軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

374 チーズケーキと贈り物

ぶも〜

ぶひぶひ

めぇ~

「えっと…、こ…これは?」

「こちらがヘレーナ様からの贈り物でございます」

「お…贈り物?」

競馬場の見学から帰って数日たった晴れた午後、レナードに「ライエン伯爵領より贈り物が届きました」と告げられた。

いつもなら贈り物は居間に持ってきてくれるのに「玄関までお出ましを」と言われ玄関まで来てみたら、立派な牛が4頭とヤギが4頭、それに黒豚が2頭と肩と前脚がピンクの黒豚が2頭、計12頭が離宮の前庭で、もーもーぶひぶひめぇめぇ鳴いている。

アデライーデが、ぽかんとその様子を見ていたら、レナードがアデライーデの隣でこほんと咳払いをした。

「先日の競馬場でヘレーナ様と、どのようなお話をされましたか」

「え? 普通にヘレーナ様のご実家の特産のお話をしたわ」

初めて会う相手との社交の無難な話題は、相手の特産の話が良いとされる。現代でもビジネスの場やママ友達と無難に出身県のお土産物や名物料理の話をするのと同じである。

ライエン領の特産は馬である。

しかし、陽子さんに馬の知識はそれほど無い。雅人さんは競馬をしなかったし、知っている知識は裕人が学生の時にハマった馬の女の子達の漫画を貸してもらって、何頭かの有名な馬の名前を覚えている程度である。

だから、ヘレーナの実家では牛や豚の飼育が盛んと聞いて、陽子さんはチーズやソーセージの話をふったのだ。

「ご実家のチーズやソーセージが美味しいって話をお聞きしたわよ」

やっぱり…と、レナードは思い小さく息を吐いた。

「お茶の時にヘレーナ様ご実家のチーズで作った美味しいチーズケーキが出たから、とても良い乳牛なのですねって…」

「……牛を褒められた」

「え? ええ」

「それです」

「え?」

「ご実家の牛を褒められたので、ヘレーナ様が今回贈られたのだと思います」

「ええーー!」

ちょっと待ってほしい。

確かにあの時ケーキを褒めはした。だがチーズケーキを褒めて牛を贈られると誰が想像するというのだ。飛びすぎだろう。

「待って待って、アルヘルム様やフィリップ様もライエン様のとこの馬を褒めていたわよ? 馬も毎回贈られたりするの?」

「王家は、定期的にライエン領より馬を購入されますので、次回の購入のお話をされているかと思います。アデライーデ様、3度牛を褒められましたか?」

「え?」

「3度続けて褒めると、相手は褒められた物を欲しがっていると貴族の会話では、そう解釈します」

「えぇー!」

ー何その貴族ルール! じゃ、私…牛をおねだりしちゃった事になるの?? そんなぁ。

アデライーデがレナードの言葉に絶句していると、マリアが後ろからレナードによろしいでしょうかと会話に入ってきた。

「申し訳ございません。アデライーデ様が『社交』に不慣れと失念しておりました。しかし、その場に私も同席しておりましたが、3度続けて褒めてはいらっしゃらなかったと記憶しております」

マリアは、ちゃんと会話の中の褒め言葉の回数も覚えているらしい。

「ふむ。それではこの贈り物は、純粋にヘレーナ様の感謝の気持ちなのかもしれません」

レナードがそう呟き、贈り物に添えられた手紙があるとアデライーデに告げた。

「とりあえず、そのお手紙を読んでみるわ。でも、この子達どうするの」

「離宮の家畜の飼育を任せている家に連絡を致します。お茶をお持ちしますので、居間でお待ち頂けますでしょうか」

貴族の家は敷地内に 主(あるじ) の食事や使用人の賄い料理に使う野菜の為の畑や、卵や牛乳を賄う為の牧場を領地に持つ。

アデライーデの住まう離宮は、ハーブガーデン以外のそれを村に任せている。レナードが近くにいた従僕にテキパキと指示を出すのを横目で見ながら、アデライーデはマリアに居間へと連れて行かれた。

「ヘレーナ様は、とても嬉しかったのだと思いますよ。アデライーデ様は本当に美味しそうにチーズケーキをお召し上がりでしたから」

マリアはお茶を差し出しながら、そう言った。

「そうかも知れないけど…。生き物の贈り物って…、普通なの?」

「……。あまり…お聞きしませんね…」

マリアも言葉を濁しながら返事をした。

ー確かに、褒め過ぎたら良くないって知ってるわよ? だから、さらっと…、ほんとにさらっと褒めたのよ〜

そう…陽子さんは過去に同じような件を経験している。

結婚の挨拶に雅人さんの実家に挨拶に行った時のこと、緊張した初顔合わせの後のおもてなしで美味しい魚料理と日本酒を出されたのだ。

米どころで酒どころの雅人さんの出身県。

そして、雅人さんちの近所の小さな酒蔵のお酒を振る舞われた。それまでそんなに日本酒を美味しいと思ったことがなかった陽子さんは、出された日本酒を初めて美味しいと思ったのだ。

「こんなに美味しい日本酒は初めてです!」

「そうかそうか」

嬉しそうに義父はお酒を注いでくれ、陽子さんはお酒を褒めまくった。酒好きの夫を持つ義母のおつまみも絶品だった。もちろん正直に美味しいと言葉にした。

後日、その日本酒が2ケース(6本入り)と干物が3セット贈られてきた。一人暮らし(週末は雅人さんがいるが)には多すぎる量である。どうしたらいいか分からなくて実家の母に電話をしたのだ。母からはすぐにお礼の電話と礼状を書くことを教えられた。

「ご厚意はありがたく頂戴しなさい。いい経験よ。陽子も立場が増えるんだからね」と、母から教えられた。

以後、褒めるにしろ何にしろ過ぎるというのは良くないと学んだ。それがうまくやれたかは自信は無い。むしろ失敗の方が多い気がする…。

「こちらが、ヘレーナ様からのお手紙とご一緒に贈られたチーズでございます」

レナードがお茶と共に持ってきたのは、一通の手紙と立派な木箱入りの丸い大きなチーズであった。