軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

49 王への道

「真の帝王学とは王から次代の王へ少しずつ教えていくものだ。国を統治すると言うことは表に出せるきれいなことだけではない。私が先王から教わったように、本来はお前が子を成せるようになった時に教えるつもりだった」

アルヘルムは、呆然となっているフィリップを見て「聞けるか」と尋ねた。

「はい…」フィリップはごくりと生唾を飲み込んだ。

「少し早いがいい機会だから教えておく。王族の結婚は政略だ。王家つまり国に利益のない結婚はしない。お前達の母とも政略結婚だ」

フィリップは目を見開いてアルヘルムを見つめる。アルヘルムの表情は変わらない。

「テレサは、我が国の有力貴族の娘だと知っているな?」

「はい」

「当時、数名の王妃候補がいた。その中から1番国の役に立つ家の娘を先王と選んだ。それがテレサだ」

「役に立つのであれば…母上でなくとも良かったと…」

「そうだ。だが、幸いな事に私達は出会いは政略結婚であったが心が通じ、愛し合えるようになった。先王ご夫妻と私達は王家では珍しく睦まじい王と王妃なのだよ」

「他は…」

「他の王と王妃か?他の方々も役目を立派に果たした。子をなし次代に血筋を繋ぐように努力された」

「努力…それは…どういう努力でしょうか」

「……閨教育と言うものがある。そう遠くなくお前も受けるだろう。その時にわかるだろうから、今はそう言う努力があるのだと言う事だけ覚えておくといい」

「はい」

「テレサは婚姻後世継ぎを…お前をすぐに産みカール、ブランシュを産んだという事で王妃としての一応の地位を固めたと言ってもいい。王妃に男子がない場合は新たに妃を迎え、王妃達に男子が生まれなかった場合は、王弟に早めに代が譲られる」

「私やカールがいるのに、なぜ父上はあいつを…」

「皇女様と呼びなさい」アルヘルムは強く言付けた。

「はい…」

「皇女様の降嫁の話がなくとも、重臣たちからは妾妃または第2夫人の話は常に出ている」

「え…」

「2人では足らないのだよ」

「足らないって…」

「流行病や戦争、そして王としての資質がない者がいる場合を考えると王子は5人ほどいた方がいいと言われている。より良い王を選べるからな」

「そんな…私達をなんだと」

「お前は王を…王族をなんと思っている?」

「国を統治する権力を持っているのが王で、高貴な一族と習いました」

「王とはバルクという国への奉仕者なのだよ。国の為に生まれ婚姻し子を作りその生涯のすべてを捧げて国の為に尽くす…それが王だ。そしてその王を生み出し支える一族が王族だ」

「いずれ、カールには王弟としての、ブランシュには王女としての心構えを教える」

「ゲオルグ叔父上も先王様から受けたのですか?」

「そうだ。だからゲオルグは今も婚約者もなく私を支えお前達を見守っている」

「見守っている?」

「お前とカールの間にはもう一人子が生まれるはずであった」

「え…」

「テレサの腹の中にいる間に、儚くなった。公表する前に儚くなったので、知るものは限られている。ゲオルグは私に数人王子が生まれたら公爵となり婚姻する予定だ。もし…ゲオルグが次代の王になれば王に相応しい王妃を娶らなくてはならないからな」

フィリップは、頭がクラクラしていた。

今まで家庭教師から教わった王や王族と言う「もの」の概念が音を立てて崩れていく。

「驚いただろう」

「はい…」

「私も初めて父上から聞いたときは、驚きしばらく誰とも会いたくなかった」

そう言うとアルヘルムは当時を思いだしているのか、しばらく目を閉じていた。そして、おもむろに目を開けフィリップを見つめる。

アルヘルムは立ち上がり、フィリップの部屋の隅に置かれている小机の上の水差しからグラスに水を注ぎ、1つをフィリップに1つを自分の前に置いた。

「喉が乾いただろう。飲みなさい」とアルヘルムに言われてフィリップは喉がカラカラに乾いているのに気がついた。

グラスに口をつけると、薄く切って入れられている檸檬の香りが鼻をくすぐった。アルヘルムもごくごくと水を飲んだ。

「今回の皇女様の降嫁だが、表向きは帝国からの戦勝への褒美だ。だが帝国への同盟と合わせてもこの小国に対して過分すぎる。帝国の真意はわからんがバルク国にとっては利益がある」

アルヘルムはグラスをテーブルに置く。

「バルク国から帝国への輸出税は大幅に下げられ一定量の買上げも約束された。少しは民たちの生活も潤うだろう。私はバルク国の王として皇女様をお迎えすると決めた。テレサも王妃としてこの国の為にと理解してくれている」

「お前は、その皇女様を皆の前で侮辱したのだよ」

自分のしでかした事とはいえ、フィリップは真っ青になる。

「私は…わたしは…」

ただ母上を守りたかった…その言葉は、アルヘルムの話を聞いたあとでは口にすることはできなかった。

「お前がテレサに連れられていった後、皇女様に膝を突き赦しを乞うた。ゲオルグもだ」

王である父上が膝をつく…

「皇女様は、私の手を取り子供のしたことですからとお赦しくださった。しかし、あの場には帝国から来ていた文官も居た。皇女様が赦しても公式の場であれば帝国から皇女を侮辱したと破談や報復をされてもおかしくない」

「私は王として国を守るために、お前の廃嫡を決めていた。カールやゲオルグがいるからな」

フィリップの手が震えだした。見上げたそこに父の顔はなく、バルク国王としてのアルヘルムがいた。

「テレサは、お前の代わりに自分が修道院に行くからどうか廃嫡しないで欲しいと懇願してきた。テレサも、お前が廃嫡になるとはどういう事か理解しているからな」

「母上…」

フィリップの目から涙が溢れ出る。

守ろうとした母上は、自分の身と引き換えにフィリップを守ろうとしている。

「先程、皇女様と話をした」

「父上…」

「あの場では赦すと言われたが本心かどうかは、わからなかった」

「皇女様が望むのであれば、お前を廃嫡にと申し出ようとして…私は口に出せなかった… お前もテレサも失いたくはなかった… 私も王としてはまだ未熟なのだ」

アルヘルムは、フィリップから目を離しテーブルの上のグラスを見つめている。

「ち…父上…」

「皇女様は笑ってあの場は公式ではなく私的な場だと、未成年は公式の場に出ることはないのだからと言われ、子供が父親に新しい妃が来ることを受け入れられないのは当然だと言われたのだ」

「うぐっ…う…」

「皇女様が私的な場だと言うのなら、お前の廃嫡は無くなる。お前は赦されたのだよ」

アルヘルムは立ち上がり、フィリップの隣に来るとフィリップを優しく抱きしめ「良かった…」と、アルヘルムは告げた。

「父としてアデライーデ様には感謝しかない。廃嫡をと言い出せなかった時、心の中で私はアデライーデ様に 縋(すが) ったのだよ。私の手をとり気にしないと言ってくれたのだから、フィリップの廃嫡など望まないで欲しいと…。

アデライーデ様でなかったら、私はこうしてお前を抱くことはなかったろう…

お前はいずれ王となる。国の為に生き婚姻し子を成し、国の為に妃や子を差し出さねばならぬ時もある。辛い事の多い道を歩ませるだろう。それでも王家に嫡男として生まれたからには避けられぬ」

「…はい、父上」フィリップは涙を拭うとコクリと 頷(うなず) いた。