軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

435 ひよことお子様ランチとカボチャの馬車

「うあぁ、ひよこさんだぁ」

小さな午餐会は、可愛らしい歓声から始まった。

さほど暑くない夏の日。

主賓である小さなお姫様と、そのエスコート役としての小さな騎士様は初めての午餐会の誘いを受け、嬉しさいっぱいで王宮の一番大きな 東屋(あずまや) へとやってきた。

「アリシアの午餐会にようこそ、ブランシュ様」

「おまねき、ありがとうございます。アリシアさま」

小さなお姫様は、習いたての挨拶とカーテシィをちょこんとする。

今日のブランシュの装いは夏らしく青い半袖のエプロンドレスだ。付き添いの女官はハラハラして見ているようだったが、子供らしい元気の良いカーテシィにブランシュの巻き毛が揺れて、とてもとても可愛らしい。

「カール様も、ブランシュ様のエスコートをありがとうございます」

まだ腕を組む正式なエスコートが難しいブランシュは、カールに手を引かれて東屋に来ていた。

「僕はブランシュの兄なので、当然です」

お姫様とお揃いの青のベストに半ズボンの小さな騎士様は、兄らしく胸を張って応える。

「まぁ、頼りがいのあるお兄様ですね」

ー可愛いわねぇ。2人揃うと西洋版のお内裏様みたいで可愛いわ。

すっかりおばあちゃん目線の陽子さんは、にこにこして二人の頭を撫で「さぁ、どうぞ」と、東屋にかかっている日除けのレースカーテンを二人の為に開ける。

「うあぁ、ひよこさんだぁ」

「お城もある!」

東屋の中にはブランシュの背丈に合わせた低いテーブルが置かれ、その上には 一抱(ひとかか) え程ある濃い茶色のコンソメジュレが敷き詰められた銀のトレイの上に、可愛らしいひよこランドが作られていた。

奥に薄焼き卵がかかった小高い山があり、そのてっぺんには赤いケチャップとバルクの旗。右手にはサンドイッチで作られたお城、左手にはブロッコリーの森と池に見立てられた浅いお皿に入ったカボチャのポタージュスープ。

手前にはハーブやほうれん草の草むらとパプリカを型抜きして作った赤や黄色のお花があり、カレー粉で染められた沢山のうずら卵のひよこ達がかくれんぼするように顔を覗かせていた。

そしてひよこを見守るように、パンでできた鶏小屋の前にはゆで卵のおん鶏とめん鶏の夫婦がいる。

そう、これは巨大お子様ランチ。王宮バージョンなのだ。

料理は目から食べる。

大人でもそうだが、子供は食べ物の見た目から食欲がわきやすい。

ー食の細かった薫に少しでも食べさせようと、キャラ弁もどきのご飯もよく作ったわね。あの時、知恵はネットのお料理サイトから貰ったけど、今回は王宮の料理人さんや 菓子職人(パティシエ) さん達に知恵も力もたくさん貸してもらったわ。

今回、こんなものを作りたいと王宮の料理長に相談すると「細かい細工は菓子職人の方が向いている」と、王宮の菓子職人達を紹介してくれたのだ。

大声を出してテーブルに駆け寄る二人の後ろから、困ったような顔をしたテレサと笑顔のアルヘルムとフィリップが現れた。

「やぁ、お招きありがとう」

「お招きありがとうございます!」

「本当に、カールに続きブランシュまでご招待、ありがとうございます。この日が決まってから二人ともずっと楽しみにしておりましたわ」

今回アルヘルム達はブランシュ達の付き添いである。そして、ブランシュとの約束の午餐会と一緒にアルヘルム達にもカレー関連の試作品を振る舞う予定で三人を招いた。

「良かったです。私も楽しみにしてましたの。本日の主賓はブランシュ様ですので、マナーは置いてテレサ様も楽しんでくださいませ」

アデライーデはそう言って、三人を大人用のテーブルに誘う。もちろん大人用のテーブルにもひよこランドは置かれている。

大人だって可愛いものや珍しいものが好きなはずだ。

「本日は私の午餐会に来てくださってありがとうございます。では、まず前菜から始めますね。前菜はうずらの卵のひよことほうれん草のバターソテーです」

ブランシュ達が席に着き、手を拭いてもらったのを確認してからアデライーデが短く挨拶をし、ブランシュ達と同じテーブルに着いた。

アデライーデのメニュー紹介と共に各自に前菜の皿がサーブされる。ブランシュは目をわくわくさせていたが、ちゃんと手は膝の上に乗っていた。

供されたブランシュとカールの皿は、以前のカールを招いた晩餐と同じように薄く寒天が塗られ、一匙のスプーンに鳥の巣のように盛られたほうれん草のバターソテーの上にちょこんと座った黄色いひよこがいた。

くちばしはにんじん。おめめは黒ゴマで作られている。王宮の菓子職人達がピンセットを使いながら、かわいく見える表情を考えた渾身のひよこである。

スプーンは今日の為に三歳児のブランシュの口の大きさに合わせて小さく、柄は持ちやすいように太めにとマデルとコーエンに作ってもらった特別製だ。スプーンの柄のてっぺんにはブランシュの好きなかわいいウサギのモチーフが付いている。

「かわいいー」

お付きの女官がスプーンをブランシュに握らせると、ブランシュはぱくりと口に入れる。

アルヘルム達も同じ前菜だが、大人には量が足りないので鶏むね肉のガリバタ焼きと冷たい野菜ジュレが添えられていた。

アデライーデはブランシュ達と同じテーブルで、ブランシュとカールの様子を見ながらひよこを口に入れていた。

ー良かったわ。かわいそうで食べられないって言われないで…。

カレー色のひよこは遠足のお弁当や子供達のお誕生日会で何度も作ったものである。おおむね好評だったが、たまにかわいそうで食べられないというお友達がいた。

見る限りブランシュとカールは大丈夫そうである。

「アリシア様、うずらの卵って黄色いの? 僕初めて食べるよ」

カールが興味津々でトレイのひよこ達を指差した。

「これはゲオルグ様が南の国から持って帰ってくれた香辛料で作ったカレー粉で染めているからですよ」

「ふうん、そうなんだ! 美味しいね」

ブランシュはまだ口をもごもごさせながら、笑顔でカールに頷く。

「続きましては、カレー風味のかぼちゃのポタージュです。ポタージュは馬車に乗っての登場ですよー」

ー馬車?

アデライーデの紹介に誰もがそう思った時、「失礼します」と東屋の外から声がした。

「「わぁー。かぼちゃのばしゃー!」」

アデライーデの紹介にアルトがワゴンを押して東屋に入ってくると、ブランシュとカールが目をキラキラさせて声をあげた。