軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

437 コマーシャルと踊り

カールは早速スプーンを取ると、ぱくりとカレーを口にした。

「おいしい!」

「本当に?」

「はい! 初めて食べる味だけど、おいしいです!」

ーカール様はオッケーね。ブランシュ様は…

カレーをぱくつくカールから目をずらすと、ブランシュがスプーンを咥えて隣のカールをじっと見ていた。

ーあらあら。どうもブランシュ様は薫と同じように見慣れない料理に慎重になるタイプのようね。

ワンオペ子育てをしていた二十数年前の昔を思い出して陽子さんはくすりと笑う。

ーだったら…

「私も、いただきますね」

そう言って、陽子さんはブランシュの気を引くようにスプーンを自分のお皿の上で大きな丸を描くようにぐるぐると回した。

「あ…」

ブランシュの目線をばっちりスプーンに引きつけてから、一匙カレーを掬った。

「リンゴとはちみつ、♫♪♫♪ アリシアのバァルクカレー♫」

ウキウキと楽しそうに。隣のテーブルには聞こえないように。でも、しっかりブランシュに聞こえるように、懐かしいカレーのCMソングをモジッた即席替え歌を陽子さんは歌った。

「リンゴとはちみつ?」

「そうですよ。ブランシュ様はリンゴとはちみつはお好き?」

「だいすき!」

この世界では、蜂蜜は産まれた翌々年まで食べさせてはいけないと知られている。ブランシュもやっと最近蜂蜜が解禁になり、おやつのパンケーキにかけて食べられるようになっていた。

「このカレーにも、リンゴジャムとはちみつが入れてありますよ」

「ほんとに?」

もちろん本当である。

ブランシュ達のカレーには前世の幼児向けのカレーと同じように、蒸して潰したかぼちゃとリンゴ酢とリンゴジャム、はちみつを入れて甘みとコクを足している。

「うーん! おいしーい!」

ブランシュにわかるように、陽子さんはカレーを口にいれ大げさに美味しいと言って、ちらりとブランシュを見た。

食の細かった薫の幼児期の食事はCMソングやダンス?で気を引いて、とりあえず口に入れさせるところから始まっていた。

薫の口に入るまでがある意味勝負で、口に入れてしまえば陽子さんの勝利である。薫は食べムラのある子だったから一食ひとくちで終わる事も多く苦労させられた。

当時よくお世話になったのは、インスタント食品や◯ザーラのエビマヨピザのCMソングで、食べさせたい料理や食材をもじった替え歌と即興ダンスをキッチンで歌い踊りまくって薫の口に入れていたなと懐かしく思いだしていた。

ー本当にCMソング様々だったわねぇ

たった15秒だが、CMソングは偉大である。

キャッチーな歌詞は耳に入りやすく、短く簡単なメロディは覚えやすい。そして子どもでもすぐに覚えて歌える。

まぁ…ここで踊るわけにはいかないが、ブランシュがカレーを好まなくとも、ひとくち口にしてくれるだけでもありがたいと思って歌ってみた。ダメだったらブランシュの食べ慣れたグラッシュを出してもらえばいい。

ブランシュはそんなアデライーデと隣でぱくぱくカレーを食べているカールを見比べ、ぱくりとカレーを一匙口に入れた。

ーやったわー!

陽子さんの勝利である。

「おいしい!」

「良かったわ」

ブランシュも一匙口にしてしまえば甘いカレーを気に入ったようで、にこにこしながら二口目を口に入れた。

「楽しそうに食べているようだ」

「ええ、本当に。ブランシュも粗相なく頂いているようで安心しましたわ」

「…楽しそうで良かったです」

こちらの大人のテーブルでは、ちびっ子テーブルを親達は微笑ましく、 兄(フィリップ) はちょっと混ざりたかったなと思いながら見ていた。

同じ銀盆のひよこランドは大人テーブルにも置かれているとはいえ、カール達のテーブルより大きなテーブルでは置き位置が席からちょっと遠い。

もっと近くでひよこランドを見たかったが、ここは兄弟で一番年上なのだからとフィリップは我慢していた。

そして大人テーブルにポタージュが配られたあと、アルトがブランシュ達にポタージュを配膳するべくカートを押して現れたのだ。

ーあれは…ハシバミ令嬢物語のかぼちゃの馬車?!

ハシバミ令嬢物語とは母を亡くした伯爵令嬢が後妻と義理の姉達に虐められ使用人より酷い扱いを受けるが、亡き母の墓の側に植えたハシバミの小枝が魔法の木になり、妖精や小鳥と一緒に灰かぶりと蔑まれた令嬢を助け王子様と結婚するという物語だ。

令嬢のみならず、女の子ならみんな知っていて一度は夢中になる物語である。無論、テレサも小さい頃から絵本や観劇で親しんできた。

そして、この世界の全女子が一度は乗ってみたいと憧れるのが、かぼちゃの馬車である。思わず浮きそうになった腰を、テレサは膝に置いたナプキンを直すふりをして優雅に誤魔化した。

ーもっと近くで見たいわ…

だが、残念な事にかぼちゃの馬車は大人テーブルの横を通り抜け、ちびっ子テーブルの横に置かれてしまった。

ちらっ…ちらっ…

そわ…そわ…

ー食後のお茶は、あちらのテーブルに席を用意…

させましょう!

してもらおう!

母子は同じ事を考えながら、カレーの香りがするかぼちゃポタージュに優雅に口をつけた。