軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

436 ひき肉オムレツとカレーの王女様

アルトの押すワゴンには、塩味クッキーで出来た車輪を履きマジパンで出来たねずみの御者と従者を従えている大きな蒸されたかぼちゃが、マッシュポテトの上にでんと鎮座していた。

手の込んでいる事に、ほうれん草で緑に染められたマジパンのかぼちゃの葉が、青々とかぼちゃの馬車を取り囲んでいる。

これはブランシュの読んでいる絵本の挿絵を元に作られていて、王宮の菓子職人の手によって精巧に再現されたものだ。

ブランシュは、絵本で見た挿絵とそっくりなかぼちゃの馬車に大興奮で、すごいすごいと目をキラキラさせてお付きの女官の袖を引き「絵本と一緒よ」と指差していた。

アルトはかぼちゃのヘタに手かけ、小さなカップにかぼちゃのポタージュを注ぐと、恭しくブランシュの前に置いた。

もちろんお皿の上にはナプキンが蓮の花のように置かれていて、カップを倒しにくくなっている。

「ブランシュ様、こちらはカレー風味のかぼちゃのポタージュスープです。いつものと少し香りが違うでしょ?」

「わかんないけど、いいにおいー」

子供は正直である。

見た目であれ香りであれ、ちょっとでも嫌だなと思うとガンとして口を開かないし、宥めすかして口に入れても気に入らなければペッと吐き出す。

幸いかぼちゃポタージュに入れたカレー粉の香りは気にならないようだった。

「良い匂いなら良かったわ。では、召し上がれ」

「はーい」

馬車のポタージュは味を変えないようにほんの少し香るくらいしかカレー粉を入れてない。が、カレーの香辛料がダメだったらすぐにメニュー変更の指示を出さねばならなくなる。

アデライーデは自分もポタージュのカップを口にしながら、二人がポタージュを飲む様子を伺った。

「おいしい!」

そう言って、ブランシュとカールは二口程でポタージュを飲みきった。

ー良かったわ。アルヘルム様達はどうかしら?

大人向けのものは、ポタージュにターメリックを少し足して濃い黄金色にし、辛味なしのカレー粉をふって香りを強くしている。

チラと見ると、アルヘルム達も美味しそうにスプーンが進んでいた。気のせいか、テレサがかぼちゃの馬車をちらちら見ている気がする…。

「次のメニューはオムレツですよー」

ポタージュの皿が下げられたの見て、ブランシュとカールに次のメニューを告げた。

「オムレツぅ?」

バターの香りのするプレーンオムレツは、王宮でも定番の朝食メニューなので、カールは今朝も食べたばかりである。ちょっと不満げにオムレツと言うと、アデライーデはくすくす笑う。

その間に持ってこられたオムレツをカールの前に置くと、カールは「わあ!」と声を上げて驚いた。

深めのリム皿ー縁のあるお皿ーには、ちょっと高めに盛られたドレープたっぷりの卵のドレスを着た黄色い小山が乗っていて、裾にはドミグラスソースを纏っている。

ーお米や海苔があればドレスドオムライスとか、卵のお布団をかけたチキンライスのクマさんとかを作ってあげれたんだけど…。

ちょっと残念だが、ないものは仕方ない。

カールがわくわくしてみていると、アルトが手早くトマトケチャップをその頂上にかけ、バルクの小旗をさっと刺した。

「あ! これ、あれと一緒だ!」

カールは銀のトレイの上にある薄焼き卵に覆われた小山を指差した。

「そうですよ。同じものですね」

同じものというが、ひよこランドの山の中身はマッシュポテトである。

「ブランシュのはー?」

まだ出てこない自分のオムレツを心配してブランシュが声を上げた。

「ブランシュ様にはこちらのオムレツでございます」

そう言ってアルトはブランシュの前に薄焼き卵で包まれた小ぶりなオムレツを置いた。

カールの旗が立ったドレスドオムレツの小山と比べると、地味というか飾り気がない。ブランシュはカールのオムレツと比べて地味な自分のオムレツを見て、眉根を寄せてシュンとなる。

かわいそうだがブランシュはまだ三歳で、半熟卵を食べさせるのはちょっと怖い。だからカールと同じドレスドオムレツは出せないのである。

「ブランシュ様は、うさぎさんとくまさんとどっちが好きですか?」

ブランシュの気持ちを察したアデライーデは、すぐに明るい声で優しくブランシュに問いかける。

ブランシュは自分用のうさぎの飾りがついたスプーンを握りしめて「うさぎしゃん…」と小声で言った。

「うさぎさんですね。では、うさぎさんをお願いね」

「はい!」

いつの間にかブランシュの横に絞り出し袋を手にした菓子職人が立っていた。

陽子さんが自分の子供達のオムライスに描いていたのは、アンパンマンやミッフィーにワンコやにゃんこなど簡単に描けるものだったのだが…

さすが王宮菓子職人、絞り出し袋にはいったケチャップでさささーっと、リアル可愛いうさぎの絵をフリーハンドでオムレツに描いてみせた。

最後に、型抜きで作ったパプリカの赤や黄色の花をうさぎオムレツの周りに飾りつけると、あっという間に花畑にいるうさぎが出来上がった。

「わぁ、うさぎさん!」

「ブランシュ様の好きなうさぎさんのオムレツですよ〜 召し上がれ!」

「はーい」

さっきまでの不機嫌顔はどこへやら、ブランシュはにこにこ笑顔でオムレツにスプーンを入れた。

「あ、このオムレツお肉入りだ!」

カールからも声があがる。そう、このオムレツの中身には、玉ねぎとニンジンのみじん切りとひき肉を炒めたものをシンプルに塩コショウで味付けたものを包んでいる。

庶民はじゃがいもの千切りとベーコンを炒めたものを入れた『農夫のオムレツ』という、スパニッシュオムレツによく似たオムレツをよく食べるようだが、貴族のオムレツはシンプルに卵とバターとクリームで作られている。

王宮育ちのブランシュやカールには具入りのオムレツが珍しいようだが、陽子さんにはこちらのオムレツの方が小さい頃からの馴染みがある。

実家の母はよくこの薄焼き卵で巻いたひき肉入りのオムレツを作ってくれていた。ウスターソースとケチャップを混ぜた簡単なソースをかけ、スプーンと箸を交互に使ってご飯と一緒に食べた懐かしいオムレツだ。

ちらと大人テーブルを見れば、現代風にこんもり盛ったひき肉の上で出来立てのプレーンオムレツを切り開くパフォーマンスをやっていて、フィリップが歓声を上げていた。

ーよしよし、あちらも好評のようね。

陽子さんはブランシュと同じサイズのオムレツをささっと食べ終わると、お城のサンドイッチを摘みながらブランシュとカールが食べ終わるのを優しく見守っていた。

平皿と違って、深みのあるリム皿はまだスプーンをうまく使えないブランシュでも食べやすい。

ブランシュが女官の助けを借りつつ完食したオムレツの皿が下がると、最後は本日のメイン料理であるお子様カレーの登場だ!

「最後は、ゲオルグ様が南の国のズューデンからお持ち帰りになったカリルという料理をバルク風にしたカレーという料理ですよ」

アデライーデが紹介すると、アルトが二人の前にそれぞれ、船の形をしたお皿を置いた。

ブランシュの前にはお花型のにんじんのグラッセと薄焼き卵で作られたリボンで飾られたカレーがマッシュポテトにかけられている。

「お花入りが『カレーの王女様』、お星様入りが『カレーの王子様』というお料理です」

アデライーデの説明に、ブランシュとカールは目を輝かせた。