軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

174 ヴィドロと試作の完成

「陛下、ヴィドロより試作のシャンデリアが出来たと報告が入りました」

「そうか。では夕刻訪ねると伝えてくれ」

「はい」

ヴィドロにつけている武官からの使者に、アルヘルムが政務の書類を見ながらそう言うと使者は礼をとり執務室を下がっていった。

前回のヴィドロとの謁見からすぐにメーアブルグの端の廃村に宝飾ガラスの工房を急ぎ造らせた。

ヴィドロは息子のヴィダと妻、そして弟子の一部を連れて村に移り住み宝飾ガラスの量産を始めた。出来たガラスを宝飾職人達が磨き、寝食を忘れたかのように試行錯誤を重ね今日の試作完成となったのだ。

「ヴィドロの村に行くのか」

「あぁ、お前もな」

「もちろんだとも。楽しみだ」

タクシスも書類から目を離さずにそう応える。

一時炭酸水の輸出で忙殺されていたが、それも落ち着き今は島の建設整備の仕事に注力できるようになった。

島の倉庫の並びに、倉庫と同じ大きさの大食堂を突貫工事で建てた頃、スタンリーが食事を奢った船員のいた船が母国から戻り島に停泊した。

船長は約束どおり今までメーアブルグに上陸できなかった下級の船員にも交代で島への上陸を許し休息をとらせた。

スタンリーに奢ってもらった船員は良い仕事をしたのだろう。船員達は大食堂に押しかけフイッシュアンドチップやから揚げやとんかつに舌鼓をうち、レモンチューハイやライムモヒートをがぶ飲みして酒や食材が足りなくなるほど飲み食いした。

「困ったものですが、これも船員の少ない楽しみの為ですからな」と船長はいつも以上に食用油とじゃが芋を買上げ、小型のフライヤーを1台船の厨房につけてくれた。

オイルサーディンの瓶詰めの大箱を数箱手土産に渡すと、次の寄港の時もよろしくとヴェルフとがっちり握手をした。

島の開発も順調に進んでいる。

適当に仕事を済ませたアルヘルムはタクシスを伴い宵闇の頃ヴィドロの村を訪れると、ガラス工房の隣の建物の前でヴィドロ達職人に出迎えられた。

「お待ちしておりました。さぁ、どうぞ」

薄暗い建物に入り奥の小部屋に入ると、まばゆいばかりのシャンデリアがアルヘルム達を出迎えた。

「なんと…」

「これほどとは…」

エンパイア様式の豪華なシャンデリアが煌々と部屋の中を明るく照らしている。

真鍮の鎖や宝飾ガラス玉を連ね洋ナシのような形をしたシャンデリアはまるでダイヤモンドを散りばめた宝冠のようにきらきらと光を反射していた。部屋は飾り気のないものであったが、シャンデリアはそれだけで豪華絢爛な空間を作り出していた。

「お気に召していただけましたでしょうか」

ヴィドロが自信を持ってそう言うと、アルヘルムは「あぁ」と一言応えた。

王宮のシャンデリアもこの国で1番のものであったが、真鍮と銀の細工で飾られ沢山の蝋燭を使っている。蝋燭を沢山使うことで明るさを出しているが、このように煌めく事はない。

帝国に招かれ晩餐会にも出た事はあるが、帝国でもこのようなシャンデリアは見たことがなかった。

「アルヘルム様…ぜひこちらもご覧ください」

そう言ってヴィドロは、先程通ってきた薄暗い廊下への扉を開けた。

いつの間に明かりを灯したのであろうか、昼間のように明るくなった廊下に息を呑む。

「こちらはウォールブラケット…。壁用の照明でございます」

真鍮と鏡と宝飾ガラスを使ったウォールブラケットが蝋燭の明かりを受け煌めき光の廊下をつくっていた。

「素晴らしい…」

「お褒めに預かり恐悦至極でございます」

アルヘルムとタクシスは、ゆっくりと廊下を歩き1つ1つのウォールブラケットを眺めた。どれも1つずつ形が違う。

ヴィドロによれば、宝飾職人達がそれぞれのアイディアで形を変えたらしい。

それぞれ作った宝飾職人からの説明を2人はじっくりと聞いた。ウォールブラケットの説明を聞き 労(いたわ) りの言葉をかけ終わり、シャンデリアのある部屋に戻ると、アルヘルムとタクシスの為にシャンデリアがよく眺められるように配置された椅子に座った。

ヴィドロの妻が給仕を務め、2人の椅子の間に置かれた小テーブルの銀のワイングラスにワインを注いだ。

2人は何も言わずにグラスを手に取り、無言でワインを口にすると時を忘れてシャンデリアを見つめる。

どれほどの時が経っただろうか…。

「…これが、我がバルクのガラスでできたのか…」

「 俄(にわか) には信じられないな…」

アルヘルムの呟きにタクシスが応える。

それはそうだ。今までガラスと言えば板ガラスを作ってきた。安定的に輸出が出来ているとはいえ、利益は目を見張るほどではない。しかし、シャンデリアがこれから莫大な利益を産み出すのは言わずもがなだろう。

「これを職人達の苦労に報いるように売らねばな」

「あぁ、そうするさ。今まで以上に忙しくはなるだろうがな」

そう言ってタクシスは、ぐびりとワインを飲む。

「ところで…」

「うん?」

「この試作のシャンデリアを離宮に持っていくんだったな?」

「あぁ、アデライーデに見せたい」

「次に作るのは、うちの屋敷につけるんだったな」

「? あぁ」

「陛下の為に、タクシス公爵夫妻でバルクに尽くさせて頂くとしよう」

タクシスは、にやりと笑った。