軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

175 ゆで海老とメーアブルグ

「お気をつけて、行ってらっしゃいませ」

「えぇ、晩餐までには帰るわ」

カフェのメニューも、何をどのような盛り付けにするかも決めて、アメリーには1冊のスケッチブックにまとめてもらった。

色付きのメニューは、今頃アルヘルムのもとに届いているはずだ。

アルヘルムに頼まれた仕事は終わったので、今日は以前からアメリーと約束していたメーアブルグにお忍びで遊びに行くのだ。

目立たぬ馬車にマリアとアメリーと乗り込むと、護衛の騎士には離宮警備隊副隊長のレイナード・ライエンとギャレン・マルクが騎乗した。

「メーアブルグも久しぶりだわ」

「さようでございますわね。魚醤をお求めになったとき以来でしょうか」

「そうね。アメリーは港町は初めて?」

「はい。前回の滞在の時も行けなかったので、とても楽しみですわ」

少しおしゃべりしていると、あっという間にメーアブルグに着いた。いつもの様にヴェルフのところに馬車を預けると、珍しくヴェルフの出迎えではなく副代官がアデライーデ達を出迎えた。

何でも島の整備の為に、今日は留守だと言う。

副代官は最近人の出入りが多くなったので、いつもより近くで警備をさせますと挨拶をして送り出してくれた。

「賑やかなのですね。王都以外でこんなに人が多いなんて港町とは活気があるのですね」

アメリーは、沢山の人と荷馬車が行き交う道を見て驚いていた。

「あら…。以前より人が増えてるわ」

「アデライーデ様、島の整備のために国中から人と物が集まっているそうで以前より人が増えております。私から離れませんように」

ギャレン・マルクが、アデライーデの隣で周りに気を配りながら説明をしてくれた。

メーアブルグに来るといつも数人護衛をつけてくれているが、この人混みにすぐに対応できるのはマルクとライエンだけなのでアデライーデの横と後ろにぴったりと張り付いていた。

チラホラと見かけた異国の船員はあまり見かけなくなり、バルク国の人が多く行き交っていた。

以前より屋台も増え、活気よく客引きの声があちこちから聞こえる。そこの声に混じりフイッシュアンドチップスやアジフライを揚げる匂いが立ち込めていた。

アルヘルムに相談して、メーアブルグでガーデンパーティ用のフライヤーを改良した屋台用のフライヤーを買った人には、フイッシュアンドチップスとアジフライとコロッケのレシピを無料で付けている。

そして少額の寄付金を納めることで、孤児院の子達に作り方とフライヤーの安全な使い方を教えてもらうようにしてもらっていた。

まだ屋台用のフライヤーを売り出してなかった頃、見よう見まねで鍋でフライドポテトを揚げていて、ボヤ騒ぎが続いたからだ。

屋台には、以前より多くの異国のハンカチや小物や布を扱うが増えていた。チラホラと西の国の木の実が入ったクッキーのようなお菓子を扱う屋台もある。3人はわいわいと屋台を回りそれぞれにお土産を買った。もちろんアデライーデは孤児院の子供たちに西の国のお菓子を買った。

屋台を一通り見て回り、今日の目当ての海猫亭にはお昼を少し回った時間に着いた。

予約してあった2階の席に通されると、ちゃんとテーブルが2つ用意してあった。

「任務なので」と固辞するライエンとマルクを「ワイン無しなら良いでしょう?何かあった時にお腹が空いて力が出なかったら大変だもの」と説き伏せて、彼らにテーブルについてもらった。

二人にやっとテーブルについてもらった頃、ブイヤベースが運ばれてきた。

まず出されたのはスープのみ。

濃厚なシーフードの香りと味にアメリーが感動していた。半分ほどスープを頂いたあとは、スープに好みでルイユを加えてうすく切った一口大のトーストなどを浸して楽しんだ。

ルイユは卵黄と塩を混ぜオリーブオイルを2~3回に分けながら混ぜ合わせたマヨネーズのようなソースだ。仕上げにカイエンヌペッパーを少し混ぜてある。

具は別の大皿に盛られてアデライーデ達のテーブルに運ばれ目の前で給仕が取り分けた。スープを先に供して風味を楽しませ、魚は客の目の前で切り分けるのだ。

ルイユを気に入ったアメリーは、たっぷりと魚に乗せて食べていた。

「本日、ご要望のゆで海老でございます」

給仕が各自の皿の 銀蓋(クローシュ) を外すと、湯気を立てた海老がこんもりと盛られていた。すぐにフィンガーボールが出される。

「アデライーデ様…。これは手でいただくものですの?」

「ええ…こうやって頭をもいで足をとって、殻を剥いて食べるのよ。マナーの先生に言わせたら剥いたものを食べる方が良いんでしょうけど、手で食べる方が美味しいと思うわ」

アメリーとマリアに殻を剥くお手本を見せて、フィンガーボールで指をゆすいだ。

おっかなびっくり殻を剥き、身を口にした2人はまぁ…と声を上げた。

「すごく甘いですわ」

「本当に!海老のカクテルの時よりずっと甘いですのね」

アメリーとマリアは見合わせて、海老を口にした。隣のライエンとマルクは食べ慣れているのか器用に殻を剥いて黙々と食べている。

「アデライーデ様、バルクはこのような美味しいものがあるのですね。先程のブイヤベースやこの海老のように美味しいものは帝国でもありませんわ」

「本当ですわ。私もバルクで海老を口にする事はありますが、この海老はまた格別に美味しいですわ」

大絶賛している二人の言葉に、ライエンとマルクも誇らしげだ。

「帝国のカフェでもこの海老が出せれば絶対人気のメニューになりますわね」

「きっと、人気になると思うけど輸送がね…」

「生きたままは難しいですわね」

「海老のメニューも考えているから、それは…」

「新しいメニューですの?」

2人は殻を剥く手を止めずに、アデライーデの言葉に食いついた。

「ええ…海老フライと海老クリームコロッケよ。クリームコロッケは夏は難しいわね。冬にしか作れないかも」

そう…保冷室があるとは言え冷蔵庫が無いからクリームコロッケは夏に作るのは厳しいと陽子さんは思っていたのだ。

「新しいメニュー…。楽しみですわ」

アメリーは、にっこり笑うと給仕に目配せをしてお代わりをしていた。

おしゃべりをしてゆっくりと食事を終わらせ、日の傾きかけたメーアブルグの街を散策していると、屋台で女の人がフイッシュアンドチップスやから揚げを買って帰る姿を多く目にした。

ライエンが言うには、最近オイルサーディンの工房で働く女性が増え夕食用に屋台で買って帰るようですねと説明してくれた。ライエンの妹もオイルサーディンの工房で働き始め嫁入り支度を始めたと言う。

「そう! 働く先ができたのなら良かったわ」

陽子さんは、今日のメーアブルグのお出かけにとても満足して馬車に乗った。

「おかえり、アデライーデ。メーアブルグは楽しかったかい?」

「アルヘルム様?! お出ででしたの?」

「あぁ」

「申し訳ありません。お待たせしました?お出でと知っていればお出迎えしましたのに」

「良いんだよ。急だったからね」

離宮に帰ると、アルヘルムとレナードの出迎えを受け驚くアデライーデと、控えるマリア達を尻目にアルヘルムはニコニコとしてアデライーデを抱きしめた。

「さぁ、おいで」

アルヘルムはアデライーデの手をとると、離宮へと招き入れた。