまいちらしいが、それでも綺麗な死体なら金貨で数万枚に達するという。

獲物の値段を聞けば、なるほどゲラリオが終身年金として毎月金貨百枚を要求したことについて、安いと言ったツァツァルの言葉が理解できる。

「年金も二百枚もらって、本当にそんなうまい話を信じていいのか?」

誰も死なせない前提で話すゲラリオが、頼もしくもあり、その自信の深さに笑ってしまうようでもあり。

「クルルさんに魔法使いのことを教えてくれたお礼です。それは仕事の中に入っていませんでしたから」

するとゲラリオは剣呑な目を向けてきた。

「そいつはお前らの気前の良さに対しての礼だ。お前、俺に貸しを作り続けようって腹か?」

「あなたは私たちが必要としている知識を、たくさん持っているはずですから」

イーリアの屋敷でのことを思い返せばいい。悲壮な覚悟を決めたドドルやクルル、それにクルルにすがりつくイーリアを見かねて協力を申し出たくらいなので、ゲラリオは間違いなく根がいい人だ。

協力してもらうために、恩を売り続けるべし。

「へっ。うまい話はないって散々学んできたもんだ」

翻訳すれば、金に見合ったことは教えてやる、ということだろう。

「ま、大船に乗ったつもりでいな」

ゲラリオはこちらの肩をばんと叩き、所定の位置に向かっていく。

緊張などまるで感じさせないが、決して油断しているわけでもない、力強い足取りだった。

一時は最悪の事態を想像したが、どうにかなりそうだと自分も思う。

「とか思ってると、フラグだよなあ」

日本語で呟き、苦笑いしていたら、耳慣れない音を聞きつけたらしいクルルが、不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「とてもうまくいきそうに思えるのが、怖いって言ったんです」

こちらの言葉をとらえたクルルは、猫の耳をぴっぴっと機敏に動かしてから、肩をすくめて言った。

「イーリア様もそんなことをよく言うな」

それはなんとなくわかる。

「私は、うまくいくと信じているが」

それもわかる。

「だから安心して、私の後ろに隠れていろ」

やっぱり性別が逆な気がするのだが、男前な台詞は誰が言っても男前だ。

「ええ、信じています」

その背中に魔法陣を描いたのは、自分なのだし。

「始めるぞ!」

バランの野太い声が一帯に響き渡る。

いよいよ、竜狩りの開始だった。