軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十八話

バダダムがクルルに遠慮なくものを言うようになったのと同じくらい、クルルもバダダムになら言ってもいいかと思うことがたくさん増えた。

「イーリア様は気を使って、私とあいつを今回の討伐に送り出してくれたが……」

一応、ヴォーデン属州に直接赴いて奴隷取引より交易の利を説くのは、頼信か健吾にしかできないという理由があった。

しかし健吾は、鉱山の監督のほか、ジレーヌ領で異界の知識であるカガクとやらを広める先生の役をやったり、増え続ける獣人たちをドドルと一緒に管理したりと、外せない役割が山ほどある。

頼信も忙しいと言えばそうだが、奇妙な思い付きを練る以外の仕事は、他の者たちのほうが丁寧に、また効率よくできる。

本人も自覚があるようで、いつも商会で働くヨシュたちを褒めているし、健吾の話によると、はっきりとは言わないが前の世界ではあまりぱっとしない身分だったらしい。

なので頼信は別に、ジレーヌ領に常にいないでも大丈夫、ということなのだ。

その評価にクルルは納得してしまうが、やはり心のどこかは面白くない。

頼信の凄さを知っているつもりだし、うじうじした頼信は嫌いなので、なおさらだ。

低い評価にへらへらしていないで、もっと胸を張れと思うのだが、その頼信は、ジレーヌ領を出てからずっとうなだれて、たまに卑屈そうにクルルを見ては、背中を丸めている。

イーリアの屋敷に残されていた写本の中で、威風堂々とした騎士に大切にされる姫の話が一番好きなクルルとしては、牙を剥きたくなる。

けれどそれが子供っぽい怒りだという自覚くらい、クルルにもある。

写本の中のどんな騎士よりも頼りになる一方、普段はその騎士の馬に蹴られる三下以下。

頼信とはそういう人間なのであり、そんな間抜けの側にいたいのは、ほかならぬ自分なのだから。

ずっと騎士でいろというのは、我がままというものだし、そんな頼信は頼信でないだろうというのもまた、わかるのだ。

『イーリア様たちがちょっかいをだすわけだ』

バダダムの物言いに、クルルはその腰を叩く。

バダダムはくすぐったそうに笑ってから、耳の向きを機敏に変えた。

クルルのほうも、ヨークンとゼゼクの空気の変化を感じ取っている。

近づく敵影を発見したのだろう。

『ワレは八つ当たりこそ諫めますがね、この戦いそのものは、仲直りのきっかけになるのでは?』

クルルの視線を受けて、バダダムは戦友のような笑顔を見せる。

『ヨリノブ殿が見つけた新手法を、外部の者たちに試す初めての機会でしょう。派手な戦果を挙げれば、自然に話すきっかけになるのでは?』

頼信はよその世界からやってきて、この世界の誰も思いつかなかったような、死神の口戦術を思いついた。

だが、やはり頼信が油断ならないのは、その死神の口戦術の攻撃方法に、さらなる磨きをかけたことだ。

どうやら「カガク」とやらの応用らしく、クルルには不可解なことに、頼信は魔石を使ってそれを試す前に、こういう効果になるはずだと予見していた。

理論、仮説、検証、と言っていた。

クルルは、やはり、と思う。

なんでそれだけこの世界の秘密を解き明かせるのに、そんなに間抜けなんだと。

「……だが、ヨークンの前ででしゃばるわけにもいかないだろ」

『ヨークン様は師匠の兄貴分だ。猫姫の気持ちなど先刻承知だとも』

その気遣いに、クルルは痛し痒しだ。

男女の仲直りなんてのは寝込みを襲えば一発だと、下品な野次を飛ばすゲラリオのほうが、まだクルルにはとっつきやすい。

「私は、自分がこんなに間抜けだと知らなかったよ」

戦いに必要な荷物を持ち、革帯をしめていく。

何十回と繰り返したから、体が勝手に動いてくれる。

『なあに。師匠の酒場での醜態は、もっとひどい』

ゲラリオは暑苦しい性格だが、クルルのことは酒場に誘わない。

いつも付き合わされているバダダムの言葉に、クルルの耳がひくひくと動く。

「そうなのか?」

『もちろん。ワレが何度、師匠の泣き言を相手に伝えに行ったことか』

酒場の女に袖にされ、ぐずぐずになっているゲラリオの顔が、容易に思い浮かぶ。

「後で聞かせてくれ」

バダダムは肩をすくめてから、その大きな掌で、クルルの背中を軽く叩く。

『まずは戦いをうまくいかせること。では?』

クウォン以来、すっかり二人一組の相棒となったバダダムに、クルルは言った。

「そのとおりだ。まあ、お前となら楽勝だろうが」

クルルの何気ない一言に、バダダムが困ったような笑みを見せていた。

「どうした?」

『いや、その一言を伝えるだけなのにと思って』

緑色の目を薄く眇めたクルルは、バダダムの脛を思い切り蹴り飛ばした。

バダダムはゲラリオにしごかれて、体格が二回りは大きくなっている。

その丸太のような脛で標的を蹴れば、なまくらの刀剣なら三本束ねたって蹴り折ってしまう。

クルルの蹴りなんてものの数に入らない。

それでもバダダムは、痛そうにしてみせた。

良い奴だ、とクルルは思う。

「行くぞ」

クルルの一言に、片足立ちになっていたバダダムが、すっと姿勢を戻す。

『おうともさ』

それから二人揃って、ヨークンたちのもとに向かう。

彼の指差した先に、哀れな獲物が見えた。

ただ、クルルが気にしているのは、前方の敵ではなく、後方の味方のほう。

ロランから同行している行政官の横で、背中を丸めている我らが大宰相様だ。

敵を倒した後、何食わぬ顔で声をかければいいとはわかっていても、どうしても緊張する。

「お前の戦法は効果的だった、お前の戦法は効果的だった……」

これでうまくいくはず。いくはずだ。

そう自分に言い聞かせていたクルルは、ふと顔を上げた。

ヨークンほか、三名が、じっと自分のことを見つめているのに気がついたから。

「応援してるからな」

ヨークンから苦笑交じりに言われ、さしものクルルも、顔を赤くしてうつむいたのだった。