軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

445 ストラックアウトとチンチロリン

「アルヘルム様! あと1枚ですわよ!」

「父上! あと1枚です!」

二人の応援にニコリと応えると、アルヘルムはぽんぽんとボールを手遊びしてから振りかぶり、腰を入れて最後の的にその長い腕をしならせてボールを投げた。

茶色い皮のボールはアルヘルムの指から離れると、真っ直ぐに真ん中の「5」の的を打ち抜き、的が後ろにはらりと舞った。

ぱちぱちぱち!

「わあー!」

「すごいです! ストレートで全部の的を打ち抜きましたね!」

アデライーデは興奮気味に拍手をしながらアルヘルムに声をかけた。

ーすごいわ! まるでプロ野球選手みたい!

「いや、投石に慣れた者ならこれくらいは普通だよ」と、アルヘルムはさらりと言うが、プロの野球選手でも9枚全抜き(パーフェクト)は至難の業だとお正月のスポーツ選手の特番でレポーターが言っていたのを覚えている。

12球の持ち玉で7枚以上抜ければ高レベルと言われるストラックアウトを、初見で全て落としたアルヘルムの腕はプロのピッチャー並みと言えるだろう。

ちなみにアデライーデは、発案者特権で最初にやらせて貰った(それもかなり前の方で)が、持ち玉の半分は的に届かなかったり当たっても落とせず、2枚落としただけである。

「次はフィリップ様ですよ。頑張って!」

「はい!」

そう言ってフィリップは、アルヘルムと同じ位置に立った。

「フィリップ、アデライーデと同じくらいの位置でやってみてはどうだ?」

「いえ、私も父上と同じ位置でやります!」

子供扱いをされるのが嫌なフィリップの言葉に、アルヘルムとアデライーデは黙って微笑んだ。

ぽーん。

フィリップの投げた皮のボールは「3」の枠に当たって跳ね返ってしまった。

「あー、惜しいですわ!」

「くぅ。もう一回です!」

残り4枚のストラックアウトの面を見ながら、フィリップが悔しそうにヴェルフから次の玉を受け取った。

投石(とうせき) は、基本的な軍事訓練として初めに練習させられる。フィリップも教わってはいるが、いかんせん体躯と練習のキャリアによるコントロールはアルヘルムに及ばない。

矢場のストラックアウトは的から10メートルが立ち位置だ。これは男性用の距離で女性や子供は5メートルから7メートルくらいから投げる。

10メートルですでに5枚落としているフィリップの筋は決して悪くない。むしろ優秀な方であるが、フィリップの目標はあくまでも全抜きしたアルヘルムである。

「これは結構面白いな」

「はい。船員達は宣言した数字の的を落としたり、いかに遠くから落とせるかなど賭けたりして楽しんでおります」

フィリップが真剣に狙いを定めている後ろで、アルヘルムがストラックアウトの感想を言い、ヴェルフがその人気ぶりを報告する。

元々酒場でワイン樽の底の中心に矢を投げて当てる兵士達の暇つぶし(後のダーツ)がバルクの矢場の元なのだが、ペルレでは武器の持ち込みは厳禁である。

矢が武器になるからなにか代わりのものをと、アデライーデが去年の秋のシードルフ村祭りで兵士達にさせたストラックアウトを持ち込んだのだ。見た目で勝敗がわかりやすい賭け事は、船員達にも受けた。

そして、陽子さんが矢場で驚いたのは室内ボーリングがあった事だ。ナインピンと呼ばれるようで現代のボーリングによく似ていた。

だが現代のように長いレーンのようなものはなく、普通の床をレンガで区切って短いレーンを作っているだけの簡素なものである。その名のとおり9つの木のピンに木球で当て、倒した数で勝敗を決めるらしい。

アルヘルムもフィリップも、そちらには食いついていかなかったから見知っているゲームなのだろう。

他に目をやると、処々の壁に 籠(かご) がつけてあり少し離れた場所に丸テーブルと籠に盛られた紅白のお手玉のような布袋があった。どうも前世の玉入れのようである。

そのそばにはメイド服を着て大人しめの化粧をした島の女達が緊張気味に立っていた。

普段、彼女達は胸元の露出度の高い薄いセクシーな服を身に纏い、梯子に登り籠に入った玉を数えながら投げたり、ナインボールのピンを置いたりストラックアウトのボールを客に渡して客引きをする 矢場女(やばおんな) である。

今はあまり見なくなったが、昔の時代劇の矢場で矢が的に当たると、太鼓をどんと鳴らして「あたぁ〜りぃ〜」と声を上げる、あの女達だ。

今日はフィリップとアデライーデも視察に来た為、ヴェルフから支給されたメイド服を着て薄化粧にひっつめ髪で仕事をしているのだ。もちろん色っぽい仕草は厳禁である。

そして、あちこちにあるテーブルには木のサイコロが3つずつ置かれていた。

ーこの世界でもチンチロリンをやるのね。

陽子さんはおじいちゃんからチンチロリンの手ほどきを受けて、小さい頃遊んだ記憶がある。実をいうと6までの数字を覚えたのはチンチロリンのおかげだった。

母やおばあちゃんは眉を顰めて嫌がり、当時流行っていたカチカチボール(アメリカン・クラッカー)とかすごろくとか買ってきてくれたのだが、子供ごころにあのチンチロリンと鳴る音が好きで、母達の目を盗みおじいちゃんとこっそりやっていた。

ちなみに花札を教わったのも、おじいちゃんからである。陽子さんにとって、ニンテンドーより花札の任天堂の方が馴染みが深い。

サイコロがあれば幼児でもできる簡単な賭博は庶民に人気があり、この世界でも例外ではなく酒場でラッフルという名で遊ばれている。

がこっ!

最後の玉がストラックアウトの枠に当たって、無情にもころころと床を転がった。

「ダメでした。4枚も残ってます…」

「そんな事をありませんよ。アルヘルム様と同じ条件で5枚も落とせたのです。凄いことですよ」

「でも…」

「船員達でも、全抜きをできる者はそうそう居ないと聞きます。王が特別なのだと思います」

「……」

アデライーデやヴェルフに慰められても、フィリップはしょんぼりしていた。男の子にとって父は最初の目標である。少しでも近づき追い越したいと思うものなのだろう。

「そうだな。これは投石の練習になるから、早速城にも一台作らせよう。毎日練習をすれば、少しずつ上手くなる。私も最初は棒の的に上手く石を当てられず、毎日腕が痛くなるまで練習したものだ」

「父上が…、ですか?」

「うむ。私も最初からなんでも上手く出来た訳ではないのだよ。日々鍛錬だ」

「はい!」

「では、最後にもうひとつアデライーデが考案したゲームをしようか」

「え?」

「ペルレで一番人気らしいぞ。ヴェルフ、どこにある?」

「あちらに」

そう言ってヴェルフが指し示した先には、ラシャが貼られた大きなテーブルが並んでいた。