作品タイトル不明
キャロラインの覚悟
キャロラインは頭を下げながら、とんでもないことを言う。
「伯父の弱みも握っているわ! それをちらつかせたら、ルームーン国での特権を手に入れることができるはず!」
「弱みとは?」
キャロラインがルームーン国を去ってから二十年以上経っている。
果たしてその弱みは有効なのか、ヴィルは疑問に思ったようだ。
「有効に決まっているわ。だって、それは伯父の出生に関わる、とても重要なものだから!」
キャロライン曰く、それが露見したらサーベルト大公は大公位を奪われる可能性があるという。それくらい、重要な情報なのだとか。
「なぜそれを、貴殿は自分を守ることに使わなかった?」
「もしもその情報で伯父を脅したら、存在を消されるに決まっているからよ!」
キャロラインは孤立無援。強い後ろ盾もなかった。
そんな状態でサーベルト大公相手に情報をちらつかせたら最後。
サーベルト大公に殺されて終わりだという。
「あなた達は違いますでしょう? この船で貴賓に選ばれるくらいの地位と権力があるから、きっとこの情報を使いこなせるはず」
「なるほど」
出生の証明について、魔法で証明できるという。
公の場で示すように言えば、サーベルト大公はそれを阻止するために交渉に応じるだろう、と。
ヴィルは腕組みし、再度考え込むような仕草を取る。私にも耳打ちし、相談を持ちかけるような挙動を取っていた。
私はこくこくと頷き、同意を示すような反応をした。
すると、ヴィルはキャロラインをまっすぐ見つめ、一つ聞きたいことがあると問いかける。
「ルームーン国に帰ったあとはどうする? 保護の伝手はあるのか?」
「身を隠す方法なんていくらでもあるわ。あなた達には迷惑をかけないから」
さすが、長年逃走生活を送っていただけある。その辺の覚悟と肝は据わっているのだろう。
「わかった。では、情報と引き換えに、貴殿と貴殿の息子をルームーン国まで連れて行こう」
「ありがとう! 本当に、ありがとう……!」
キャロラインは安堵の表情を見せ、涙ぐみながら感謝の言葉を口にしていた。
ヴィルは魔法の契約書を作るという。
それはキャロラインが裏切らないこと、嘘偽りのない情報を言うことを条件とし、もしも破ったら命を奪うという、強力な力を持つ〝血の誓約〟だった。
魔法を使えないキャロラインでも、その契約書の強制力については理解していたようだ。
「これに署名してもらわないと、貴殿を助けることはできない」
「わかったわ」
「では、血を用いて、署名してもらおう」
キャロラインはヴィルが差しだしたナイフで指先を切りつけ、空中に自らの名を書く。
そのさい、本名である〝キャロライン・ド・サーベルト〟と書き綴る。
「これにて、貴殿は我らの陣営に身を置くこととなった」
「ええ……」
今後、キャロラインはレヴィアタン侯爵家で保護されることとなるのだろう。
そうとは知らずに、キャロラインは安堵の表情を見せていた。