軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外交使節団の逃走、貴族の脱走

国王夫妻の入場を告げるファンファーレが鳴り、紹介を担当する侍従が声を張り上げた。

「国王陛下ならびに王妃陛下のご入場です」

国王夫妻が大広間に姿を現すと、会場のありとあらゆる方向から熱い拍手が鳴り響く。嵐のような拍手だった。あちらこちらから「陛下」「陛下」と王子の製造物責任者を呼ぶ声があがる。

舞踏会とは思えない熱狂的な出迎えに疑問を感じたのか国王夫妻が大広間を見渡した。国王をさしおいて、王妃の第一声が届く。

「盛況ですね。今宵は王子から素晴らしい発表があると聞いていましたが、間に合ったかしら?」

間に合ってないし、素晴らしくないです。

大広間の3桁に上る人々の心がひとつになった。殺意に限りなく近い何かで。

とはいえ国王夫妻が王子の暴挙に居合わせたところで、事態が好転した気は全くしない。あの親にしてこの子あり。きっと多分、事態は悪化した。公爵の機嫌とか。

「いやあ、盛況ですね。貴国に赴任して最初の舞踏会で、これほど独創的な演出を体感できるとは思いもよりませんでした。魂が揺さぶられるとはこのことでしょうか。恥ずかしながらもう胸がいっぱいです。

無事、両陛下もご臨席となったことですし、後は法にのっとって両家の皆様で話しあいとなりますでしょう? 終幕に興味は尽きませんが、これ以上の滞在は我が国の流儀に反しますので、我々は一足先にお暇させていただきます」

「ええ、今宵はまことに刺激的な趣向で楽しませていただきましたわ。ごきげんよう」

赴任したばかりの隣国の大使夫妻は国王夫妻に手早く挨拶をすると、舞踏会を辞すには非常に不自然な口上をいかにも自然に述べて 暇(いとま) を乞うた。国王夫妻が大使の口調と口上の内容の乖離を理解する前に揃って礼をし踵を返す。

彼らに続いて各国の外交関係者が、この国の言葉で流暢に招待への礼と辞去の挨拶をまとめて行い、次々と退室していった。機を見るに敏。さすがは一国を代表する大使たちである。

仇敵ともいえる国の大使らも、まるで十年来の友人であったかのように笑顔で語り合いながら去っていく。世界平和がそこにあった。世界は愛に満ちている。呉越同舟、敵の敵は味方だ。

広大な広間に取り残されるは自国の民ばかり。外交も兼ねる王宮の舞踏会としては異例のことである。国王の入場を待って外交使節が一斉退出という、ただならぬ事態にさすがの国王夫妻も首を傾げた。危機感が薄い。どこまでも鈍い。

「待ちわびましたぞ、陛下。拝顔の栄に浴して光栄です。今宵だけは先に声をかけるご無礼をお許しください」

「お恥ずかしながら夫の持病が少し悪化しておりまして、本日は両陛下のご尊顔を拝してすぐにお暇するつもりですの。いえ、見ての通り重篤ではございませんわ。一日休めば全快する程度です。ただ、明日は緊急かつ重要な仕事が入りましたので、省の長たる夫が休むわけには参りません。両陛下もご存じの通り、文部大臣の職務は国家にとって大変重要ですから。一晩休養さえとればすぐに全快しますので、今宵はお暇させていただきますわ」

法務大臣(未帰還)の次に公爵の指名を受けて瞬く間に撃沈した文部大臣が、才女である夫人のナイスアシストを受けて去っていく。

色々と失礼極まりない対応ではあるが、あの王子の暴挙が素晴らしい発表で通るなら、自身の言動など礼儀作法の教科書に載せてもいいくらいだと開き直る。あの王子を育てたカリキュラムなど破棄してしまえ。さあ、明日から忙しくなるぞ。

次々と病を発しては去っていく自国の貴族を、国王夫妻は茫然と見送った。挨拶を返す隙もなく次の挨拶が述べられ、口をはさむ間も見つけられない。突発事態に弱い、弱すぎる。王子と血のつながりを感じるが、国家元首としては致命的だった。

最後の一人が扉を抜け、靴音が静かになって気が付いた。その場に王家と学生たちと公爵家のみが残ったことに。楽団や侍従もいるが、彼らは最後まで帰れないので置物に徹している。

国王夫妻よりわずかに早く我に返った学生たちは、自身が親族から見捨てられたことに気づいた。王子を諫められなかった親世代も公職が危ういが、学園で王子の不貞を支持してしまった学生はもはや問題外である。国の重鎮や能吏を目の前で次々と断罪して見せた筆頭公爵の覚えが最悪な学生をどこの官庁が採用するだろうか。断罪された重臣の中には学生たちの親もいた。彼らの自信の源泉だった王子の権威と親の権威は筆頭公爵を前にしてなんの役にも立たなかった。国一番の権力者だからこそ娘がたった一人の王子の婚約者に選ばれたのである。推して知るべしだった。

公爵は王子に関係する職務に関してこそ各員を厳しく追及したものの、学生たちとその親の監督責任はまだ問うていない。若気の至りで許されたはずもない。これからなのだ。国王夫妻という当事者の親を待っていた。それがわかっていたからこそ親は子を置いて去った。王家の契約違反と不貞を支持するなど、いたらぬ学生の身であっても擁護のしようもない。確認せずとも、婚約の契約書に王子の婚姻前の不貞を認めるなどとあるわけがない。親がこの場に残っても弁明の余地はなく家名に傷をつけるだけだ。下手すると国王夫妻の言動の余波を食らいかねない。全面的に我が子の非を認めるので如何様にもお裁きください。筆頭公爵への無言の意思表示である。最悪の場合でも公職持ちの当主と学園生の子女を切り捨てて、代替わりで家だけは守る覚悟だった。貴族は非情である。

目端が利く学生は、ほかの学生たちが棒立ちしている間にさりげなく親と退出していた。元から王子の不貞に賛同せず距離を置いていた学生たちは、王子の呼びかけがあっても可能な限り集団の外縁にいたので逃げやすかった。

誘ってくれよ。友人の不在に気づいた学生が嘆く。王子の近くに集まっていた学生ほど不貞の支持者だったので、逃げた学生たちは舞踏会前から距離を置いていた。会場でも物理的に距離があったので、どうしようもない。

「素晴らしい発表ですと?」

人が減り風通しの良くなった大広間に公爵の声が響いた。元からよく通る声が高い天井に反響してさらによく通る。独壇場とはこのことだろう。この場に残った公爵家一族は大家族だが、当事者である令嬢ですら一言も発しない。家長の意に全面的に従っているのだ。さすがは筆頭公爵家である。無表情が怖い。

「ぜひ王子殿下の晴れ舞台の感想をお聞かせ願いたいですね、王妃陛下」

第二幕が始まった。