軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48 父と子

アルヘルムは、謹慎させているフィリップの部屋の扉をノックするとフィリップ付きの女官が出て来た。

目配せをすると、女官は黙礼し静かに部屋を出ていく。

入れ替わりでアルヘルムがフィリップの部屋に入ると、フィリップは窓から外を眺めていた。

「フィリップ」

アルヘルムはフィリップに声をかけるが、フィリップは振り向かない。

「聞こえているのだろう、こちらに来なさい」

再度アルヘルムに声をかけられ、フィリップは渋々アルヘルムの側にやってきた。

アルヘルムはフィリップをソファに座らせると、フィリップに向かい合って座った。

「お前に伝えておくことがある。その前に、お前はいずれこのバルク国の王となる自覚はあるのか」

「…あります」

「では、自身の行いがこの国の運命を左右する事を自覚しなさい。お前がした事はお前だけの問題で済むことではないのだから」

「罰は受けます。罰は受けますが間違ったことをしているとは思いません。母上を追い出そうとするのはおかしいです。」

フィリップは、この国の王となる為に周辺国との付き合い方、王になる心構えや臣下への態度などの帝王学を学んでいる。最近は周辺国からの使者や王族の出迎えの場などに短時間だが同席する事や紹介される事も増えてきた。

テレサから帝国から皇女が降嫁する事も聞かされていた。その事をテレサに聞くと「皇女様を家族にお迎えするのよ。皇女様はお一人で遠くからいらっしゃるから歓迎しましょうね。皇女様が寂しくないように優しくしてあげてね」と笑って教えられた。

フィリップは、自分より4つ年上の皇女が父上と結婚し家族になると密かに楽しみにしていた。姉ができるような気持ちだった。

教師や女官に聞いても、おめでとうございます。帝国と縁が結べることは願ってもない僥倖、バルク国も安泰だと言われていた。

剣術の稽古が終わった時、アデライーデが到着したと聞きテレサに知らせたくていつもは通らない廊下を急いでいると、横の廊下からテレサ付きの女官達の声が聞こえた。泥のついた稽古着を咎められるかもしれないと、とっさに側の彫像の影に隠れていると女官達のうわさ話を耳にした。

「皇女様がやっぱり正妃になるのかしら」

「ご身分はテレサ様より上だもの…」

「帝国の皇女様と同列とはいかないわよね」

「第2夫人となるのかしら…」

「……テレサ様、おかわいそうに」

「帝国に降嫁させると言われたら、逆らえないもの…」

「……皇女様がお子様を授かったらフィリップ様達はどうなるのかしら」

「それは…正妃のお子様が上位になるわね」

「王女様ならまだしも、王子様がお生まれになったら」

「フィリップ様達は、第2第3王子になるのかしら」

「そうなれば、王宮を出て離宮暮らしになるわ…」

「そんな…今まで仲睦まじくお暮らしだったのに」

女官達はフィリップに気づかず通り過ぎて行き、フィリップは気がつくと自室に戻っていた。学習机の上には2枚の地図が置かれていた。

家庭教師がアデライーデを迎えるにあたって、フィリップに色々教えるつもりで用意したのであろう。

1枚はバルク国を中心にした周辺国地図で、帝国はバルク国の西に位置していた。

もう1枚は大陸地図で、フローリア帝国の他にも大国がいくつも記されている。バルク国は大陸の東、フローリア帝国よりずっと小さく記されていた。

フィリップは、むっとした顔でその地図を睨んでいた。

翌日、テレサと話がしたくて女官に取り次ぎを頼んだ。が、王妃様は支度がありお時間がございませんので代わりにお聞きいたしましょうかと言われたが、言えるわけもなく時間だけがどんどん過ぎてゆく。

テレサと話ができるかもと、支度を早く済ませてもらい控室に行くがテレサはぎりぎりの時間に入室してきた。

「母上!お聞きしたい事があります」

「フィリップ。今は時間がないわ…後でね」

「でも」

「お時間となりました」侍従の一人が時を告げると、テレサは「ちゃんとご挨拶するのよ。いつもの様に」と抱きしめ女官にドレスを整えてもらいゲオルグのあとに続いていく。

テレサに続き貴賓室に入室すると、父上の隣に皇女がいた。

父上は皇女に笑いかけエスコートし叔父上を紹介している。そして母上を紹介した時に、母上はまるで臣下のように皇女に挨拶をした。

喉の奥が熱くなる。

--そこはお前の場所じゃない。母上の場所だ!

いつも父上の隣には母上がいた。

今その場所には皇女がいて、母上は追い出されている。

女官達の話が頭の中を駆け巡る。

「母上を追い出そうとしているくせに!お前なんか帰れ!」と叫んだあとは、父上の怒声とカール達の泣き声が聞こえ母上に引きずられるように貴賓室から連れ出された。

自室までテレサに手を引かれて連れてこられた。

テレサは女官に退室するように告げ、フィリップの肩を掴み目線を合わせると「フィリップ。なぜあんな事を言ったのです!」と青ざめた顔で問いただす。

「あいつは母上を追い出そうとしています!なぜ母上の場所にあいつはいるんですか!」

「皇女様をあいつと呼ぶのはお止めなさい!ご紹介なのよ?ゲオルグ様もご一緒していたでしょう?」

「あいつは正妃になって、母上は第2夫人になるのですか?」

「……フィリップ…なぜ」

テレサは驚きを隠せなかった。フィリップはどこでそんな話を聞いたのか…

「……父上は、帝国にあいつと結婚しろと言われて母上を離宮に追い出すのですか?私やカール達も…」

「いいえ!いいえ!」

そう言うと、テレサはフィリップを抱きしめた。

「フィリップ… 何も…何も心配はないのよ…」

テレサはフィリップに部屋に居るように告げて出ていくと、しばらく経ってアルヘルムがやって来た。テレサに聞いた事と同じ事を聞いたがアルヘルムもそれには答えず、誰にその話を聞いたのかと問われた。

廊下で母上付きの女官の噂話を聞いた事を話すと、謹慎していなさいと言いアルヘルムは出ていってしまった。

母上も父上も、自分の問いには答えてくれない。

家庭教師も来ず、今まで自室に閉じ込められていた。

「罰を受けると?」

「はい」

「お前が受ける罰は、どんな罰だと思う?」

「それは…」

フィリップは、どんな罰かまでは思い浮かばなかった。

今まで受けた罰は、家庭教師から逃げ出したりいたずらをした時の書き取りや壁を向いて立たされたり、自室に謹慎させられたりした事ぐらいだった。

「廃嫡だ」

「はいちゃく…?」

聞いたことが無い…いや、王家の歴史で家庭教師が何代か前の王子が廃嫡になり、弟王子が王になった話をしていた事を思い出した。

「私は王になれなくてもいいです。母上と一緒にいれるな…」

アルヘルムは表情のない顔で、フィリップの言葉を遮った。

「廃嫡となれば2度と王家の者と会うことは許されず、死ぬまで王家の塔に幽閉され死してのちも塔の地下に埋められる。墓石も許されぬ。そして未成年のお前が廃嫡になるという事は、更に王家の歴史書の中から生まれた事すら消され、いなかったものとされる」

「そんな…でも、家庭教師は…」フィリップは愕然とした。

「お前はまだ幼い。家庭教師が教える国の歴史や帝王学は表向きのことだけだ。表向きの歴史書の中で書かれる廃嫡とは成年後奇行が目立ったり、謀反を起こそうとして公になり隠せなかった時だ」

「……」

「生まれてきた事すら無かったことになる……。未成年のお前を廃嫡にするという事は、そう言う事なのだ」

フィリップはアルヘルムの言葉に強いショックを受け何も言葉が出ない。

アルヘルムの言葉は続く。