軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第2話 世界初のオリジンスキル【休憩地】

オリジンスキル……休憩地??

「オリジンスキルだと……そんなもの、本当にあったのか」

その名前自体は、ニュースやダンジョンTubeで見たことがある。

なんでもダンジョン内で発見された石板に、そういうことが書いてあったとか無かったとか。

その石板にはスキルの使い方や、種類などが細かく書いてあって、現在見つかっているスキルと当てはまる箇所が多く、発見時は随分と騒がれていたような記憶がある。

だが、その話題もゴシップの域を出ず、いつの間にか話題性も無くなって廃れていったけれど、その内容にロマンを掻き立てられたのは事実だ。

確か内容はこんな感じだった。

世界に十二個だけ存在するとされる、既存スキル体系の外側にある最上位スキル群。

ただし、現時点で公的な確認例は一件もない。

実在するかどうかも分からない。

半分は都市伝説みたいに扱われていたが、その後、ユニークスキルの存在が確認されてから一時期ダンジョンTube内で騒がれたのは結構最近だった気がする。

なんにせよ、少なくとも休日の趣味でやってる探索で、世界初確認として出てくるようなものではない。

「落ち着け。そうだ、ますは落ち着くことが肝心だ」

俺は周囲を見回した。

湖畔のそばにある開けた場所に、倒れた未知の鹿型モンスター。

手元には青白い結晶。

自分のステータス画面を開くと、そこには新しいスキルが増えていた。

【休憩地】Lv.1

ステータスの休憩地を押すと、説明文が出てくる。

『一定範囲に休憩地を創造することができる』

………それだけ?

「………雑すぎるだろ。ちょっと手抜き過ぎじゃね?? だって世界初のオリジンスキルだろ??」

思わず声が漏れた。

しかしこの説明文だけではちょっと意味が分からない。

それに休憩するなら正直言ってどこでもできるだろう。

そんな簡単なことをわざわざオリジンスキルとして登場させるか?

だがステータス欄にははっきりと、【オリジンスキル】、そう表示されていた。

「………まぁ、いい。ひとまずこの魔物の素材を取り切るか」

俺は解体に戻り、魔物の素材を丁寧に保存用の魔導ラップに包んで収納した。

「しかし…この素材どうするかね…素材を扱う卸の専門家でもある俺でも、この素材は知らんぞ…」

未知素材は、会社に持ち込めば間違いなく大騒ぎになる。

だが今、それはまずい。

このスキルの価値が分からないうちに話せば、会社、ギルド、大手企業、研究機関が一気に寄ってくる。

そうなれば、俺個人の手には何も残らない。

最悪、情報だけ抜かれて終わりだ。

「素材の保管は…まぁ、民間次元収納に預ければ、劣化はしないしいいとして…今日確認するのはスキル、だな」

俺は湖から少し離れた草地に立った。

周囲を伺うも人はいない。

ダンジョン都市からも結構離れている。

ここなら多少変なことをしても見られない…はずだ。

「よし、行くぞ。【休憩地】」

スキルを発動した瞬間、足元から淡い光が広がった。

円形の光が発動し、その半径はだいたい五メートルほど。

草の先がかすかに揺れ、僅かに空気の質感が変わったような気がした。

そしてさっきまで肌にまとわりついていたダンジョン特有の圧が、明らかに減った気がした。

「……なんだこれ」

俺は円の外に出た。

いつものダンジョンの空気に戻る。

中に入る。

呼吸が随分と楽になる。

もう一度出る。

そしてまた入る。

「意外と分かりやすいな」

疲労回復、というほどではないが、中にいると体が軽い感じがする。

「こういう物に何か反応するんだろうか」

俺は試しに、腰の水筒を円の中に置いた。

変化は特に無かった。

次に外で拾ってきた小石を置く。

やっぱり変化なかった。

「無機質とかは特に反応しないのか? じゃあ素材はどうだ?」

先ほど解体した鹿型モンスターの肉片を置いた。

すると、肉片の表面に淡い光が乗った。

「素材に反応するのか? しかし…反応してもそれが何なのかわからんな」

しばらく観察していると、森の方から小型モンスターの気配がした。

ホーンラビットだ。

ここ、十階層ではよく見る弱いモンスターで、縄張り意識が非常に強い。

普段なら身を隠す場所が少ないこの草地には出て来ないが、肉片の匂いに気づいたのか、木々から顔を出した。

「ちっ! めんどうだな…」

俺は腰からナイフを抜き、そして構えた。

ホーンラビットは俺の姿を見るや、戦闘モードに入る。

そして勢いよく間合いを詰めてくる。

だが、光の円の手前で止まった。

そして不自然なまでに耳をぴくぴくさせる。

前足を出すが、すぐに引っ込める。

やがて、苛立ったように地面を蹴ると、そのまま森へ逃げていった。

「……まさか、魔物が入れない?」

いや、入れないとは限らない。

入りたがらないだけかもしれない。

だが、これだけでも大きい。

ダンジョン内で、安全に休める場所を作れる。

しかも、場所は自分で選べる。

もしこれが、本当にそういうスキルなら、これは、ただの休憩能力じゃない。

ダンジョン内の立地そのものを根本的に変える力だ。

そもそもだが、ダンジョン都市の物価が異常に高い理由は、安全だからだ。

転移ゲートに近く、様々な物資が滞りなく供給され、そして政府が責任をもって安全を担保しているからだ。

だから企業は高い場所代を払う。

だから利用料金もそれに応じて高くなる。

でも、もし俺が好きな場所に安全圏を作れるなら。

立地関係なく、安全な居場所を提供できる。

「……大儲けできるんじゃないか、これ」

口に出した瞬間、自分で笑いそうになった。

馬鹿みたいな話だ。

だが、間違っている話でもない。

探索者たちがここに来るコストは馬鹿にならない。

そのコストの源が、こういう休憩地での補給物資にかかる費用だ。

それを俺が格安で提供すれば、どうだ?

「……悪くないな。いやだがしかし、問題もある」

そう、安全を提供できる、そうなるとこのスキルが公になってしまう。

いや、公になること自体は別にいい。

問題は誘蛾灯の如く、変な虫まで寄ってくることだった。

「あまり大きくはできないな…少なくとも今は…」

俺の本業は素材営業だ。

どの素材がいくらで売れるか。

どの探索者が何に困っているか。

何が高くて、何が足りていないか。

ダンジョン界隈の流通事情を毎日見ている俺になら、このスキルを使って何を提供できるのか、わかるはずだ。

「ダンジョンで探索者が一番欲しがるもの…それはやはり…長期間潜れる環境、だな」

俺も探索者の端くれとして、探索において何を求めるかと聞かれれば間違いなく継続性だろう。

ダンジョンで生計を立てている探索者たちは、ダンジョン内での活動日数がもろに稼ぎに直結する。

だからあんなに高いダンジョン都市内でも、宿泊施設に嫌々泊まらざるを得ないのだ。

物資はある程度持ち込めても、安全環境は金で買わないといけないわけで、この分野なら俺の休憩地はもしかすると大金を生むことが出来るのかもしれない。

「ダンジョン内では土地自体、どこの組織にも属さないし、どこに何を建てても自由だ。ただ安全は保障されないのだが、それが一番の厄介でもあるが…」

俺は周囲を見回した。

ちょうど今いる場所は、ダンジョン都市からも離れていて、尚且つメジャーな狩場に結構近い。

「……湖の近くに、小さな宿……」

グランピング施設みたいなものでもいいかもしれない。

どうせ、最初は建てられる物なんて限られている。

適当にハンモックとか吊るせれば、それだけで寝られるし、適当な机に簡易のキッチンもどきがあれば食も提供できる。

「うん、悪くないな」

だが、これは上手く進めないと色々と問題ありそうだなとも思う。

俺がいきなり「世界初のオリジンスキルで安全な店を作れます」と言ったらどうなるか。

間違いなく潰される。

取り込まれるか、契約で縛られるか、最悪スキルの調査名目で自由を失う。

「……なんにせよ、いきなり大きく出るのはなしだ」

俺は立ち上がった。

まずは将来に向けてのテストだ。

誰にも知られない場所で、最低限の設備を置く。

俺がテスターになって、本当に魔物が寄ってこないのかを確認する必要がある。

そして本当に宿泊できるかも検証しなくてはいけない。

その検証結果を踏まえて、本当に探索者が使いたがるのかを探る。

「まずはこのスキルが時間制なのか確認しないとな。なんで詳細ないんだろうかこのスキル…」

それから俺は光が消えるまでその場にいた。

その間、魔物はたまに姿を見せるが、遠目で伺うだけで寄ってこない。

やはりこの【休憩地】スキルは、セーフエリアをスキルで再現できるということに間違いなさそうだ。

そして発動から二時間ほどで消えた。

消える直前、ステータスに小さな表示が出る。

――――――――――――――――――――

仮設休憩地

状態:終了

設置時間:約2時間

設備登録数:0

成立コンボ:なし

利用者数:1

休憩実績:自己利用

次回設置補正:範囲微増

備考:休憩地としての利用実績を確認

設備登録により機能拡張の可能性あり

――――――――――――――――――――

「設備登録数……?」

その下には【成立コンボ】という謎の言葉が表示されてあった。

「なんかまだまだ隠し機能満載のスキルっぽいな…」

どうやらこのスキルは、ただ安全圏を作るだけではないようだ。

【オリジンスキル:休憩地】

その名前の意味が、少しだけ分かった気がした。

俺は湖畔の端を見た。

ダンジョン都市からそこそこ遠く、誰も見向きもしない場所で森が近く、モンスターも出る。

普通なら店を出すには最悪の立地、いや検討にすら値しない。

だが、水場がある。

これは大きな利点だ。

「まずはここで色々と検証、だな」

俺は何となくだが、何かが変わる第一歩を踏み出した気がしていた。